スピットファイアPR.XIX
(ベンチュラ+ハセガワ1:72)製作記
2006.12.29初出
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Spitfire in Blue |
コンセプトは以前のシーファイアF.XVとほとんど同じ。ベンチュラの機首にハセガワの胴体と主翼を合体。「正しい形」のスピットを作るには、やっぱりハセガワの胴体をベースにするのがベストの方法、と私は信じる。垂直尾翼はフジミから。そして今回のキモは、何といってもPRキャノピ。得意の(?)プラバン・ヒートプレスの出番だ。 そのハセガワキットも、今回で手持ちのストックが底を尽く。店頭でも見ないし早く再販してほしいなあ(←まだ作るんかい)。ベンチュラもこれで手持ちは終了。再販はないので、見かけたら即ゲットせねば。
ただし修正するとなると、単純に背を削れば済む話ではなく、幅を狭め下側ラインも削る必要があり、そうなると主翼やフィレットにも影響するので大ごとだ。 一方、ハセガワの胴体をエアライナーズ・ネットの写真に重ね合わせてみれば、キャノピ後方あたりでは、極めて正確。ただしハセガワは、ファストバックの背が途中で折れ曲がって垂直尾翼にかけて下がっていくラインが強調されすぎていて、垂直尾翼前方あたりでは0.5mmほど高さ不足。ここは広幅尾翼の改修に併せて修正してやろう。なお、上記webページで『PS853/C』とかPR19のところの『More』とかをクリックすると同種の写真がヒットするのでお試しを。 ついでにフジミ。こちらの後部胴体もベンチュラと同じくらい太い。それにつりあうように風防・キャノピも大きい。大馬力で迫力満点!といったグリフォンができあがる。
Dウイングの基本形状は、Mk.IからV、IXと続くエルロンが長スパンのタイプで、ここから武装を撤去したものとなる。足の短いスピットでは偵察任務にタンクの増設が当然の発想で、ウォーバード・テック(以下WT)によると、翼前縁に片翼で66ガロンのタンクが増設された。 これは別資料(MPMから刊行されている"Supermarine Spitfire PR Mk.XIX"というこの型だけで1冊の本:未所有)によると、主桁より前方の翼スパンのほぼ全体に渡るインテグラルタンクで、翼端近くに注入口があり、内部は何区画かに仕切られ、翼端側から胴体側にのみ流入できる弁が設けられている。また、翼端の注入口後方にパイプ状の空気抜き、翼下面主脚収容部前方に燃料ポンプの小バルジがあるが、これらはPR.XIXのみの特徴で、マーリン型のPR.XやXIには見られない。 このDウイングの前縁タンクは、Mk.VIIIやXIVなどのCウイングやEウイングにある主翼前縁タンクとは位置も容量も異なり、後者は片翼約12ガロンと容量も小さく、位置は機関砲内側で、タンク境界と注入口のパネルラインがある(当HPのスピットファイアMk.XIVe参照)。一方前者の翼前縁にはPR.XIやXIXの現存機の写真を見ても、そのようなパネルラインはない(WTのラフな平面図は間違い)。 また、WTには、主翼武装を撤去した翼スパーの間にも片側19ガロンのタンクが増設され、機内総容量は252ガロン(資料により異なる)に達したという記述があるが、その詳細は不明。現存機の写真では主桁すぐ後方のスパン中央部あたりに小ハッチがあり、このタンクの注入口かもしれない。また、下面の機関砲があったあたりの位置に小バルジがあり、これも増設タンク関連か? さらに、オイルタンクも当然容量が増えているはずであるが、特に記述はない。コクピット前方の胴体燃料タンクが小型化され、その分オイルが増えたと想像するがどうだろうか。それにしても、あんなに小さな機体に1,100リットルを超えるガソリンとオイルという可燃性物質(重量で約0.9トン!)を満載して飛び立つ気分はいかばかりのものか。
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まず、こんなふうにカット。機首はベンチュラ、胴体はハセガワ、尾翼はフジミ。 |
これで、すこぶる流麗なラインが再現される。主翼にも下ごしらえ。丸窓は後からはめ込む予定。 |
またまた、去病氏より包みが届く。中を開けると3冊の資料本。毎度多謝。MPM社刊「Supermarine Spitfire PR Mk.XIX」、The Aviation Workshop Publications社刊「ON TARGET PROFILES 8 Photo Reconnaissance Spitfires in Worldwide Service」、SAM社刊「SAM Modellers Datafile 5 The Supermarine Spitfire part2 Griffon-Powered」。かねてスキャナーの購入を検討してたこともあり、いい機会だと購入。資料本をしかるべく「措置」する。
type389は前期生産型であり、与圧キャビン非装備。与圧壁が無い他、機首左の与圧空気取入口がなく、風防とスライドキャノピが異なり、コクピット左側面の乗降ドアが残されている。type390は後期生産型で、現存機は私の知る限り全てこのタイプ(ちなみにコントラ・プロペラは非オリジナル)。こちらは与圧キャビン装備、乗降ドアなし、主翼下面の小バルジやアクセスパネルが一部異なる。 で、作品をどちらにするか決めないといけない。既に与圧壁を取り付けているし、私の中のイメージでのXIXらしさという点から390に決定。
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カメラ窓取り付け。このあとコンパウンドでさらに磨く。ゴミ防止に側面窓は裏からフタ。下面窓は裏からダークグレイで塗りつぶし。 |
士の字。やはり美しい。このねじり下げがスピットの主翼だ。付け根と翼端のパネルラインの角度変化を見てほしい。スピナはフジミ。 |
主翼接着はいつものとおりで、まず上面パーツのみ胴体に接着してから下面パーツを接着。ねじり下げ(翼端で迎え角が-0.5°となる)と上反角(翼前縁で6°)に注意。不要なスジ彫りを瞬間で埋めてから全体を整形し、パネルラインをスジ彫りする。追加資料本に翼のパネルラインの図面があり、手元の実機写真で判明している部分が正確に反映されていることから、資料の確度が高いものと判断し、全面的にこれに倣うことにする。 Cウイングなら機関砲が入っているあたりの位置に、燃料タンクとおぼしきパネルラインがあり(下面のみ)、これがタンクならと容積をざっと計算してみると、19ガロンというウォーバード・テックの記述にほぼ一致。タンクと考えて間違いなかろう。これで、PR.XIXのDウイングの謎は、ほぼ解明かな。 |
翼のパネルラインはこんな感じ。資料本の図面コピーを掲載するわけにもいかず、これでご容赦願う。 |
スジ彫りに関しては上下とも完(のつもり)。写真で見やすいようにラッカー系でスミ入れしてある。 |
同じく下面。小バルジやラジエーターの工作はまだ。円形の点検ハッチは直径2.3mmのエッチングテンプレート使用。 |
ちなみに、これはtype390で、type389とは小アクセスハッチの有無など細部が異なる。上面は389と390の差がない。 |
非与圧型のタイプ389と与圧型の390では、風防、キャノピ双方の形状が全く異なる。とくに与圧型390の風防は、他形式では見られない独特の形状。透明なので断面形の把握が難しいが、胴体との接続部のラインを観察すると、Mk.IXなどと同じ上に凸の曲線となっていて、風防ガラスの両サイドは平面であることが分かる。これは重要なポイント。 細かく見ていくと、風防前端は、横から見ると大部分が直線(つまり二次曲面)であるが、頂部のごくわずかが湾曲(三次曲面)し、後方のスライドキャノピにつながっていく。全面ガラスの傾斜角度は、戦闘機型(例えばMk.XIV)と同じ36°。 スライドキャノピもタイプ390は独特の形状で、前縁部には金属製の枠がなく、プレキシガラスそのままのエッジ。P-51B/Cのマルコムフードと同様の処理である。それと合わさる風防側フレームは、そのプレキスグラスのエッジを内外から挟むような「コ」の字断面形状。また、下端レール部は外側からキャノピを挟むようになっている。このあたりは文章だと判りづらいので、この写真を参照されたい。なお、この機のプロペラブレードは、XIX標準装備とは形状が異なり先端の幅が広いので注意。 一方、389の風防&キャノピは、マーリン偵察型PR.XIと全く同じ形状。風防は、胴体との接続部分が下に凸の曲線となっていることからも分かるが、極初期Mk.Iの防弾ガラスなしタイプと基本形状が同じ。両サイドは390のような平面部分が無く二次曲面となり(スライドキャノピと接するフレームのサイドは直線)、風防正面部分には平面部があり(平面部は長方形であり台形ではない)傾斜角度は、これまた同じ36°。スライドキャノピとレール部分は、戦闘機型(例えばMk.XIV)のものと似ているが別物で、Mk.Iと共通のフレームにプレキシガラスのみバブル状になっている。 では、工作。ワンピース風防は0.2mm透明プラバンのヒートプレスで自作するので、木型を作る。こういうものは、たいていサイズ過大になる(←私だけか?)。それを防ぐため、木型を胴体に乗せ(場合によりそのための工夫が必要となるが)、バランスや胴体との合わせを確認しながら削っていく。形が把握しやすいようにスライドキャノピと一体にする。 風防の後方窓枠の位置、形状は戦闘機型と同じなので、ハセガワのクリアパーツから形を写し取ってプラバンのゲージを作る。イメージどおりの形となれば、パーツの厚み分だけ小さく削る。今回の目標厚さは0.5mm。あとは実際にプラバンを絞っては、胴体、キャノピと合わせてみて、木型の微修正をしていく。満足のいくものが絞れれば、窓枠をスジ彫りし、内外を磨く。 スライドキャノピは、フジミのパーツをベースに削り込む。フジミのキャノピは一回りサイズが大きいので、下辺を削って高さを1mm程下げ、前後枠の部分もハセガワのキャノピと同じサイズまで削る。プレキシガラス部はこれらの枠にあわせてバブル状に整形。こうすることでΩ型断面も再現できる。パーツは厚く、少々の削りには十分耐える。像が歪むのは仕方ない。諦めよう。 |
風防の木型。微修正するうち下端が足りなくなり、瞬間+おが屑のパテを盛るという泥縄。 |
絞った風防は切り出して接着。まだ胴体との合わせがいまいち。スライドキャノピは、先に窓枠との境をスジ彫りすると形が決まる。 |
後方窓はハセガワ。後部胴体とツライチに削る。ゴミが入らないようにテープで覆う。 |
それぞれを磨き、さらに胴体、窓パーツ相互の合わせを再調整して接着。このあとレールを取り付ける。 |
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左(表)、中(裏)は修正済み。右は瞬間+プラ粉を盛ってこれから削るところ。付け根のラッパ状の広がりを削り、先端側は後側に幅を広げる。 |
スピナに接着。キャビン与圧ポンプ用エアインテイクも自作。前縁に余りエッチングで防氷ガイドを取り付け。 |
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バルジはプラバン。写ってない左舷側にも対称位置にバルジがある。写真が前後しているが、これは薄くサフを吹いた状態。 |
脚カバーはフジミ。XIXでは主翼バルジの後端が脚カバーについている。抜かりなく再現。 |
リブテープはハセガワデカールの細切り。尾翼の平行四辺形は、追加バラストのアクセスパネル。グリフォンエンジンは重いのだ。 |
スジボリ忘れ。0.2mm透明プラバンに丸棒ヤスリで穴をあけてテンプレートとする。セロテープでの固定がミソ。 |
ということで、タイプ390から標準的PRUスキームで、かつ、なるべく時期が下がらないものを選び、1946年、南部ドイツのFurstenfeldbuck基地に駐留していたRAF第2戦術空軍(2nd TAF)隷下の第2スコードロン所属機、シリアルPM660、コードレターOI@Xとする。本機の写真は前述MPM本、または"Spitfire Flying Legend" Osprey社刊に小さくあり、塗装図は前述オンターゲット本にある。 オンターゲット本によれば、主翼と胴体のラウンデルは36インチCタイプと書かれているが、これは間違いで胴体は30インチが正しい。主翼は写ってないので不明だが、同時期のCタイプラウンデルで40インチとおぼしきものがあり、作品はこれを根拠に40インチとする。コードレターも高さ16インチが正しい。フィンフラッシュは12インチ四方。 ついでにいうと、このPM660は1949年の別写真もあり、その姿はコードレターが一切無く、スピナが黒(と思われる暗色)、全面PRUブルー、胴体ラウンデルとフィンフラッシュ、シリアルナンバーは変わらず。主翼マーキングは不明。
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PRUブルーを塗装後にマーキング。青、白、赤は突き合わせで塗っていく。青を吹き、次に赤を塗装するためマスクを剥がしたところ。 |
コードレターでは、特注マスキングシートの威力発揮。このあとレターの赤とラウンデルの白をそれぞれ吹く。窓のマスキングはセロテープ。 |
主翼下面にもシリアルナンバー。こちらも特注マスキングシート。いやあ、楽させていただいた。 |
できあがり、のはずだった・・・ (その理由は後述)。 |
実機写真では、PR.XIについては規定どおり寄り目のもの、逆に極端に翼端寄りのものなどがある。一方、PR.XIXについては大戦中のものは上面が判る写真がなく、これが戦後になると通常位置のものはMPM本などに写真があるが、寄り目の写真が見あたらない。で、1946年、戦後間もなくのCタイプラウンデルがどうなのよ、ってのが問題だけど決め手なし。MPM本の塗装図では通常位置だけど、根拠不明。 なお、XIXの胴体ラウンデルは、他と比べて後方寄りに記入されるのが一般的だが、これは側面カメラ窓を避けたためと推察する。
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マーキングを1200番ペーパーで落とす。サンディング時のミスでコクピット前方などに「フラットスポット」ができていたので、ついでに修正。 |
サフェーサーで塗膜を作る。なんか雲形迷彩みたい。レターOIは残すので、マスキングしておく。 |
PRUブルーを吹き、再度マーキング。これは剥がす途中。なんか別の国みたいでしょ。 |
回り道してできあがり。自己満足以外の何物でもなし。 |
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主脚にディティールアップ。0.3mmプラバンと延ばしランナー。 |
排気管もシーファイアF.XVと同じ手法と材料。1.1mm真鍮パイプをP-51のフェアリングなし排気管に差し込む。削りカスで汚いなあ。 |
ピトー管は真鍮はんだ付け。前作の余り。その他、胴体下面のIFFアンテナと上面のホイップアンテナ取り付ける。 |
インレタ。貼り付け後にフラットクリア&研ぎ出し。ただし、完全に段差を消してはいない。 |
ウェザリングは、いつものチッピング(主にミディアム・シー・グレイ使用)とパステル。モシー同様、タミヤのウェザリングマスターも使うが、下面はやりすぎて汚らしい出来。しかもフラットクリアを吹いてしまって、もう拭き取れない。 |
排気管まわり。塗装すると、けっこう見られるようになる。プロペラ先端は自作インレタ。 |
主翼付け根などにチッピングを施す。主翼ウォークウェイの存在は確証がないが、マスクして筆塗り。「あり」の方が締まるね。 |
それにしてもスピットはカコイイ。まだまだイケる。先日はtoy氏のご厚意でベンチュラのグリフォンシーファイアのキットを提供いただいた。感謝。こんどはカットダウン胴体のシーファイアってか。いや初期型マーリンも捨てがたいぞ。
いや、けっして特定の個人を想定したものではなく・・・(汗) これ、設問と結果を見ればお分かりのように、モデラーの3大要素を「技術」「知識」「意欲」だとして、その有無でソートしたもの。それでいけばタイプ分類は2の3乗=8通りとなるけど、そこは6つに集約している。細かく言えば技術には工作と塗装があるし、知識は実機と模型とが、意欲もやる気と時間とに分けられるけど、そこはシンプルに。 要はモデラーを「技術」「知識」「意欲」で分類すると面白いな、ということが言いたかっただけ。設問が適切でなくて「オレは、違うぞ」ってのがあると思うけど、そこはまあシャレだから。ちなみに、作品の3大要素は「工作」「塗装」「考証」かな。「外形」「色彩」「ディティール」というのもありか?(←私はこの順番が優先順位) なお、「個性」や「センス」の方が重要だ、とか、やっぱ「ネタ」でしょ、とかいう意見については否定しないけど、ココでは却下。 ■ 参考資料 参考文献は、スピットMk.IIの項を参照願う。PRスピットは、クローズアップ写真集でも扱いが低く不明点が多い。ただ、現存機があるのが救いで、これらの写真を丹念に眺めると多少は情報が得られる。ただしレストア機ゆえ各部が当時からのオリジナルかどうか疑問が残る。PR.XIXについては、ウォーバード・テック(グリフォン)で若干取り上げられている。フライング・レジェンドのスピットファイアには、PRUパイロットの手記があり興味深い。6/11追加 以下、本項で出てきた資料本、サイトのみ抜き出してリストにする。 |
1 | Supermarine Spitfire PR Mk.XIX | MPM |
2 | ON TARGET PROFILES 8 Photo Reconnaissance Spitfires in Worldwide Service | The Aviation Workshop Publications |
3 | SAM Modellers Datafile 5 The Supermarine Spitfire part2 Griffon-Powered | SAM |
4 | Spitfire Flying Legend | Osprey |
5 | WarbirdTECH volume 32 Griffon-Powered Spitfires | Spesialty Press |
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