カナデア・セイバー Mk.4(フジミ1/72)製作記

2011.2.26初出



もう一皿




■ はじめに 

 セイバーはまだまだ続く。今度はフジミの1/72だ。細身のエレールがパリ娘なら、がっしりフジミは田舎の百姓女というところか。カナデア製Mk.4、6-3ウイング仕様としてRAFマーキングにする予定。今回も素組み筆塗りでまったりと。


■ キット評

 側面形、主翼平面形は悪くない。小物もシャープ。クリアパーツの透明度もいいし。素組みでさらっと作るには十分。絶対的正確度ではエレールといい勝負。ただし、きちんとした形のセイバーを作ろうと、手を入れ出せばキリがない。古いキットだし、あれこれ言うのは酷だけど、あえてコメントしよう。

 まず、胴体が太い。機首から胴体中央部まで全体的に1mm幅広。特に機首上半分が太く、オムスビ感がないので、実幅以上に太って見える。機銃パネル後上方の幅(下画像矢印部)で比較してみれば、ハセガワ1/48(1/72にスケールダウン)より2mmほど過大。エレールとは5mmも違うぞ。つられて風防も太り気味で、正面窓の幅が広く、また側方窓下辺は直線であるべきところ湾曲し、ぽってり感を強調。エアインテイクも開口部が大き過ぎる。ただしこれらはオデブな胴体にバランスしているので、素組みするとそれほど目立たない。

 主翼付近の胴体断面形も違い、翼前縁付近がくびれてΩ断面だが、1/48の項に書いたとおり∩断面が正。機首とは逆に、ジェットノズルはやや細め。水平尾翼付け根のフィレットも全体に幅が狭い。胴体は頭から尻尾に至るまで全面的に断面形状要見直しだ。パネルラインもあまり正確でない。主翼断面は対称翼型が再現されず、最大厚が前寄り。増槽は、側面形、平面形、断面形ともにヘン。



エレールと比較。ずいぶん太さが違うが遠近法ではない。

奥のフジミの方が大きく見えるでしょ。


 この頃発売のフジミ・ジェット、他にA-4スカイホークやA-7コルセアがあるけど、どっちも胴体太めという説あり、気になる方はプロポーション・チェックした方がいいかも。


■ 組み立て

 基本ストレートのつもりだが、機首だけちょこっと細めてやろう。キャノピと胴体の合わせで幅1mmのズレがあり、その改善にもなる。機首から胴体中央にかけて上面側の接着面を左右0.5mmずつ削る。完全に正確な寸法にするなら、もっと削る必要があるが、それでは風防その他とのバランスが悪くなるから、気持ち細くなる程度に留める。



単純に合わせを削るのでは風防と合わなくなるので、風防基部だけは切り離しておく。後でパテなど盛るより簡単で仕上がりキレイ。

細くした胴体の上に単純に風防基部を載せるとこんな状態。このあと下側接合面を少し削って接着する。


 インテイクは、そのままでは狭めた胴体幅に合わない。胴体側の接合面を少し削り(つまり機首が短くなる)、大体の幅が合ったところで接着し、削りで微調整。カナデアセイバーMk.4は、基本的にF-86Eと同等。胴体背面の耐熱板と右舷のインテイクを削り、胴体両脇のアウトレットを彫る。その他スジボリを少々修正。詳しくはエレールやハセガワの製作記を参照のこと。

 RAFのMk.4は、写真を見るとスラット付き主翼と境界フェンス付きと2種類あり、文献の記述は見あたらないが、6-3ウイングをレトロフィットしたのは明白。キットは6-3ウイングで、ストレート組み。翼型はそのままいじらず。3°の上反角と-2°のねじり下げに注意して接着。



接着して整形。機銃穴はプラ丸棒で一旦埋める。

主翼を接着。機銃穴も開口し、ほぼ塗装手前の状態。




■ インテイク

 士の字になったところで、眺めていると、インテイクの口のデカさが気になってくる。機首を細めた結果、口とのバランスが崩れ、なんとも気持ち悪い。基本素組みのつもりだが我慢できず、内側にぐるっと0.3mmプラバンの帯を貼り、リップには瞬間+プラ粉を盛って削っていく。1年以上もセイバーを眺めてきたので、イメージは頭の中に入っている。



修正前。胴体と主翼のつながり方も実機と異なるが、ここはスルー。

修正後。たいして変わらない? 手に持って眺めると全然違うんだけど。



 その他、切り飛ばした境界フェンスを0.3mmプラバンで再生。スジボリを全面的に深く彫ったり、塗装前の仕上げをちょこちょこ。


■ 塗装考証

 RAFセイバーは無塗装銀と迷彩の二種類がある。後者は上面ダーク・グリーン(BS381C:641)とダーク・シー・グレイ(BS381C:638)、下面PRUブルー(BS381C:636)、増槽も全面PRUブルー。上面と下面の塗り分は、高さ違いの二種類がある。機首上面と風防窓枠は黒(BS381C:642ナイト)、コクピット内部も黒で、これらは無塗装機も同じ。

 マーキングは写真から読み取る。胴体と主翼上面ラウンデルは30in。主翼下面はサイズが小さく、おそらく18inで、記入位置も上面より外側。同寸高さ(あるいは20inか?)のシリアルNo.が、その内側で増槽にかからない位置にナイトで記入される。左右で天地が逆になるのは他機と同様。フィンフラッシュは幅18in、高さ24inか。戦後RAFのラウンデルは、戦時中のダル・ブルー、ダル・レッドから、彩度の高いラウンデル・ブルー(BS381C:110)とポスト・オフィス・レッド(BS381C:538)に変更され、プロポーションも直径比が1:2:3となる。詳しくはEEライトニングの項参照。

 細部の塗装は残念ながら不明。推測でノースアメリカン製F-86Eに準じた塗装とする。写真眺めていて気になったのだが、カナデア製の増槽取り付け位置は、ノースアメリカン製より1/72で5mm程度内側のようだ。詳細不明。情報求む。


■ 増槽タンク 3/9追加

 前回記述したパイロンの位置について、ざっと手元の写真をチェックしたところ、これはカナデア社特有の特徴というわけではなく、ノースアメリカン製A、E型も同様に内側寄り。カナデア製Mk.4とNA製E型は、基本的に同じ型式。推測だが、F-25/30型になって爆弾ラックが増槽の内側に新設されたため、邪魔になった増槽タンクを外側に移動したのでは?。とすればF-20までは内側寄りのはずだが、写真では未確認。セイバードッグD型も翼の基本はこれらと同じと見え、増槽タンクは内側寄り。いや〜今まで気づかなかったなあ。もしE型作ってたらチョンボしてたかも。


■ 塗装 

 筆塗りでぺたぺた。基本テクは以前と同じ。薄い塗料を何回も重ね、塗るたびラプロスで凸凹を均す。今回ドライブラシ用平筆を使う。私には面相よりこっちの方が扱いやすい。穂先が短く、縦にすればかなり細い線も描けるので細かい部分もOKだ。

 #330ダークグリーンには白2割、#331ダーク・シー・グレイにはPRUブルーと白とを3:2:1で混ぜ、明度を上げるとともに青味を加える。PRUブルーは、モスキートで自家調合したもの。ナイトの代わりはいつもの白20%混チャコール・グレイ。脚、ホイル、カバー内側は#8銀+黒少々の自家製ダーク・シルバー。脚庫等はFS34079。



まずビン生の#330、#331で下塗り。上下の境界はテープでマスキング。塗ってみると、ちょっと暗いかな。

明度を上げて上塗り。アンチグレア、下面も塗る。DSGは若干青系に振っているが、青味が強いPRUブルーと並べると、むしろ赤っぽく見える。

混色は塗料皿で。作業を中断するときは、塗料皿ごとタッパーに入れておく。写っているのが今回使用の平筆。

PRUブルーは下面色としては、かなり暗い部類に入る。特徴的な塗り分けライン、これがやりたかったのだ。



■ ぼかし

 ウェザリングのグラデーションを入れる。基本色に黒を混ぜ、パネルラインやリベットライン(リベット打ってないけどね)沿いなどに、ちょんちょんと点描のように薄い塗料を平筆で置いていく。ドライブラシよりはウェットだが、塗料の量はごく少ない。次に基本色で周囲から同じやり方で攻める。部分的に、基本色+白で退色表現。これも点描。クドくない程度に仕上げる。DGとDSGの境界は筆塗りぼかし。前回同様に両色を同量混ぜて面相筆で境界に線を引く。


■ マーキング

 ラウンデル、フィンフラッシュは、手元のデカールを使って省力化。随分昔に買ったエクストラ・デカールX016-72のシートは、色調が不満なのと、貼ってみると3色の比率がRAF規定と異なり、白が狭くなる。仕方なく赤丸のサイズを下げ、デカールの上からタッチアップ。青はブルーインパルスカラーの#322フタロシアニン・ブルー+モデラーズのピュア・ブルー、赤は#327サンダーバーズカラーのビン生を使用。色の境界はデカールに任せ、気持ちとしては境界0.1mmを残すつもりで塗る。ゼロから塗るより全然楽だ。デカールが塗料に侵されるので、筆使いは慎重に。



基本塗装に点描で陰影をつけ、デカールを貼る。この画像では、まだデカールのタッチアップしていない。

タッチアップ終了。デジカメだと色調の違いが現れない。実際は違うけど。


 固有機体を特定する。112sqnのちょっとおマヌケなシャーク・マウスも魅力的だが、細い縁どりを手塗りする自信なく、ローテクでも再現可能な130Sqn所属、機番"V"、s/n XB927とする。実機写真はウォーペイントにある。




尾翼の黒丸は塗装、レター「V」とs/n「XB927」は昔作ったインレタ。書体は正確でないので悪しからず。テイルの白四角はデカール。

ウォークウェイの赤黒線や、他の黒線はマスクして塗装。燃料口の赤丸はデカール。



■ RAF s/nの書体

 主翼下面には高さ18in(←たぶん)のシリアル・ナンバーが記入される。手元資料(ミーティアのSAM本)に戦後RAF/FAAにおけるシリアル・コードレターの規格書体(とおぼしきもの)があり、こいつぁーいいや、とInkscapeでお絵かき。出来上がって、実機写真と見比べると「ありゃ、書体が違う」。同時代のRAF機写真を見比べると、実際は機体、部隊により様々。規格はあっても現地部隊(orデポ)で適当に描かれたのか、そもそも資料本の規格らしきものが怪しいのか?

 ま、結論として、「写真をよく見ろ」てこと。写真どおりに描き直し、ラベル紙に印刷、デザインナイフで切り出してマスキング・シートを手作り。いつもはK氏にカッティング・シートをお願いするんだけど、たまには自分でやろうと。

 せっかく作ったので、規格書体レターのデータをアップする。ご自由にお使いいただきたい。

データファイルはこちら(右クリックでDL)




手切りのマスキング(プリンター・ラベル)を貼り付ける。黒を筆塗りし、マスクをはがしタッチアップすればできあがり。

精度いまいちで、上面には使えないな。赤丸はベタデカールをポンチで抜いたもの。


 手切りマスクの精度はご覧のとおり。近頃は家庭用カッティング・マシーンが2〜3万円で入手できるので、そろそろ購入を検討しようか。


■ 細部

 風防を胴体に接着する。風防正面ガラスは、少しでも幅広感を減らすため、下辺の窓枠スジボリを削り落として胴体パーツ側に彫り直し、クリアパーツ先端までをガラス部にする。また、側方窓もクリアパーツ下辺の分割ラインと窓枠のパネルラインが一致せず、面倒臭いが合わせ目を溶きパテで処理。

 風防下にあるコーション・データは、RAFセイバーのチャームポイント。こいつの手描きに初挑戦する。エンピツでアタリをつけ、白をリターダーで溶き、面相筆でチョボチョボ。名人が描くと文字のように見えるが、そこまでの域には達せず。まだまだ修行が必要なようだ。まあ、50cm離れればそれらしいので、よしとしよう。

 着陸灯は、先日教わった方法で製作。ハリケンにも使えるな。



コーション・データを面相筆で描く。アップだとツライなあ。風防窓枠の細線も、息を止めて面相筆一本勝負。

以上でマーキング終了。

4mm鉄球で0.2mmアルミ板をぐりぐりして2.0mmポンチで打ち抜く。別途、厚さ約0.2mmの透明塩ビも同じポンチで抜く。

2.0mmバイスで機体に開けた穴にはめこみ、隙間にメタルプライマーを流して接着。



■ 表面仕上げ

 筆ムラやマーキングの凸凹を均すため、ガイアのセミ・グロス・クリアを濃いめにたっぷり二度吹き。とくにデカール回りにしっかりと。翌日、ラプロス#4000で凸凹をざっと均す。完全に平滑に研ぎ出せるまでクリアを吹くと、スジボリが埋まる。カーモデルではないので、キレも大事、程々で止めておく。こんどはガイアのフラット・クリアを軽めに吹き、ラプロス#6000で軽く磨いて表面仕上げ終了・・・と思いきや、磨きムラが気になり、クレオスのシンナーをサッと表面が濡れる程度に吹き、これで終了。


■ 最終組み立て

 脚回りや増槽を取り付ける。主脚は付け根で0.5mmかさ上げ。増槽は内側寄りに接着。エア・ブレーキは正しく下方に開くように、取り付け部を若干カット。



前脚のへたり防止にプラの小片を挟む(矢印)。黒く塗れば目立たない。



■ 完成

 以上で完成。アルミ貼りのハードモデリングの後なので、お気楽筆塗りが楽しく一気に完成。さて、エレールと並べると、外形の解釈が全く違っていて、同じ機種とは思えない程だ。個人的印象としては、機首修正の効果もあり、フジミの方が実機に似ているかな。ただ、鼻筋やインテイクを細くした結果として、鼻先が長く見えてしまう。

 原因は、太い機首にバランスするようにキャノピが後退しているのだ。したがって、幅の修正と同時にキャノピ全体を少し前寄りに移動すべきところ。また、キャノピ下辺ラインの角度違いも、完成後に目立つ。そもそも窓枠とパーツ分割線がズレていることもあり、ここはスジボリを消して新たに彫り直す方がよかったかも。



左エレールとの比較。細さだけでなく、鼻先から風防までの長さも2mm程異なる。

側面窓下辺ラインが前上がりで格好悪い。可動キャノピ下辺に平行(赤線)に彫り直すと吉。



■ 130スコードロン

 作品の130sqnについて、簡単にご紹介する。開隊はWWIに遡る。一旦解隊したが、1941年6月にスピットファイアMk.IIを装備して再開。本土防空やフランスへのファイター・スウィープなどを任務とした。コードレターは「PJ」。同年10月以降、順次Mk.Va、Vb、Vcに機種改変した。1944年2月に解散するが、同年4月に2TAF(第2戦術空軍)の一員として再開。Dデイ後の8月にはグリフォン・スピットMk.XIVを装備した。コードレターは「AP」となる。

 戦後しばらくスピットIXにて本土やノルウェーの防空にあたり、1946年10月、ヴァンパイアMk.1に機種改変し、翌1947年2月、72sqnに名称変更された。130sqnの名称は、1953年8月にベルギーにて復活。セイバーMk.4とヴァンパイアを装備した。セイバーの使用は3年足らずであった。1956年4月にハンターMk.4に改変し、1957年5月再び解隊した。1959年にミサイル部隊として再開、1963年8月に最終的に解隊した。


■ おわりに

 では、完成画像。鼻先が黒いセイバーも、精悍でカッコイイね。変わり映えしないRAF温帯迷彩にあって、控えめに個性を主張しているPRUブルーが気に入っている。さあ、まだまだセイバーいけるぞ。次はH型かFJフュリーか。おっと、その前にキット入手が先かい。



















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