P−47D−10サンダーボルト(タミヤ1:48)製作記

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<はじめに>

 思いがけずタミヤからサンダーボルトの発売がアナウンスになり、コルセア−5Nを製作中であったが気もそぞろ。近くの模型屋に予約して、発売同時に購入。それまでにインレタもしっかり作ってある。サンダーボルトは特に好きな機体なので、今回はいつもよりは少し時間をかけて、気合いの入った作品にする。

 さてそのキットはというと、ハセガワも大変良い出来であるが、あえて出す価値のある、非常に高いレベルのキットである。コメントは辛口だが、思い入れのある機体なのでお許し願いたい。


キット評(プロポーション)

 キットは、胴体の平面形が根本的に間違っている。実機は機首から操縦席までの胴体幅は一定である。1/48実寸でカウリング先端から約1cmの所から、操縦席後部バルクヘッドまでの胴体幅は、約29mmで一定。側面ラインは一直線である。証拠は、資料−22、23にある飛行中のC型の真上からの写真。資料−1のN型を真上から撮影したものは、よりはっきり分かる。

 しかしキットはカウリング先端が細く、胴体中央部が太い。出回っている図面の大半も同様で、残念ながらタミヤは間違った図面をもとに模型化してしまった。この間違いについては証拠写真もあり、100%断言できる。中太りなため胴体ラインに緊張感がなく、引き締まって見えない。そもそもこれではエンジンが収まらない。一方、ハセガワのキットは正確に再現しており、高く評価できる。

 カウリングの寸法を実機写真から割り出すと、開口部が約1mm幅不足。高さは正しい。タミヤのことだから実機を採寸していると思いきや、細身の機首に合わせて開口部も細身に”デフォルメ”してしまったのだ。
 また、主翼付近の胴体下部が下から見て中太りになっているが、実機はもっとスリムである。これも資料−1などに証拠写真がある。ここにはダクトと懸垂装置が入っているだけなので、中太りになる理由がない。ハセガワはタミヤよりも中太りで、下方への垂れ下がりも不十分。

 側面形は、ハセガワで不足していた胴体の垂れ下がり具合が正しくなっている。前方胴体高さは、最大位置で42mmであるが、これは実機写真から割り出した数値とぴったり一致する。しかし気のせいかカウリングのラインがいまいちしっくりこない感がある。
 翼関係はとても良い。翼形、翼厚、ねじり下げも適切。ハセガワはねじり下げ、上反角が不足である。もっとも修正は容易だが。

 風防はハセガワに比べイメージが良い。可動部風防の第2フレームあたりに最大幅があるという平面形や、ハカマの部分の微妙な曲線(可動部の前下端が外に折れ曲がっている。)が、完璧ではないがうまく表現されている。先端の傾斜が若干緩いが、これは修正不可能。


タミヤは中太りで、かつ先端が細い。

ハセガワ の胴体平面形は正しい。

 

キット評(モールド、小物)

 ほとんど文句のつけようのない、素晴らしい出来である。コクピットや脚収容部など特に良い。あえて言えば動翼のリベットは止めて欲しかったところ。カウリング内のエアインテイクのパーツは形が違う。防弾ガラスの位置、サイズも異なる。

 

<組み立て>

コクピット

 非常に良い出来なので、インストの指示通りに塗り分けるだけで十分。計器板のメーターは、デカール切り貼り。そのままでもデカールの艶で計器のガラスのように見える。


計器板のメーターは、デカールを1つ1つ切り取り、マイクロセットで定着。ゾルを使うと溶けてしまうので注意。

計器板の位置が若干低いが、修正していない。
内部の塗色は、現時点ではジンクロ・グリーンと考えてよいと思う。理由は以下に記述。

 

コクピットの塗色

 D&S(資料−8)には「リパブリックの両工場製のコクピットはダル・ダーク・グリーンで塗られていた」という記述がある。D&S掲載の写真は現存するバブルトップのD型で、確かに日本軍機の緑黒色のような色である。
 モデル・グラフイックス誌のタミヤ製エアモデル特集号にも同様の記述があるが、元ネタは同じだと思われる。D&Sによれば、カーチス製G型ではコクピット、脚カバー内側を含む機体内部すべてがジンクロ・グリーンであり、一方リパブリックの機体内部はジンクロ・イエローとされている。

 しかし、手持ち資料をひっくり返してみたが、当時の実機カラー写真ではそれを裏付ける証拠は発見できず、逆に資料−2(1にも同一写真あり)にヘッドレスト周囲がジンクロ・グリーンで塗られている514FS、406FG所属機の鮮明な写真を発見。
 脚カバー内側はジンクロ・イエローで、コクピット内とは色調が異なるのが確認でき、これをカーチス製とするのも記述に反する。ちなみにヘッドレストは黒。キャプションによれば、撮影場所はアメリカ本土だが、れっきとした実戦部隊で、その後ヨーロッパに送られている。
 新版世傑15ページの写真も、小面積ではっきりしないがジンクロ・グリーンの方が近い。D&Sの記述は何の根拠に基づいているかが示されてなく、それだけでは判断しかねる。


胴体幅の修正

 私にとって、正しい胴体平面形は譲れない部分。幸い、表面の素晴らしいモールドを犠牲にせずに修正可能だ。胴体は、基本的には接着面を削るが、風防があるので工夫が必要。カウリングは、後端は正しい幅だが、前方は狭いので、例によって「切って広げる」手法。
 その際の留意点は、側面形を歪ませないこと。そのため変形に抵抗する部材を接着しておく。


主翼桁を中央部で1mm切りつめる。コクピット前方の接着面は、風防幅に合うよう削って調整。
胴体側面が湾曲しているので、指でしごいて真っ直ぐにする。

胴体下部の接着面を最大で1.5mm削る。落下タンク取り付け部が削り幅最大とる。

あらかじめ変形防止部材として1.2mmプラ板を上下方向に渡す。正しい幅にノギスで締め付け接着。主翼桁パーツにもしっかり接着する。その後左右方向にもプラ板を渡して補強。

両脇に0.3mmプラ板を貼って幅を広る。この一連の写真はホーム・ビデオ・カメラで撮影したので画像がいまいち。

パネルラインで前後に分け、前部は左右に切り離す。後部は切り込みを入れる。

間にプラ板をかませて接着。先端で、上1.2mm、下0.8mm広げる。前後間には削りシロ分として0.3mmプラ板を挟む。写真では分かりづらいが、後端にもプラ板を貼っている。

接着部の補強のため裏からプラ板を貼り、前後をポリパテでなめらかにつなぐ。カウルフラップは左右に切り離し、くさび形のスペーサーをかませて再接着。これは上への広がりを抑え下方の隙間を埋めるため。

 先端部も気持ち削って尖りを抑える。正面形状も実機に近くなった。キットでは開口部下方のカーブがきつい。

修正した胴体平面形。

胴体下部も幅を狭める。


 以上で胴体平面形の修正は完了。それほど手間ではないので、ぜひ挑戦いただきたい。100%完全には修正しきれないが、他との兼ね合いがあり程々がよいようだ。
 修正済みカウルを未修整の胴体に組み合わせてみたが、これでも結構いける。胴体は面倒でも、ぜひカウルだけは幅を広げることをおすすめする。サンダーの頭はハチが張ってないと格好悪い。なんてったって大直径ダブル・ワスプR−2800が詰まっているのだ。
 タミヤのコルセアをお持ちの方は、エンジン部を比べていただきたい。同じエンジンだから、同じヴォリューム感になるべきであるが、サンダーの方は一回り小さく感じられるはずだ。


リベット

 リベットを打ったモデルが、必ずしもリアルなモデルとは限らない、と私は思う。一般に、実機の沈頭鋲は塗装されると遠目にはほとんど分からないが、模型のリベットを48倍すると、機体一面に指先ほどの大穴があいていることになる。無塗装銀や凸リベットの機体ではリベット打ちも有効だが、それはむしろ「塗装」の一部と考えたい。それはさておき、今回は「思い入れ」の証としてリベットを打つ。

 資料はエアロディティールの図面。一部に間違いはあるが概ね正しい。手元写真で確認できる範囲で修正する。資料−1に外板を剥いだN型の写真がありよく分かる。主翼も基本的フレームはD型と共通部分が多いので参考になる。胴体前方は初期型のレザーバックと後期型のバブルキャノピーとでは微妙に異なる。後期の方がフレームが多い。キットのパネルラインは100%正確という訳ではなく、リブの本数を正確にすると、その間隔が不正確になる箇所がある。

 私のやり方は、プラ板に両面テープを貼った定規をあてて、ケガキ針で一気に「ちくちくちく……」と小さく密に打つ。間隔の乱れは気にしない。重要なのは平行、直線である。定規の位置決めには多少気を使うが、図面の原寸大コピーが役に立つ。これをモデルにあて、始点の目印のリベットを打つと下描きの手間も省ける。
 リベット周囲の「めくれ」は、彫刻刀ですくい取る。リベットが埋まるのは、削りカスではなくて、めくれをペーパーで穴に押し込むのが原因。なおこれは、スジ彫りにも有効である。


リベットは、遠目には分からず近づくと分かる程度を理想とする。

リベット周囲のめくれを取るには浅丸刀が便利。先を丸く研いだ平刀でもよいだろう。

 

翼組み立て

 まず下ごしらえ。主翼上面パーツは翼端下がりに湾曲しているので指でしごいて修正する。
 フラップは閉じた状態とするので、翼上面にフラップ上面を先に接着する。合わせは一見良さそうだが、後でツライチにするのにずいぶん翼を削る羽目になる。フラップはねじり下げが表現されていないので指でねじり、翼後縁ラインの連続性に注意する。次に翼下面、最後にフラップ下面を接着する。

 真横から見た主翼端は非常に微妙なラインをしており、角度によってN型のような角形翼端に見える。キットは完全には再現しきれていないから、翼端整形の際に注意すると良い。また、垂直・水平尾翼の前縁や端部を尖らせる。サンダーボルトの特徴なのでしっかり再現したい。
 水平尾翼の後縁が厚いので、エレベーターの操作ロッドを一旦切り取り、下面側を中心に薄く削る。


脚収容部の縁は薄く削る。胴体幅修正により、胴体との合わせが悪くなったため、0.3mmプラ板を貼る。白いところが追加した部分。

3色ライトは色つきプラ材を埋め込む。

 

細部

 エンジン下部の仕切りパーツは形を修正。片持ち式の尾脚はサンダーボルトのチャームポイントの一つ。真鍮線はんだ付けで作る。その他、各種アウトレット、機銃などに手を加えるが、詳細は写真を参照いただきたい。


仕切りパーツは付け根2カ所に切り込みを入れ、くさび(白いプラ板)を入れる。前方に突き出た部分は、上縁が機軸と平行になるようにプラ板を貼り足す。

2枚のベーンも形がおかしいので、0.3mmプラ板をオイルクーラーの丸みに合うように爪でしごき、本体にはレザーソーで溝を切り接着。

真鍮棒を1.0×0.5mm断面に削る。曲げやすいようにヤスリで溝を切り、屈曲部にはんだを流す。エッジが甘くなるが、はんだを盛って削ることで解決。

エンジンにはプラグコードを追加。

後方エアアウトレットが筒抜けなので、プラ板箱組みで内部を作り、インタークーラーに見立てたメッシュを貼っておく。

オイルクーラーフラップを、胴体カーブに合わせて湾曲させる。前後で切り離すと楽。
補助排気管を開口し、フタを0.2mmプラ板で作る。

機銃パイプは1.1mmメッキパイプ。翼に接着するため、パイプの付け根にはキットの機銃パーツを接着する。4本がきれいに揃ったら瞬間を流して固定。

翼端燈はクリアランナー削りだし。塩ビ絞り出しに挑戦したがうまくいかず今後の課題。

 

コクピット その2

 防弾ガラスまわりが実機と少々異なる。少ない実機写真を参考にそれらしく自作する。実機の取り付け部の詳細はよく分からないが、円形の胴体フレームに直接取り付いているようである。ただ、忠実に再現するなら、計器板を正しい高さにしないと相互の関係がおかしくなる。


レザーバックは防弾ガラスのフレームが風防のフレームのように見え、外見のイメージを左右するポイントである。適当な厚さの透明プラ板がなく、MOケースで作る。

照準器は、オーバースケールなため基部のみ使用し、本体はハセガワのF4U−5Nコルセアのもの。ガラスとその取り付け部を0.2mmプラ板、その他少々Dアップする。取り付け位置が正しくないので、このように。

防弾ガラスは、約1mm前寄りで幅も狭い。後方に移動するかわりに、取り付け位置を下げ、その分高さも増やす。

縁が厚いので左右をプラ板に置き換え、前後は薄く削る。シートベルトを鉛板から自作。金具はファインモールドのエッチング。手間はかかるが全部エッチングよりは実感が高い。

 

キャノピー接着

 その前に全体にサフを吹く。インテイクやカウル内側は、かわりにニュートラルグレー。サフを吹いて分かったリベットやスジ彫りの不具合、不足などを修正する。
 ハセガワのコンパウンドとポリマーを購入。これで透明度が増す。防弾ガラスを先に風防に接着してから胴体に接着。隙間は溶きパテで処理。

 

<参考資料>

 我ながらよく集めたものである。洋書が20冊で、このうち@〜Jがモノグラフ。K〜Sはモノグラフではないが参考度の高いもので、うちO〜Sはスコードロン社の一連のシリーズもの。日本語版は人気を反映してか、あまり多くない。
 この中で@の400ページを超える大著は、他で見られない写真が多く、資料的価値が高い。


1 Republic'sP-47 THUNDERBOLT Widewing Publications
2 WARBIRD HISTORY P-47 THUNDERBOLT Motorbooks International
3 ZEMKE'S WOLFPACK The 56th Fighter Group In World War II Motorbooks International
4 Beware The Thunderbolt! The 56th Fighter Group in World War II Schiffer Military History
5 Royal Air Force THUNDERBOLTS Air Research Publications
6 P-47 Thunderbolt in action Aircraft Number 67 Squadron/Signal Publications
7 Walk Around P-47 Thunderbolt Walk Around Number 11 Squadron/Signal Publications
8 D&S VOL.54, P-47 THUNDERBOLT Squadron/Signal Publications
9 The Republic P-47 Thunderbolt in the Pacific Theater Squadron/Signal Publications
10 WARPAINT SPECIAL No.1 Republic'sP-47 THUNDERBOLT Hall Park Books
11 AIRCAM AVIATION SERIES No.2 REPUBLIC P-47 THUNDERBOLT Osprey publications
12 FIGHTER COMMAND American Fighters in Original WWII Color Motorbooks International
13 WWII WAR EAGLES Global Air War in ORIGINAL COLOR Widewing Publications
14 WWII PACIFIC WAR EAGLES China/Pacific Aerial Conflict in ORIGINAL COLOR Widewing Publications
15 The Ninth Air Force In Colour UK and The Continent - World War Two Arms and Armour Press
16 Checkertails The 325th Fighter Group in the Second World War Squadron/Signal Publications
17 AIR FORCE COLORS Volume2 ETO&MTO 1942-1945 Squadron/Signal Publications
18 AIR FORCE COLORS Volume3 Pacific and Home Front,1942-1945 Squadron/Signal Publications
19 56TH FIGHTER GROUP Squadron/Signal Publications
20 ACES OF THE EIGHTH Squadron/Signal Publications
21 世界の傑作機(新版) 文林堂
22 世界の傑作機(旧版:2種の異なる版がある) 文林堂
23 エアロ・ディティール 14 リパブリックP−47サンダーボルト 大日本絵画
24 オスプレイ軍用機シリーズ 25
太平洋戦線のP−51マスタングとP−47サンダーボルトエース
大日本絵画

 

次は塗装と仕上げ

 

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