ホーカー ハリケーンIIC(ハセガワ1/72)製作記

2011.1.3初出

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■ はじめに 

 テュナンに手を出したところで、嵐祭が気になってしょうがない。昔のお手つきキットを箱から出したりしまったり。資料本やネット画像を眺めたり。ハリのキットは古今東西揃っていて、どういうコンセプトでお祭り参戦するかも楽しいところ。人と違ったキットを素組みして、人目を引く塗装で勝負、というのが王道かな。小国マーキングもいっぱいあるし。

 まあしかし折角なので、将来1/48の予行練習も兼ね、ここはアウトライン追求でいってみよう。なにしろハリのキット、どれも外形的に問題ありで、特に機首のラインは各社とも大いに不満。個人的にはハセガワのラインが一番好きだけど、まだ改善の余地がある。


■ ハリの機首

 各社キットの機首、側面形に惑わされて平面形でも先細りとなっている。ここは是非皆さんに正しい認識を持ってもらいたいので、ルール違反覚悟で画像をご覧いただく。出所はあえて記さないが、ネットでフリーで閲覧できるものを加工(トリム、拡大縮小、反転等)している。スピナ形状だけは、オリジナルとかなり異なるので注意。ただ、カウルの基本ラインはオリジナルと考えて間違いない。

 まず、基本認識として、スピットファイアと同じ外寸のマーリンエンジンが中に入っている。だからシリンダーヘッドの左右張り出し幅はスピットと同じ。当たり前だがV12気筒エンジンは左右平行にシリンダーが並んでいる。多くのキットのマーリンは前の方が狭くVがだんだん鋭角になるけどね。ちなみにマーリンの横幅は、wikiによると78cmで1/72だと10.8mmだ。

 もちろん、だからといって、機首平面形は左右平行ではなく、エンジン先端をぎりぎりクリアした後は、エンジンより太い胴体中央部に向かって少しずつ幅広になっていく。カウル左右の排気管が通る穴も若干前すぼまりだが、各社キットほどではない。着目すべきは、1/72でスピナ後方3mm程のパネルライン。この断面形状は円でなく、上が広がった逆おむすび形とでもいうもの。レベル、ハセガワは比較的雰囲気がでているかな。まだ不足だけど。
 ついでに言うと、バトルとかファルマーとかデファイアントの機首も基本同じ。ハリとよく似たラインだぞ。



矢印部分の張り出しに注目。この下にマーリンエンジンのシリンダーヘッドが隠れている。シーハリMk.I

前上方から。ハイライトを見ると、エンジン上部の幅広さ、平べったさと、それがスピナに向かって収斂していく様がよく分かる。Mk.II

スピットファイアのような「おでこ」の存在感である。赤矢印の張り出し、青矢印のくびれ、左右のバルジが広く離れていることに着目。Mk.I

真上から。寸法的にはこれが最も分かりやすい1枚。排気管は平行だが、カウルの穴は後ろ広がりだ。Mk.II

正面からだと、胴体中央部の太さ、上面の丸さが目につくが、これもハリケンのラインなのだ。他にも主翼、尾翼の厚さ、先端の尖り具合など見所多数。Mk.II

スピナ直後のパネルラインに注目。逆おむすび形の断面形がわかる。


 最後に一言。そうと分かった上で素組みするのが、正しい大人のモデリング。さらに、それを知りつつ切った貼ったも趣味の世界。


■ ハリの機首その2

 Mk.IとIIの機首長さの違い。巷の文献ではきちんと説明されてないが、お祭りプロデューサの岡戸氏が明解に解説されている。ちょっと拝借してここでも紹介させていただく。下画像は上Mk.I、下Mk.IIで、AとBは同じ長さ、機首の延長は@のエンジン後部から防火壁の間。詳しくはここを見よ



■ ハリの鎖骨

 重箱の隅を一つ。これも岡戸氏のブログに書いたネタだけど、改めてここで。エンジン架から、主翼前桁に向かって、左右1本ずつのフレームがあって、これを勝手に「鎖骨」と呼んでるのだが、主翼フィレットはこのフレームを包み込むようなビミョーな形をしている。フレームの写真と実機の写真を見較べると、一目瞭然。これ、なぜか各社キットでは無視されてるね。ま、実機どおり再現しても、誰も気づかないと思うけど。

 で、この先は迷宮に入っていくんだけど、Mk.IとIIでは機首の長さに違いがあり、鎖骨の位置、長さにも関係しそうなのだ。機首が伸びた分だけ、エンジン架側の取り付け位置も前進しているのかな。



赤矢印が鎖骨。キットパーツを同じ角度から見比べてほしい。一方、先に掲載した後上側からの写真だと鎖骨がわからない。理由は後述。

この赤矢印が鎖骨だ。かなり低い位置にある。このため見る角度によって、鎖骨の存在が分からなくなるのだ。

鎖骨の始点、終点に注意。ところで機首は下から見ると前すぼまりに見える。この一見矛盾している事実をどう3Dで再現するかがポイント。

赤が鎖骨。青矢印の主翼前桁の下部に取り付けられる。



■ 羽布張り胴体

 ハセハリ最大の欠点がこの表現。あんまりセンスないんで、何とかしたいところだ。で、実は随分昔にこんなこと↓してたり。





 これ、リブ(というのかな?)の峰に0.2mm真鍮線を埋めるように瞬間で接着、間をタミヤのラッカーパテで埋め、適度に硬化したところ(翌日くらいだったか?)でサンディング整形。後日パテがヒケると丁度いい具合になる。今回、このお手つき(というか・・詳しくは後で)キットを使ってやろうというわけ。今の目で見ると真鍮線が乱れてたり、パネルライン忘れてたりと、いろいろあるが、それはそれってことで。


■ 型式?塗装?

 実はこれが一番悩ましい問題。これが決まらず今までハリに手を出しかねていたりして。まず、ハリが一番輝いていた時期は、間違いなくバトル・オブ・ブリテン。ただ、Mk.Iの尖んがり短スピナ、団子っ鼻スピナってあまり好きじゃない。アイテム的にはFAAシーハリに食指が動くが、これも尖んがり短スピナばっかり。ペラはデ・ハビランド金属製だし。

 型式としてはMk.II、しかもtropのフィルタ付きが好みだが、この頃になるとエース搭乗機なんてのはなくて、戦歴的に地味。IIDは主翼のパネルライン考証がいまひとつ不確か。SEACもすごく気になるが、偵察型でカメラ積んでたとか、塗装もグレイ系なのか茶系なのか判然とせず。もっといい資料を入手すれば、いいのが見つかるかも〜なんて思っているうちに幾年月。あ、小国赤星は私の場合最初からレンジ外なので、悪しからず。

 いろいろ考え、とりあえず砂漠塗装のMk.IIC tropで行くつもり。気が変わったらSEACになるかも〜。進行中キットが他に2つあるので、こっちはそれらの目途がついてからかな。


■ 羽布再現 1/15追加

 前回でお見せした胴体羽布張り表現について、もう少し詳しく紹介する。その前に、実機の羽布を見てみよう。






 このとおり、キットのような凹みは、ほとんど無いのが真実の姿。峰と峰の間は直線(というか平面というか)で、断面形は「多角形」に近い。垂直安定板やラダーなどの羽布部も同様で、凹みはなくリブの峰が見える程度。だから、むしろ凹みをパテで埋めた方が実機に近いくらいだが、それだと模型的に見栄えがしないし木製機に見えてしまう。その両立を目指したのが金属線パテ埋め方式なのだ。

 製作方法は、モールドの峰に沿ってPカッターで太めのスジボリ。そこに0.2mm真鍮線を瞬間で接着。半分埋まる程度が理想。そこにタミヤパテをシンナーで若干ゆるめに溶いて塗布。1日後にナイフやペーパーで余分なパテを落とす。最後にサフェーサで仕上げ。そのうち1/48もこの方式で攻略しようと思っているのだが、いつのことやら・・・

 さてその「お手つき」パーツ。実はシリコン型取りした原型なのだ。キットが発売されて間もない頃だから、随分昔の話しになる。当時は模型誌でもシリコン型取りがもてはやされていたよね。私も影響受けやすいタチで、パーツ自作しては型取ってたっけ。そのレジン複製品(胴体のみ)は他のプラパーツと組み合わせて完成したのだが、そこに悲劇が訪れる。

 それから数年後、久しぶりに箱から出して唖然。レジンが収縮して胴体が見るも無惨に歪んでいるのだ。使った樹脂が悪いのか、混合計量ミスか、そもそもレジンの宿命なのか、とにかく経年変化で胴体が収縮。主翼はプラで収縮しないから、上側だけが縮んでエビ反り状態。プロペラが15°くらい上を向いている。以来、型取り複製は全くやる気せず。市販レジンパーツも胴体主翼等の主要パーツは怖くて使えない。


■ 胴体接着、機首の修正

 胴体左右を瞬間で接着。別パーツとなっている機首部は、先端で1.5mm程広がるようにプラバンのシムを入れる。瞬間+プラ粉で裏打ちして削っていく。ポリパテを使うと事後収縮で歪む恐れあり、要注意。機首上側のバルジは邪魔なので、あとで再生することにして削り飛ばす。スピナの円を出すため、アルミ板を切り出して先端に接着。これをガイドにする。



機首をざっと整形。シリンダーヘッドの張りを下の画像と較べてほしい。これからもう少し削り込んで整えていく。

左キットオリジナル。先細で「張り」がないしバルジが「寄り目」。右修正後。これだけのシムを挟んでいる。撮影角度で左の胴体の方が太く見えるが、実際は同じ。

再掲。

再掲。


 作業中、無理な力を加えたせいか、昔接着した真鍮線が数本外れて飛んでいく。仕方なく瞬間で補修するが、若干周囲から浮き気味。右舷でパネルラインを一本忘れていて、真鍮線ともどもエッチングソーでゴリゴリ。


■ ラジエータ

 機首の他にMk.IとIIの外見上の大きな違いは、胴体下面のラジエータ/オイルクーラーのポッド。これも日本語の文献で明示的に記述されてないから、意外と知られてないかも。シーハリケンも陸上型に準ずる。ただ、Mk.IVの装甲タイプになると、詳細不明。また、キャブレター・インテイクも幅が違う。記録写真では分かりづらく確証はないが、当時のオリジナルもそのようだ。



シーハリI型。ノーマルI型も同じ。ラジエータ入り口が上下に狭い。脚庫前方のキャブレター・インテイクも違う。

II型。較べると全然違うね。奥のラジエータ中央部に円形のオイルクーラーが見えるが、これもIにはない特徴。

シーハリMk.I。他もそうだけど、画像は左右反転しているので気をつけてね。パネルラインとか違うから。

Mk.II。側面形で見てもかなり違うぞ。


 で、ハセのハリはどうなのよ?なのだが、入り口形状、深さからいってMk.IIが近いかな。だから、正しいMk.Iを作るには、機首を詰めるだけでなく、ラジエータ高さも詰める必要があるわけ(ついでに言うと平面形がアレでナニだが・・)。なお、世傑(新版)やエアロディティールのN氏による側面図では、Mk.I、IIの機首、ラジエータの違いが正しく描写されていないので注意。写真をトレースしたと思われるイラストでは違いが描き分けられているけどね。


■ 主尾翼

 ハリケンの翼型はクラークYH (Clark YH)と呼ばれる独特のもの。ソ連機に多く使われ、Yak1〜9のシリーズもこの系列(翼厚比はハリの19%に対し14%と薄いが)。下画像で見ると、最大翼厚が30%コードくらいにあって、上面の湾曲が強く、逆に下面はほぼ真っ平ら。ちなみに同じホーカー社の厚翼機タイフーンはクラーク翼型ではなく、NACA4字系列で、付け根NACA2219、翼端NACA2213だ。クラークとは特に下面のハリが違う(でも翼厚比はほとんど同じだね)。



別の機体だが、クラークYHがよくわかる。全体に厚いが前縁は案外と尖っているのに注意。模型でも押さえたいポイントだ。

ちょっと斜めでおっさん邪魔だけど、ハリのクラークYH。後半のカーブは左画像と異なり逆Rはないが、前縁の感じなど同じだ。

水平尾翼、垂直尾翼(ちょい斜めだけど)の、全体的な厚み、端部が尖っていること、前縁も尖っていることに注目。

主翼端はかなり薄く尖っている。これも模型では無視されがちなポイント。矢印位置から折れ曲がる(尾翼も同様)。下面はほぼ真っ直ぐ。


 上の正面からの画像、他にもBウイングの外側2丁の機銃、爆弾架の厚み、Mk.IIのラジエータの絶対幅、パイロットの頭部ぎりぎりのキャノピ、その絶対幅、側面の傾斜角など、見所多数。


■ 主尾翼データ

 その他、主尾翼のデータを示す。WEBで拾ったもので、真偽の程は定かでないから、そのつもりで。

 翼厚比は、付け根19%、翼端12.2%。内翼(主脚外側の分割部まで)は厚さ、コードとも一定(前後の湾曲部分を無視する)、上反角はゼロ。外翼の上反角は翼基準線(英語では datum line 前縁と後端を結んだ線)で3.5°。主翼スパン40ft0in、水平尾翼スパン11ft0in。内翼コード8ft0.25in、翼端コード3ft11.25in。主翼取付角2°、水平尾翼取付角1.5°、垂直尾翼オフセット左舷に1.5°。


■ キット評 2/3追加

 遅れ馳せながら、ハセ1/72についてレビューする。後部胴体羽布モールド表現の好き嫌いはあるものの、総合的にみれば1/72のベストキットだと思う。機首幅は前述のとおりやや狭いが、おむすび断面がよく再現されていて、斜め前方から見た雰囲気は悪くない。胴体側面形は、太すぎず細すぎず、実機をよく再現しているといえる。胴体中央部の横幅は、空撮写真から割り出した寸法にどんぴしゃ。クラークYHの翼型もよく再現されている。キャノピは、各社比較する中ではベスト。小物もカチッとしている。以上が長所。

 次に気になる所。II型のスピナ形状は目立つだけに残念。長すぎるし、中程が太すぎ。あとは重箱の隅になるが、主翼翼端が厚い。確かに実機は厚翼だが、翼端は翼厚比12.2%で、1/72なら厚さ約2mm強。一方でキットは4mm近い。逆に垂直尾翼はちょい薄いかな。後部胴体はわずかにボリューム感が不足。それにつながるキャノピも若干幅が狭い。ラジエータの最大幅、後方開口部の幅が狭い。

 アウトラインでは他にもあるが、あまりにマニアックだし、欠点と言える程のものでないので、この位にしておこう。細部では、後部胴体の水平尾翼下にある四角いアクセスパネルは左舷のみが正解で、右舷側は羽布&リブが続く。ここだけは素組みの人もパネルラインを埋めよう。「鎖骨」は表現されていないが、他社も同じだから短所とは言えない。その他細部の要修正箇所は製作の過程でコメントする予定。


■ 他社キット評

 いくつか1/72キットを購入。まずAZモデルのII型。これ、原型にハセIIを使って、AZオリジナルの胴体羽布モールド表現を加えたもの。従って、ハセに合わせればピッタリ合うし、互換性がある。逆に言うと、ハセのアウトラインの欠点もそのまま引き継いでいる。「売り」は羽布モールド表現なワケだが、あえて辛口評価すれば、あと一歩というところか。もっともハセよりは全然ましになっているから、ハセの羽布モールドが嫌という人にはお奨めできる。スピナ形状もハセよりいいし。ただ、一部の小物はイマイチで、とくにキャノピは枠が太すぎ。できればハセとニコイチが望ましい。

 次にアカデミー。これも基本ハセのコピーで、パーツは完全に互換性がある。ハセと較べ胴体羽布モールドは一見よさげ。ただやっぱりあと一歩で、リブの間隔と収束具合が不正確で実機と印象が異なる。AZとの比較では一長一短で好みの問題。意外な長所は主翼上面パーツで、翼端の翼厚の薄さが再現されている。また、尖んがりスピナの形状がいい。機首はハセよりさらに細く、逆おむすび形が全く再現されてない。なぜコピーして退化するのか理解に苦しむね。キャノピもいまいち。とはいえ、スピナをハセとトレードするためだけでも「買い」かな。安いし。

 エアの新金型II型は、後部胴体羽布モールド表現が各社の中でベスト。ま、あくまで私の好みでの判定だけど。ただ、羽布モールド中にあるスジボリがぬるく太く、これはなんともしようがない。さらにスジボリの考証が不正確。胴体長さとかもハセと全然ちがっている。機首は細すぎ、主翼は翼型がダメ。小物は言うに及ばず。こいつの後部胴体をハセに移植できればベストだが、現実にはなかなか難しそう。


■ 鎖骨

 主翼を組み立てる。鎖骨の表現は、手間の割に見栄えがしないからスルーしたいところだが、わざわざ指摘した手前、再現することにしよう。下面パーツのフィレット部を切り離し、プラバンを接着。下に隠れている「骨」を意識しながら削る。頭ではイメージが出来ているのだが、いざヤスリで削る段になると、翼前縁のカーブと鎖骨を包むカーブとの取り合いが結構難しい。写真を見ても、微妙な「くびれ」があって、こういうのはヤスリには苦手なのだ。

 ハセの主翼は、付け根の翼厚は正しいが、翼端が厚すぎる。パーツの湾曲を延ばすように曲げ、翼端に向かって、翼全体が徐々に薄くなるように修正する。画像にはないが、内部にはプラバンの桁を接着し、これで厚さを保持する。キットの脚庫は、一体成形のために内部の奥行きが無視されている。脚庫マニアではないが、たいした手間でもないのでプラバン箱組みで再現する。



鎖骨部分にプラバン積層を貼り付け整形。脚庫を切り取りプラバン箱組を取り付ける。

上反角を保持するため、プラバンで左右上面パーツをしっかりと連結する。

鎖骨の上面側は、キットのフィレットとの間に大きなギャップが生じる。ここは瞬間+プラ粉で埋めて整形する。

翼上下パーツを接着。厚みを抜いた翼端に着目。端部のエッジがまだ丸いが、後で削る。



■ I/IIの違い

 機首長さとラジエータについては前述したが、その他のI/II型の違いについて、当時の写真から気づいた点を整理しておく。見落とし、勘違い等あれば、出典とともにご教示いただければ幸い。

 II型の特徴として、フィッシュテール排気管とかトルクリンク付き尾輪とかの記述が散見される。しかしI/IIの違いはエンジンの違いとそれによる機首延長及びラジエータ変更のみであって、その他の特徴は生産途中での変更が反映されたもの。結果的に型式の特徴のように「見える」だけ。

 例えば、これもII型の識別点と思われている、長く尖ったスピナとその直後の油よけリングは、最後期のI型に例がある。ストレート排気管は初期のII型にもあり、ロシアに送られた81sqn(胴体に数字を大描きしたマーキングで有名)がこのタイプ。「く」の字形の尾輪トルクリンクについても、II で「なし」の機体がある。不思議なのはトルクリンクと排気管は「あり」「なし」が混在していることで、フィッシュテールでリンクなしの機もあれば、ストレートでリンクありの機もある。なお、初期のフィッシュテールには、排気口が後ろから見て真っ直ぐなものがあるので注意。

 その他、細かい特徴として、操縦席側方パネル下部にある室内空気排出用の2本のスリット。これは I の途中(trop)から出現し、II では多くの機に存在するが、II でも欧州向け(?)グレイ迷彩で熱帯フィルタなしの機体などでスリットなしが存在。なおこのスリット、左右両舷にあるので注意。また、左舷主翼フィレット前方、エンジン上部カウルの右舷側にそれぞれ小さなエアインテイクがある。これらは I の途中から見られるが、同時期の導入なのかどうかは不明(同じ側にないので記録写真では分からない)

 プロペラとスピナに関しては、私自身も完全に把握できていない。初期のワッツ2枚ペラ、V型の4枚ペラ、XII型のハミルトンを除けば、基本的に@デハヴィランド金属製+短尖スピナ、Aロートル金属製(←金属とする資料があり、本項では一応この説にならう)+短丸スピナ、Bジャブロ・ロートル木製+長尖スピナ、の3種だと思うが、短尖スピナは2種あるという説もあって、写真を眺めてもよく分からん。

 しかもこのうち、@はスピットIと共通(ペラ、スピナとも?)、AはスピットII と共通(スピナのみ)という説もあって悩ましい。写真を見る限りでは、そうかなと思えるが・・・。シーハリI は@のタイプのみでAはなし。シーハリII だとBになるが、そもそも II は空母上の写真がほとんど無く、真っ白いヤツか、商船のカタパルトに乗ってるヤツくらい。

 ロートル製ペラは、AとBとでブレード形状が異なる。Aのロートル金属製ブレードはスピットII とも違う独特の形で、付け根が角張って広がっている。Bジャブロ・ロートル木製はAと比べると付け根がスマート。これも写真をよ〜く見ると微妙に形が違うのが数種類ある。その一つはスピットVII 以降の後期マーリン型と同じブレードに見えるがどうだろう。他方は、ブレード全体も丸みを帯び、付け根はよりスマート。先端の形状も、丸いのと角が立ってるのとあって、写真を見ても何種類あるのか、サッパリ分からんぞ。なお、I ではB長尖スピナでAブレードを装着した機体が少数ある(新世傑p.40など)。

 文章が長くなった。上記を表にまとめておく。こだわるなら、特定の機体を作る場合、写真で確認するのが望ましい。世間流布の塗装図におけるスピナその他の描き分けは、いいかげんで全く信用できない。そのほか、極初期のI型は、二枚ペラ、羽布主翼の他、風防が違ったり(これも防弾ガラス(外付け)有り/無しが存在)、棒状アンテナ柱、二股ピトー管、キドニー型排気管だったり、5本スポークホイル(BOBの頃から4本が主流)だったりするが、表では省略。



  Mk.I Mk.II 備  考
排気管 ストレート シーハリMk.IIにもストレートあり
Mk.IIの途中からフィッシュテールに変更
フィッシュテール ×
尾脚トルクリンク なし Mk.IIの途中から「あり」に変更
あり ×
操縦席横パネルのスリット なし Mk.Iでも一部のtropは「あり」
Mk.IIでも欧州向け?は「なし」が主流
あり
カウル右舷上側インテイク なし × Mk.Iの途中から「あり」に変更
あり
左舷フィレットインテイク なし × Mk.Iの途中から「あり」に変更
あり
スピナ後方油除けリング なし × Mk.Iの途中から「あり」に変更
シーハリMk.Iは「あり」
あり
プロペラブレード、スピナ デハビランド金属+短尖スピナ × シーハリMk.Iはデハビランド+短尖スピナのみ
シーハリMk.IIはロートル木製+長尖スピナ
ジャブロ・ロートル木製ブレードは本文参照のこと
ロートル金属+短丸スピナ ×
ロートル金属+長尖スピナ ×
ロートル木製+長尖スピナ

※ ◎:その型式の全機が装備、○:その型式の多数、△:その型式に少数あり、×:その型式には見られない



 じゃあ、外見でI/IIをどう識別したらいいのか?という問題になるが、最終的には機首とラジエータを見るしかない。何となく首が短い、排気管後端(または近くのパネルライン)と主翼前縁との間隔が狭い、あるいはエンジン部のパネル幅(前後パネルライン間の距離)とエンジン後方のパネル幅を較べて後者が前者より短い、ラジエータが浅い、以上に当てはまる場合はI型、そうでなければII型。斜めからだと判りづらいけどな。

 排気管直後にある水平のパネルラインの下側ファスナを数えるというのもあり。IIはほぼ等間隔に5個。Iは上側と同じ位置(等間隔でない)に4個。記録写真じゃ見えづらいけどな。


■ 考証補足 4/13追加

 約2ヶ月ぶりの更新となる。機首と鎖骨をやったところで満足しちゃったので・・・。テュナンが完成したので、しばらくこっちに専念しよう。

 まず、胴体の考証の補足から。ある資料によると、Mk.IとIIの胴体長さの差は4インチ、1/72だと1.4mmとのこと。写真での検証はしていないので悪しからず。同資料では胴体の最大幅も示されており、3ft3.25inで1/72では13.8mm。これは実機写真からの読み取りに合致する。


■ 続、鎖骨 

 胴体と主翼を接着してから、フィレット前方に瞬間+プラ粉を盛り、棒ヤスリ等で削っていく。キットの胴体と主翼の分割ラインは少々内側に寄っており、鎖骨を包むフィレットの膨らみとの辻褄が合わない。実機写真から割り出すと、左右フィレット端間の距離は約18mmで、キットは1mm程内側にある。翼パーツとの接合部を丁寧に埋め、1mm外側に新たにスジボリ。このラインより外には鎖骨の膨らみはなく、完全なる翼断面形状となるので、この位置取りは重要。

 このフィレットのモッコリとした膨らみは、不細工で武骨なハリらしさ満点で、やってみると意外に効果的。俄然雰囲気が良くなる。お奨め修正ポイントだ。



まず十の字にする。窓内側の汚れ防止のため、コクピットをプラバンで完全密閉。

鎖骨の整形がほぼ終了。胴体と翼との境の溶きパテがキットの分割ライン。スピナはアカデミー。

再掲。フィレットのモッコリ感に注目。

再掲。フィレットとの境のパネルラインと翼断面、鎖骨の膨らみとの関係に注目。



■ 機首バルジ、トロピカル・フィルタ

 トロピカル・フィルタを接着し、機首の形を整える。さらに、機首整形のため削り飛ばしたバルジを再生。キットのバルジも悪くないが、型抜きの都合で断面形が正確でなく、苦労の甲斐はあるかな。



白いプラバンは形が見えづらい。ランナー端についている板を使用し、バルジ平面形に切り出し所定の位置に接着。

次にノミ、ヤスリ、ペーパーで形を仕上げる。あまり突出しすぎないように。

バルジ後半の稜線は機軸に平行(つまりシリンダーヘッドの形に平行)となる。

トロピカル・フィルタの開口部は「ニッ」と笑った形をしているので、プラバンを貼るなどして微修正。



■ 羽布表現

 後部胴体のリブ表現が真鍮線+パテなので、他も合わせた方が全体の統一感がとれるだろうと、エルロンのリブ部にPカッターで筋を入れ、真鍮線を接着し間をパテで埋めるが、どうも好みの凸凹感にならない。ええい、と真鍮線をむしり取り、跡は瞬間で埋め平らに削り、いつものサフによるリブ表現に変える。

 今回、もっと簡便に出来ないかと2つのやり方を試す。方法@は、リブ位置にカッターで細い凸線をけがいてから、その上に面相筆でサフの細線を描く。方法Aは、マスキングテープを使うが、これまでのようにリブの両側にテープを貼るのではなく、片側のみにして境界に面相筆でサフを置いていく。ある程度の凸線が描ければテープをはがし、さらに面相筆で塗り重ねていく。@Aとも、乾燥後にペーパーでリブの高さ太さを揃える。

 結果、どちらの方法も、仕上がり、作業性は同レベル。お好みでどうぞ。最初に凸の取っ掛かりがあると、その上にサフが乗っていくのだ。ちなみに、エルロンと水平尾翼の下側、後部胴体下側が@、ラダー、エルロン上側はAだ。胴体下側では、羽布部の前端位置が違っている。胴体と主翼下面パーツの接合線は完全に消し、キットの翼下面パーツ部分までリブをつなげる。まあ目立たない下面なので、程々に。



ラダーには、真鍮線でリブをいれてあったが、削り落として新たにサフでリブを描く。垂直安定板の真鍮線は残す。

胴体下部のリブもサフ。キットの分割線は赤矢印にある。

水平尾翼は上面のみ真鍮線を埋めてある。これも昔の作業だ。

下面はサフで表現。



■ 下面の比較

 ラジエータの幅を広げたところで、実機、キットと較べてみよう。



ラジエータはプラバンのシムを入れ、後方の幅を広げる。ちょっと広げすぎ。反省。

こちらキットオリジナル。鎖骨、ラジエータ、胴体羽布前端位置を比較されたい。

再掲。シーハリMk.I。画像は反転しているので注意。

ついでに上からも。鎖骨の見え方、シリンダーヘッドの張り具合に着目。



■ エンジン

 I型はマーリンIIまたはIII装備、II型はマーリンXX装備・・、と日本語の文献にはさらっと書いてあるだけで、読んでても素通りしてしまうが、実は大きな違いがある。マーリンII/IIIのスーパーチャージャーは1速1段。一方XXは2速1段で、要するにII型になって幅広い高度域で高出力を保てるようになったのだ。1速は離陸から高度10,000ft程度まで、それ以上になるとギアを2速にシフトする。

 ついでにマーリン系列について整理しよう。マーリンII〜XIIまでが1速1段でスピットならIとIIが対応。マーリンX(これだけ順番が入れ違い)、XX、21、22が2速1段系列でハリはIIが装備。スピットにはこのタイプはなし。マーリン30〜56は再び1速1段で、スピットはV、VIが装備した。これらは対応高度によりスーパーチャージャーのインペラ直径が異なる。マーリン60以降は2速2段で、スピットVII以降やマスタングB以降が装備、画期的な高性能をもたらしたけど、残念だがハリには(P-40も)使わせて貰えなかった。出典はWiki英語版など。


■ APコンボ

 このところ、ハセガワAPシリーズがコンボでどんどん復活している。大歓迎である。なぜコンボだとか値段がどうだとかは言わない。「優良メーカーの利潤=新規キット開発=モデラーの利益」だと思っており、メーカーの営業戦略を信用しているからだ。あえて言えば、早くハリを出して欲しいのと、可能なものは型式違いでコンボ(ハリならMk.I & IIとか、SBDなら-3 & -5とか)してくれると嬉しい。


■ 翼端 4/22追加

 実機画像のとおり、ハリケーンの翼端は尖っている。ぶ厚い翼本体とのギャップがまたハリの魅力で、ぜひ再現してやりたい。ハリに限らず、タイフーン、零戦、隼・・等々、丸い翼端平面形の場合、たいてい翼端は尖っているが、プラモでは「ぬるっ」と丸いものが多数。



たっぷり削るので、パーツが薄くなってヘナヘナしないように、穴を開けて黒瞬間を充填。穴はプラ棒で塞ぐ。

翼端を薄く削る。翼端から1cmにあるパネルラインで折れ曲がり、そこから外側は直線的に翼端に至る。

わかりづらい写真で恐縮だが、キットパーツ(奥)は端部断面が丸い。手前は修正後。とくに○印の付近を集中的に削る。

このとおり翼端は尖っている。矢印のリベットラインで折れ曲がり、それより内側は完全なる二次曲面(=横方向には直線)となる。



■ プロペラブレード

 II型のプロペラブレードは何種類かあるが、予定しているマーキングの機体がスピットIXのものと同じ形状なので、瞬間+プラ粉で根元を広げる。削っているうち、どれがどれだか分からなくなるので、根元に着色するなどして区別する。キットのように、根元のふくらみが無いタイプのブレードもある。



左:修正後(表)、中:修正後(裏)、右:ハセオリジナル。



■ エアMk.I 

 エアフィクスMk.Iを入手したのでレビューしよう。最近赤箱で再販されているが、往年のベテランキットである。ハセとの比較では、エアの方が後部胴体(背中)のボリューム感があり、こちらを好む方もいるだろう。ただし尾部胴体平面形の折れ曲がりは表現不十分。機首は細すぎ、主翼端が厚い。キャノピはやや幅広。ハセは逆にやや狭いので、これも好きずきか。ハセよりアウトラインがいいという論評をたまに目にするが、機首や翼型などのマイナスが大きいので、やっぱりハセの方が上。小物はかなりキビシイ。排気管一体だし。



左:製作中のハセ、右、エアMk.I。機首幅が狭い。逆に胴体中央部以降はハセより太め。キャノピ幅もかなり違う。正解は両者の中間。

画像では分かりづらいが、背中のボリューム感が違う。頂部の羽布モールドが消えているのがつらい。



■ 発音に関するどうでもいい話

 日本語の「ハリケーン」って、「ケ」にアクセントがあって強そうな語感だけど、イギリス人の発音はちょっと違う。かのダグラス・バーダー卿が英国機について語るのを聞いたことがあるが、「ハ」にアクセントがあって「リケン」とかわいい感じ。「ケ」はまったく伸ばさない。

 スピットファイアも日本語だと「リポビタン・D」みたいな語感で、水木一郎(アニソン界のアニキ)が「スピットォ〜・ファイッヤー!!!」と「ヤ」に力を込めて絶叫しそうな感じだけど、バーダー卿の発音は「スッ(ト)ふぁ〜」。「ト」はほとんど聞こえず「ふぁ〜」はホントに力の抜けた感じで語尾が下がる。全然強そうじゃない。

 以上、どうでもいい話。お粗末様。


■ 単独飛行

 前にも書いたが、ロアルド・ダール著「単独飛行」は、ギリシャにおける80sqnのハリと、それに乗って戦った著者の話。辺境の戦域を支え続けたハリケーンの、地味で報われない戦いが描かれている。ぜひ一読を。個人的には前半の戦争とは関係ないアフリカの話が好き。

 同書には、著者撮影によるハリの写真がある。彼の搭乗機だ思うが、コードレターが記入されてない地味〜なマーキング。一方、同方面の80sqnといえば、機首にイタリア機欺瞞迷彩を施した機もあり、ロアルド・ダールがこれに乗ったかどうかというのも興味深いところ。









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