リパブリック P-47D レイザーバック 1/72 タミヤ 製作記

2023.7.13初出

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最終更新日 3Dファイルリスト




■ はじめに

 コルセア5Nは写経の工程(リベットってことね)に入り、軽い箸休めが欲しい気分。高カロリーなのは避けたい。で、選んだアイテムがタミヤの1/72サンダーボルト。大好きな機体だけど、しばらく作ってないし、過去にも1/72のレイザーバックは作ってない。先日の展示会で当機が多数展示されていて刺激受けたし。

 さて、タミヤのP-47は好キットだが、形状マニア的には不満がある。それは胴体平面形で、カウルが後広がりで胴体幅が広い。そこで、バードケージコルセアと同様に、3DPでコレクトカウルを作ってやれば、ネタ的にも面白いものになるかな。手元にはカウルと胴体の製造図があり(※)、各断面の座標値が分かっている。これを3Dに置き換えてやれば、形状・寸法的に完璧なカウルが出来るはずだ。なお、胴体の3DPは大変なので、そこはキットを修正する。

※これらは、最後にP-47を製作した以降に入手したものなので、過去作には反映されていない。


■ バブルトップ側面図&断面図

 製造図の数値データをいきなりFusionにぶち込むのは無理がある。そこでまず、数値を二次元の図面に置き換える。製造図において、カウルは12断面の輪切りで、各断面につき真上を0°真下を180°として、10°刻みに中心(胴体基準線)からの距離が記載されている(つまり19点の座標)。これをエクセルを使ってXY座標値に変換する。一方、胴体座標はバブルトップのもので、各フレームの断面ごとにXY座標値が記載される。多い断面だと20点以上もある。



カウルの座標テーブル。左側の列は断面のステーション。上の行は10°刻みの角度(画像は90°まで)。

胴体は、各フレームごとにこのような図として表される。WLはウォータラインで水平線。BLはバトックラインで垂直線。


 これら全てを図化するのは大変だから、代表点を各断面につき多い所で8点ほど選び、エクセルの計算値を図面に落とし込み、ベジェ曲線で各点をつなぐ。手作業なので、結構面倒。苦労の結果出来上がったのが下図だ。各断面の0°90°180°の胴体基準線からの距離も記載する(一部なし)。


  • カウルのパネルライン、キャノピ、垂直尾翼アウトライン、スピナ先端位置は実機写真がベースで、精度はまずまず。

  • 製造図の座標は、増槽ラック追加による腹ボテが無いもの、つまりP-47Cのスッキリしたお腹のラインとなっている。垂れ下がりの側面形は実機写真をトレースする。断面図の数値はスッキリお腹のものを記載。腹ボテの断面形状は実機写真およびラックのフレームの製造図などによる。

  • 実機は、B型からC型になったときに、防火壁の部分で8インチ延長された。ステーションナンバーは変更されないので、防火壁のsta.101.625は2つある。断面形状はどちらもピッタリ同じ(ただしお腹の膨らみの部分だけはビミョーに異なる)。よって、断面図では1つのみ記載する。

  • 製造図において、sta.358は構造体としての胴体の外寸のみが示される。これより上は水平尾翼と垂直尾翼となる。

  • 主翼取付角は、胴体中心で1°。これはどこかのサイトにあった数値。水平尾翼は2.5°。

  • カウルを上から見ると、側面は完全な平行ではなく、わずかに後広がり。ただし見た目にはほとんど平行。

  • 胴体幅は、sta.85付近からsta.164(コクピット後端から1つ前方のフレーム)までが一定で、1/72で19.2mm、1/48だと28.8mmだ。

  • コクピット前方の胴体上部は、横から見て完全に水平だと思ってたんだけど、数値を見るとわずかに前下がり。ただし、防火壁の延長部では完全に水平で、その前方は前下がり。つまり、厳密には防火壁の2か所でかすかに折れ曲がり「踊り場」状となる。見た目には全くわからない。


 次は、平面図、翼型。


■ カウルの3D設計

 図面が出来たら、それをFusionに取り込んでカウルを設計する。やり方は、コルセアとほとんど同じ。いくつかの断面をロフトする。今回は4断面、ガイドは6本。これらは多すぎてもスムーズなラインにならないし、少ないと再現性が劣る。

 カウルフラップは、閉じたのと15°開いたのと。コルセアの反省を踏まえ、カウルフラップのエッジは厚いままとする。薄くすると断面積変化による膨れで表面に凸凹が生じるのだ。また、開いたフラップは単純な楕円錐で近似する。その方が、表面の積層痕を落とすのが楽。

 タミヤキットに対するアドバンテージは、正確な外形はもちろんだが、その他にも、内部のインテイクの仕切りが正確になり、エンジン前方の支持架が追加されている。



コレクトカウルできあがり。1.5倍すれば1/48でも十分使えるだろう。

キットはオイルクーラーとターボチャージャー吸気口との仕切りが垂直になっている。正しくはハの字で奥が丸くなる。


 マニアックな注意事項。フラップ閉じは、後縁に段差ありの0.13mm(1/48だと0.2mm)のサポート基部マージンをサポート側のボディにつけてある。出力後は段差のところまで削る。フラップ開は、段差なしで0.13mmのマージンがカウル側につく(つまり全長が0.13mm長いわけ)。工程上段差をつけるのが面倒だったのだ。目分量で削ってくだされ。

 設計は1/72に最適化しているので、1/48だとパネルラインが太いかも。スジボリ幅は、スケッチ「cross」の45°線上の円の直径により変更できる。また正面のスジボリのみ、スケッチ「0deg」の下側リップにある長方形のサイズで変更する。スケッチ編集でここの数値を変えると自動的に太さが変わる。デフォルトは0.3mmだが、1/48で設計して最後に1/72に縮小しているので、出来上がりは0.2mmとなっている。(8/8一部記述変更)


■ カウルの出力

 早速プリントして、キットに合わせてみる。カウルフラップのフチは薄く削る。エンジン挿入も確認。



これはお試しプリントの写真。この後、パネルラインや正面開口部の形状など微修正。

キットの胴体に合わせる。防火壁以降の胴体がわずかに太いのが分かるだろうか。


 キットのカウルと比べると、正面開口部、およびその直後のパネルラインまではほとんど同じ。一方、カウルフラップ付近では0.6mmキットが太い。胴体も同様に0.6mm太い。まあ、気にしなければ済む程度の差とも言えよう。大騒ぎして3D化する程でもないか。ただねえ、上から見た時のカウル側面の平行感は大事なんだよね。←あくまで個人の意見。

 1/48キットは手元にないが、過去の製作記を読むとカウル先端が細いとある。おそらく1/48と1/72ではカウルの平面形が異なるものと思われる。胴体は同じだろう。ちなみに、1/72の方が後発。


■ 胴体下ごしらえ 7/24追加

 リアル製作を開始する。まず最初は、胴体左右を接着する準備作業。コレクトカウルに合わせて胴体幅を最大で0.6mm狭めるため、下左画像で黒くマーカーで着色した接着面を削る。削る幅は、上面と前面では左右合計で0.5mmほど。下面は、増槽ラックの付近で1mmほど。それより前方と後方は徐々に擦り付ける。

 上面より下面の方が削り幅が大きいのには理由がある。1つはキャノピはキットパーツを使うので、キャノピと胴体との辻褄を合わせたいこと。もう1つは、キットの腹は横に膨れているので、その解消。ここは接着後にさらに削り込む予定で、内側には0.5mmプラバンの細切りで裏打ちしておく。

 胴体後方にあるインタークーラー冷却空気の排出ダクトは、前方部分が途中で途切れている。ここは3DPでダクトを作って貼り付ける(後述)。



黒いマーカー部分を削る。胴体下側に裏打ち。ダクトは3DP。

コクピットは、主翼後桁パーツに貼ったプラバンの上に乗せて位置を固定する。


 翼主桁パーツは、胴体幅詰めに支障となる凸部を切り取っておく。また、主翼パーツとの調整が必要となるが、干渉部分をちょっと削れば済む。難しい工作ではない。


■ コクピット

 仮組みの結果、コクピットパーツは幅詰めしなくても大丈夫。キットパーツはとてもよく出来ており、塗装するだけで十分だ。スロットルレバーが、型抜きの都合で壁と一体化している。ここだけ、彫り込む(下画像矢印)。オリーブドラブ迷彩の頃のレイザーバックのコクピットはインテリアグリーン。これはC351ジンク・クロメイト タイプI に2割ほどRLM75グレイを混ぜる。

計器盤にはキットデカールを貼る。透明部も一体で貼り、クレオスのマークセッターとタミヤのマークフィット (スーパーハード)でモールドに馴染ませる。



コクピットを塗装してウェザマスでウォッシュ。赤塗装はフィクションあり (というか正解不明)。

計器盤はキットデカール。メーター部分にはフューチャーを垂らす。


 ちなみに、無塗装の頃のレイザーバックおよびそれ以降のバブルトップのコクピットはダルダークグリーンだ。タミヤのインストの塗装指示は間違っているので要注意。ついでにインストの間違いを指摘しておくと、ヘッドパッドは茶色ではなくて黒(全型式で共通)。これはオリジナルカラー写真で確認できる。

 また、レイザーバックのコクピット後方のキャノピ内部の胴体は、インテリアグリーンではなくて外面色。つまり、OD塗装ならOD、無塗装なら無塗装(一部グレイの例外あり)。バブルトップのキャノピ内部コクピット後方胴体上面はOD。


■ 胴体接着

 コクピットを組み込んで、胴体左右を接着する。垂直安定板右舷側がラダーより少し浮くので、接着面を削るとよろし。防火壁の少し前からコクピット後方の1つ手前のフレームまでは一定幅(1/72で19.2mm)。上記修正でも完全に一定幅になりきってないので、ここは後から削る予定。



胴体左右接着。

正面から見る。


 下腹の幅については次回で考察する。


■ ダクトの3D設計

 インタークーラーアウトレットのダクトはプラバンで工作してもいいが、3Dの方が簡単だったりする。



左舷側ダクト。左が前方で、このままぺたっと胴体内側に貼り付ける。1/48でも基本的に使えると思うが、合わせは未確認。




■ レイザーバック側面図&断面図

 レイザーバックの側面図と断面図が出来上がる。次は平面図の予定。


  • 基本の胴体断面はバブルトップと同じ。風防、キャノピの高さは別の製造図の座標テーブルから。高さについては実機写真で検証済み。ただしこの表は後半の断面形が実機からズレており、試作型のものではないかと推測する。

  • コクピットより前方の胴体フレームは、バブルトップと数と配置が異なる。レイザーバックの製造図から読めたものを記載する。

  • sta147.25は風防後端位置で、ここに胴体フレームがあるわけではない。断面図で風防断面形を示すためにこの断面を選んでいる。この位置ではバブルトップの胴体座標値がないため、下端高さは未記載。幅はこの位置では一定。

  • 風防後端位置は、レイザーバックとバブルトップで若干異なる。

  • 後部胴体上側の断面は実機写真のトレース。以前、1/32レイザーバックを製作したときに作成したコンター図も基本的に同じ写真のトレースなのだが、下半分の胴体断面が違っている(当時は製造図は未入手)。


 胴体のコンター図も作成。キャノピ最大幅は、2番目のフレーム(sta163.5)である。


■ 風防の修正 8/8追加

 キットの風防には大きな問題点がある。下左画像を見ていただきたい。内側の型の形状が悪いため、外からパーツの厚みが見えてしまうのだ。これは看過できない。内側をノミや小丸刀などで削り、#600ペーパーから始めて切削キズを落としてコンパウンドで磨く。



キットの風防。前上部のプラが厚すぎて、変なレンズ状になっている。

厚みが均一になるように、内側を削る。ヤスリ系だけでは無理で、刃物の出番となる。ついでに後フチも薄くする。

表側は、スジボリがハッキリしないので彫りなおす。内外をコンパウンドで磨く。風防と胴体の合わせはかなりキツキツ。

ちなみに、コクピット以降は幅詰めしてないので、スライドキャノピと胴体との合わせはまずまず良い。


 風防と胴体の合わせは、とりあえずキットのまま無加工。風防はパーツの弾力でなんとかはまっている状態。接着する際には、少し胴体側を削り合わせる予定。



コレクトカウルと合わせ、サフを軽く吹く。うむ、いい感じじゃ。テンション上がるぞ。

お腹はこんな具合。スジボリ再生前なので、ちょいラインが見づらい。


 お腹は、接着面を1mm削ったことで、横への膨らみがほぼ解消。若干丸みが残っているので腹の横を少し削る程度。プラバンの裏打ちは全く不要だったな。翼下面とのフィレット部分に丸みが残っていて、これを削れば完璧だが、余剰排気排出口のモールドが邪魔だし、完成後は車輪カバーでよく見えないしでスルー。


■ お腹の膨らみの考察 

 このお腹、古今東西サンダーボルトのキットは数あれど、どれも正しく表現されていない。確かに、側面形ではお腹は垂れ下がっていて、いかにもメタボ。これに惑わされて、今までのキット達は、横にも樽状に膨らんでいる。

 しかし正しくは、下から見れば左右平行。決して膨らんでない。サンダーはただのデブではなく、筋肉質のデブなのだ。これは、B型からの変遷を考えると頭でも理解しやすい。以下画像で説明しよう。



これが当初のお腹。側面形は製造図の座標データどおり。グレイ部分の内部をターボチャージャーへの排気管が通る。これを見れば横に膨らむ理由がないことが分かる。

増槽ラックと振れ止めが追加され、お腹が垂れ下がる。しかし、排気管部分は変更がなく、したがって横に膨らむ理由がない(※厳密なところは後述)。各色は下面図に対応。

青、赤のラインは途中まで左右平行で、主翼後桁付近から絞られていく。緑ラインのみ先細りだが、浅くスライスしているため、カウルに向かって上下に細くなっていく影響を受けている。写真を見るときは惑わされないように。

ついでに側面形の補足説明。ラックがBC間に追加されただけなので、線分AB、BC、CDは直線に近く、点BとCで折れ曲がる。点Dではわずかに凹カーブとなる。上の赤線は誇張して描いたもの。キットをこんなイメージで削るとカッコよくなる。


 ついでにいうと、既存図面の側面図では、この青赤緑のラインが水平で平行な直線となっているものが多い。確かに、青と赤の前半は水平だが、後半は胴体のテーパーに沿ってカーブしている。側面図、平面図、断面図を突き合わせて描けば、水平にはなりえない。

 次に、既存キットと実機の違い、キットはなぜ横に膨らむのかを示す。下図はタミ1/72と実機を後方防火壁断面で比較したもの。赤丸は製造図から落とし込んだ排気管位置。実機(赤線)は排気管より下が膨らむだけなのだが、キットはC型の垂れ下がりのない断面の相似形で拡大している(あるいはカウル直後の断面形といってもいい)。だから、横に無駄な空間が生じているのだ。なお、下図のキットラインは実測値ではなく、あくまでイメージ。



 以上が机上の空論かどうか、実機写真で検証しよう。画像はネットなどから拝借。



有名なB型の編隊写真。お腹スッキリ。防火壁部の延長がなく胴体が8インチ短いことがよく分かる。これも作りたいな。

XP-47Bとされる下面写真。排気の汚れを見ても横には膨らんでいないことが見て取れる。

Dバブルの現存機。上の青、赤、緑と対応させて見ていただきたい。というか図面はこの写真がベースだ。

角度を変えて別機。上図赤のラインはこの写真の方が分かりやすいかも。

これも横腹のスッキリ感が分かる写真だ。また、ラック部の断面形もなんとなく想像できる。

ラック部の断面形は、この写真で決まり。ただしパースがきついので、図面にするには誤差が課題。排気管が真っ直ぐ。


※ さらにマニアックな補足。
 上図赤線より下側だけが膨らみ、赤より上は完全にC初期型と同じだとして線を引くと、断面形に凹カーブが入って不自然な形になる。上の正面写真でも凹カーブは入っていない。おそらく、正解は青線は不変で、赤線は垂れ下がりの導入に際してほんの僅か横に広がったのではないかと想像している。ここには不時着時のスキッドがあり、それを避けて振れ止めのごついフレームを取り付けた結果としての広がりかと推測。その寸法は実寸で1cm程度、1/48なら0.2mmくらいかと。



 平面図も大体出来ているが(ていうか、側平断3図を並行で描かないと腹の線が決まらない)、長くなったので次回に。側/断面図は若干修正して差し替え。


■ 3Dファイル追加

 某「X」のサイトでは既に告知済みだが、コレクトカウルのファイルを追加。まず、初期のカウルフラップが異なるタイプを追加する。1つはP-47C-1以降のもので、フラップが上半分のみ。もう1つはP-47D-1以降のもので、下側に上半分と同じ長さのフラップが追加されたもの。




C-1以降のカウル。初期の4FGや56FGで多く見られ、マーキングも多いよね。画像はフラップ開だが、閉もあり。

D-1からD-5まで(多分)のカウル。下2枚のフラップの後縁が直線的。こちらも開閉両方。


 初期型カウルについては、カウルフラップ部分のみの違いと認識しているが、もし他にも違いがあればお知らせ願う。また、これがどのサブタイプから一般的なカウルフラップになったか、手元の資料では明記されたものがない。写真やイラストを見るとD-5までが長く、D-6から一般タイプが見られるが・・ どなたかご存じ? なお、P-47BからP-47Cのカウルはまた違った形だが、これは作ってない。需要もないだろうし。

 さらに、1/48に特化したバージョンを追加。これはスジボリを細く(というのか出力時に1/72と同じというか)、またファスナのモールドに凸形と円形のディテールを追加。1/72用もこのディテールを追加したものに差し替え。ただし初期型カウルとは別ファイルで作業したため、初期型にはこのディテールは追加されてない。悪しからず。←先にこっちをやってから、それをベースに初期型作ればよかったのだが、順番が逆だったのよ。



D-6(?)以降の一般的なタイプのカウルでは、ファスナのモールドを変更。


 また、全ファイルに共通して、スジボリを深くしている。幅はそのまま。お試し品の積層痕を削ったら、スジボリが薄くなってしまったので、その対策というわけ。どうやったかというと、カウルのボディから切り取るパイプを、カウル表面からパイプの直径の2/3程度内側に埋め込んだ状態にする(従前は直径の1/2)。具体的には、パイプになるパスを投影するサーフェスとして、本来のサイズのカウルの表面をインセットさせたものを指定する。←Fusionやらない人にはチンプンカンプンだろうね。

 さらに、外形の変更ではないが、タイムラインを整理する。これにより、スジボリ幅はスケッチ「cross」の45°線上の円の直径の変更だけ。また正面のスジボリのみ、スケッチ「0deg」の下側リップにある長方形のサイズで変更することになる。


■ 主翼の考察 8/18追加

 製造図を読み解くと、主翼についてこれまで知らなかった事実が分かってくる。本機の主翼設計の考え方は、ちょっと変わっているのだ。どう変わっているか? それを語る前に、手持ち情報を整理する。製造図はその全てが揃っているわけではなく、断片的にしか入手できていない。あるのは、下記程度。
  1. 全体概要図:分かるのは、スパン、ルートコード、上反角程度。
  2. 主翼の概要図:平面形、正面形。主桁、後桁の位置、パネルラインなど。寸法はあまり記入されていない。
  3. 各リブのパーツ側面図:主桁より前、桁間、後桁以降と分割されていて、全体の翼型などは分からない。それに抜けが多い。
  4. 主桁、後桁正面図:各sta.における桁高さの数値が記載されている。これが貴重。また、胴体連結ピンの位置も正確にわかる。
  5. 各パネルの製作図面:リブやストリンガーの配置が分かる。リベット図を描くときは大いに役立つだろう。
 翼面の座標データはない。強いて言えば、主桁及び後桁基準線上の座標のみ、上記4から分かる。翼型データは製造図にはない。しかし、本機はリパブリックS-3であることが知られており、この翼型はネットで入手できる。

 主翼図面の表記方法もちょっと変わっている。いわゆる翼基準線(およびそれをスパン方向に展開した翼基準面)に当たるものが、ジグ基準線(面)というものである(以下JRL:Jig Reference Line)。製造上の基準となる仮想の線(面)と考えてもらってよい。主翼と胴体との位置関係は、JRLと機体中心が交差する点と胴体基準線の距離(24.125")で定まる。

 本機はネジリ下げがあるが、JRLは全てのリブ断面で横から見て水平。リブ側面図や桁正面図にはこのJRLが明記されるが、翼前後端を結んだコードラインは記載されない。←したがって各staでの翼取付角は明示されない。正面から見たJRLの上反角も明示されていない。

 さてでは、どうやって主翼の図面を描く(=主翼の形状を解明する)か。出発点は、翼厚比ごとの翼型だ。下はネットで入手した翼厚比11%のリパブリックS-3翼型である。



 付け根の翼厚比は15%程度だが、これを上下に15/11≒136%拡大すれば付け根の翼型になる訳ではない。上図の黄緑色の線がキャンバーラインと呼ばれるもので、各コードにおける翼上下点の中間点をつないだもの。いかなる翼厚比でも不変だ。そこで、下図のように、キャンバー不変となるように代表的な翼厚比での翼型図を描く。これが結構面倒くさい。

 これで分かるように、翼厚比が小さくなると、下面は平らになっていく。図にはないが12%、10%も作る。さて次は、代表的なリブstaにおける翼断面だ。翼正面図と平面図から、各staにおける翼厚比は概ね分かる。翼コードも分かる。主桁、後桁の平面位置も分かる。

 前述桁高さは、桁の全高とJRLから上面までの数値があるので、JRLを基準とした座標が4点分かる。下表は代表リブでの座標だ。Hは全高、Uは上面からJRLまで、LはJRLから下面まで(L=U-H)。単位はインチ。



 そして、これら4点に先ほど描いた翼型図を合わせてやると、取付角を含めて翼断面形が描けることとなる。めでたしめでたし。さらに、前述のリブ側面図を検証用に重ね合わせる。なぜかビミョーに合わなかったりする箇所もあるが、概ね一致し、上述の作図過程が正しいことが分かる。各断面図を重ね合わせたのが下図だ。




 大きい赤は付け根(胴体取付部)付近、小さい赤は翼端最寄りのリブ(sta232)、青はエルロン内端(sta104)、水平の青線がJRL、細い赤線はコードライン(この傾きが取付角)、中央の縦線は主翼基準面で胴体基準線に直交、前後の縦線は各翼断面における前後桁基準面である。

 付け根の取付角は概ね1°(なぜか厳密に1°にはならない)。翼端では-2.5°で、かなり大きな負角となる。ネジリ量も3.5°と大きい。そして、後縁はS字カーブを描く。それだけでなく、緑の断面(sta74)では取付角が付け根より0.4°ほど大きくなる。つまりネジリの最大値は4°近い。ちょっと信じ難いが、桁高の数字を丹念に追うとこうなる。

 ネジリの変化率は一定ではなく、エルロン内端付近から内側はネジリが少なく、外側で急激にネジられる(これが本機の主翼の「見え方」に大きく関わっている)。また、翼を前から見ると、上面はほぼ一直線だが、下面は下に凸のカーブとなる。翼前縁のラインはほぼ直線だが、付け根付近と翼端付近は上に反り上がる。中間部は、JRLより上反角が小さい。



 では本機の上反角公称6°はどれなのか?が問題。私はJRLと推測している。理由は、シンプルで分かりやすいから。なお、こうしたときに上面上反角が4°となり、これは製造図の全体概要図に記載されている、というのが傍証。

 ちなみに、同時代の多くの飛行機は、各リブにおける翼基準線(普通は胴体基準線に垂直)とコードライン(前後縁を結んだ線)の交点は一直線上に並び、その直線が水平面となす角度が上反角となる。ネジリ下げがなければこの上反角と前縁上反角とは一致する。ところが、本機はこの交点が一直線上になく、下に凸な曲線上。JRLはこの曲線の近似直線ともいえる。

 ね、変わってるでしょ。ま、模型を作るには不要な情報が多いけどな。でも、もし新規キットを開発するならここまで知ってて欲しい。ていうか、知らないと正しい形状にならない。


 長くなったので、今回ここまで。平面図は次回に持ち越し。


■ キットの主翼の検証 8/31追加

 主翼の形状が明らかになったところで、キットの主翼を検証する。翼型図をプリントして切り抜き、パーツにあてがう。



翼型図を切り抜いて型紙を作る。上辺を水平に、下辺をコードラインにすることで、キットの取付角が判定できる。


 結果は、平面形はばっちり(ま、あたりまえか)。翼型に関しては、前縁付近はリパブリックS-3を良く再現している。細かく見れば、翼上面後半のカーブがやや上に凸。実機はもっと平ら。ネジリ下げについては、付け根と翼端の取付角は正確。付け根よりも外側で取付角最大になるという変態的ネジリ下げ(前回記事参照)までは再現されてない。

 正面から見ると、実機の上面ラインは翼端直前まで一直線だが、キットは少し手前から下に垂れ下がる。下面ラインのカーブに関しては、脚庫の穴のせいで分かりづらいが、たぶん再現されていない。そのためか、付け根の翼厚比がやや大きい。まあ、このあたりはどっちでもいいかな。どうせ下面だし。


■ 主翼組み立て

 主翼上下パーツを接着する。上記を踏まえ、少し手を加えて「サンダーボルトらしさ」を追求する。上パーツの翼端を上に反るように曲げ、上端ラインを翼端まで一直線にする。後縁は、sta72付近を下に凸のカーブに曲げる。



キットはやや翼端が垂れているので、ピンとなるよう上に曲げる。なお、キットの正面形はあくまでイメージ。

翼を後ろから見たところ。青線は後端ライン。キットパーツの後縁を、矢印の方向に力を入れて曲げる。


 あとは普通に上下を接着するが、前縁ラインが翼端付近まで直線で翼端で上に反り上がっていくように、後縁ラインが上右画像のS字カーブになるように、翼端の取付角が正しい角度になるように、以上三点に注意する。



主翼接着。上辺ラインが直線になるように。後縁は流し込み、あとは瞬間を使う。

この角度からだと、実機は矢印付近が平らに見える。


 接着剤が枯れたら、写真を見ながら翼後半の丸みを削いでいこうかな。


■ レイザーバック平面図 

 先延ばしの平面図および主翼正面図をようやく掲載。基本的な寸法、形状は、製造図、真上および真下からの実機写真を参考にしているので、そこらへんの既存図面よりは正解に近いと思う。ただし、細部は、まだ描き切れていない。そのうち、ゆるゆる追加するつもり。(後日追記。リベット、ファスナを描き加えて差し替える。追加に関しては製作記その3「平面図更新」を参照のこと)




  • カウリング、胴体の平面形は、製造図の座標値を忠実に再現する。

  • 風防、キャノピの幅は、実機の真上からの写真(現存機およびB型記録写真)による。側面図、断面図とも整合している。いわゆる「作れない図面」にはなってない。

  • キャノピ下辺ラインは、思ったより前広がり。その理由は、キャノピ下端ラインは横から見て水平。一方胴体のラインはsta132(風防中央付近)を最高点として、それより後方は後ろ下がり(バブルトップ断面図記載の胴体高さ数値を参照)。したがって水平面で切った切り口を上から見ると前広がりとなるわけだ。

  • 胴体下面のパネルラインは、真下からの実機写真がベース。断面図、側面図と突き合わせて、それらが整合するように描いている。

  • 主翼のパネルライン等は、JRL面(ジグ基準面)に垂直投影した図を真上から見たものとして描く(つまりいつものルール)。翼正面図で分かるように、各リブはJRLに直交する(sta26.75を除く)。

  • sta29は仮想断面で実際のリブはない。sta26.75が実際のリブでJRLに対して斜め。このリブ面とJRLの交点がsta26.75となる。

  • 主翼のstaは、JRL沿いに機体中心からの距離として表される。つまり、sta値にcos(6°)を掛けると水平距離となる。機体中心からの水平距離は〇〇 to CLと表記。

  • 紫色の細線で示す桁の基準線は、製造図の翼平面図のトレース。

  • 俗に、サンダーボルトの機銃は水平に並んでいる、といわれているが、厳密には水平でなく外側機銃の方がやや高い。

  • 機銃の位置は、製造図に2通りの数字がある。図面は、機体中心からの水平距離と高さを記載。4丁の機銃は等間隔に並んでいる。

  • もう一つの数値はJRL沿いのもの(内端機銃がsta108.594で各機銃の間隔が6"ちょうど)。これに単純にcos(6°)を乗じても水平距離の数値と一致しないが、この理由は各機銃がJRL面から離れているから。

  • 水平安定板のリブstaは次のとおり(小数第二位に四捨五入)。6.13(斜めリブと後桁の交点)、10.5、16.5、22.5、28.5、34.5、40.34、46.13、52.13、58.13、64.13、71.63、85.75、96(セミスパン)。

  • エレベータのリブstaは次のとおり。6.25、12、18、24、30、38、41.31、47.75、53.75、59.75、65.75、71.75、78、84.88、89、95.48(エレベータ外端)。

  • 翼型図にある翼厚比、取付角の数値は、私が描いた翼型図からの読み取りである。


 次回図面は、N型の平面図だ。翼型図、翼正面図も予定。


■ 胴体増槽ラックとプロペラとカウルフラップの話

 上記について、いつものほらぶろわーず掲示板で情報提供いただく。毎度感謝。C-2-REから装備されたラックは、200gal増槽用の4ポイントラックで(下写真参照)、このときお腹はペッタンコ。一般的な腹ボテラックはB-7爆弾ラックと呼ばれ、工場装備はD-5-RE から。それより前の型式にあるのはレトロフィット。






 プロペラについては、12'2"トゥースピックはD-21まで、D-23以降のカーチスパドルブレードが13"、D-22,25,27のハミルトンが13'1-7/8"(※)、一部の機体は12'2"の幅広ブレードを装着(レトロフィット?)。

 カウルフラップについては、一般的なタイプになるのはD-6以降と思われる。根拠はワイドウイング本p.197の写真。ただし、D-10以降とする資料もあるとのこと。

※13フィート丁度という資料もある(E&MマニュアルやNACAのYP-47Mのテストレポート)。一方、製造図の一般概要図では13'1-7/8"と記載されている。本図は製造図の数値を採用。



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