スピットファイアUa(タミヤ1/48)製作記 その2

 

<塗装>

考証

 当初、世傑にカラー写真があるRN◎Nにするつもりだったが、思い直して変更。しかし、Uaでシリアルが分かり、手描き困難なパーソナル・マーキングなしは意外と少ない。資料をひっくり返し、第616スコードロン所属「QJ◎X」シリアルP7753とする。写真は、資料K、F、このサイトにある。すべて同一写真。コードレター「QJ」は、なぜか第92スコードロンと重複しているが、書体、サイズは異なる。
 これらの写真では、ラウンデルの黄色が黒く写っているが、驚く必要はない。これは英軍でよく使われたオルソクロマティック・フィルムのためで、黄色が暗く写るほか、赤と青の明度差が逆転する。迷彩もダーク・グリーンとダーク・アースが逆転しているように見えるが、これもフィルムのせい。

 写真のキャプションでは1941年初頭とあるが、下面の考証には注意が必要。40年11月に、それまでのスカイ一色から左翼のみ黒とされ、記録写真でもこの状態のU型が確認できる。ラウンデルが目立つよう、左翼のみ黄フチが付く。スカイのスピナと胴体帯も同時に導入。翌年4月には元のスカイに戻され、ラウンデルも通常タイプが記入された。

 本機の場合、おそらく両方の状態があったと思われ、結局、どちらでも間違いではないだろう。トリッキーな黒塗装も魅力的だが、作品はオーソドックスにスカイ一色とする。左翼上面には、毒ガス検知塗料が小さくひし形に塗られている。
 上面の迷彩はBパターンである。T、U型頃までは、シリアル末尾の偶数、奇数でパターンを分けていたが、後にAパターンに統一された。
 注意して写真を見ると、上下の塗り分けラインは、機体によってバリエーションがある。RN◎Nは、機首が一般的なパネルラインでの塗り分けでない。後部の塗り分け線が切れ上がっている機もある。方向舵下部は上面色が一般的だが、スカイも。


スカイの帯は18インチ(1:48実寸9mm)。胴体ラウンデルの規定値は不明だが、7の倍数が自然と考え、直径35インチ(同18mm)とする。各色の幅は5インチ。

右側のコード・レターは実機写真の遠方に写っている機体を参考に「QJ◎X」とする。

 

調色

 ダーク・グリーンはビン生。ダーク・アースはそれだと赤みが強いので、黄色を2割程加える。グリーンとの明度差がつきすぎないよう、慎重に黒を加える。
 下面のスカイはタイフーンで使った残り。これは白と青を加えたもの。下面色としては、もう少し暗い方が良かったか。スピナと胴体の帯はさらに白を加える。RN◎Nでは、相当白っぽく写っている。これは現地で塗装されたため。シリアルの字体が、帯部で異なるので分かる。それなら、左翼下面のスカイはどうなんだ、というのは当然の疑問だが、そこは模型としての見た目重視。
 ダル・ブルー、ダル・レッドもタイフーンで使ったもの。黄色は黄橙色。コードレターのミディアム・シー・グレーは3色セットのビン生。黄緑色の毒ガス検知塗料はジンクロ・イエローとジンクロ・グリーンを混ぜる。

 使用する塗料は、いつもMrカラー。調色したときは、不要モデルに塗ってみて色のバランスをチェックする。ウチでは長谷川エミール君が活躍。塗料は乾燥すると色が変わる。

基本塗装

   下地塗装は、まず窓枠部に機体内部色。光線の透過防止の暗色を窓枠、翼後縁などに。光にかざして効果を確認する。次にサフェーサー。これでしっかりした塗膜を形成。すでに塗膜が出来ている箇所には省略。ここらで一度2000番ペーパーがけ。銀はがしをする場所には8番銀ビン生。銀は隠蔽力が強いので、透過防止を兼ねることも。いずれも塗料はごく薄く溶く。塗料1にシンナー1〜2ぐらいか。一度に多量に吹かない。うっすら濡れる程度まで。表面張力が働くほど濡らすと、スジ彫りのエッジなどに塗料が乗らない。

  下地塗装が終わったら、下面から塗り始める。テープできっちりマスキングして、ラウンデルの黄色、帯のスカイを塗り、マスキング。
RAF迷彩のぼかしは、何と言っても型紙。どこで読んだか失念したが、両面テープをこより状にする方法が紹介されていた。このアイディアを拝借。考えた人に感謝。


タミヤのインストをトレースして、ハサミで切り、両面テープで2mm程浮かせて貼る。型紙は、裏返して\でも使い回しする。

ダル・ブルーに備えて、黄色をマスキング。奥は色見本の長谷川エミール君。

 

ぼかしの修正 11/12追加

 マスクをはがすと、どうしても吹きこぼれ、吹き残し、ぼけ足の乱れがある。適宜、面相筆やエアブラシでタッチアップする。型紙の切り残しが役に立つ。
 今回は、この段階で、極々軽めにグラデーションをつける。翼上面に極薄の白、主要なパネルライン、機首側面に極薄の黒。 ぼかしがクッキリしてしまった部分は、面相筆で手軽に修正。2色を同量混ぜた色で境界に0.5mm程度の細い線を描く。遠目には分からない。

マーキング 

 ラウンデル、フィン・フラッシュは青、白、赤と塗り重ねていく。ダル・レッドは、灰色が多く混ざり隠蔽力が強いから、下地の白は必要はない。胴体ラウンデルの赤丸は、エッチング・テンプレートとデザイン・ナイフで切り抜くが、マスキング・テープでは上手く切れず、セロテープでやってみたところ、なんとか出来た。赤丸だけは、デカールの方がよいだろう。

 ウォーク・ウェイのラインは、テープでマスクして塗装。このような細いラインは、いろいろ試したが、後塗装が一番。先に塗装して細切りテープでマスクする方法は、テープを均一な幅に切り出すのが難しく、テープがよれることも。デカールは真っ直ぐ貼るのが困難。後塗装なら、気の済むまでマスキングのやり直しが利く。かなり細い線も可能。塗料はかなり濃く溶くのがミソ。

 コードレターのサイズを写真から割り出すと12×7mm。エクセルで原図を作りプリント・アウト。それを下図にマスキングテープを切り出す。


下図をガイドにマスキング・テープをデザイン・ナイフで切り出す。はがしやすくするため、セロテープを貼っておく。曲線部はエッチング・テンプレートを使う。ウォーク・ウェイのマスクにも注目。

できあがり。タミヤのフィレットは大き過ぎるので、文字のフィレットへのかかり具合が実機写真とは少々異なる。ミディアム・シー・グレーは3色セットのビン生。もう少し明るくすればよかったかナ。


 マスキング・テープをはがす際は、境目をナイフで軽くなぞると塗り分け線がシャープになる。もっとも、十分に(1日以上?)乾燥時間を取れば、そこまでしなくとも十分きれいに仕上がる。
 マスク境に地色あるいはクリアを吹いておく、というテクもあるが、面倒臭いのと塗膜の厚さが気になるので、私はあまり使わない。

 マーキングまで終えたら、半つやクリア(46番+30番)をたっぷり吹き、2000番ペーパーで、ざらつきやマスク境の段差を削る。削りすぎは禁物。「過ぎたるは、及ばざるが如し」。ま、削りすぎたらタッチアップして、同じ工程を繰り返す。

<仕上げ>

小物その2

 バックミラー、ピトー管、ラジエータ前方の正体不明の管を自作。あとは排気管で小物は終わり。この時代の飛行機はシンプルでいいなあ。
 記録写真を見る限り、アンテナ柱に三角形の板がないものは、柱からはアンテナ線は張られてない。本機では、胴体ラウンデル中央付近から両水平尾翼に伸びるのみ。
 主車輪は、タミヤはハブのモールドが実感たっぷりなのだが、ハブの直径が大きく、バランスが悪い。ハセガワはハブの直径は正しいが、モールドがあっさり。どちらを選択するかは好みの問題。私はプロポーション重視でハセガワ。尾輪は、ハセガワ\が、タイヤのモールドがはっきりして塗り分けが楽。


はんだづけの状況。手近な木片に真鍮線をテープで仮止め。フラックスをたらし、はんだゴテを当てる。真鍮線をはんだの融点まで加熱することが肝要。

固着後に余分なはんだを削り、真鍮線を切り落として出来あがり。一番左はバックミラーのステー。ついでに次作の分も作っておく。

 

 はんだづけは、プラ細工とは違った楽しさがある。なんか大人のモケイって感じがするでしょ。未体験の方はぜひ一度お試しを。
 必要な道具は、はんだごて:小さいもので十分、はんだ:細い方が作業性が良い、フラックス:大きなDIY店なら置いている、それと木片。

 

排気管 11/26追加

 当初、キットパーツをしこしこ削り込んでいたが、東神奈川のモケイラッキーでモスキットを発見、購入。若干オーバー・スケールな部分もあるが、形状の雰囲気は大変良く、エッジの鋭さはピカイチ。胴体組み立て後でも何とか装着可能。タミヤ用と書いてなくても排気管パーツ自体は同じ。
 実機では、前2本と後1本では、排気口の形状(三日月と丸)、太さが異なるが、キットは曖昧。キットパーツを使うなら、穴開けついでに形状を直すとよい。よくよく写真を見ると、溶接ラインにはバリエーションがある。


脚ロック用のリングは、ウェザリング中に両方とも折ってしまい、プラ板で作り直し。実機どおり少々後方に倒して接着。

モスキットの排気管は素晴らしい出来。値段は高いが購入の価値大。最近また流通しているようである。3つのパーツを瞬間でつなげ、基部をやすりで削る。はんだづけしたいところだが、手が3本ないと無理??。

 

ウェザリング

 いよいよお楽しみのウェザリング。前からやりたかったRN◎Nのカラー写真の、ドロドロに汚れた状態をイメージ。旧版世傑の写真が大サイズで参考になる。でも、なかなかここまでは汚しきれない。翼前縁が相当汚れている。これはエナメルの黒を薄めて吹く。排気汚れは、エナメルの黒とタン。タンの面積を広く。筆にエナメルシンナーをつけてサッと上下に撫で、雨だれを表現。翼付け根のはがれも著しい。ここはエアロディティールのT型も参考に、外板の下の骨組みを意識した銀はがし。一部プラ地がでてしまったので、銀でタッチアップ。また、ダーク・グリーンが削れて下地のダーク・アースが出ているように描き込むが、実際にはウソかもね。

 私のウェザリング手法は、大別すると「ぼかし」系、「流し」系、「描き込み」系、「はがし」系の4系統。それぞれにまた、材料、技法の違いがある。これらを複合すると深みのある表現になる。
 「ぼかし」は、エアブラシや乾いたパステル粉。「流し」はスミ入れウォッシング。これもエナメル系から、水溶きパステル、水彩絵の具まで。「描き込み」は面相筆でリベットやパネルエッジのはがれなどを描く。「はがし」は銀はがしがその代表。下地に銀を塗り、塗料をはがす。また、下地をダークグレーにして、細かい番手のペーパーを使うとドイツ機独特の「かすれ」が表現できる。

 エアブラシでの「ぼかし」は、ラッカー系、エナメル系を使い分ける。エナメルは失敗しても拭き取れる。雨だれ表現も出来る。パステルは、黒、茶、グレーなどをペーパーで粉状にして、筆などでモデルに乗せる。最近は使い捨てブラシなるものを愛用。気に入った表現になったら、ラッカー系シンナーで定着。

 ウォッシングもパステル粉を石けん水で溶いて使う。界面活性剤の働きで、スジ彫りや凹部によくなじむ。生の黒ではきついので、スジ彫りにはダーク・グレーあたりを使う。これも塗装色によって変える。ガンダム・ウェザリング・カラーも便利。黒やタンなど適当に混ぜ、水で薄めて使う。界面活性剤が入っているのか、モデル面への馴染みがよい。

 エナメル系は、プラを劣化させるので、脚柱に使うと悲惨な目に遭う。また、わずかだがラッカーも侵すので、エアブラシのぼかしが消えてしまうこともある。排気管は、黒を濃く溶いて塗り、乾いてからエッジなどこするとイイ感じ。

 描き込み系は、あまり普及してないが、新たなテク開拓の可能性のある分野。また作者の個性も出せるのでは。リベットでは、そのものを描くのではなく、その周囲の汚れや塗装のはがれを描いているつもり。だから機体全面ではなく要所に絞る。
 パネルエッジは片側だけ描くことで、パネルに段差があるように見える。これはよく考えると、AFVのドライブラシと同じ原理で、方や物理的にエッジに塗料を乗せるのに対し、「もし段差があればこうなる」ように描き込むだけの違いともいえる。

 銀はがしでは、ピンセットやけがき針などでガリッとはがす。ペーパーも荒い番手がリアル。逆に銀塗装面に凸凹をつけ、細かい番手のペーパーというテクも思いついたのだが、まだ試してない。
 きれいな塗装に銀はがしだけやると、ギャップが大きく違和感がある。そのときは描き込み系を加えると、それがギャップを埋める階調となり自然な感じとなる。



排気汚れは、エナメルの黒とタンを吹く。雨に流れた状態を面相筆で表現。仕上げにパステル。

リベットもニュートラル・グレーで描き、さらに黒のパステルでぼかす。パネルのエッジも同色。外板の段差を感じてもらえれば成功。

 

インレタと最後の仕上げ

 英軍機特有のステンシル・データ、実はサンダーボルトのときに作ってあるのだ。シリアルのステンシル表現は、貼る前に裏からナイフで切り取る。しかし、シリアルはヨレるし、細かい文字が欠けたりで、思った通りにならない。

 インレタをモデルに貼る際は、テープ等で位置の目印をつけておくと失敗を避けられる。上からシンナーを吹くと、小さい文字などがはがれにくくなる。
 仕上がりの効果を考えると、決して高価とは思わない。何ヶ月も精魂込めた作品を飾るのだから。デカールにないマーキングも可能だし、何機分も作っておけば、デカールより割安。おかげで、最近は強迫観念でデカールを買うことが無くなった。

 

 機銃口の防塵シールは、手持ちエアロマスター・デカールから、ダル・レッドの部分を4×6mmに切って貼る。脚出視示棒は、0.5mm真鍮線を板状に削り、外側に傾けて取り付け。最後にアンテナ線を張る。まず胴体側に接着し、尾翼への取り付けは、真鍮線の端部を潰して0.3mmピンバイスで穴を開け、結びつける。これも本当はウソだけど、モデルでは妙にリアル。

 アンテナ線は、渓流釣り用の極細黒色テグス。これは非常に細く、モデルの精密度向上なのだが、堅くて接着が難しく、値段もバカ高い。ちなみにスピットUやタミヤのサンダーはこれを使用。
 スピット\や彩雲などでは透明テグスを油性ペンで着色して使用。これは熱で収縮するので、瞬間でゆるめに接着してから、ドライヤーの温風を当てピンと張るテクが使える。極細黒色テグスはドライヤーぐらいでは縮まない。

重箱の隅

 ハセガワと比べると、フィレットが大きい。いろいろな写真と見比べると、ハセガワが実機に近いようだ。
 コクピット右側、第1、第2風防の境から下に伸びるパネルラインは、実機にはない。またその前方のコクピット内空気取り入れ口と思われる小インテイクが省略されている。主翼上面小バルジ後方のパネルラインは要確認事項。ない機が存在する。

<完成>

 程々の達成感で完成。後部胴体と機首がスマートになり、スピティの優雅な中にも研ぎ澄まされた美しさを再現できた、と自画自賛。スピナも殆ど無修正なのにサイズ、形状ともばっちり。細部ではあちこち失敗した部分もあるが、あえてやり直さず。このあたりが「肩の力の抜け具合」ということで。

 U型への改造は、簡単な手間で人と違った作品になるので、お薦め。

おまけ

 新飛行場建設工事が完成。サイズは旧飛行場と同じ90×60cmだが、板を分割してスロープと踊り場を設け、遠近法での正しい地平線の高さに滑走路端が位置するようになった。
 草は秋葉のイエローサブマリンで購入したハドソン&アレン・スタジオ(Hudson & Allen Studio)製。1袋820円と若干高価だが、ご覧のとおり質感は最高。春ターフと夏ターフ1袋ずつをブレンド。板に木工ボンドをたっぷり塗り、降りかける。少々ダマでも、板を斜めにしてトントンたたくと上手く広がる。2袋では90×60を完全に埋めるには不足で、あと2袋くらい必要だが、写真撮影のセットとしては辛うじて実用範囲内。

 

<参考資料>

参考文献

 大好きな機体なのだが、塗装・マーキングのいい資料が少ないのが残念。なお、後期マーリン、グリフォンのみの資料も合わせてリストアップしている。

 

@ 世界の傑作機(新版:No.25、No.102の2冊) 文林堂
A 世界の傑作機(旧版:マーリン、グリフォンの2冊) 文林堂
B 航空ファンイラストレイテッド No111
第二次大戦ドイツ空軍・イギリス空軍戦 場写真集
文林堂
C 航空ファンイラストレイテッド No93
Veterans いまなお飛行可能な大 戦機たち
文林堂
D エアロ・ディティール8
ヴィッカース・スーパーマリン スピットファイア Mk.T〜X
大日本絵画
E エアロ・ディティール27
マーリン スピットファイア(Mk.Y〜]Y)
大日本絵画
F オスプレイ軍用機シリーズ
スピットファイアMkT/Uのエース1939−1941
大日本絵画
G オスプレイ軍用機シリーズ
スピットファイアMkXのエース1941−1945
大日本絵画
H RAFのエースたち 戦車マガジン
I ミリタリーエアクラフト 第2次大戦のイギリス軍用機 デルタ出版
J モデルアート臨時増刊No.387 スピットファイア モデルアート社
K Spitfire in action aircraft no.39 Squadron/Signal Publications
L Fleet Air Arm Squadron/Signal Publications
M Supermarine Spitfire Bison Books
N The Royal Air Force of World War Two in Color Arms and Armour
O Aerodata International No2 Supermarine Spitfire I&II Vintage Aviation Publications
P Warpaint series No.20 Supermarine Seafire Hall Park Books
Q The spitfire, Mustang and Kittyhawk in Australian service Aerospace Publications
R Sie flogen die Spitfire Motor Buch Verlag
S Warbird Tech vol.32 Griffon-Powered Spitfires Specialty Press
21 Monografie Lotnicze 71 Supermarine Spitfires cz.4 AJ-Press

 

前ページに戻る   HOME