ヘルダイバー(1/48レベル・モノグラム)製作記

2005.12.24初出

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太平洋の野獣(ビースト)



 はじめに



■ ヘルダイバーへの道

 私が最初に買ったヘルダイバーのキットは、ハセ=モノ版であった。キャノピのモールドが一部消えていた。注型不良だと思ったので、ハセガワに「交換して欲しい」と証拠品のパーツを同封して手紙を送った。数日後少し大きな箱が届き、「クリアパーツの在庫はありませんでした。貴方の好きそうなキットを見繕いました。」というメモと、同社の97艦攻とF4U−7が入っていた。証拠品は返ってこなかった。後にはクリアパーツの無いキットが残ったのだった。(ちなみにそのときの97艦攻は当ページにアップされている。)

 それからヘルダイバーを探した。やっと見つけたキットは、風防のゲート部からクラックが入っていた。返品しようかと思ったが、「気にしなければいいだろう」と組み立て始めた。でもやっぱりクラックは気になり、組み立て途中のキットが残ったのだった。

 またヘルダイバーを探したが、見つからなかった。2005年11月、アキュレイト・ミニチュアから発売された。喜んで買った。でもクリアパーツがダメだった。店頭で確認したから買うとき分ってたが、何とかなると思ったのだ。でも何ともならなかった。


■ ヘルダイバーのキャノピ

 私が確認できたところでは、キャノピパーツは3種類の状態がある。1つめは枠から何から完璧なもの。これはレベル印にある。店頭にはもう無いから、どうしても欲しい人は、持っている人を見つけて拝み倒して譲ってもらおう。

 2つめは、風防と操縦席キャノピの一部の窓枠モールドが溶けて無くなっており、それだけならまだ対処のしようがあるが、厚みが不均一で形が歪んでいる。機銃手キャノピ以降はまともである。私のハセモノ印がこれである。

 3つめがアキュレイトで、2つめのと比較すると形状(枠や歪み具合)は全く同じだが、さらにプラの質が悪く、透明感に欠け薄っすら茶色い。



こちらばレベル印の完璧バージョン。残念ながら、私の所有物ではなく写真だけ拝借。
Early released Revell, perfect!

ハセモノ版。一部の窓枠が溶けて無くなっている。
Hasegawa=Monogram

後半は損傷していない。
Hasegawa=Monogram

アキュレイト。変形具合はハセモノ版と同じ。
Accurate Miniature


 以上より、ある時点で金型が損傷したとみて間違いない。原因は何か分らないが、あたかも熱で金属が溶けたような感じである。損傷は雄型、雌型両方におよんでおり、そのため部分的にパーツが薄くなっている。メーカーには声を大にして、言いたい。

すみやかな金型の改修を望む!!



■ アキュレイトSB2C−1c

 アキュレイトからは−1cと−4の2種が発売されている。同社バージョンは、クリアパーツはさておき、普通のプラの部分はまとも。このうち−1cは、−4に3枚ペラ&スピナーのインジェクションパーツと、穴の空いてないダイブブレーキのエッチングが新規になったものだ。ストレートに組んで−1の雰囲気を味わうならよいのだが、正確さを求めるなら要注意である。

 −1は後述のとおり変化点が結構あるが、インストではパイロット後方の窓を除き触れられていない。それも−3と間違えており、−1はさらに上部に小窓がある。また、非穴あきダイブブレーキには、キットのような「ぎざぎざ」は無い。



アキュレイト−1cのダイブブレーキ。縁のぎざぎざは間違い。

アキュレイト−1cの3枚プロペラ。実機はハミルトンじゃないけどな。


■ さあ作るぞ!

 のっけからネガティブ・モードで始まったが、これも私がヘルダイバーの大大大ファンであり、本来のレベ・モノ・プロモデラーのキットが素晴らしいがゆえ。
 でもって、アキュレイトのキャノピで愚痴ってたら、やまい氏より「ハセモノ版」クリアパーツの支援を頂いた。感謝感激。いつもいつも申し訳ない。本当にありがとう。これとて風防、操縦席キャノピはそのままでは使えないが、がんばってみよう。さあ、いつもよりさらに気合を入れて作るぞー!!


■ 製作コンセプト

 まず、サブタイプを決めないことには始まらない。穴空きダイブブレーキはヘルダイバーらしさ満点だが、−4と−5は既に名作の実物を目にしてて、「これは勝負できないなあ」。−1cは、−4との違いの完全フォローがネタ的には面白く、工作マニア心がうずくが、3枚ペラが弱そうでいまいちグッとこない。

 などとつらつら考え、消去法ではないが「ダッシュ・スリー」に決定だ。オスプレイのエース本を読むと、−1は搭乗員から不評だったが、−3になって評価が逆転したようである。やっぱ搭乗員から信頼され愛された機体を作りたいよね。

 コンセプトは、いつものように外形重視。爆弾ハッチは閉じる。この方が機体のラインが美しいから(←人はそれを言い訳という?)。かわりに下側ダイブブレーキを下げよう。キャノピはいつもなら閉じるのだが、ヘルダイバーの記録写真のほとんどが開けている。ということで、オープンをデフォルト。ということは中身もそれなりに作らないと。そして全面リベットだ。大柄な機体だから、たまぐりの「○リベ」がいいかな。以上はとりあえずの予定。製作中気分次第で変わるかも。


■ SB2C各型比較

 各型の外形上の違いについて。これらはD&Sできちんと解説されている。

SB2C−3

 まず、−3の特徴について、製造順と異なるがキットが−4なので、これとの違いという記述にする。
  1. スピナー無しのカーチス製4枚ブレードのプロペラ。
  2. ダイブブレーキの小穴、後縁のギザギザが無い。なお、穴空きは−3の途中からとする資料があるが、手持ち写真では確認できない。
  3. パイロット席後方に窓がある。また、このためにパイロット頭部後方部も異なり、パイロットからの斜め後方視界が確保されている。なお、この窓は左右の形状が違うので注意。左舷側は給油口があるため右下隅が欠けた形状だが、右舷側はただの四角形。
  4. 主翼下ロケットランチャー未装備。
  5. 主輪ホイルの形状が異なる。カバーを外す場合は要修正。キットのタイプは、−4では手持ち写真で確認できない。それ以前はアベンジャーのような8本スポークまたはサンダーボルトのような6本スポーク。なお、−4以前の場合、円盤状のホイルキャップがつく場合が多い。

SB2C−1c

 −1cは上記−3の変更点に加え、さらに以下が変更となる。
  1. プロペラはスピナー付きカーチス製3枚ブレード。
  2. 機銃手キャノピの形状(下端部)、スライドレール位置の変更。
  3. 上記に伴う胴体の変更(機銃手席上縁部)。
  4. パイロット後方窓の上部に小窓がある。
  5. ラダーのトリムタブの上にバランスタブがある。
  6. 右エレベーターにもトリムタブあり。
  7. 主脚後方の支持部材の形状が異なる。
  8. ダイブブレーキの内側構造が異なる(内側の穴あき板がない)。

SB2C−1

 最初の量産型である−1は上記−1cに加えさらに以下が変更となる。
  1. 主翼武装が20mm機関砲でなく12.7mm機銃×4。(主翼上下面の給弾パネルや薬莢排出口も違うはずだが詳細不明。)
  2. 尾脚カバーがない。
  3. 機銃手キャノピの風巻込み防止の小板が無い。
  4. ピトー管が真っ直ぐ。
  5. 後方機銃が7.7mm連装でなく12.7mm単装。

SB2C−5

 −5は−4との変更点で記述する。
  1. スピナーなしカーチス製4枚プロペラ。ブレード形状も異なる。
  2. 操縦席キャノピの枠が単純化。外枠のみとなる。
  3. 爆弾倉の形状、爆弾倉扉の形状、内側部材の変更、爆弾倉内部の変更。
  4. コクピット内部の変更。サイドコンソールが追加され、照準器も搭載方法が異なる他、各部が変更されている。
  5. 着艦フックが内部に引き込まれない(これは−4の途中からの変更)。
  6. 翼端上面の航法燈(翼端燈ではない)が水滴型から円形に変更。
  7. なお、車輪ホイールについては、−5でも8本スポークのものが多く見られる。


 組み立て 1/3追加




■ キャノピ

 今回の製作のキモは何といってもキャノピ。だからこいつから作り始める。一番の問題は、消えている窓枠をどう再生するか。そこで考えたのが「モールド削り落としスジ彫り作戦」だ。まずは操縦席キャノピでやってみる。しかし、あの細かい窓枠をビシッとスジ彫るのって、予想以上に難易度が高い。そんでもって見事に失敗。ヨレヨレの窓枠。スジ彫りを消そうと削っているうち、ピッとクラックが入って「GAME OVER」。

 それなら「プラペーパー貼り付け作戦」だ。これはスケビの村上氏の作品のパクリ。実は2005年の激作展でご本人から直々に伺ってたのだ。使用するのはエバーグリーンの0.1mm透明プラペーパー。接着剤も教わったが入手できず、タミヤの緑フタだ。



キットパーツを一皮むいて、プラペーパーの窓枠を貼る。


 結果はご覧のとおりで、丁寧に工作すればまずまず使える。キットパーツは窓枠に段差があるから、機銃手キャノピはキットパーツをそのまま使っても違和感なさそう。下縁の曲線部は、セロテープをパーツに貼って、縁にそって切り、はがしてプラペーパーに貼ることで、正確な形が写せる。流し込み接着剤のつけ過ぎは禁物で、窓枠と風防パーツをピンセットではさんで固定して、面相筆で合わせめにごく少量を流す。

 問題は、ハセモノ版の風防はガラス面の歪みがあって、表面から削っただけでは歪みがとれない。しかもパーツは下縁など薄い部分があって、これ以上は削れない。ということは、「ヒートプレス作戦」しかないかあ? ←それがやりたかったんかい!


■ 透明プラバン絞り

 今まで、塩ビやPETは絞ったことがある。薄さ、高い透明度、キャノピ越しのコクピットが歪まずに見えるのは大きな長所だ。しかし、やり方が悪いのか、表面の微小な凸凹を完全に無くすことができず、また型にかぶせるという製法上の制約から、エッジが甘く「ぬるっ」とした仕上がりになるのが気に入らない。市販バQキャノピも枠が大甘なのがネックで、もっぱらインジェクション派だったのだ。

 一方、最近では透明プラバンを絞った素晴らしい作品を目にする。最初は「加熱すると縮むから、無理でしょ」と思ったが、やってる人がいるということは「できる」ということだし、展示会などで作者から製法のコツを伺ったりして、「やってみようかな?」となった次第。
 透明プラバンの最大のメリットは「削れる」「磨ける」ということ。プラ用接着剤も使えるしね。デメリットは、割れやすく、すぐにクラックが入ることかな。

 作業は、まずヒートプレスの型を作ることから。初めてなので試行錯誤だ。型は2種類用意する。1つはキットパーツの内側にポリパテを詰め、表面を一皮むいたもの。もう1つは木を削った文字通りの木型。後者はハンズで買った端材を削る。左右貼り合わせとして中心線を出したつもりが、削っているうち中心がずれて、我ながら下手だなあ。まあいいや。最後に瞬間接着剤でコートして磨く。こっちはキットのクリアパーツの内側に現物合わせでサイズを合わせる。

 試作品を絞ってみるが、キットの胴体に乗せたところ、どちらも断面形が合わない。やはり、きちんと精度を出して作らないとダメだってこと。ということで、やりなおし。以下本番用の木型の製作過程。


■ 木型

 15mm厚の朴(ホオ)の板から2cm×6cmの小片を2枚切り出し、左右を接着する。中心線を表示するため接着面には着色しておく。ノミ(の代わりの彫刻刀)でおおまかな形にしてから、定規に貼った60番サンドペーパーで面を出し、180番で曲面を整える。荒い番手を使う方が、正しい面を出しやすい。



基本の面を出す。キャノピがかぶさる胴体中央部の断面形をプラバンに写し取り(写真左下)、チェック。

中間部はテンプレートでチェックして、均一な断面にする。


 次に風防部を削る。まず、キットのパーツを参考に前面の傾斜角を決める。次に、その左右の辺(下写真での赤点)が各々平行になり、かつ後部側面との接線(青点)が真横から見て垂直になるように前部側面の角度を決める。各面が歪みのない平面になり、かつ左右を等しくするのは、結構難しいぞ。

 前面の曲面ガラス部は、円柱をストンと切った形。その曲率は、後方上部と同じ(たぶん)。上写真のように角を面取りしていき円断面にしていく。なお、キットのパーツは、ほんのわずかだが下が狭く、下すぼまりの円錐を切った形になっている。



まず基準となる面出し。赤点の辺は左右平行、青点の辺は横から見て垂直になる。

面取りして、瞬間接着剤でコーティング、つるつるに磨いて出来上がり。



■ プラバン絞り

 さて、プラバンでの絞りは初体験。試作品では歩留まりが悪く、10に1つもできない。そこでプラバン絞りのマイスター、JW氏からコツを伝授いただいたので、以下に紹介しよう。感謝。

『ガスコンロで、火は消えかかる一歩手前の状態(強いとブツブツが出る)。10cmほど上空を前後左右に移動して、均等に暖め、縮んできても引っ張らずに保持(厚みは厚くなっている)。後は素早く型に被せるが、そのとき型に巻き込ませる力加減で厚みの調整をする。』

 で、そのとおりにやってみたところ、今度は歩留まりが向上。それでも4つに1つなのは腕のせいだな。



ヒートプレスの道具一式。中央部が柔らかくなったら、一気に型に押し付ける。

透明プラは割れやすく、ニッパーは厳禁。モーターツールの回転ノコで不要部をカットする。これは便利。


 使用するのは、タミヤの0.4mm透明プラバン。これをB6サイズに切る。後で削って磨くことを考え、厚めに抜く。目標厚さは0.8mm。
 窓枠は、エバーグリーンの0.13mm透明プラペーパー。村上氏はきれいに窓枠の形に切り抜いているが、とても真似できないので、枠を一本一本貼って行く。ところでヘルダイバーの窓枠って、どれも均等な太さではない。しかも操縦席キャノピは−1と−3では一部の窓枠の太さが異なる。ああ、頭がくらくらしそう。

The canopy was heat-pressed Tamiya 0.4mm PRA-PLATE. The window frame was made from Evergreen 0.13mm Sheet Styrene.



表、裏面の微細な凸凹を削る。荒いペーパーを使うと最後までキズが消えないから800番から始める。

磨いてから、0.1mmプラバンで枠を作る。接着は流し込み系。



■ 風防

 ここまでの過程で触れてなかったが、風防は一度やり直しをしている。当初、絞ったものをトリミングして胴体に乗せ、写真と見比べたところ、あれ?何か変だぞ。そこで初めて気づいたが、キットの風防にはちょっとしたミスがあるのだ。木型はキットを参考に作っているので、ミスまでそのまんま。最初から写真見て作ればよかった。

 何がミスかというと、キットは前面ガラスの角度が寝ている。とはいっても、ごくわずかの違いなので、レベル版完璧クリアパーツをお持ちの方は、そのまま製作されることを強くお奨めする。貴重なパーツだからね。しかしこちらは、せっかくの手作りだから、正しい角度にこだわりたい。



キットそのまま。角度が寝ている。なお、右の写真を含め、クリアパーツはキットのものである。
The angle of kit's windshield is incorrect.

こちらは正しい角度。胴体との接合部の隙間に注目。これだけ風防を起こしている。
Here is the correct angle.


 木型を修正して再度ヒートプレスかと思ったが、切り出す際に角度を変え、細かい差異はパーツの厚みを生かして削りの工程で吸収すれば何とかなりそう。ということで、型はそのまま。再挑戦した結果が上記の一連の写真。

 前面ガラスの角度の違いは、その前方の胴体断面形にも影響しており、キットは鼻筋が少々太い。これは胴体パーツの左右接合部を少々削ることで対応可能。また、胴体と風防との接合ラインもキットは少々異なり、正しくは横から見て最前部で接合ラインが上に曲がる。キットは真っ直ぐだ。これは真上から撮影した実機写真("Pacific War Eagles in Original Color / Widewing Publications"のp.140にある)とキットのパーツを比較しても、違いがよく分かる。



前面ガラスを起てると、胴体と合わなくなる。そこで赤の着色部を削ることとなる。


 ついでにいうと、キットの操縦席キャノピの側面形にもミスがある。正しくは前端と後端の高さが等しいが、キットでは後部が高くなっている。まあ、キットのままでも開状態にすれば、ほとんど目立たないので、完璧版パーツをお持ちの方には、そのままを推奨。もちろん、作品ではこれもばっちり修正済みだ。


■ 胴体の下ごしらえ 1/11追加

 懸案のキャノピの目途がついたところで、あとは普通のプラモデルの組み立て(のつもり)。手元には組み立て途中の分を除き2機分のパーツがあるが、プラの材質に違いがあり、アキュレイトのものは硬めでハセガワテイスト。もう一方(ハセモノ版?)は柔らかタミヤテイストで、基本パーツは好みで前者を使う。

 さて、組み立て。まずは、胴体の下ごしらえから。キットの胴体パーツ2つから、写真のように切り出す。操縦手席キャノピと機銃手席キャノピの中間にある部分は、実機でも構造的に胴体とは分離しており、力学的にキャノピと同様胴体の強度には貢献しない。ガラスの代わりに金属板が使われているキャノピと考えると解りやすいかも。ということで、以後この部分を「キャノピ中間部」と呼ぶことにする。

 模型的にも、後から胴体に乗せて問題ない構造。むしろ、操縦手席後方に窓を追加したり、窓から見える内部構造(胴体燃料タンクやロールバー)を工作したりするのにも、切り取ってしまった方が都合が良さそう。

 ラダーも切り離す。前作P−40で、別パーツのラダーの雰囲気が気に入ったのだ。ヒンジラインが深くなって、いかにも「動く」って感じがする。これ、1キット分のパーツから切るのは大変だけど、2つからなら簡単々々。



キットの胴体パーツ。プロポーションは「すごくいい」。まあマイナーなミスはあるのだが、それは後述する。

2つのパーツから、こんなふうに切り出す。


 次に内部パーツの下ごしらえ。爆弾倉の天井と一体となっている床板を、前方へ延長する。途中で切れているのが完成後も見えそうなので。ただし、実機はこんなに長くないかも。さらに前方バルクヘッドを新設。キャノピ中央部を切り取って開口部が大きくなったから、この床板と操縦席前後のバルクヘッドは、胴体の形状を保持し強度を保つために構造上重要なパーツとなる。

 これらと胴体パーツをがっちり接着するため、開口部の幅(キャノピ幅で20.5mmとする)を慎重に測りながら、床板とバルクヘッドの幅を調整する。結果、床板は0.3mm拡幅。後方バルクヘッドは1mm弱拡幅となり、プラバンを接着する。タートルデッキ(後部機銃後方の折りたたみ部のことね)も同様で、両脇に0.3mmプラバンを接着する。これで「たまぐり」の圧力にも耐えるぞ。



2機分のパーツを使い、床板を延長する。

機銃手床板(左)とタートルデッキ(右)にも若干手を加える。



■ 胴体内部

 普通ならコクピットと呼ぶんだけど、銃手席もあるからこの場合何と呼ぶんだろう。乗員席?乗員室?どっちも何か変だな。それはともかく、キットはだいぶアッサリ表現。スクラッチが必要な部分もあるから、じっくりと腰を据えて取りかかろう。

 このキット、ハセガワなどで標準的な側壁パーツがなく、計器類と構造材が一体となった妙な設計となっている。そこで、まずフレーム&ストリンガーを細切りプラバンで再現する。タートルデッキ側壁にはキットでもリブがあるが、削り落として0.2mmプラバンの細切りで再現する。キットはリブの配置に一部ミスがあるからついでに修正。当初エバーグリーンの0.3×0.4mmを使ったところ、太すぎて全然ダメ。取り除いてやり直し。はぁ〜。だけど0.2mmでも、まだゴツいか。



コクピット、機銃手席のキットパーツ群。これ以外にも細かいパーツが少々。計器盤はなかなかの出来だが、側壁部はそのままではちとツラい。

フレーム(縦)は0.3mm、ストリンガー(横)は0.2mmプラバンの細切り。キャノピ中間部を乗せる台としてプラ板を接着しておく。


 お次は機器類を作りこんでいく。−3の機体内部は−4とよく似ているとのことだが、いずれにしても資料に乏しく、D&Sに当時のあまり鮮明でない写真がある他には、Crowoodに角度を変えたのが2枚(ただしこれは英軍供与機)、旧版世傑にイラストがある程度。D&Sには現存機のクローズアップ写真があるが、これは−5のもので−4以前とはコクピットが全然違う。インアクションの写真は−4だが、D&Sと同じ。また、オスプレイには−5の写真がある。

 まあその程度の資料だし、厳密な再現は追及せず(しても無理)、ゆるめの考証で雰囲気だけ再現しよう。とはいえキットパーツは素材としてもほとんど使えない。タミヤのP−47、ハセガワのP−40のコクピットパーツから、使えそうな部品を切り取ってくる。なにしろ手元には各々2、3機分のジャンクパーツがあるのだ。どうしても使えるのが無いときだけ、仕方なくエバーグリーンのプラ材などで自作。



なにしろヘルダイバーのコクピットは広いので、作っても作ってもスカスカ。

計器盤は仮どめ。胴体接着後の工程で組み込む予定。

実機写真ではよく分らない部分もあり、パイピングになると、もはや空想の世界。

どうせ機銃マウントでよく見えなくなるのだ。


 話が前後するが、内部を工作する前に、機銃手席の胴体上縁形状を修正している。キットは機銃手可動キャノピ下縁の形に合わせて斜めにカットされているが、実機では上縁ラインは機軸に平行。つまりこの部分ではキャノピと胴体は重なるわけ。そこで、キットの余りパーツから適当なプラ材を接着して整形する。プラバンでもいいのだが、同じ材質になるし、グレーだと形状の把握がしやすいのだ。



機銃手席の胴体上縁にも修正を加える。これは修正前。

修正後。このあたりは結構複雑だね。


 このあたりは、実機がどうなっているか正確に判りづらいが、実機写真を横方向に縮小してみるとよい。下写真のとおり、操縦手席の胴体上縁(赤矢印)の延長線はタートルデッキのヒンジライン(緑矢印)に一致する。中央部キャノピ付近の胴体上縁(黄矢印)はこれに平行で、そのまま機銃手席まで続いている。

 ところが、キットでは黄矢印のラインと緑矢印のラインが一致してしまっている。ここは赤と緑を一致させるべく、操縦手席部を含め、胴体上縁ラインを削って微調整。この画像、それ以外にもいろんな情報が読み取れる。胴体下面ラインが爆弾倉後端で折れ曲がることや、主翼や水平尾翼の断面形、キャノピ中間部とその前後の高さ関係、等々。なお、操縦手キャノピ上端が斜めになっているのは、半開き状態だから。



このように画像を加工すると、ラインの通りがよくわかるでしょ。本なら寝かせて横から眺める。



■ 胴体接着 1/23追加

 胴体内部のディティールアップは、やる前は「めんどくせーなー」なのだが、やり始めると面白く、いつまでもイジりたくなる。しかし適当な所で切り上げないと、いつまでたっても完成しない。開口部の幅に注意し、剛性を高めるため床板などを十分擦り合せ、瞬間でがっちり接着する。

 瞬間は衝撃に弱いと言われるが、補強を十分にすれば心配なく、過去、完成後に割れた経験はない。溶剤系は、接着線がいつまでもヒケて嫌なのだ。機首上面は裏から瞬間パテ+プラバンで補強。そのため機首側のエンジン取り付け部を切り取ってある。大きな垂直尾翼は、つぶれないように内部にポリパテを挟む。爆弾倉は、そのままでは中央部の幅が狭くなるので、翼付け根部分に切り込みを入れ、幅を修正する。



部品を2、3追加し、色を塗って胴体接着。接着後にできるディティール工作は後回し。

垂直尾翼前縁と上端はエッジを薄く削る。実機は案外と尖っているものだ。


 接着後にサンディング。胴体側面の線が前後に通るように。なお、胴体上縁とタートルデッキ側面部のみ、接着前にリベットを打ってある。


■ 主翼についての無駄話

 そろそろ胴体にも飽きてきたので、主翼に取り掛かる。まずはスペックの確認から、と思ったら手持ち資料には上反角、翼厚比などのデータがない。そこでまたまた情報提供をいただく。出典は別冊航空情報の「精密図面を読む 3」(第2次大戦の攻撃機/偵察機編)であるが、その元になったソースは記載されていない。

上半角6.0°(前縁線にて)
翼断面NACA 23017(折畳部)NACA 23009(翼端部)
主翼取付角1.5°
水平安定板取付角3.0°
垂直安定板取付角1.5°左

 私は、図面は作図者の「創作物」だと思っていて鵜呑みにしないようにしているが、スペックは創作しようがないから、信用してよいかな? NACAの5字シリーズは末尾2桁が翼厚比(%)であるから、翼端は9%である。まあ一般的な数字だなあ。ふむふむそれで、折畳部は17%・・・ん、折畳部?なぜ付け根でないの???

 という疑問から出発して、あれこれ悩む。結局、図面その他の二次情報には惑わされず、いつものとおり一次情報(=実機写真)から寸法を推定していくことに。その結果、主翼厚さの推定値(これ自体誤差を含んでいるので注意)は、1/48実寸で付け根:12mm強、翼端:4.5mm(パネルラインの位置)。これを翼厚比に直すとそれぞれ17%、12%(付け根前縁の張り出し、エルロンのカーブをないものとみなして計算)となる。
 一方、キットの実寸は、同じ位置でそれぞれ付け根:13mm、翼端:4.5mm、翼厚比に直して18%、12%となり、推定値と比べ、付け根でやや厚いが、概ね一致している。

 どうも翼端部のNACA 23009が違っているようである。また、NACA 23017は付け根である可能性が大。ということで、真相はともかく模型としては「実機写真に忠実に作る」という私のポリシーに従って、基本的にはキットをそのまま作ることに落ち着く。はぁ〜、結論はこれかい。ホントに無駄話で失礼。


 ところで、翼型を語るときに問題となるのが「付け根(root)とはどこか?」と「付け根前縁の張り出しを含めるか?」。前者については、機体中心線上となる場合がある。P−40は、左右通しの翼の上に胴体が乗る構造で、こういう場合は中心線上となる。一方スピットファイアのように胴体の外側に左右の翼を取り付ける場合は、その端部となるのかな?と思ったが、スピットの場合、やはり機体中心線上に仮想の翼断面があるという指摘をいただいた。メッサー109などは、どうなんだろう。

 張り出しについては、たぶん翼のスペックを表すときには、それがないと見なすのが一般的かな? さて、ヘルダイバーの場合、構造的には左右結合された翼の上に胴体が乗るが、結合部分は爆弾倉になっているので・・・う〜む、どっちだ?

 なおNACA5字シリーズ(5桁系(列)という訳語もあり)については、以下のwebサイトが参考となる。上2つはNACA5字シリーズの解説。両者で書いてあることが違うけど、どっちが正しいの? 下2つは、数字を入れると翼型が変化する。面白い。まあ、実機の100%正確な翼型かどうかは不明だが、大きくは違ってないだろう。ちなみにスピットファイアはNACA 2213(付け根)NACA 2206(翼端)、P-40はNACA 2115とNACA 2209(同様)なので、お試しあれ。
  1. NACAシリーズの解説
  2. 同上
  3. NACA5シリーズの翼型
  4. NACA4シリーズの翼型


■ 主翼の下ごしらえ

 頭の整理を終えたところで、主翼の工作開始。まずは下ごしらえ。上面ダイブブレーキは、もう1つの主翼パーツから切り取ってくる。主脚収容部は、後方側壁の真ん中で上下パーツが分割されており、接合線が目立つし、翼上下接着後にそれを消すのは大変。ここは下側パーツの側壁を取り去り、そのかわりに上側パーツの側壁をプラバンで延長して合わせ目を消しておく。


■ 主脚収容部

 脚庫内側のリブは、三点姿勢のモデルを前方から見たときにも結構目立つので、ひと手間かける。実機とはリブの位置と本数が微妙に違っていて、リベットラインにも影響するのだが、それは無視。実機のリブは側壁の下側まで延びているので、まずキットにモールドされているリブをプラバンで延長する。結構めんどいナー。次に細切りプラバンでリブのフランジ(縁)を再現する。エバーグリーンを使いたいのだけど、こんな時に限って丁度いいサイズが手持ちにない。

 リブの軽め穴をピンバイスで開口。個数と位置はテキトー。というか、横から通しで穿孔するしかないので、実機どおりにするにはリブを新設しないと無理。脚庫にはその他に写真を見ながら若干の加工を施す。パイピングなどのディティールは翼上下接着後の予定。



脚収容部側壁は、このように上側パーツに一体化した方がその後の処理が楽。

リブのフランジは細切り0.3mmプラバン。リブ自体を延長しないとフランジのカーブが不自然になってしまう。



■ 当HPにおける有効数字について 2/2追加

 理系の人も分ってくれてると勝手に思い込んでるのだが、少し上のほうで『付け根:12mm強、翼端:4.5mm』という変な書き方をしてる。これは工学的に正しい有効数字の使い方ではないが、そのココロは、写真の寸法を測って1/48に置き換えた数値は、コンマ数mmの誤差を含んでいて、それをあえて表記するとこうなるというもの。

 工学的には4.5mmと書くと「真値は4.45〜4.55mmの間にある」という意味になるのだけど、ここの4.5mmというのは「4.0mmでも5.0mmでもなくてその中間」あるいは「4.5±0.2mm」といったところ。模型的には主翼の厚さの0.1mmの違いなんて意味がないよね。

 では、ここでクイズ。こちらは正しい有効数字で答えてね。
  @ 6mm + 0.3mm = ?
  A 6.0mm + 0.3mm = ?
 答えは、@は6mm、Aは6.3mm。なぜそうなるかは、「有効数字」でgoogle検索などされたし。写真から数値を計算するなんて場合には、この有効数字の考え方を頭の片隅に置いといた方がいいだろう。

 では、次に模型的意味での「有効数字(=精度)」について。私の場合、主翼の厚さ、胴体幅では、まあ0.5mmの精度かな。全長、全幅になると2〜3mmの誤差はさほど気にならない。一方で、窓枠の太さなんてのは最もシビアでこれは0.1mm。マーキングのテープ切りも本人は0.1mmまで意識して作業している。いや、何が言いたいかというと、精度というのは場所によってメリハリがあってしかるべき、ということ。全てにおいて0.1mmでは大変だ。


■ 主翼接着

 主翼の中身が大体できたところで、上下パーツを接着する。今回は接着後に「たまぐり」の予定なので、内部に補強を入れてがっちりと組み上げる。このキットに限らず大抵のプラモデルの主翼パーツは、わずかに翼端下がりに事後変形しているから、そのまま接着したのでは、「だらん」として何とも締まりのないモデルとなる。ヒコーキ模型にとって、コクピットや脚収容部の追加工作よりも重要な要素だ。

 まあ、通常は接着の際に「ピンッ」となるように気をつけてやれば問題ないのだが、曲がったまま補強しては直しようがないので、パーツの段階で手でしごいて矯正しておく。しかる後、上側パーツに1.2mmプラバンの桁を接着する。定規を当てて上面ラインの直線を確認。下側パーツとの間はキッチリ擦り合わせる必要はなく、1mmくらいの隙間を残してポリパテで埋める。

 ねじり下げはキットでも適正に再現されているが、正確を期すため、まず翼前縁を接着し、実機写真でねじり下げ角度を確認しながら、後縁に瞬間を流す。脚収容部前方は強度が不充分で、リベット打ちで翼前縁が割れそう。それを修復するとリベットが埋まり、それを打ち直すと前縁が割れ・・・・と無限ループ地獄に陥りそうなので補強する。実機では側壁があるのだが、それは無視。上下パーツ間に半円形の1.2mmプラバンを挟み込む。



上側パーツに補強のプラバンを接着。下側パーツとの隙間にはポリパテを挟んで接着する。

前縁が割れないように補強する。縦に1枚入れるだけで全然違う。前縁部には細切りプラバン+瞬間パテ。


 上下パーツ接着後に翼の形を整える。改めてよく見ると、キットの翼前縁は少々丸みが強すぎる。翼断面でいうと前縁カーブの曲線半径が小さくなるように前縁の上下を削る。あまり削るとパーツが薄くなり、リベット打ちで穴があきそうなので、不十分だが程々でやめる。前縁付け根の屈曲部を削る際には、隣り合う2つの二次曲面の間の折れ線が曖昧にならないように注意する。こういう凹の折れ曲がりを削るのは、なかなか厄介だが、左手親指をストッパーにしてヤスリがはみ出さないようにするとよい。

 翼端は下面から削ぎ上がっている。米軍機のお約束だね。胴体下面幅を修正したため、そのままでは上反角が付き過ぎる。翼下面の取り付け部を少々削る。前縁スラット取り付け部の段差は、0.3mmプラバンで埋める。


■ 尾翼

 水平尾翼もエレベータを切り離す。水平安定板ともども、プラバンとポリパテを挟んで上下を接着。これら動翼の羽布表現は、リブが太く、段差が大きくて実感に欠ける。このキットのウィークポイントのひとつだ。ここは上下接着の際に厚めにしておいてから、段差を削る。いずれリブをサフェーサーで再現するのは、いつものとおり。

 ラダーも同様に作業し、あらかた削ったところで、真鍮線を介して水平/垂直安定板とエレベータ/ラダーをつなげてみると・・・・断面が全然合ってなくてガックリ。再度、削り合わせる。こんなことなら切り離さなければよかったかと、少し後悔。そういや、P−40のラダーも削り合わせに苦労したっけ。

 ラダーは、下1/3くらいの断面形が違う。キットでは下にいくにつれ後縁が厚くなっていくのだが、実機では尖ったまま。取り付け部の断面形も若干下すぼまりになるのが正。削りついでに直してやるか。ま、目立たない所ではあるけどね。こうした部分や、主翼端部の削ぎ上がり方などは、同じカーチスのP−40とそっくり。



やっとここまで。先は長いぞ。翼端の3色燈はいつもの色付きプラ材。






まだまだ組み立ては続く。



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