SB2Cのスラットについて(去病氏の掲示板より引用) 投稿者:おおいし 英国FAAの-1の評価文書ではスラットがランディングギアー作動に連動しているとありますので、そこは間違いないでしょう。めぐり合わせが悪かったのか、この文書も好意的でなく、そのためか装甲飛行甲板には登場しなかったことが理解できます。 投稿者:ペガサス おおいしさん。情報感謝です。そこで素朴な疑問。何でスラット廃止したんでしょう。以前の型より着艦性能が向上した要素がないと思うんですけど。 投稿者:おおいし たしかに戦後のアロマンシュ艦上の写真の-5はスラット開いてませんね。でも戦後の写真という-4のパーキング中の写真でも開いていない。もっともパーキング中は油圧がオフになっているので閉じているのかも。 戦時中くらいに米海軍で-5モデルを艦上運用している写真があればよいのですが・・・。着艦進入中とかのやつで。下記URLは-5モデルと説明がありますが本当かな? http://aeroweb.brooklyn.cuny.edu/database/aircraft/getimage.htm?id=9363 投稿者:おおいし ペガサスさん、カーチスSB2C-5ヘルダイバーの主翼スラットなんですが、下記のごとく推論してみました: 1)なぜSB2Cの-4モデルまでにスラットがついていたか 通常「スラット」というのは「飛行機の翼端失速を防止する」ぐらいの説明しかなされませんが、根源的に先っぽのとがった(テーパー)翼は、そのまま迎え角を増大させてゆくと翼端から失速する、すなわち主翼上面を流れていた気流がはがれてしまう宿命があります。 ヘルダイバーの場合ですが、上記に加えて着艦進入時にエルロンの効きに手ごたえがなく小舵の修正が思うとおり効かない(スラギッシュという表現)、すなわち横の操縦に困難があるといくつかの資料に指摘されています。 それはどういうことかというと、そもそもこのときの着艦アプローチでの対気速度で主翼に揚力を発生させるための迎え角が失速迎え角にそうとう近く、そのため主翼上面の気流がすでに一部はく離していて、エルロンの部分がはがれた気流の「うず」に覆われてれているのだと考えられます。ですが、主翼全体ではまだ機体重量を支える揚力は発生しています。 気流のはがれた部分は乱流となり、このためエルロンの効きも低下し、かつ水平に安定させるのに重要な翼端部分の揚力も減少するので、結果的に着艦前にふらつきが直しにくく、それが「エルロンの効きが悪い」という表現になったのだと思われます。 仮に左に傾いたのを直す場合に通常では操縦桿を右に倒し、左のエルロンを下げて揚力を増大させ、右翼のエルロンは上げて右主翼の揚力を減らして、それで左への傾きを右に回復するということになります。ところが上記のように主翼が失速迎え角に近い時には、エルロンを下げてしまうとその部分の翼全体は迎え角がさらに大きくなることとなり、全体的に見ればその部分がさらに失速に近くなってしまうということです。これではエルロンで修正するのに不自由するでしょう。 ということで、エルロンになるべく整った気流が当たるようにしてその効きを向上させ、なおかつその部分全体の失速(すなわち気流のはがれ)を遅らせるべく、気流をいくらかでも整える「スラット」が試作機の後からつけられたのだと思います。 ここで休憩にします:では戦後のフランス空母マシュマロ上のSB2C-5でスラットが展開していないのはなぜか?→続く 投稿者:ペガサス おおいしさん、ありがとうございます。 「エルロン下げがかえって揚力を失う」 以前から着艦を失敗してひっくり返って飛んでいる写真を見て、何故そんなになるまでコントロールを失うのだろう?と、不思議に思ってました。素人考えですが、これがその一因かも知れませんね。つまり、失敗を回復させようとする動作が、かえって増幅させることもあるという。 試作機の話が出たので、今更ながらCrowoodの試作機の章を斜め読みしてみました。 「・・・風洞試験とフルスケールの実験飛行試験の結果、最大揚力係数が計画より小さく、そのため失速速度が高いことが判明した。そのため、前後軸の安定を高めるために、機首を1フィート延長した(なぜそれが安定を高めるかの記述なし)。また、スラットを翼前縁全体にまで拡大したが、効果はなかった。両エルロンを下げたが効果なかった。結局、翼面積を385平方フィートから422平方フィートに拡大した。これは翼の完全な改設計となり、重量が増加し最大速度が低下した。・・・」 写真を見ると、試作機は量産型と同じようなスラットを装備しています。 投稿者:おおいし SB2C-1をテストしたFAAのレポートを基にした文章が下記URLにあります。これによると: http://www.fiddlersgreen.net/AC/aircraft/Curtiss-Helldiver/helldive_info/helldiv_info.htm 着艦する場合まず場周コースには速度120ノット(222km/h、速い!)で入る。ここですでにエルロンの効きが悪いことを体感、パワーを絞って速度100ノット(176km/h)で車輪下げ、スラットも連動して下がり、95ノットでフラップを操作、所定角度に下げ。 低空でゆるく左旋回しつつ、最終進入速度85ノットで接地ポイントに接近する。このときには横の操縦がそうとう低下している。エルロンがほとんど効かない。 接地のためにパワーを絞ると今度はトリムが変化し、そのままではノーズが下がってしまう。このため3点姿勢に持ってゆけず、たいがい主車輪のみが先に接地する「接線着陸」を余儀なくされる。ただしこのときのショックは効きの良いソフトなオレオが吸収する。 進入速度85ノットというのはさほど低い数字ではないと思いますが、このときはおそらくフラップも目いっぱい下げて抵抗の大きい状態とし、エンジンのパワーを多少入れて「吊りながら」降りてくるやりかたと思われます。 これはエンジンの推進力で引っ張りながら来るので、逆に接地前にパワーを絞ってもすぐに減速して「ストン」と狙ったところに車輪をつけることができる方式です。ゼロ戦エースの岩井勉氏の著書にもこれと思われる記述があります。 ただし、迎え角も大きめの状態でつりあわせる方式ですので、失速に近いことは確かです。 それで-5モデルの写真でスラットが下がっていないことに関して: 推論1) ここでもしも多少とも進入速度を増加させることができれば、迎え角は小さくなり、したがって失速から遠ざかるとともに、気流のはがれを幾分でも防止し、結果としてエルロンの効きも向上し、かつ翼端部分の揚力も確保できて安定性も幾分か増大できる、という推察が可能です。 ただし着艦時の速度がいくらかでも高くなると、運動エネルギーは差の二乗に比例して増大するため、こんどは母艦側のアレスティングギアーの制動能力が問題となるでしょう。あるいは・・・ 推論2) スラットが付いていてもエルロンの効きがよくないので、ほぼ同じ進入速度でスラットを作動させずに実験してもさほど変わりがない。それなので当初は主脚と連動していたスラットの油圧系統を封じて、不作動とさせたか・・・。整備が単純になり、母艦上での機体の取り扱いも気を使わずに済む。 意外と手元にSB2C-5の写真は少なく、飛行中の同モデルの写真ではスラットの部分が目立ちます。構造上廃止したかどうかは明確に分かりませんが、少なくとも戦後のフランス海軍のマシュマロ艦上のSB2C-5の写真でスラットが出ていないことへの推論にはなるでしょう。 |