イリューシン Il-2 シュトルモヴィク タミヤ1/72 製作記

2016.3.15初出




完成画像





■ はじめに 

 LaGG-3と並べようと、大分前に作りかけのまま放置中のシュトルモヴィクを引っ張り出す。LaGGの雪解け迷彩との対比で、白ベタ迷彩@お上品シリコンバリア落としにしようかなあと。でもって少しずつ手を入れてたんだけど、よく調べるとタミヤの後退翼型には冬季迷彩が無いんだね。登場が大戦終盤で、余裕の戦況からして冬期迷彩が指示されなかったのかな。今更直線翼に改造するのも何だし。仕方ない、そのままいっちゃおう。

 ところで、世傑ではシュ「ツ」ルモヴィクと表記してる。たしかに母音は「u」だけど日本語のツってtsの子音だし。どっちが正しいんだろう? と思ってロシア語発音サイトなど見ると、おそらくシュトゥルモヴィクかシュトゥルモヴィークが正解に近いのでは。ということで、本項では一般的なシュトルモヴィクでいく。なお、「ル」は巻き舌のrだそうだから、そのつもりで発音すると気分も盛り上がるぞ。


■ 組み立て

 さて、作品はP-51アルミ貼りの箸休めに、お気楽素組みして「士」の字状態で放置してたもの。コクピット内部も含め未塗装。スジボリは半分くらいさらってあって、多分その頃に飽きてきたんだろな。記憶を辿れば、タミヤスタンダードの極めて優れたキットで、組み立て上の問題はない。主翼と胴体の分割ラインが複雑なので、その合わせを最優先して胴体に主翼上面を先付けしたくらい。

 では製作再開。残るスジボリをさらう。キットのは繊細すぎて塗装で埋まる恐れ大。直線、緩曲線はエッチングソー、小アクセスパネルなどはケガキ針。面倒臭いから基本全部フリーハンドで、ケガキ針は左手親指を針先にあてがい、両手で動かすつもりで彫る。1回目はなぞるだけ。2回目以降で少しずつ力を入れていくと脱線が少ない。

 キットの窓枠は凸表現。ここは数少ない不満点で、エッジが甘いこともありセロテープでのマスキングが難しい。私はハセガワの凹スジスタイルが好きだな。そっちの方がシャープに仕上がる。甘い窓枠の対処法として、ロボでマスクシートを切ることにする。各窓の寸法を定規で図り、inkscapeでデータを作る。数が多いから手切りより早くて簡単。パーツに貼ってみると、サイズが違う箇所がちらほら。モールドが甘いからうまく測れないのだよ(←言い訳かい)。ここでデータを補正して切りなおすと 完璧だが、面倒でスルー。



シュトちゃんお目覚め。スジボリして脱線や段差を溶きパテで埋める。ラダーマスバランスはLaGGの余りに交換。

このところロボがフル稼働。データ欲しい方はメールされたし。補正は自分でしてね。



■ コクピット

 とりあえず無塗装で組み、塗装は後で考えるのが最近のナナニイのパターン。完成するとよく見えないからこの程度で十分なのだ。前後の仕切りをマスクしたら塗装。インストはRLM02グレイの指示だけど、後述サイトによると違うようで、ニュートラルグレイ相当の明度に混色したサフをぶわーっと吹く。シートは後で付ける。LaGG-3もこの形とする資料もあり、操縦桿ともどもここからパチればよかったか。でも、どっちが正しいんだろう?



燃料タンクは見えるところを筆塗り。帯はマスキングテープを銀に塗って貼る。←これ真剣モードでは絶対しないけど。ハーネスは鉛板。

計器盤にはデカール。胴体を組んだ後で貼りづらいけど貼れないことはない。ニスをトリミングしてないけど結構見られるね。



■ 塗装

 考証は後述することにして(もちろん塗装前にリサーチは済ませてある)塗装作業に進む。塗色考証はLaGGと同様こちらを参考にする。グリーン、ブラック、ライトブルーはLaGGと同じでいいかな。ライトブラウンはFS34201または36350相当とのことで、FS595カラーチャートのサイトなどを参考に、グラディエータに使った自作ライトアースとニュートラルグレイを半々程度に混色する。ところが・・・



風防と胴体の合わせがやや甘く、塗装前に接着し隙間を埋める。その後にサフ吹き。補修→サフ再塗装のプロセスはいつもと同じ。

フリーハンドで塗装。下面色との塗り分けのみMrペタリを使用。ただし吹きこぼし防止が主で、Mrペタリのすぐ脇をフリーハンドで塗るイメージ。


 塗ってみた感じが実機写真や人の作品のイメージと随分離れている。サイトの記述をよく読むと、ブラックでなくダークグレイじゃんか。ブラウンもちょっと沈みすぎかな(画像は実物より鮮やか)。ということで、それぞれ#333エクストラダークシーグレイのビン生と自作ライトアースで上から塗り重ねる。



色調修正。折角?色違いの下地があるのだから、部分的に前の色を残す感じで。

下面はちょいとクドめのシャドウ吹き。


 次はマーキング。


■ 塗装考証 4/1追加

 荷造りの合間に更新作業。

 さて、シュトルモヴィクの型式名は、正式には単座も複座も直線翼も後退翼も全てIl-2とのこと。ただしそれでは混乱するので、後世になって複座の直線翼にIl-2M、複座の後退翼にIl-2M3(Il-2タイプ3またはIl-2 1944モデルとも)の通称がついた。タミヤキットはIl-2M3ということになる。

 M3の製造はZ.1(Zavod 1)、Z.18、Z.30の3工場で行われ、各工場ごとに機体細部と迷彩パターンの特徴がある。主翼は木製と金属製があり、Z.1とZ.30では当初木製で途中から金属、Z.18は全て金属製。また、翼機銃フェアリング、尾脚取付部に違いがある。重箱の隅をつつけば、キットは金属翼、機銃フェアリングは各工場に対応してるが、尾部はZ.18のみ。指定マーキングでZ.18製は1つしかなく、他工場の尾部パーツも欲しかったところだ。ちなみに、機番07がZ.18製。ただしインストの迷彩パターンは違うようだし、左舷の矢印&スローガンなしが正のような・・・。機番1と12はZ.1である。まあ、気にせずおおらかに作るが吉ではある。

 Il-2の3色迷彩スキームは2種類のテンプレートがあり、Z.1がテンプレート1、Z.18が同2、Z.30が両方とのこと。ただしZ.18では個体ごとにバターンのブレ幅が大きくまた境界のぼけ足が大きい。作品はこのうちZ.18製で、第144Gv.ShAP(親衛襲撃航空団)所属の機番6である。操縦者は不詳。左舷全体の写真がある。写真の印象で、件のサイトの塗装図と尾翼の塗り分けをちょっと変える。当工場は左舷ラダー全体がライトブラウン、左舷垂直安定板全体がグリーンというパターンが多く、作品の塗り分けは少ない。

 ついでに、直線翼Il-2Mについて。銃手キャノピ後端が直に切り落とされた形(最後部窓は四角)であればこの型である。ただし、M3と同じ(上部がひさし状になって最後部窓は三角)タイプもあるので注意。この場合は主翼を見ないと判別できない。以上出典は先程来参照のsovietwarplanes.com


■ マーキング

 国籍マークはキットデカール。細い赤フチは手描きでは無理。モノクロ写真だと赤フチなしに見えるが、例のサイトによればこの時期はフチありだそうな(でも実物はデカールより線が細いかな)。クレオスのマークセッターで貼り付け後にフラットクリアをたっぷり吹く。胴体と尾翼はパネルラインがないから埋まる心配もない。艶消しの塗装面にニスも切ってないけどシルバリングは発生しない。クリアでデカール表面にブツブツが出来て焦る。放置しといたら自然に治まって一安心。

 機番、矢印などのマーキングはスピと一緒にインレタ。同じ工場製でも、赤星のサイズや位置が違ったり、少々傾いていたりとバリエーションがある。迷彩パターンもいろいろだし、ソ連機っておおらかに塗られているね。機首の照準用(?)細線は、インレタを作るものの、線が太いわ貼り付けでミスるわで、キットデカールに変更。下地をコンパウンドで磨き、貼り付け後に余分なニスを切り落とす。



矢印、6、=のインレタを貼り付ける。白帯は塗装。

貼り付け作業中にうっかりテープがデカールにはりつき、一部がはがれる。ちょうど気泡が生じた箇所で、モデル面に密着してなかったんだね。

別のデカールを切り取って貼る。隙間は塗装する。

機首の細線はデカール。ニスを切り取り、フラットクリアを塗装、研磨済み。




 デカールの赤星、よく見ると網点で、上から面相筆で赤(P-40Lで使用)を塗り重ねる。スピナ先端も同色。このあとフラットクリアを全体に吹き、乾燥後にデカールの段差、タッチアップの筆ムラ、表面の柚子肌をラプロスで磨き落とす。



塗装&マーキング、一応終了。窓のマスクも剥がす。サイズの微妙な誤差は、ぬるいモールドのおかげで(?)目立たない。

下面。


 もうちょい汚しを追加したいところ。


■ 小物 5/7追加

 例により脚まわりの塗色が分からず、Web上の他作品を参考に、脚柱、ホイルをニュートラルグレイ相当のサフ、脚カバー内側を下面色で塗装し取り付ける。しかし、あとで現存機写真があるのを思い出し、見るとカバー内側は内部色のグレイのようだ(←塗る前に思い出せよ)。当該機、迷彩は怪しい色で塗り直されてるものの、細部塗装はオリジナルのままに見える。ちなみに脚柱、ホイル、脚庫内部もグレイ。色調はRLM02のような緑味はなく、無彩色。

 アンテナ柱は0.7×0.4mm帯金を使い、キャノピパーツの裏側にプラ小片を接着して基部補強。アンテナ線は極細テグス。後方機銃の銃身を折ってしまい0.5mm真鍮線で自作。上下間違えて、キャノピ接着後に改修したのは内緒だ。主翼機銃も0.5mm真鍮線。翼端灯はクリアランナー削り出し。



WEBで拾った画像から、Z.1製尾脚フェアリング(たぶんオリジナル)。キットの指定塗装A、Cを作る人は参考にされたし。

同じ機体の主脚部。カバーはピアノヒンジ。ということはヒンジ部は一直線だ。



■ 完成

 最後の仕上げ。胴体は木製だけど主翼は金属製、というのを明示的に表現したくて、主翼付け根を中心にチッピングを施す。いつものようにミディアムシーグレイを使用。また、ウェザマスを綿棒につけて翼のリベットラインを描く。やり過ぎは禁物、あくまで控えめに。その後、艶を整えるためフラットクリア+フラットベースを薄く溶いてエアブラシ。軽〜くラプロス#6000で表面を撫でて艶を調整し、これにて完成。



チッピングを少々。キャノピも接着。

つうことで、完成。自作/修正などの面倒な手間一切なしで、ちゃっちゃと出来上がる。やっぱタミヤ印は楽でええなあ。ラグとは大違いだ。


 完成写真は静岡後に。


■ 完成写真 6/6追加

 ようやく写真撮影。当機は胴体が長く、いつもの4×3の比率の画面には収まりが悪くて縦を詰める。アップにすると排気管の手抜きが意外と目立つ。お気楽モードで失敗恐れず強めのウェザリングは、モールドの少ない本機にはそれなりに効果的。もっと汚してもよかったか。さて、タミヤのイリ2は、外形、細部、モールド、合わせの全てが極めて高水準なキット。惜しむらくは何故Il-2なの?ってことで、このクォリティで1/72メジャー機の穴を埋めて欲しいなあ。



























■ 塗装小話

 最近の展示会で聞いた話など。

 凸リベットの艶あり塗装について。私の場合塗装面が梨肌になり、最終的にラプロス等で磨いて仕上げるため、凸リベットや凸モールドは実に具合が悪いが、その方は凸リベットでも平滑な面に仕上がっており、かねてから不思議だった。秘密を尋ねるとクレオスのリターダーにシンナーを3割ほど混ぜたもので希釈して吹くとのこと。リターダーの方がシンナーより多いがこれでも乾くそう。薄く何回も吹くのではなく、濃く厚めに回数少なく(決まれば1回とか)。ゆっくり乾燥する間に表面が平滑になるとのこと。

 これは別の方(車が専門)の話では、リターダー系(レべリングシンナー含む)の使用で、デカールやプラ(とくに透明プラ)の劣化、塗膜のヒケなど長期の経年変化で問題が発生した経験があり、色塗り、クリアコートともリターダー、レべリングシンナーは使わないとのこと。

 同じ方から車のモール等のメッキ表現について。これは、メッキシルバーネオがいいとのこと。上からラッカー系のクリアによるコートも可能で、まず砂吹きしてから本番クリアをかける。クリアで曇るのは下地塗装までシンナーが及んで銀粒子が浮くためで、むしろ下地なしでメッキシルバーを吹いた方が、クリアへの耐性は強い。

 相反する部分もあるが、要は何を目指すかにより手法が変わると捉えるべきだろう。ちなみに私の場合は、薄い塗料を低圧で吹く。塗料1に対しシンナーが3〜5くらいかなあ。この薄さで直にプラに塗ると表面張力でエッジに塗料が乗らない。このためサフによる下地は必須。もちろんサフも上記程度に希釈する。逆説的だがサフを吹いた方が、プラに直に塗料を吹くより結果的に薄い塗膜になる。嘘だと思うならやってみそ。

 吹くたびドライヤーで強制乾燥させ(←いらちなもので)何回か塗り重ねる。重ねるごとに薄く希釈する。十分な発色が得られたら表面を磨く。場合により極薄のフラットクリア(単色塗装なら極薄の塗料)をかけて磨き目を消す。リターダーは使わず普通のシンナーか最近発売された速乾シンナー。これはモデラーズのピュアシンナーに似ていて、プラを若干溶かすので食いつきがよい。エアブラシでのグラデーションやウェザリングは磨いた後の作業。




■ 参考文献

 StormovikかShturmovikか、英語でも表記にぶれがあるんだね。タイプミスではないよ。世傑は日本語で読めるのは大変ありがたいが、写真解説で直線翼と後退翼を区別してないから分かりづらい。まさか書き手が分からないわけじゃないだろうけど。その点、インアクションのスタイルはモデラーに親切だ。ただしp33下写真の機番66は直線翼が正解。

1 世界の傑作機 No.129 Il-2 シュツルモヴィク 978-4-89319-169-4 文林堂
2 Il-2 Stormovik in action aircraft no.155 0-89747-341-8 Squadron/Signal Publications
3 Combat Aircraft 71 Il-2 Shturmovik Guards Units of World War 2 978-1-84603-296-7 Osprey Pubsishing
4 Monografie Lotnicze 22 Il-2 Il-10 83-86208-33-3 AJ press
5 Red Stars Soviet Air Force WWII 951-95821-4-2 Ar-Kustannus Oy
6 Red Stars In The Sky 2 Soviet Air Force In World War Two 951-9035-59-1 Tietoteos
7 4+ No.22 Ilyushin Il-2 Shturmovik 80-87045-00-9 4+ Publication



■ 参考サイト

ソビエト機塗装







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