スピットファイアMk.Ia(タミヤ1/72)製作記

2013.6.28初出

NEXT




完成画像





■ はじめに 

 いよいよスピット・プロジェクトを始動する。まずナナニイMk.Iから。「本命」は準備中で遅れてスタートする予定・・(たぶん)。さてこのタミスピ、実は3〜4年前から少しずついじっているのだ。その間、エアの新Mk.I/IIも発売され、そっちの方が形状的に正確度が高く、今新たに作るならエアを選択するところだが、折角途中まで手を入れてるので、このまま完成させる。作るタイプは、エアのパーツも利用してワッツ2枚ペラ、「最初」の実戦型スピットだ。なぜ最初か? それは後日明らかに・・・??


■ 胴体図面

 今回も製作に合わせて図面を作成する。ベースはレストア実機の遠方真横写真なので、形状イメージには自信あり。これだけでは全長が不明だが、幸い胴体フレームのステーション・ダイヤグラムが分かっており、これと写真を重ねれば相応の精度で全長が明らかになる。左舷は一般的なMk.I 、右舷はワッツ2枚プロペラの極初期型。なお、縮小図面がきれいに表示されない場合は、ブラウザをGoogle Chromeにするとよろし。

拡大図面

  • 注意すべきは防火壁(No.5フレーム)の位置で、カウル後端のパネルラインの位置ではない。その少し後方にダブルのリベットラインがあって、その中間がダイヤグラムの座標値。
  • 主翼及び水平尾翼のフィレットは、製造図面の写しをトレース。水平安定板の翼型もこれによる。
  • 主翼翼型はNACA2213。取付角は2°。
  • 現存機のスピナとアッパーカウルは、当時と異なる。図面はWW2オリジナル記録写真をトレース。
  • アッパーカウルの下辺ラインは機軸(=スラストライン)に平行でなく、わずかに前下がり。
  • 排気管はいい写真なく、形状再現は甘い。右舷はバリエーションの例を示す。これが必ず極初期型に装着されているという意味ではない。
  • 極初期型の胴体燃料タンク部のパネルは水色線のバリエーション?あり。また右舷風防下に水色のパネルラインがある機体もあり。
  • キャノピ・スライドレールは機軸平行でなく、わずかに後下がり(0°44")。これはカットダウン胴体でも同じ。
  • 後方固定窓の上下ラインも同角度で後下がり。つまり、図面で後方窓は平行四辺形。
  • 後部胴体の上側はS字状カーブ。下側はフィレット後端付近からラダーヒンジまで一直線。


■ タミヤキットレビュー

 シーファイアMk.Ib の項でも書いたが、改めてレビュー。キットは、総じてよく実機のイメージを表現しており、普通に素組みで十分な仕上がりになる。モールドがかっちりシャープなのも美点で、これは新エアより格段に優る。
 問題点は風防&キャノピ。I のキャノピ側面はまっ平らだが、キットはバブル状。風防もイマイチで、下端が「ぬるっ」とした形状。また後方フレームの直線部が湾曲し、後部固定キャノピは小さすぎ。プロペラもツラい出来。ただし、今となっては両方ともエア新キットから持ってくれば解決かな。リブ表現が過剰な動翼も気になるが、削ってしまえば問題ないか。

 続いて外形マニアの世界。後部胴体の背が、1/72実寸で1mm弱(画像参照)高く、側面形がスマートさに欠ける。キャノピ位置も同寸高く、つまり実機は風防・キャノピがもっと胴体にめり込んでいて、その分ファストバックの背が低いのだ。また、垂直尾翼は厚すぎ。主翼、水平尾翼は、平面形、翼型、翼厚とも良好。

 さらにいうと、実は胴体全長が少々短い。拙図と比較してキットの胴体長(カウル先端からラダー後端まで)は1/72で2mm弱短く、胴体は約1/74スケールということになる。この短い胴体は、ある時期までの定説になっていたようで、タミヤ1/48のI/V、ハセIX(1/72、1/48とも)、ハセV(1/48)、エアの旧I/V(1/72、1/48とも)などに共通している。私はこういうのはあまり気にならず、全長は正しいが形が似てないキットと、全長は少々短いが形が似ているキットでは、後者を圧倒的に支持するのだが、厳密には翼と胴体の大きさのバランスが崩れてるのは否めない。



上タミヤ、下エア新。スケールを合わせて並べたもの。画像はカメラが近いため多少の歪みがある。



■ 風防&キャノピ

 図面を描いていると、それまで見過ごしていた細かい点に気付く。Mk.I の外付け防弾ガラスの風防と、Mk.Vの途中からの防弾ガラス一体型の風防、これらに組み合わさるスライドキャノピは、一見似ているものの実は全く異なり、一体型になると高さ長さとも大きくなり、後方窓枠も幅広になる(下図参照。胴体パネルラインとの関係や、後方固定窓の見え方に着目)。風防との接合断面も違うので、相互に互換性は無い。「外付け」型に側面もバブルになったキャノピや、「一体」型に側面が平らなキャノピもあるが、それらは別物である。

 ところで、極初期の防弾ガラスなし風防も、前面の傾斜角度は同じ(下図緑線)。防弾ガラス側板の下幅が広い理由は、「なし」風防の正面の平面部分が長方形で、そこに末広がりの防弾ガラスを乗せた結果、湾曲している側方ガラスと隙間が生じるためである。ついでにいうと、Mk.XI あたりのPR型の風防も、基本形状はこの極初期 I 型と全く同じ(正面フレームの有無のみ違う)。風防正面には平面部があり、多くのバQキャノピは間違っている。スライドキャノピのフレームも、I 型と同じで、プレキシガラスの湾曲のみ異なる。




■ スピットの直線、メッサーの曲線

 スピットファイアといえば、「優美な曲線」というイメージがある。その対極にあるのが「直線」のメッサーシュミットBF109だ。ところが、スピットの後部胴体は「直線」が多用されている。側面形は前述のとおりだが、平面形もラウンデル付近から尾翼前縁までは直線(多分)。下部ロンジロン(フィレット後端から尾部に伸びるパネルラインに一致)はとくに直線性が強く、コクピット付近から尾翼前縁付近まで一直線。

 対照的に、メッサーの後部胴体は直線が一切使われていない。ここに限っていえば「直線のスピット、曲線のメッサー」となる。おもしろいね。


■ IE10

 インターネット・エクスプローラーがバージョンアップして、当サイトの表示が見づらくなる。同様の症状の方は、「ツール」→「互換表示設定」されたし。


■ 胴体製作 7/4追加

 数年前、製作開始時点のコンセプトは、タミヤを出発点にどこまで実機のアウトラインに迫れるか。それまでにもスピットを作ってきたけど、どれもイマイチ外形を捕らえきれてない。というか、作るたび新たなラインの発見がある。今回の主な改修ポイントは、@後部胴体高さとキャノピ位置、A垂直尾翼厚さと胴体尾部平面形、B機首アッパーカウルの形状。中でもBがキモか。

 以上を修正したのが下の胴体。ここまでチマチマと数年がかり。






■ 後部胴体高さの修正

 上記修正点を、詳しく解説する。後部胴体高さは、スピットの流麗でキリッと引き締まった姿を表現する重要なポイントだ。ファストバックの背を切り飛ばし、接合面を削った後に再接着する。そのままでは胴体幅が狭くなるので、胴体左右の接着面にプラバンのシムを挟む。キャノピ取付け高さも下げるため、コクピットの縁を0.8mm切り下げ、同時にコクピット開口部の幅も調整。実機はスライドキャノピ下端の位置で8.6mm(1/72実寸)。あとは写真などを見ながら納得いくまで削る。





青は実機、赤はタミヤキットの写真をそれぞれトレースし、胴体長さを合わせて重ねたもの。重なった部分は紫となる。キットはファストバックの背が高く、また風防&キャノピがやや後方寄り。別パーツのロワーカウルは、やや垂れ下がり不足(これは後述)。



■ ファストバックの考察

 後部胴体の峰のラインは、その曲がり具合や峰の立ち加減が非常にデリケート。その一つの理解が下の概念図。後部胴体は、6角形の角が丸くなったものと解釈できるが、左のような単純な6角断面でなく、右のように5角断面の先端をカットした形状。まあ、あくまで概念図で、実機はこれほど単純ではないし、こんなに明示的な形状ではないが、この図を頭の片隅に置いて模型を削ると峰ラインが出しやすい。






■ 垂直尾翼厚さ

 ラダー正面形は菱形を伸ばしたような形をしている(下図)。キットのラダーは3mm近いので、ラダーを切り離し胴体ともども削る。



ラダー断面形(後方から見た形)の比較。あくまでイメージなので注意。ラダー最大厚は水平尾翼のチョイ下あたりで1.4mm。

写真はMk.14だが基本形状は同じ。斜め横から見てヒンジラインが折れ曲がって見えるのは、断面形の屈曲によるところが大きい。



■ 胴体平面形の考察

 水平尾翼下方の胴体平面形状も要修正。実機はラダー手前から急激に絞られ、そのためヒンジラインで折れ曲がるのだが、キットはスムーズ。これがラダーが厚い原因でもある。新エア1/72Mk.I やハセガワ1/72Mk.9では、この「くびれ」がちゃんと表現されている。



上、実機。下、キット。(キットの図はイメージで、実際とは寸法が異なる。)

ラウンデル付近から直線的に絞られ、さらに尾翼付近から一段と絞りがきつくなる。ラダーとは面がつながらず、折れ曲がる。



■ アッパーカウル 7/12追加

 いよいよ本丸、機首の修正だ。タミヤのキットは、というか他の多くのキットもそうだが、シリンダーヘッドの膨らみを実際より誇張している。やや不鮮明だが、下画像を見ていただこう。斜め上30度くらいの角度から見るとエンジンから胴体燃料タンクにかけて一直線である。同じ角度でキットを眺めると、シリンダーヘッド部が膨らんでクランク状のラインとなっている。このライン、かなりのスピット通でも気付いている人は少ないんじゃないかな。正直いって、私自身この写真を初めて見たときは、自分の目が信じられなかった。



後方シリンダーヘッド部(赤丸)は膨らんでなく、ラインは一直線。写真は左右反転。

上、キット。赤丸付近でクランク状ラインとなる。下、シリンダーヘッドを削って修正中。まだ完全ではない。


 ここのラインは非常にデリケートで、全く膨らんでいないわけではなく、画像の角度より少し高い角度から見るとわずかに膨らんでいる。また、Mk.IXになると I で小ブリスターとなっている部分を包むようにカウルが膨らむので、見え方が違ってくる。



この角度では、ほんのわずかにエンジン部が膨らんでいる。とはいえ、ほとんど一直線といっていい程度。

微妙に撮影角度が違うが、後期マーリン型カウルはこのあたりのラインが異なる。


 とにかく、スピットのアッパーカウルのカーブは微妙でデリケート。これまでのキットでも前期マーリン型については完全なものはまだない。関連する画像を見ていただこう。なお、多くのレストアされた現存のI型、V型のアッパーカウルは、オリジナルと比べて若干上方にふくらんでいることに注意。



シリンダーヘッドは防火壁のラインからはみ出している。そのはみ出し具合が極めて難しいのだ。

最前列シリンダー付近の断面形状と絶対幅(スピナ直径と比較せよ)に注意。

デリケートなカーブがハイライトでよく分かる。下にあるマーリンエンジンの形が見えていないと、カウルの形も見えてこない。写真は左右反転。

最もポピュラーなアングル。修正作業ではこのイメージを損なうわけにはいかない。写真は左右反転。


 これを図で表すとこうなる。最後列シリンダー付近の断面形である。青は実機、赤はキット。参考までに緑はIX型(実機)で、上と横の両方に膨らみ、アッパーカウル下端における折れ曲がりもI〜V型よりクッキリしている。





 で、以上を3Dに再現するのだが、これらの写真の全てを満足するような形を削り出すのに苦労する。あの後斜め上方の写真を忘れたくなる程。その一直線ラインだけを再現すると、他の部分が破綻する。最終的にはシリンダーヘッド全体の幅も狭め、テーブル状で肩が張ってるエンジン上部を緩やかなカマボコ形断面にして肩の角を丸める。上図で赤断面を青断面にするには「えっ、こんなに?」ってぐらい削る必要があるのだ。逆に、防火壁は2時10時の張り出しが弱いので中心にシムを入れて太らせ、それでも足りず最後は瞬間+プラ粉を盛る。



なんだかんだで、出来上がりのライン。実機では、シリンダーヘッドの張り出しは、案外にマイルドなのだ。

上、新エア。中、タミヤ。下、旧エア。新エアもクランク状で、タミヤとよく似たライン。実はここのラインは旧エアが一番実機に近い。



■ 断面図

 胴体断面図も描く。使用上の注意は下記のとおり。

拡大図面

拡大図面




  • #5以降の各フレーム位置における断面は、一次資料の製造図面の写しをトレース。ver.3.0以降の図面では参考文献-86「Spitfire Mk. IX & XVI Engineered」に記載されている座標データから起こしたものに訂正する。ただし、13番フレームは図面と座標値が微妙に異なり、そこは図面を優先する。
  • 風防正面形(防弾ガラス一体型)も、一次資料の図面を実機写真で補正している。ただしバブルの膨らみは推測。
  • カウルの断面11"は前掲正面写真がベース。Mk.Iのそれ以降断面はやや推測が入っているが、後上方斜め30°から見て一直線になり、かつマーリンエンジンをクリアするには、このラインしかない。Mk.VIIIのカウル断面はMk.XIカウルの製造図面。
  • 下側カウルの平面形は真下からの実機写真で明らか。これと側面図を合わせれば、断面の下側ラインの精度もある程度確保される。
  • #11フレームの断面形において、上方カーブは円ではなく、台形の角が取れたものに近い。ただし上方には直線部はなく緩いカーブ。一方、側面には直線部がある。
  • フィレット断面は、後方からの写真をトレースして歪みを補正したもの。
  • 側面図とも整合を図っているので、いわゆる「作れない図面」にはなってないはず。



 断面図を重ねると、面の流れが把握できる。カウルの断面を見れば、これらラインがシリンダーヘッドを無駄なく確実にクリアしていることが分かる。30°の接線を描けば、その接線が機首からコクピットにかけて一定のペースで上がっていく=すなわち30°方向から見て一直線。一方、キットのラインはエンジンルームに無駄な空間があり、30°接線が上下する=クランク状。


■ 風防&キャノピ 8/10追加

 極初期型の防弾ガラスなしキャノピは、手絞り用の木型も作ってあったが、ここは安直にエア新Mk.I/IIのパーツを使う。基本形状、寸法は悪くないので特に修正せず。パーツが厚く、内部が歪んで見えるのは無視。窓枠の凸モールドは削り落とす。後方固定キャノピをエッチングソーで切り離し、先に胴体に接着、ツライチに削って窓枠をスジボリする。

 胴体との合わせを調整しているうち、なぜかキャノピの位置が後方にずれて、機首と後部胴体のバランスが悪くなる。もともとタミヤの胴体はやや短いので、それならばと後部胴体を1.5mm程延長する。んが、ここで失敗。確かに全長や胴体前後のバランスは改善するものの、短い全長に合わせた胴体高さになっていたため、後部胴体の縦横比が狂い、細長気味。止めるか、せめて1mm弱程度の延長に抑えておくべきであったな。←やる前に気付けよ。



風防、キャノピはエア新のパーツ。この段階では後方固定部のみ胴体に接着。

1mmプラバンを2枚挟む。0.5mmの削りシロで、差し引き1.5mmの延長となる。



■ 士の字

 気を取り直して主翼接着。胴体との接合部をスッキリ工作するため、主翼上面パーツを先に胴体に接着。固定キャノピを磨き、コクピット内部を下からはめ込む。



主、尾翼を接着。パーツの合わせが良いので、こういうときは流し込み系を使う。この段階で上反角を正しく出しておく。

ひっくり返すとこうなる。コクピット後方胴体内部は銀色が正解だが、気付いたのは接着後。

クリアパーツはスジボリして軽く磨く。コクピット内部はキットパーツそのまま。後方フレーム背面は銀が正解。

コクピット内部へのゴミ侵入防止にプラバンの床とバルクヘッドを取り付け、さらにテープでガード。


 このあと、主翼下面を接着するが、機首形状をいじくっているためか、上面と下面とが微妙にズレる。そのため接着ダボは切り取っておく。逆に言うと、先に主翼上下を接着すると、誤差が主翼と胴体の間に発生→接合部の調整が大変、ということになる。下面接着時には、上反角(6°)とねじり下げ(2°強)に十分注意する。前縁を先に接着し、正しい角度にねじりながら後縁と翼端に瞬間を流す。キットのままではねじり下げ不足となる。


■ 機首下面の修正

 タミヤキットは、主翼前端部における機首の高さが不足。別の表現にすればロワーカウルの垂れ下がり不足。パーツ接合部にプラバンのシムをかます。



主翼前端部で0.5mmほど増やす。これにより、機首下面カーブと主翼下面カーブの関係も改善される。

ロワーカウルと主翼下面との間に若干の段差が生じるくらいが適正。この段差はエアインテイクで隠される。



■ シリンダーヘッドの幅 

 機首の形状について補足する。前掲正面写真より、最前列シリンダー部(前出断面図のB)におけるアッパーカウルの幅を算出すると、実寸で72cm。1/72で10.0mm、1/48で15.0mmとなる。模型にすると意外と細い。ところで、手元資料によるとマーリンエンジンの幅は、1ステージ型(Mk.I〜VIまで)で29.8"(76cm)、2ステージ型(Mk.VII以降)で30.7"(78cm)である。したがって、前列シリンダーヘッド部(ロッカーカバー)の幅がエンジン最大幅ではない。

 ではどこか? シリンダーヘッド後端付近には、バルブを駆動するギアがあるため、ロッカーカバーが若干膨らんでおり、そのため左右ロッカーカバーの幅は、後の方がわずかに広く、アッパーカウルの平面形も後広がりである(それだけでなく、Mk.VIまではブリスターで膨らみをクリアする)。ただ、ロッカーカバー自体は1ステージでも2ステージでも同じ形で、両型でスペック上の幅が異なる説明にならない。推測だが、エンジン左側の発電機を含めた幅かも。


■ スピット・トリビア その1

 これも図面を描いてて初めて気付く。Mk.Vのフィッシュテイル排気管は、横から見て、3つの尾びれが等間隔に並んでない。これは最後尾のが他より長いため。多くのキットや図面では無視されている。Mk.Iではほぼ等間隔。


■ スピット・トリビア その2

 外付け防弾ガラスと一体型防弾ガラスの防弾ガラスそのものは同じ形状。一体型風防の正面左右窓枠の太さが一定でないのは、これが理由。ついでにいえば、横から見た傾斜角度も同じ。ただし前後位置は微妙に違う。下図、左は外付け型風防、右は一体型。


■ スピット・トリビア その3

 恥ずかしながら最近まで知らなかったが、2ステージ・マーリン型のアッパーカウルの形状は2タイプある。下図で青線が前期生産型(と勝手に呼ぶ)、赤線は後期生産型。変化の理由は不明。当時の記録写真でも注意深く観察すると違いが分かる。シリアルナンバーとカウルのタイプを分類すると論文が書けるかも。そういえば、マスタングでもBとDで似たような変化があるが、関連性は不明。ちなみに、前期生産型のアッパーカウルの前半部分の形状は、1ステージ・マーリン型とよく似ている。なお、極初期のIX型はV型から改造された継ぎ接ぎだらけのカウル。これは参考文献-36(シーファイア47の頁に掲載)に詳しい。サイドカウル、ロワーカウルについては製作記その2に記述。

 ついでにいうと、現存レストアのI型、V型に見られる上に膨らんだカウルは、この後期IXの膨らみ方に何となく似てるんだよね。


■ 整形、スジボリ 8/27追加

 地味〜に進行中。

 主翼を整形。翼前縁は、NACA2200シリーズの翼型を意識して尖り気味にする(別添図面参照)。翼端はナイフのように尖っている(下画像参照)。しっかりと厚みを削ぐ。研ぎ澄まされた楕円翼の切れ味がスピットファの美しさのキモである。これに伴い消えたスジボリを再生。垂直尾翼の厚みの修正が水平尾翼に影響して、後退角がついているのに気付く。撤去して再接着。←今頃気付くなよ。



これといって変わり映えしない画像だ。

ラジエータとエアインテイクも接着。


 では、実機の翼端形状を見ていこう。画像は頂き物。毎度情報感謝。無断掲載深謝。



このアングルの写真は貴重である。ヒネリ具合が大変よくわかる。

翼端灯以降のエッジは尖っている。翼端で風を切り裂いて飛ぶ。



■ 上面図 

 ちまちま描き進めていた平面図がようやく出来上がる。まず上面からご覧いただく。主翼前縁の尖り具合にも注目。下面は次回更新のお楽しみ。

拡大図面




  • 胴体幅、アッパーカウルの幅、排気管の幅、キャノピの幅は、細心の注意を払って寸法を出している。ぜひ模型製作に活用されたい。
  • 主翼は、座標値の表から形状を起こす。ステーションナンバーも分かっているが、それがリベットラインなのかパネルラインなのかというあたりが不明で、図ではテキトー。
  • したがって、パネルラインや機銃アクセスパネル等の位置、サイズの微妙なところは精度やや甘し。
  • 主翼リベットラインは現存Mk.Iaのクローズアップ写真の読み取り。読めたものを図にする。ただし、読めたものの全体の粗密のバランスが悪くて図に示していないものも一部あり。
  • 主桁より前方の横ラインは写真では読み取れず、タミヤIXcキットのコピー。
  • 横方向の小リブは、機体によってバリエーションがあり、それらは水色にて表示。
  • 羽布貼りエルロンの詳細は分からず、現存機(金属外皮)やタミヤキットから類推。
  • 水平尾翼の形状は、空撮写真のトレース。なぜか手持ち製造図面と微妙に合わない。
  • 記録写真では、機銃の先端が突出しているものと突出していないものとがある。後者はラッパ形のフラッシュハイダーを外したものか?
  • 現存機ではタイヤハウス上面に2本の補強リブがあるが、これはかなり後になって装着されたもの。Mk.Vも含め、第一線で使われている機体には見られない。
  • 例により、リブ等は主翼基準面に投影されたものとして図示。
  • 主翼基準面の折れ曲がり点は赤線にて図示。中心から31インチ。




■ トリビアその3追記 

 2ステージ・マーリン型のアッパーカウルの形状について情報を頂く。Scale Aircraft Modeling誌1998年9月号(Vol.20,No.7)に"Spitfire Snouts"というタイトルの記事があり、筆者(Vasko Barbic氏)の個人的推測としてキャッスル・ブロムウィッチ製の機体だけにある特徴ではなかろうか、とのこと(スピットファイアは他にスーパーマリン、ウエストランドで製造された)。なお、私自身は当該記事を読んでなく、真偽は不明。どなたか、検証してみない?


■ トリビアその4 

 Mk.Vのオイルクーラー・フェアリングの後端が折れ曲がったように見える写真がある。当時の写真を見比べると、他にも複数みられる。ストレートなタイプもある。詳細不明。情報求む。



有名な写真の一部。ナニでアレだけど掲載しちゃう。



■ プロペラ&細部 9/20追加

 ワッツ2枚ペラは新エアから。このパーツがあるのはI/IIaのパッケージ(箱絵が2枚ペラ)のみで、キャラメル箱のIaにはないので注意。キットパーツは形状良好。そのままでも十分だが、厚めのブレード前縁を薄く削るついでに、ねじりによる前縁のカーブを再現し、先端の形状を整える。スピナも形状ばっちり。モールドをパテで埋めたりエッチングソーでさらう程度。

 その他、スジボリの残り、動翼リブ、小ブリスターの追加等々、かったるい作業が続く。正直あまり楽しくないが、気合入れて図面を作ると、一つ一つのディテールに愛着がわき、再現せざるを得ない気分になる。



プロペラ、スピナはエア新キットから。ネジリに注意。カウルのブリスターはプラバン。接着後に整形すると作業が楽。

キットのモールドを削り落とした動翼リブは、とりあえずカッターでスジをつけるだけ。



■ コクピット

 キットパーツから、シート、操縦桿、ヘッドパッドを取り付け、キャノピを接着する。極初期のIaでは、後方固定窓から見える部分には何も付いていない。以前掲載した側面図は間違い。お詫びして訂正。実はロクに調べず「付け忘れて」後方固定窓を接着し、後で調べて結果オーライ。照準器がよく分からない、と書いたところ後日情報を頂く。毎度感謝。バトルオブブリテンの頃は光像式Mk2を装備だが、極初期では照星とリングとなる。


■ 下面図

 続いて下面図。考証には万全を期したつもりだが、お気づきの点はご指摘いただけるとありがたい。引き続き、Vb平面図も準備中。

拡大図面




  • パネルライン、リベットラインは、現存Mk.Iaのクローズアップ写真からの読み取り。読めたものを記入。ただし、主桁前方横ラインは実機で読めずタミヤ1/32Mk.IXのコピー。主桁後方の横方向リブは機体によりバリエーションあり。
  • 主翼下面両舷外側にあるエア・アウトレットは、IWMにある現存機などでは「なし」で、当機は塗装の状態など大戦中のオリジナルっぽいのだが、一方で当時の記録写真では「あり」。「あり」「なし」両方あったのか、ある時期の補修で撤去されたのか?
  • 同様に着陸灯(最内側機銃と隣の機銃の間にある歪んだ四角形のパネル)もIWM機などでは「なし」。
  • 主車輪収容部の形状、サイズは、a、bウイングとcウイングとでは違い、cの方が後方に広いようだ(少なくともタミヤ1/32IXcとIa実機とは異なる)。脚のアライメントが変わったことと関係ありか?
  • 主脚カバー形状も、同様にa、bウイングとcウイングでは異なる。前者は、前述タイヤハウス部の違いだけでなく半月形にカットされる部分が少ない(脚カバーの面積は広い)。
  • オイルクーラー・フェアリングの形状、寸法、ディテールは、よいアングルの写真がないためやや甘い。ラジエータの形状等はタミヤ1/32から。




■ 2番違い

 先日、目出度く百弐拾参萬四千五百六拾七打を記録する。自分で踏むのを狙ったが、惜しくも2番違い。




■ 正面図 10/19追加

 シーファ47の正面図のついでにMk.Iの正面図も描く。Vb平面図は、もうしばらくお待ちを。

拡大図面




  • グリフォンスピットと同様、胴体正面形が見慣れたイメージと異なるのは、遠近法が原因。断面図、側面図、平面図と整合させており、正確度には自信がある。いくらかでも写真イメージに合うように、断面図の線を細赤線で記入する。ただし、排気管の正面形状は甘い。
  • デ・ハヴィランド製メタルプロペラの直径は、Wikiなどでは9'8"とされるが、実機写真と整合しない。正しい直径は不明だが、例えばMk.IIやIXの直径は10'9"とされており、これと同じとすると写真との整合がよい。図面も10'9"として作図。なお、Vのジャブロ・ロートルは10'3"(ただし写真と照合すると疑義あり。詳しくはV製作記参照)、ワッツ2枚プロペラは10'8"とのこと。
  • プロペラブレードは、正面、側面の実機写真をトレースし、それぞれのピッチを想定してブレードのコードを算出する(赤線で図示)。
  • 脚正面形の作図にあたっては、Monforton社刊「The Spitfire Mk.IX & XVI Engineered」の情報提供を頂き、IXに特化した本だがこのデータを使う。
  • まず、図面から脚ピボット位置を読み取り、概ね中心から29.9"。そこから92.4度で脚を下ろす。脚柱と車軸の角度はIXでは94度、I〜Vは98度とのこと(正面図では脚後傾により、厳密にはこれよりやや小さく見えるが、面倒臭いので無視)。
  • 脚長さは、現存機側面写真の三点姿勢に合わせる。脚柱とタイヤの距離は正面からの写真に合わせる。
  • こうして作図すると、結果としてトラック=5'10"=70"になる。世間流布のデータではトラック=5'9"または5'10"とされるところで、一応この片方に整合。なお前述本では、IXはトラック=72.74"とある。Cウイングは車輪の角度が変化し、トレッドが広くなるから、まあこんなもんか。
  • 主翼は、画面向かって左側をIb、右側をIaとして作図。パネルラインの精度は甘く、また、煩雑さを避けるため、一部ラインは省略。
  • 背面図のフィレットはトレースした線なので、「絵」でなく「図」として見てほしい。フィレットのクビレ具合を感じとってほしい。




■ 本番塗装準備

 前回更新から、さらに小突起追加、ファスナ彫刻、燃料タンク部のスジボリ追加(極初期型の特徴)など、細部の仕上げを行い、本番塗装手前の状態になる。ファスナ打って、キットのスジボリ位置のミスを発見。機首から主翼前縁に至る斜めラインの、前側がやや上寄りなのだ。そのため、カウル側面パネルのファスナ間隔が狭い。気付いたけど、今さら面倒でもう直さない。



サフも吹いて、本番塗装準備完了。

キットから相当削り込んで丸めた機首断面だが、この角度から見るとシリンダーヘッドの存在感はしっかりある。


 どのマーキングにするか、思案中。


■ Mk.Vb側面図 12/4追加

 模型は進んでないが、Vb図面を掲載。

拡大図面




  • 左舷は長スピナ+ジャブロ・ロートル+前期型風防で、キャッスル・ブロムウィッチ製で前期に生産されたタイプ。後期には一体型風防となる。これは熱帯型が多数だが、アブキール(Aboukir)フィルタの形状不詳で図にできない。(←「アボーキー」と表記されることが多いが、アブキールが正しい発音に近いとのこと。情報感謝)
  • ジャブロ・ロートル・プロペラの側面形は甘い。雰囲気ということで・・
  • 左舷風防直下の小インテイクに注意。機体により有無があるようだが、製造メーカー、時期、熱帯/温帯との関係はなさそう。詳細不明。
  • 右舷は、短スピナ+デハヴィランドのスーパーマリン製。ウェストランド製も同じ外形。ボークス(Vokes)フィルタつきの熱帯型として図示。一応、オリジナル写真のトレースだが、真横でないので形状やや甘。小丸アクセスパネルは右舷のみ。
  • 前にも書いたが、3番目の排気管は尻尾が長い。
  • パイロット頭部後方の機器(←何これ?)はバリエーションあり。
  • 排気管の前端、後端にもバリエーションがある。
  • 右舷胴体後方上部の信号弾発射口は詳細不明。




■ Vb平面図

拡大図面

拡大図面




  • 水色/青色線は、ソースによって異なり、存在の有無や形状が不明のものを示す。色が薄くなるにつれ確度が低くなる。
  • 上面タイヤ後方の「D」字形小パネルは、複数の現存機にあるが、既存図面にはない。詳細不明。情報求む。
  • 着陸灯は左右にあるのが確認できる。
  • 金属外皮エルロンはタミヤIXのコピー。
  • 下面タイヤ後方のアクセスパネルは、少々ぼやけたオリジナル写真で存在は確かだが、形状は推定。既存図面等も様々。
  • オイルクーラーの形状、位置、大きさ、ディテールは、よい資料がなく考証は甘い。後端がフィッシュテイル状になったバリエーションがある。
  • 機関砲の上下ブリスターの形状、位置、サイズはやや甘い。
  • 熱帯型の切断翼にはバリエーションがあるが(イアン・グリード機など)、詳細不明につき、図は一般的なもののみ示す。
  • 主翼横方向の小リブはIのコピーで根拠なし。
  • タイヤハウス上部の「>」字形リベットラインは、補強リブつき現存レストア機のもので、補強リブなしも同じかどうか不明。もしかするとMk.Iの図面に示したものと同じかも。
  • 水平尾翼下面のリベットラインをMk.Iから修正。図面では2種類の太さで示すが、現存機写真等では太い方しか見えない。Mk.Iの図面もそのうち直そう。




■ 補足、タミヤの機首

 機首側面形について、以前の記述を図にて補足。赤がキット。青はそれに対する実機。キットは赤矢印部に段差というか屈曲があり、一部の図面でもこうなっているものがある。なお、赤線はキット実測ではなく、私が認識している実機との違いをイメージ的に示したもの。






■ 小物 1/23追加

 ほぼ2ヶ月ぶりの更新。残る小物を片づける。排気管はいいのがない。クイックブーストのレジンはとくに最後方のが細すぎでペケ。タミヤのはスジボリモールドが邪魔。そこで旧エアをベースに削る。最後方のをちょい内側に曲げるとよろし。脚はキット。脚カバーと主翼下面が接するように、主脚取付け部を加工して1mmほど短縮する。これで強度がアップするが、やや短足感ありか? 脚カバーと脚柱は密着するよう削り合わせる。これ大事。



旧エアMk.Iのパーツをベースに削る。このサイズでは穴あけは無理。

脚柱角度、タイヤの角度に注意して接着。初期(Mk.IX途中まで)は強めの逆ハの字のタイヤが特徴。


 これで塗装前の作業は終了。次は塗装だ。




次ページへ NEXT



HOME