駆逐戦車 ヘッツァー タミヤ 1/48 製作記

2015.8.10初出




完成画像






■ はじめに

 久しぶりの陸もの。ドイツ軍末期のアンブッシュ迷彩をやりたくて、ヘッツァーに取り掛かる。長らく店頭で見なかったタミヤ1/48ヘッツァー、最近の再生産でようやく入手したもの。この塗りなら、本命は豹や虎の重たい奴らだけど、作るのも重たい。まずは軽い奴で練習なのだ。


■ 組み立て

 細部はいろいろあるけど、製作は一切考慮せずストレート。というか、作ってから調べたので・・・。装甲板やシェルツェンの表面のヒケを均したり、シェルツェンステーやペリスコープガードなどを薄くしたりは、定番の工作。ステーは本体から切り離して薄くしてから車体に接着しておき、シェルツェンは塗装&ウェザリング後に車体本体に接着という手順の方がよかったな。


■ 塗装

 雑誌やネットで見る完成作品の刷り込みで、ヘッツァーというとアンブッシュ迷彩というイメージがあるけど(私だけ?)、当時の記録写真を見ると意外と少ない。タミヤの指定塗装Aは、手持ち資料で前後左右のパターンが分かる唯一のアンブッシュ迷彩だ。しかし、完成作品の多くがこれで新鮮味に乏しい。考証的にもちょいと何だし・・。それでも、あくまでアンブッシュにしたくて、1944年9月のスコダ社製車両を「参考」にする。



足回りと車体下部をざっと塗っておいてからシェルツェンを接着し、足回りをマスクしてサフを吹く。

続いてダークグリーン+白20%を吹く。

クレオスのマスキングゾルでダークグリーン部分をマスク。先の丸い筆で大小の点をポツポツと置いていく感じ。

レッドブラウン+白20%を吹く。

同様にマスキングゾルでマスク。

ダークイエローは白を多めに混ぜる。

マスクをはがすとこんな具合。真似たつもりが実車とは随分違う。パターンが気に入らない個所は筆で修正。

右舷や上面のパターンは手持ち資料では分からなく、全く空想の産物。だから左舷だけ忠実に再現してもしょうがないわけで。←言い訳かよ


 このマスキングゾル方式、意外と簡単に迷彩パターンが決まるので、オススメである。ただしゾルを剥がすのにちょいと手間取るかな。隅にこびりついたゾルは、しばらく水に漬けてから歯ブラシで落とすといいかも。クレオス社のは水溶性なのだ。さて次は、迷彩の斑点と細部を筆塗り。


■ 重箱の隅

 細部の違いをつつくのは飛行機モデラーの悪い癖。戦車の人たちはあまり気にしないみたいだけど、それが健全なモデリングだよね。とはいえ、実車に興味が湧いてくると調べたくなるし、調べ始めると止まらない。ということで、wikiや文献-1などの記述を整理してみよう。

 ヘッツァーはマーダーIIIの後継として1944年4月から生産。終戦までにチェコのBMM社で2047両、スコダ社(44年7月から開始)で780両。初期生産型は防楯が中期以降と異なり、下側ラインに段がある。遊動輪は12穴タイプ。8月から軽量防楯(キットのタイプ)に変更、誘導輪は8穴、6穴、4穴タイプが導入される(旧来の12穴も一部継続)。転輪の金属部分のリムが細くなり、ボルトも32本から16本に(キットと同じ細リムで32本も少数あり)。9月からシェルツェンの前後端が内側に曲げられ、10月(9月という資料もあり)から、操縦手ペリスコープの装甲カバーを撤去して、前面装甲板のスリットからペリスコープを出し、雨よけのカバーを設置。また排気管を消炎型に。

 以上より、キットと全く同じ12穴遊動輪、軽量防楯、細リブ転輪、ペリスコープ装甲カバーの組み合わせは少数派のようだ。タミヤ指定塗装Aと全く同じ迷彩パターンの実車写真があり、インストはこれを参照したと推測するが、当該車両は幅広リム、8穴遊動輪という違いがある。マチルダや8輪装甲車でも感じたんだけど、独り善がりというか考証のツメが甘いというか。バリエーションパーツを用意してくれるとモデリングの幅が広がるんだけどなあ。

 ともあれ、WEBで拾った画像を見ていただこう。


初期生産型。防楯の形状が中期以降と違う。よく見ると後ろの固定部の形も違う。 同じく初期生産型。防楯の側面形が分かる。幅広リム転輪、12穴遊動輪。迷彩塗装はダークイエローベース。

タミヤ指定塗装Aと全く同じ迷彩パターンの中期生産型。文献-1より8月BMM社製。遊動輪は8穴。履帯の幅にも注意。

確信ないけど多分中期生産型。幅広リム、小6穴遊動輪。排気管は消炎でない初〜中期型タイプ。ペリスコープは装甲カバーつきか?
これも中期生産型。文献-1より9月スコダ社製。ペリスコープの装甲カバー、12穴遊動輪など、キットにかなり近い。細リムだけどボルトは16本か。作品はこの迷彩を「参考」にする。 左画像より少し遅い10月(←文献-1から推察)のBMM社製。ペリスコープはスリット+雨除けタイプ。欺瞞スリットが描かれる。オリジナル画像から遊動輪は4穴を確認。
右上と同時期、同工場の生産。左の車両の4穴遊動輪に注目。オリジナル画像では左右の車両の排気管は初〜中期タイプ。 これも同じ迷彩パターンで同時期、同工場と思われるが、遊動輪は12穴。左と上の画像は防楯と基部がダークイエロー単色なのに対し、こちらは暗色。一方で転輪等はダークイエローとなっている。

こちらは12穴遊動輪だが、排気管は消炎タイプ。広リム転輪。迷彩はダークイエローベース。ペリスコープはスリット型だろう。

これも消炎タイプ排気管。大6穴遊動輪に注意。遊動輪は他にリブありの6穴、リブあり8穴と少なくとも7種類がある。




■ 続、塗装&ウェザリング 8/26追加

 迷彩の仕上げ、斑点を面相筆で1つずつ描いていく。数が多くて意外と時間がかかる。カッティングマシンでシートを切ってエアブラシの方が早いかも。続いて、ジャッキ、バール、ワイヤ、予備履帯を黒鉄色で筆塗り。実車写真だとジャッキは明るく見え、車体と一緒にダークイエローで塗られていたかも。履帯は黒鉄色+焼鉄色+ダークアースで筆塗り。転輪ゴムは自作タイヤブラック(明度RLM66ブラックグレイ相当)。アンブッシュ迷彩のせいか、模型の立体感に乏しくそれぞれの面がハッキリしない。これぞ迷彩効果か。

 引き続き、お楽しみウェザリング。まずウェザマスのススでウォッシング。これが失敗で、表面が艶消しのため拭き取っても黒ずみが取れず、全体が暗調となって自分のイメージと違う。ベースの迷彩を明るくするか、パステル粉を使うべきだったな。明るくしようと上から極薄のサンドを吹き付けるが、ますます「ぼやっと」感が増すばかり。気を取り直して、土埃の表現。水溶きウェザマスのサンドほか埃色数色を使い、土埃の付きそうなところに厚塗りし、乾燥後に綿棒等で拭き取る。

 ここで、デカールの貼り忘れに気付き、周囲から浮かないようにデカールに汚れ色を薄く吹いてからニスを切って貼り付ける。鉄十字は、工場でなく部隊で記入されたようで、その位置、サイズ等は車体により様々。作品は最大公約数的な位置とする。乾燥後フラットクリアでコート。

 さらに暗色ウェザマスで錆や油の汚れ表現、エッジに暗色のチッピング(面相筆とスポンジの両方)、履帯や砲身等に鉛筆芯の粉を擦り付けるなど、いつもの汚しを少々。土埃汚しも、再度重ねる。



斑点とOVM、履帯の塗装が終了。

ウェザリングが概ね終了。このあと、チッピングと雨だれを少々追加。



■ イエローベースかグリーンベースか

 さてこのアンブッシュ迷彩、実際にはどのような順序で塗られていたのだろうか。初期型ヘッツァーではダークイエローベースなのは間違いない。問題は中期以降で、ネットで調べるとイエローベース説と、ダークグリーンベース説と両方あって悩ましい。面積的にグリーンが最も広く、転輪や防楯も暗色なので、当初は漠然とグリーンベースかと思っていて、作品もグリーンから先に塗った。(←結果的に、マスキングして塗るには都合よかったわけだが)

 しかし、迷彩パターンをよく見ると、イエローの上にグリーンとブラウンを塗っていったと考えるほうが自然だし、OVMがイエローらしき明色に見えたり、転輪が全てイエローの車両もあったりで、やはり中〜後期もイエローベースかなあ。逆の方が塗装の手間もペンキの量も少なくて済むのに。同じ敗戦国の日本では物資欠乏でペンキにも事欠いたが、ドイツ(生産はチェコ)ではペンキは潤沢だったのか(でも飛行機は下面無塗装があるね)。総統のご下命でイエロー先塗りが墨守されたのか??


■ 展示台手直し

 シャーマン・ファイアフライで作った展示台、写真撮影用セットとするには樹木の配置が片寄っていて、どうも上手く写真が撮れない。ということで植林する。前回同様にモジュール方式で、スチレンボードにドライフラワーを刺し、ベースに接着。木と地面の境は草で誤魔化す。乾燥パセリの葉っぱの接着にスプレー糊を使ってみる。作業性は良いが、枝どうしがくっついて結果はイマイチ。素材によって色が違うので各種緑色を吹き付けて統一感をとる。



こちら植林前の状態。詳しくはファイアフライ製作記をどぞ。

ファンドのかわりにエポパテ(軽量ミリプット)+タミヤ情景テクスチャーペイントを使う。使用感は良好。すぐ固まるので勝負が早くていい。



■ 完成

 以上で完成。展示台に乗せて撮影。写真にすると、それなりに立体感が出てくれる。ヘッツァーは、3000両近くが生産された割には残された写真が少なく、初期MMシリーズになかったから少年期の刷り込みも無し、形はゴキブリみたいで、自分的にはあまり思い入れが深くなかったのだけど、こうして完成すれば魅力的に思えてくるから不思議だ。

 ヘッツァーは、低いシルエットとそれなりに強力な砲により、複数車両による待ち伏せ攻撃で敵を狩るのを得意とした。まさに猟犬の名のとおりだ。しかし、側面装甲は20mmしかなく、オープントップの自走砲とさほど変わらない。事実、側面を撃たれて大破した車両の写真は少なくない。

















■ 参考文献



1 Osprey New Vangard 36 Jagdpanzer 38 'Hetzer' 1944-1945 0-841756-135-4 Osprey Publishing
2 Waffen-Arsenal 53 Hetzer JgPz 38(t) und G-13


 実車写真はhetzerで画像検索すれば結構出てくる。World War Photosはオススメ。



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