考証

 チェッカーテイルで有名な325FGから、バーゼラー(Robert L. Baseler)中佐機とする。本機の写真は資料−7に左後方から写したものがある。また資料−1などにキャノピー部のクローズアップがある。バーゼラー機はいろいろな出版物に塗装図が載っているが、どれも間違いがあり、特にBIGSTUDの書体はいい加減。

 モデルでは承知の上で取り付けているが、実はバーゼラー機は防弾ガラスが取り外されている。照準器はガラスが楕円形のタイプ。アンテナ線の張り方が一般的でなく、枝線がアンテナ柱直後から胴体に向けて張られている。主翼パイロンに装着された落下タンクは、325FGでは共通してP−38タイプ。この場合タンク振れ止めは装着されない。プロペラはもちろん細身のトゥースピック型。

 カウリング右側のパーソナルマークの有無は不明。同部隊では右側に記入されている機体もあるし、バーゼラー乗機のP−40Fにもあるので、あってもおかしくはない。カウリング前方下部に白で機番が記入された機も見られるが、バーゼラー機での有無は不明。
 水平尾翼下面のチェッカーは、サンダーボルトでは施されていない。資料−16によるとペンキの供給不足のためとある。チェッカーがない機体もあるのはそのためか。その後ペンキが供給され、マスタングでは上下面塗るようになったそうである。

※ Baseler姓はドイツ語圏由来で、バーゼル(スイスの都市)の住人という意味。発音は、英語発音サイトによる。


実機写真とほぼ同アングル。胴体インシグニアはドアにかからないタイプ。

胴体後方にシリアル下3桁が記入されている。カウリング右側のパーソナルマークは、なしとする。


 ところで、胴体インシグニアは2種類の記入位置があり、例外はあるが概ね戦域によって分かれている。即ち、太平洋、地中海では後方寄りで、西部ヨーロッパは前方寄り。ファーミングデール、エバンスビル工場の違いではなさそうだが、これは現地塗装なのだろうか、戦域別に工場で塗り分けたのだろうか。


基本塗装

 基本塗装の順序は、ジンクログリーン→ブラックグレー→ジンクロイエロー→サフェーサー→下面→上面。ブラックグレーは透け防止。サフは尾翼の黄色の下地も兼ねる。吹いたら、1500番ペーパーで表面を一撫で。

 下面ニュートラルグレーはビン生に白を1〜2割加える。上面オリーブドラブは、緑とグレー味が強いのが私のイメージ。オリーブドラブと英軍ダークグリーンを半々に混ぜ、さらにニュートラルグレーを加える。塗り分け線は、タミヤのインストが概ね正しいが、実機写真を見て後半部で修正。境はフリーハンドでぼかす。


クリアパーツはラッチのモールドをスジ彫り、枠にリベット。コンパウンドとコーティングポリマーで透明度を高める。断面は内部色で塗っておく。

細切りテープは写真のように貼っていくと、いちいち長さを合わせる必要がない。

窓枠内側色のジンクログリーンを吹いてから、光の透過防止に暗色を吹く。

脚庫、翼端燈にジンクロイエローを吹きマスキング。

下面のニュートラルグレー。パネルライン沿いに暗色を吹くが、最近この表現に飽きてきて食傷気味なので、あくまで控えめに施す。

上面はインテリアグリーンを混ぜた色やニュートラルグレーを混ぜた色を軽くのせ退色感を出す。いずれにしても下面同様控えめに。

 

マーキング塗装

 尾翼のチェッカー。オレンジイエローは日本軍機用黄橙色ビン生。黄色は厚吹きしないと赤みが乗らない。そこで、最終仕上がりより少し赤めに調色した黄色を下塗りに薄く吹く。ちょうど狙った赤みになったら、本番の色を吹く。
 黒は2回に分けて塗装するのがポイント。こうすると塗り分け線がきれいに直線になるし、位置決めも楽。モデルアート増刊でも、同じ手法が紹介されている。やはり誰が考えても一緒ということか。

 機首はまず黄橙色を吹き、細切りテープでマスクして赤を吹く。同部隊の現存カラー写真のイメージから、赤というよりは朱色に近く調色。サンダーバーズ・レッドにRLMレッドと黄橙色を混ぜる。フラップの歩行禁止部分の赤とは色調を変えている。

 インシグニアも手描き。キットのデカールを下敷きにテープを切り出す。インシグニアブルーは、青みを抑えたいつもの自作カラー。マスキングテープをはがす際には境目にナイフで軽く筋を入れるのがシャープに塗り分けるコツ。ただし、あくまで軽く。


写真からチェッカーの大きさを割り出し、6.5mm幅に切ったテープを格子状に貼る。

黒い部分の半分だけ塗装した状態。

残りの黒の部分も同様にマスクして塗装。その位置決めはとても簡単。

デカールを下敷きにテープを切り出す。サークルカッターで穴を開けたテープをデカールにはり、袖を切り出す。

位置決めをする。袖の下端がパネルラインに位置する。

位置決めテープに従い周囲のテープを貼る。

インシグニアブルーを吹いて、星のマスキング。まず、位置決め。

横から見て星と袖が曲がらないようにチェック。

周囲を貼る。

真ん中をはがして出来上がり。

機番88は、写真からサイズを割り出し細切れテープでマスク。意外と横長。

マスキングが終了した状態。

 

クリア吹き

 1500番でマスクの境目を中心に段差を削る。オリーブドラブの部分はグラデーションをつけているので、削らないように注意。その後、スーパークリア半つやを吹く。十分乾燥後1500番で研ぎ出し。ところが、つい削りすぎて地が出ててしまい、再度オリーブドラブ。そして、今度は46番クリア+30番フラットベースを吹く。こちらの方が塗膜が薄いので、仕上げ吹きには適している。スーパークリアは研ぎ出し用と使い分ける。


ウェザリング

 リベットとパネルエッジを中心に面相筆で描き込む。次にパステルでパネルライン、リベットライン中心に汚す。失敗したら指や濡れティッシュなどで拭くと簡単に落ちる。定着にはシンナーを吹く。シンナーを吹くと濡れティッシュでももう落ちない。
 オリーブドラブのサンダーは、カウルフラップ直後から防火壁付近にかけての胴体が、黒く汚れているのが特徴。


ウェザリングを施した状態。リベットを中心にライトグレーをちょぼちょぼと点描。また、リベットライン沿いに黒パステルをぼかす。

排気管はラッカーのメタリックグレーの上に茶や灰色のパステルを厚塗り。

 

インレタ

 いよいよ自作のインレタ貼り。機首の”BIG STUD”はテープで慎重に位置決め。写真と同じ角度から眺めてチェック。シャドウの黒を先に貼る。

 版下作成はエクセルのお絵かきツール。これを切り取って縮小してワードに貼る。特別な描画ソフトがなくてもこれぐらいは作れる。版下は200%のサイズでB4に印刷し、これを50%縮小でインレタにすると小さい文字がシャープになる。


BIGSTUDの書体、大きさは実機写真から割り出す。文字にはシャドーが付いている。

細部データもインレタ。この位の文字サイズが限界。

 

小物

 小物を取り付ける。詳細は写真を見ていただきたい。落下タンクはハセガワP−38を加工し、タミヤの落下タンクの基部を移植するが、バブルトップのキットにはセットされているので、そちらを使う方が早い。


ブレーキパイプは糸はんだで「流行」の太さ2段階。主脚カバーのリンクは真鍮線で、端部をペンチでつぶすと見た目と同時に接着も楽になる。トレッドパターンをエッチングソーで掘り直す。

主脚カバーは押しピンの跡をパテ埋めし、縁を薄く削る。内側の凸リベットは凹に打ち直す。車輪カバー取り付けは、強度と見た目を兼ね真鍮線。さらに基部にディティール追加。収容部にはパイピング。


尾脚柱は真鍮線。

ピトー管ははんだ細工。加工法はコルセア5N参照。

インテイクの仕切りはこのような仕上がり。カウリング内部にはフレームを再現する。苦労したがプロペラをつけるとよく見えない。実はカウリングは1度作り直しているのだが、これはその前のもの。

プロペラカフスのデカールはエアロマスターのサンダーボルトデータ用。スーパークリアでコートして研ぎ出し。カフスの付け根側はペーパーで縁を丸める。スピナーの基部にも細かいD−up。

バックミラーにはアルミテープを貼る。編隊燈はクリアランナーを削る。

クリアパーツの透明度が高いので、コクピット内もよく見える。


完成

 以上で半年以上かかって完成。大好きなレザーバックが形になって大大大満足。というより、長年の思いが叶って、ほっとした感じ。胴体形状についてのメーカーの間違いも、他人の作品とのアドバンテージと思えばまた嬉し??。

 さて、あらためて立体で見ると、サンダーボルトは、ただのふやけたデブではなく、無駄なく引き締まり、かつ、たくましい姿態をしていることが再確認できる。
 サンダーファンの私としては、このページを見て「サンダーボルトって意外とかっこいいな」と再評価いただければ嬉しいかぎり。さらに、これを機にサンダーの模型を作り、その上カウリングまで修正していただければ、望外の幸せ。

 最後に、ここまで読んで戴いた感謝の気持ちも込め、インレタの版下を添付する。もともとはエクセルだが、ファイル容量が大きすぎるので、切り取ってワードに貼り付けている。このままで50%縮小すればちょうどの大きさになる。

<後日訂正>

 脚柱は銀で塗っているが、これは間違い。正しくは暗緑色(オリーブドラブか?)。この場合、トルクリンクも同色。また、リベットラインにも若干のミスあり。機銃点検パネルの横リブ本数(×4本→○3本)、後部胴体上部(丁度レイザーバックの部分)のストリンガーの本数(正しくは1本少ない)。

版下はこちら

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