カナデア・セイバー Mk.6(エレール1/72)製作記

2010.3.15初出






■ はじめに 

 エレールの筆塗りスピット16に気をよくして、柳の下のドジョウで同社のセイバーに手を出す。コンセプトは前回と同様、素組み筆塗りでまたーりと。西独空軍の迷彩塗装にする予定。


■ キット評

 箱にはノースアメリカンF-86Fと書かれているが、キットの主翼はスラット付き6-3ウイング翼端延長なしで、これはカナデア・セイバーMk.6の特徴。まあ、気にするものではないが。

 キット内容は、同社スピット16によく似ている。パネルラインは凸モールドで一部太い凹線表現。車輪等の小物は比較的良く出来ている。胴体アウトラインは全体的に細めで、ノーズのオムスビ断面が強調されている。フジミのがっちりしたセイバーと比べると華奢だが、これはこれで本機の特徴の一面を捕らえてはいる。フランス人にはセイバーがこんなふうに見えるのかな。



キットのパーツ。

銀色の柔らかいプラもスピット16と全く同じ。


 主翼はちょいと問題あり。後退角が強く、翼端で5mm程度の誤差が生じる。デカールは朝鮮戦争の米空軍F-30「Mig Mad Marine」と西ドイツ空軍のカナデアCL-13B Mk.6ブラックチューリップ。



キットのデカール。かなり黄ばんでるね。

ハセガワの主翼に重ねてみる。後退角が強く、付け根のコードが短い。



■ 組み立て

 途中省略して、胴体、主翼それぞれ接着終了。後退角の違いは、とりあえず無視。例により接着剤は緑フタ。胴体が割れそうなので内側からプラバンで補強。オモリの指示がないが、鉛玉を数個瞬間で固定。主翼は3°の上反角と-2°のねじり下げに注意して接着。ヒケを黒瞬間で埋める。

 元のモールドを参考にスジボリ。あまりこだわらず雰囲気を再現して了とする。風防と胴体の合わせがイマイチ。風防の方が大きいのだ。胴体の凸部のみ接着部分を広げて風防の幅に合わせる。同時に風防も少し削る。機銃口の表現は、ぬるい溝があるのみ。このままでもいいんだけど、すぐ完成しても面白くないので、ここは追加工作を楽しむ。一旦プラ棒で埋めてからピンバイスで穴あけ。針やすりで形を整える。



胴体接着。機首は鼻筋すらっと細く、峰が立っている。背中も細め。

風防とその前方部分の合わせが悪い。


風防前方部分の胴体を切って曲げ、プラバンを挟んで広げる。パテより簡単。

風防も幅を少々狭める。窓枠はスジボリしておく。機銃口を修正。



■ 主翼

 きつい後退角もキットの味かと思い、そのまま胴体に主翼を接着するが、カッコよすぎてセイバーらしくない。このところ実機写真を多数見て脳内にイメージが出来ており、それとのズレが気持ち悪い。ということで、後退角を修正する。私の模型だから私の好きなように作るのだ。

 といっても切って角度変えて再接着するだけ。翼端の形状は削って直すが、脚収容部はそのまま。接合部分を斜めに、前縁で約2mmカットする。切断面を後退角と上反角に注意してサンディング。細い胴体は、エレールの味そのものだから、これを直す気はない。



主翼を切り取り、1.2mmの接着ベロ(左右通しで、6°折り曲げている)を入れて再接着。

できあがり。これで脳内イメージとのズレが小さくなって、気分スッキリ。


ハセ主翼に重ねてみる。後縁後退角は依然としてきつめ。これは修正が大変だから無視。

再掲。キットオリジナル状態。




■ 塗装考証 3/20追加

 ウォーペイントの塗装図にあるルフトヴァッフェJG.74所属Mk.6機番JD-105にする。NATO西独機は初めてで、色調やらマーキング規定やら不案内。

 同文献によると、本機は上面RAL6014 GelbolivとRAL7012 Basaltgrau、下面はRAL5014 Pigeonblue。
IPMSストックホルムのサイトによると、それぞれFS26064、FS26152、FS35488に対応しているらしいが、当時のオリジナルカラー写真の印象と異なるので、あまり信用しない方がいいかも?

 ところが、さらに調べると資料により相違があり分からなくなる。で、教わったり調べたりを総合し、以下のとおりと考える。情報提供毎度感謝。お気づきの点などあれば、お知らせ願う。

 西独空軍のカナデア・セイバーのうち、CL-13A Mk.5の75機は訓練用にカナダ空軍のお古が供与されたものでRCAF規格(RAFに準ずる)BS.38-641 Dark Green BS.381-638 Dark Sea Grey BS.381C-636 PRU Blueで塗装された。本命225機のCL-13B Mk.6は、RAL6014 Gelboliv RAL7012 Basaltgrau RAL7001 Silvergrauの西独規格。ウォーペイントの塗装図&記述と異なる部分もあるが、同文献は国籍マークの大きさが違ったりして確度が怪しい??

 胴体迷彩パターンは、Mk5とMk6で似ているが緑とグレイが反転し、細部が異なる。Mk5は機首上部が黒(Mk.6の一部にもあり?)。翼上面は、Mk5では単純な流れパターンだが、Mk6は一部がY字形に枝分かれする独特のもの。
 この西独迷彩Mk.6が、どこで塗られたかが興味深い。無塗装で運用されたMk.6があるから、全機この状態で納入され、西独側で迷彩かけられたか?


■ 調色

 迷彩の色調は写真により千差万別。退色が進むにつれ、緑とグレイの明度差が拡大する。作品は新品現役の状態にしたいので、マルヨンやファントムの現役時写真などを参考に、自分勝手にイメージして調色する。緑はゲルプオリーフという色名よりは暗いかな。上面グレイのBasaltは辞書をひくと玄武岩。といっても色調は依然「?」。マルヨンなんかでは青暗く、緑との明度差が少ないと「らしい」気がする。

 バザルトグラウは#362オーシャングレイと#333エクストラ・ダーク・シー・グレイの混色。途中塗りながら配合が変わったけど、最終的にOGとEDSGを3:1に微量の#GX5青。ゲルプオリーフは、手持ちの何色かをグレイの隣に置き、一番しっくりくる#309 FS34079(ベト迷の暗い方)を選択。下面ジルバーグラウは、単純に#8銀と#335ミディアム・シー・グレイを1:1。


■ マーキング

 生憎デカール持ってなく手描きとなる。写真から国籍マーク(アイゼルネス・クロイツというらしい)のサイズを13.5mmとする。100cmを1/72倍すると13.9mmになり、これが正しい気がするが、エレールの胴体は細身なのでマークもやや小振りに。主翼も同じサイズ。機番高さはその3/5とする。機番やシェブロンの細いフチが再現困難。版下を作成し、K氏のご厚意によりマスキング・シートを切っていただく。ご多忙中迅速に対応頂き、毎度感謝至極。


■ 塗装作業

 銀のプラ地は、表面の状態が見えづらく、一旦サフを吹く。案の定、見えてなかった不具合箇所多数で、ちまちま直していく。最後に細かい傷やスジボリのはみ出しなどに溶きパテを塗り、#600ペーパーでざっとサフを落とし準備終了。いざ本番。以下画像で。



マーキングは付き合わせで塗るので、シート(橙)でマスク。迷彩パターンを鉛筆で下描き。まずグレイを1回塗ったところ。

2回目のグレイ終了。このときOGとEDSGは3:2ぐらい。

緑の1回目。#309のビン生。


緑2回目。

グレイと緑をさらに2回ほど塗り重ねる。グレイは、明度を上げ微量の青を加える。ここで表面をざっと磨き、スジボリを彫りなおす。

下面も塗装。こちらはマスクして平筆で。

色味を調整しつつ薄い塗料を重ね、基本迷彩終了。グレイは前回よりEDSGと青を少なく調合。緑にはOGを2割程加え明度を上げる。

続いてマーキング。まず黒部分のシートを剥がし、いつもの白20%混のチャコールグレイを置くように塗る。

続いて白。GX1を使用。24箇所のV字形部分のマスキングで、早くも西独機選択を後悔。

国籍マークできあがり。不用意にシートを剥がすと、フチがぎざぎざになるので、境界にナイフを当ててから剥がす。これが面倒。

機番はまず黒部分を手塗り。フリーハンドで細フチは、私にゃ無理だね。やってみてよく分かった。筆塗り名人は人間技じゃないな、コリャ。

隙間に注意してシートを貼る。

機番の白を塗る。シェブロン、ウォークウェイ、尾翼の国旗などもマスク。デジカメの調子が悪い。

シートを剥がす際、エッジの欠けを少しでも防ぐため、マスク上にはみ出した塗料をペーパーで削り落とす。

機番とシェブロンのシートを剥がしたところ。この後、軽くエッジを落として、タッチアップ。

脚収容部、エアブレーキ裏側&内部は不明だが、F-86に準じ#309と黒を1:1。ちょい暗すぎか。着陸灯は2.5mmのさかつう製1/43カー用ライト。

小物も塗装。はったりでキャノピに細い金(+赤少量)のフチをつける。ダークグリーンに金って英国っぽいな、ってハロッズだ。

マーキング終了。ガイアのフラットクリアをたっぷり2回吹き、その都度ラプロス(#4000→#6000)で磨く。尾翼上部は#335 MSG。


以下補足。
  • 主翼迷彩パターン、国籍マーク位置は、頂いたMk.6の実機写真を参照する。
  • 迷彩のぼかしは、スピット16同様に両色を同量混ぜたもので境界をなぞる。
  • 上面は筆塗りでトーン変化を表現してみる。基本色を若干明るく調合、幅2mmの平筆に微量つけ、点描のようにちょんちょんと置いていく。パネルライン沿いには若干暗めに調合し、同様に点描。本当はもうちょっと上手くグラデーションがついてたけど、クリア研いで削れたみたい。
  • マーキングはほとんど全てを付き合わせで塗装しており、いくら研いでもエッジが消えることがない。ただし研ぎすぎると迷彩部分の下の色が出てしまう。
  • フラットクリアをかなり厚吹きして研ぐが、それでも迷彩塗装の筆ムラは完全に消えず。塗りの各段階での磨きをもっとしっかりやるべきかな。


■ 仕上げ

 小物はほとんどキットオリジナルそのまま。エアブレーキは下側に開くように調整。キャノピは後付けだけど、合わせの調整がちょいと不足だな。ピトー管は0.5mm真鍮線をバイスにくわえ先端を一段細く削る。翼端灯はクリアランナー削り出し。
 コーション関係は余りデカールの寄せ集め。サイズやらなんやら違うけど、まあ雰囲気で。スーパースケール製の黄色が安っぽい色調なのでタッチアップ。給油口の赤丸はSB2Cで作ったインレタ(クロマテック)にタッチアップ。



下面はとくにお見せする程のものではないが。後部胴体の黒線がまだだな。

前脚が細いので、保管・移動時の破損防止のため発泡スチロールで受けを作る。



■ カナデア・セイバーの考証

 カナデア・セイバーCL-13も、ノースアメリカン・セイバーF-86も同じだろうと、ロクに資料も見ないで作っていたが、ここにきて資料と模型を見比べると、随分違いがあって冷や汗。

 カナデア製の型式は、CL-13(Mk.1〜4) CL-13A(Mk.5) CL-13B(Mk.6)の全6タイプ。量産型はMk.2および4〜6。Mk.2、4は基本的にF-86Eと同等。Mk.5は主翼が6-3ハードウイング(境界板あり)となりカナダ製オレンダエンジン搭載、Mk.6は主翼寸法はMk.5と同様ながら前縁スラット付き(境界板なし)で、オレンダの出力強化型搭載。

 写真から読み取れるF-86EまたはF(-30まで)との相違点を以下列挙。特に記述無ければMk.4〜6に共通、Mk.1〜3は略(つうか写真少なくて分からず)。なお、ハセガワ1/48を製作する場合は、F-40からF-30以前への変更点も要フォローだ(1/48セイバー製作記その2参照のこと)。
  • 背中のカマボコ形耐熱板なし。これはF-86Eも同様になし。
  • 胴体中央両側に四角いエアアウトレットあり、それと対になる胴体分割部直後の小楕円穴なし。これもF-86Eと同じである。
  • Mk.5より、胴体中央左側の燃料給油口が右側に移動。それに伴い右側にあった小判型パネルなし。その給油口直上にも小四角パネルあり。左側にも、それと同じ小四角パネルあり。このあたり、Mk.4はF-86Eと同じ。
  • Mk.5より、胴体分割部直後やや上方の小四角パネルの直後にもう1つ追加、計2つになる(左右とも)。
  • Mk.5から(?)主翼直後の胴体側下方インテイクが外側に膨らんだ形状となる。
  • Mk.5から(?)エアブレーキ直後の長方形パネルの直後に小四角パネル追加(左右とも)。
  • Mk.5から(?)右舷エアブレーキ前方の小楕円形アウトレットなし。
  • Mk.5から(?)機銃口直下の小円パネルなし(左右とも)。
  • シートの塗色(おそらくコクピット内部も同様)はMk.5以降ライトグレイでヘッドレストは赤。Mk.4は確証ないが暗く写っており、おそらく黒。
  • 前輪ホイルは12本スポークが主流。この場合、米軍によくある「A」の字が6つ集まったパターンでなく「V」の字形。西独ではスポークなしお皿タイプもあり。
  • 落下タンクもいろいろあるから、要注意。(←オイ)
  • 西ドイツ空軍使用機では、エジェクションシートがマーチンベイカー製に換装されている機体がある。要確認。(←オイ!)
  • なお、落下タンク取付位置がF型と異なる点にも注意。正確にいうと、F-25から落下タンクが外側に移動。それ以前のA、E、F初期、および全てのカナデア製が内側寄り。詳しくはフジミ1/72製作記参照。
 いやこれ、作っているときに気付けよ!ってな違いだ。大きいのは背中の耐熱板と右側給油口だね。これ赤丸がついて結構目立つ。耐熱板はキット表現そのままで、F-86でもCL-13でもない形。給油口はスジボリしてるから確信犯で左側に赤丸。増槽だけは気付いてたけど、これも確信犯でキットパーツを使用している。


■ 完成

 そんなこんなで、完成。エレールは細身だけど、これはこれでカッコイイ。今回の筆塗りは、エアブラシ&デカールに比べ、その何倍もの手間。機番とシェブロンに苦労したが(おまけに鉄十字も!)、存在感が増して作品への愛着が深まる。細フチはよく見るとヨレヨレだが、手描きの味ということで。

 上面2色の色味、明度差のイメージは、実際がどうかはさておき、本人は結構気に入っている。デカールにはない真っ黒でない黒にも満足。シェブロンがあると、なぜか上面2色がRLM74/75グレイにも見えてくるね。

































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