鍾馗 裏ページ

2009.2.2初出






■ はじめに

 零戦製作記で予告したとおり、次作は鍾馗。表ページに先行して「鍾馗裏ページ」をお送りする。裏が先なのは、考証面で詰め切れてなく、鍾馗に本格的に着手するか、決心がついてないため。皆様のご支援を切に期待する次第。

 例により「裏ページ」では、表では出せない画像による考証を中心に展開していく。なお、当裏ページは、あくまで個人的なメモで非公開という位置付けとしているので、ご理解ご配慮いただければ幸いである。

 また、考証間違いなどあれば、ぜひメールなどでお知らせ願う(アドレスはHOMEページから)。追加情報、関連画像等は大歓迎である。

 2024/4追記。鍾馗図面作成開始に伴い、現在の考察と異なる部分について、内容を改訂(or削除)する。修正しきれてない部分もあるだろうが、そこは図面のページが正とお考えいただきたい。


■ コクピット内部の塗装

 鍾馗のモデルを製作するにあたり、一番気になるのがコクピットの塗色。これが解決しないと先に進めない。まずは、全部の手持ちカードを開陳する。なお、資料の出展は、特に明記しない限り、下記参考文献のどれかである。



情報として貴重な一葉。整備兵の服、手袋や、機器類と較べたコクピット内壁(画像左上のあたり)の明度(結構暗い)が興味深い。一連の写真からU型と思われる。

計器板。黒というよりは、コクピット内部色と同じように見るが、露出のせいとも考えうる。なお、画像は縦横比の関係で横倒しにしているので、ご注意を。

これは増加試作機のもの。わずかに計器板上部が見える。一見、黒より明るい感じがするけど・・・。胴体外板を見れば露出過多だし、照準器との明度差では黒もあり??

風防内側は暗色。おそらく黒。風防正面上部の横棒はガラスの内側にあることが分かる。小穴は1/48では再現不可能だな。

乗降ドア内側は、それほど暗くは見えない。機体は無塗装のU型乙前期生産型。

同じくドア内側。こちらも明るめ。ヘッドレスト後方の穴にも注目。II型丙。

点検パネルから見える機体内部は無塗装のようだ(この考察については後述)。キャプションによればU型丙。

高荷さんのイラスト。灰緑色で描いているけど、根拠があるのだろうか。


 MA塗マ本(文献-8)の記述では、鍾馗のコクピット、脚収容部などは青竹と明記されている。しかし、この本は古いし、鍾馗や飛燕などの無塗装機の羽布を明灰緑色とするなど明らかな間違いもあるので、全面的に信用するのはちょっと不安。一方、最近出版された学研隼本(文献-10)には、昭和18年中頃から陸軍機の機体内部塗装が変わり、胴体内部などは無塗装、コクピットは灰緑色になったらしい、という考察がある(灰緑色の色調は疾風のプロペラと同じとしている)。以下、該当部分を引用する。


『・・・「隼」の機内全体に塗られていた「淡青色透明」塗料が十八年六月に廃止され、内面は無塗装に変わった。但し操縦席周辺にだけは塗装を施すことが定められたようだが、その色調はこれまで明らかではなかった。
 最近、二式複戦「屠龍」の現存残骸片や四式戦「疾風」の機内カラー写真などから、この時期の陸軍機操縦席はグレー・グリーンで塗られていたことが分ってきた(正規の色名は不明)。十八年中期以降の「隼」の操縦席も、この色で塗られていた可能性がある。
 機内の塗色変更とは関係なく、計器板は各型とも一環して『黒色』で塗られた。・・・(中略)
『・・・十九年後期から陸軍機用プロペラに新塗装が出現している。これはブレードの表裏全体をグリーンに塗装したもので指定塗色名は明らかではないが、図に示した操縦席部塗装用のグレー・グリーンと同色だった可能性が高い。陸軍は塗料の色数そのものを制限しようとしていた。・・・』



 改めて上に示した画像を眺めると、モノクロ写真では灰緑色とも青竹色とも判別はつかないが、無塗装の胴体内部や高荷氏のイラストは灰緑色説を支持している。ちなみに、鍾馗の生産は19年末まで続いた。


■ 脚収容部、脚カバー内側

 模型の工程からすると、脚部の考証はもっと後でもいいんだけど、コクピットと関連して議論するため、脚まわりも見ていこう。




U型丙の脚回り。下からの照明により明瞭に分かる。三日月形の車輪カバーは暗色(青竹?)、脚カバー内側は明色(無塗装)なのが一目瞭然。収容部は暗色っぽいが、部分的に無塗装部もありか?

同じくU型丙。左画像と同じく、車輪カバーと脚カバーの内側色は異なる。

型式不明。収容部は明瞭に暗色。ディティールもかなり判明する。一方、翼内部やフラップ収容部は無塗装だ。

増加試作機。この頃は脚カバー裏側も青竹あるいは灰藍色らしき暗色。上画像と比較すれば、暗色、明色の違いがよく分かる。

47戦隊のU型甲。U型丙の脚カバー内側と比較すると、丙はリブあり、甲は平らというバリエーション違いがある。(知らなかったでしょ)

同じく明野のU型甲。こちらも脚カバー内側は平ら。しかも暗色。表のリベットラインも若干異なるようだ(画像はあとで)。また、脚柱下部が暗いが、他の写真でもそう見えるものは多い。



■ 現段階の結論

 ということで、以上の材料から導かれる現時点での私の考証は次のとおり。コクピット内部は、U型乙あたりから以降については灰緑色。これは同じ中島製の零戦や彩雲とも近いか同じ色調かも。計器板は黒。初期のコクピット内部は、隼と同じだと思うんだけど・・・(学研隼本では、昭和15年にそれまでの灰藍色から青竹色になったとの記述)。その他の機体内部は無塗装。

 脚カバー内側は、当初(T型〜U型甲あたり)は青竹で、ある時点(乙あたりか?リブが現れる時期も同じか?)から工程省略で上部の小片含め無塗装。一方、脚収容部と車輪カバー内側は、T型からU型丙まで一貫して青竹(この色使いは、偶然か拙作零戦と同じ)。なお、隼の場合、U型あたりから脚収容部が無塗装(or下面色)なのが写真で確認でき、鍾馗とは傾向が異なる。また、ここでの青竹は灰藍色の可能性もあり。

 以上、正しい保証は全く無し。どなたか、部品、写真、その他情報をお持ちならば、お寄せいただけるとありがたい。


■ アウトライン・チェック 2/10追加

 ハセガワの1/48キットは、総じてよく実機の雰囲気を再現しており、細かいことを気にしなければ素組みでも十分である。チェックすると気になるところが出てくるけど、今回はさらっと作るつもりなので、程々にするつもり・・・

ところが、

 1/32鍾馗の発売!がアナウンスされて、心境が変わる。1/48のミスを繰り返して欲しくないので、あえて厳しめのチェックをかけたい。1/32サンダーボルトの悲劇はもう沢山なのだ。設計に間に合えば嬉しいのだけれど。


■ 鍾馗のデザイン

 外形チェックの前に、鍾馗の日本機離れしているデザインについて触れておく。九七戦から続く軽戦思想と鍾馗のコンセプト、陸軍の無理解ぶりなどは、語り尽くされているから他に譲るとして、そのコンセプトが形として具現化したのが、小さな翼に頭でっかちのフォルムである。

 だが、よく考えてみると、確かに戦闘機エンジンとしては日本軍の「常識」からすると大直径(1,263mm)、大馬力のハ-41(U型以降は2速過給器のハ-109だが直径は同じ)を装備しているが、欧米の常識からすれば普通、むしろ小振りである(下表参照)。


エンジン 直径 使用機
ハ-45(誉) 1,180mm 疾風、紫電改、彩雲
ハ-112(金星) 1,218mm 五式戦、彗星
ツイン・ワスプ R-1830 1,224mm F4F、P-36
ハ-41(ハ-109) 1,263mm 鍾馗
BMW 801 1,316mm FW190
ハ-101(火星) 1,340mm 雷電、天山
ダブル・ワスプ R-2800 1,341mm F6F、F4U、P-47
ライト・サイクロン R-2600 1,397mm ヘルダイバー、アベンジャー


 ところがその姿は、やっぱり頭でっかちである。なぜか。実はエンジン直径以上に頭でっかちなのだ。下画像をご覧いただきたい。カウリングの直径はエンジン直径よりかなり過大。カウリングとエンジンの間には「隙間」があるのだ。前面投影面積を極小にして、空気抵抗低減を図ろうとする当時の設計思想からすると、無駄、あるいは贅沢というべきこの隙間。こんなデザインの日本機、他にない。これを「日本機離れ」と呼ばずして・・。エンジンの後ろを絞って構造重量と摩擦抵抗減少を図るという中島の設計思想とも逆行している。

 ちなみに、ライバル雷電はさらに大直径の火星エンジンを使いながら、カウリングの直径はエンジンぎりぎりで、ある意味すごく日本的。余談だが、雷電の敗因は、空気抵抗を過剰に意識したための機首延長→エンジン軸延長と強制冷却ファン→これに起因する振動問題。結果的に新機軸を持ち込まなかった鍾馗の勝ち。設計者の意図は、エンジンとプロペラの位置関係を変えずに、空気の流れをスムーズにするための大直径カウル、と理解するのだが、これって本当に空気抵抗の減少に効果あったのかなあ。



青い四角がエンジン(エンジン先端とカウルのアクセルパネルのフレームとが一致する)。カウルフラップ前端付近ではエンジン直径より胴体がかなり太く、エンジンとカウルとの間に隙間ができる。

エンジン先端とカウル前部、エンジン後端とカウルフラップの位置関係に注目。穴あきのステーを見ると、エンジン外周とカウルフラップとの間に、かなりの「隙間」があることが明瞭に分かる。

さらに。エンジン前端はカウルのパネルライン位置ぎりぎりというのが分かるね。

もひとつ。より隙間が明瞭。人物と比較すれば、握り拳大より大きな隙間。隙間の実寸は10cm程度か?


 これはどこの文献でも見たことが無いが、もしかして設計者は水面下で火星エンジンへの換装を意図(あるいは期待)していたのかもしれない。火星の直径は1340mmで鍾馗のカウル直径は1430mmだ。


■ 胴体平面形

 いよいよ本題。「図面を読む」松葉氏の図面とキットの胴体幅を比較すると、1/48実寸で2mmほどキットが太い。これだけ違っていると、どっちが正しいのか気になるところ。これは検証しなくては・・。図面では防火壁(1番フレーム)での胴体幅を1,050mmとしている。この数値は、現存する鍾馗の取り扱い説明書に「最大胴体幅」として記載されているもの。ふつうに胴体の最大幅と考えれば防火壁かな、それなら図面が正しいかな、と一瞬思ってしまうのだが、よ〜く見ると何かおかしい。



松葉氏の図面を横に圧縮。赤線は防火壁で、この幅を1,050mmとしている。赤四角はエンジン。カウルとの隙間に注目。

写真を横方向に圧縮。真上からの撮影でないので確証はないが、左の図面ほど胴体は絞られていないように見える。


 上に示した図面は、防火壁で1,050mmにするため、太い機首から防火壁の間で、胴体幅をかなり絞っている。そのため、前述のカウリングとエンジンとの間の「隙間」がないのだ。これはどう見てもおかしい。さらに実機を上から撮影した写真を見ると、図面のように顕著には胴体が「くびれ」ていない。

 そこで下左画像をもとに防火壁の実寸を算出する。取説の主翼平面図などから、左右の機銃付近のパネルラインの間隔の実寸値は、多少の誤差はあったとしても既知。あとは比例計算だ。そうして求めた防火壁の幅は1,300mm前後。とても1,050mmにはならない。やはり、図面が違っている。

 また、図面では2番フレーム(上図面で黄色)のところで胴体平面形が屈曲するが、これが正しいかどうかが第2の命題。写真では3番フレームで曲がるように見えるものもある(はっきりとはしないが)。製造上の都合で考えれば、屈曲点にパネルラインがあった方が、外板の取り付け作業が簡単。で、パネルラインはというと、3番フレームにある。よって私の結論は3番フレーム。

 以上を図示したのが、下右図の青ライン。この胴体幅(1/48実寸値)は、カウル最大幅=30mm前後、防火壁=27mm前後、3番フレーム=22mm前後となる。カウルとエンジンの隙間に注意。既存図面と比べればその差は実に5mm(片側2.5mmずつ)。これはすごい誤差だぞ。ちなみに、キットのアウトラインは、この青線と元図面の中間あたりにあり、キットも実機より2mmほど細いという結論になる。



この写真で、防火壁の幅(緑)と左右の翼機銃パネル間隔(赤)との比率で防火壁の幅を算出する。結果は図面の1,050mmにはならない。なお、算出にあたっては、遠近法の誤差を排除するため、防火壁と同じ距離のところで比較することが重要。

青線が私の推測する正しい胴体ライン。多少の誤差を含むし、カウルのラインはテキトーなので、あくまで参考程度にご覧いただきたい。ラインの屈曲点は3番フレーム(緑)とした。


 この図面のミスは「胴体最大幅=防火壁幅」と誤解したのが原因だろう。現存取説に胴体平面図がないのが誤解のもとだね。私の計算では、3番フレーム(緑)の幅が1,050mm前後となる。

 なお、今回松葉氏の図面を参照したが、「世傑」野原氏の図面も基本的に同じ。「丸メカ」渡辺氏はそれより若干太く(防火壁で1,150mmくらい)、ハセガワキットはこれに近い。また、「ホビーショップはせがわ」や「TCベルグ」のレジンキットは松葉氏図面に近いとのこと。おそらく立体で見るとかなり違和感があると思う。見てみたいな。


 さて、次回更新では、キットの後部胴体の断面形状を検証する。実機以上に細くしているため(?)に、胴体断面形が違っている。また、その結果かキャノピ形状にも影響が出ている。


■ 胴体断面形 2/12追加

 一昨日に続いて、怒濤の更新なのだ。

 胴体断面形では、胴体から主翼への凹カーブというか、フィレットの上側というか、くびれが強すぎ。後半部は側面のふくらみが足りなく平板な感じ。断面形でいうと、キットは長方形の角を丸くしたイメージだが、実機は菱形の角を丸くしたイメージ。キットの平板感は、胴体幅を無理矢理狭くしたことが影響したのかな。



フィレット付近の胴体断面形に注目。リベットラインや白帯があるので、形状が把握しやすい。

もいっちょ。胴体の高さ中央のところが外にぐっと張り出した感じ。

これもどうかな。ところで、キャノピ上部の窓枠は、ある時期まではこの写真のように後半部がガラスの内側にある。

胴体帯により後部胴体の断面形がよく分かる。胴体尾部と垂直尾翼との関係(断面形)にも注目。

キット。赤丸付近がくびれすぎか? それともフィレットがでかいのか? 両方かな。

胴体尾部は、側面のハリが不足気味で平板な感じがする。


 垂直尾翼付近の胴体断面形も要注意。ラダー分割線のところに着目すると分かりやすい。横パネルラインのところで折れ曲がる。水滴形断面の胴体に、板状の垂直尾翼が乗っかる感じ。



「25」の前方のパネルラインのところで外板が屈曲している。そのほか、ラダー下端が尖っているとか(画面切れてるけど)、尾部について見るべき所の多い写真だ。

キットはそのあたりが曖昧。胴体からなめらかに尾翼に移行している。また、垂直尾翼前縁が厚いのもNG。



■ キャノピ

 モデルの印象に影響大なのが、可動部キャノピの形状。キットは「太い胴体に小さいキャノピ」という印象を強調しすぎで、全体的に高さ不足。これは(胴体+キャノピ)の高さ不足ではなく、キャノピと胴体との分割ラインが高いため。また、実機は要素々々が直線でそれを曲線でつないでいるというイメージだが、キットはそれが曲線になっていて締まりがない。

 キャノピ下端の下がり不足は、胴体断面形が影響している可能性大。おそらく、キットの胴体の肩が張っているため、キャノピとの取り合いラインが上にズレてしまったのだと思う。逆に、下端ラインを下側に修正しつつ、胴体と合わせようと思えば、当該部分の胴体を少し削ってやらないと納まらないはず。

 ついでに言うと、ハセガワ1/72のキャノピも下端ラインが全然違っており、修正するなら、キャノピ平面形状から直す必要がある(キットは、上から見たとき、側面の湾曲が強すぎる)。

 風防は、それほど悪くないが、正面ガラスの傾斜が気持ち後傾気味かな。実機はもっと立っているが、修正は結構面倒臭いぞ。



可動部キャノピ後半部の形状に注目。僅かに下方から撮られているので、キャノピ高さは実際より若干低く見えているのに注意。

下端ラインは、ぐっと下に下がって、途中で「かくっ」上へ折れ曲がる。ちょっと上から見下ろしているので、キャノピが高く見えるが、下端ラインの感じはこちらの方がよく分かる。キャノピ内の胴体上面の穴にも注目。

前から見ると、正面ガラスの下辺の湾曲がかなり強いのが分かる。

キットの下端ラインは下がり方が不足で、折れ曲がりのカーブが緩い(青矢印)。上端も直線であるべきところが曲線となっており(赤矢印)、形に締まりがない。


 形状チェックはまだまだ続く。次は主翼の予定で鋭意検証中。胴体側面形も残ってるし。


■ 胴体絞り込み 補足 2/18追加

 ガウディ名人から、参考図を頂いた。これを見るとわずかな逆R(というか折れ線。曲線ではない)で胴体が絞り込まれていることがわかる。いずれにしても図面のような極端な逆Rではない。毎度情報感謝。






■ 翼厚比 

 次に主翼を見ていこう。まずは翼厚。

 下画像により、付け根部分の翼厚(線分bcの長さ)を求めよう。基準となる胴体高さ(線分ac)は図面より1/48実寸で32mm。これに画像に定規を当てて測った線分acとbcの長さの比を乗ずれば、bc≒7.5mmとなる。

 同様に、翼中央付近(de)、翼端部(fg)でも厚さを算出。このとき、de、fgはacよりカメラに近いから遠近法の誤差が生じる。そこで、キャノピ後端(hi)の写真測定値と1/48実寸値との比率などを参考にしながら、遠近法の誤差を除去していく(詳しい計算方法は省略するが、要は比例計算により、カメラから等距離の胴体高さを基準に翼厚の比から計算。どこが等距離になるかは模型片手に目見当)。





 写真から数値を計算する場合、なるべく複数の写真を使って複数の計算値を求めると、間違いが少ない。そこで、下画像からも翼厚を計算しよう。上と同じく単純に緑線と赤線のところで計算すると付け根で8.5mmという計算結果。さっきは7.5mmだったのに何故?? どうやら、スパン方向に近い視点から見ているため、翼の最大厚さ以上に厚くみえるようだ。そこで黄色線とピンク線を最大厚位置(翼弦30%)として計算すると翼厚≒7.5mmmとなり、1枚目の画像と同じ結果。





 こうして、各部の翼厚比を求めると、付け根(胴体中心線上)で17%、中央15%、翼端(削ぎ上がりの始まる所)12%程度となる(下表参照、なお数値は1/48実寸)。なお付け根の翼厚比には車輪収容部バルジは含めていない。バルジを含めて翼厚比を算出すると15%弱となり、文献で見られる14.5%という数字にほぼ整合する。


位置 翼厚比 最大翼厚 中心線からの距離
付け根 17% 7.5mm 0mm
フィレット境 16%強 6.7mm 17mm
エルロン境 15% 5.3mm 48mm
翼端 12% 3.0mm 95mm


 以下、関連する写真を並べるので、ご自身の目で判断いただければ幸い。








 2024/4追記。上記考察は、主翼翼厚変化率の違い(機銃部分での折れ曲がり)を考慮していないため、翼厚比がやや過大になっている可能性大。ただし、過大といってもせいぜい翼厚比として0.5%程度の違いと考える。


■ 翼厚変化

 鍾馗は機銃部の翼が厚いといわれている。付け根から中央部までと、そこから翼端までとでは、翼厚の変化率が変わり、機銃付近までは翼厚の減少が少なく、そこから先で翼厚が大きく減少する。そのため、翼上側、下側とも途中(内外翼接合部と考えるのが自然)で折れ曲がって見える。もちろん、付け根より機銃部の方が厚いということはない。

 2024/4追記。この折れ曲がりは、上下面どちらか片方なのか、両方なのか。下面は平ら、という説もあるようだ。写真だと両方折れ曲がっているように見えなくもない。



翼厚計算に使った写真を横1/4に圧縮。上縁、下縁とも折れ曲がる。

これも横に圧縮しているが、上縁の折れ曲がりが明瞭。



■ ねじり下げ

 主翼の取付角は2°、ねじり下げ-2°と書かれている。古い航空ジャーナルの記事では「内翼はねじり下げなし、外翼でねじられる」と渡辺氏ご自身が図入りで書かれている。ただし、写真では内翼前縁のバルジ、後縁の平面形の屈曲のため、よくわからない。このとおりだとすると、翼厚変化とねじり下げのデザインは零戦の翼によく似ている。ただし航空ジャーナルの図では前縁ラインは零戦のサインカーブでなく一直線。内外翼接合部で折れ曲がる。


■ 翼型

 次に翼の断面形について見ていこう。文献によると、付け根と翼端では翼型が変わるらしいが、どっちも翼型データが入手できない。写真で目に見えるところだけで検証していく。後日追記、翼型データ入手。



補助線を引いてみると、上側に大きく膨らんでいるのがわかる。

白帯で断面形が把握しやすい。上方への湾曲、先端の尖り具合などよく分かる。

先端の尖り具合、翼端の削ぎ上がりに注目。前縁ラインは零戦のようなサインカーブ状にはなっていないようだ。

下面側。どうも白帯がきちんと塗られていないようなので、断面形を見るときは惑わされないように注意。



■ コクピット 2/26追加

 「SEA & SKY」誌 ‘77年11月号に掲載された長谷川一郎氏のイラストの画像を頂いた。資料の乏しいコクピット内部がわかる貴重なイラストである。おそらく最近の出版物には掲載されてなく、掲載誌は入手困難と思われるので、ここに掲載する。






 ミケシュ本からU型丙製造番号2143号のコクピットならびに配電盤。新1/32ではどうなっているかな?







■ その他

 現存する鍾馗のパーツの写真があるサイトを教えて頂いた。脚収容部のディティールや残された青竹色、翼断面形(先端の尖り、上下面の湾曲具合に注意)など大変興味深い。以上毎度情報提供感謝。

 このサイトにある翼を後ろから撮影した画像では、翼後縁ラインは胴体下端ラインより上に位置する。キットではこれが一致しており、つまりキットは翼取り付け位置が若干低い。(下図参照)
 主翼取り付け位置の間違いは、キットを真横から撮影し、これを実機のほぼ真横からの写真に重ね合わせると、キットは腹が垂れ下がり気味であることでも確認できる。









■ ハセガワ1/32鍾馗 5/19追加

 表ページに、木型で見る限り1/48の問題点が改修され、素晴らしい出来のキットが期待できる旨書いた。これはそのとおり間違いなく、ハセガワの開発姿勢には頭が下がる。特に、胴体平面形や胴体断面形は実機のイメージをよく再現していると感じる。

 ただし、杞憂かも知れないが重箱の隅をつつくと気になるところが無いわけではなく、気付いたところをコメントしたい。写真と見比べたわけでなく、あくまで印象(=私の脳内イメージとの比較)なので、勘違いもあろうかと思う。そこは割り引いて読んでいただきたい。






気になるところその1:キャノピ側面形、断面形

 可動部キャノピ下端の側面形状は「カキッ」と折れ曲がるところが表現されて良くなった。ただ、側面形における上端ラインは、可動部前半の水平部分が長すぎる気がする。折れ曲がる位置(下画像黄色矢印)がもう少し前進するとよいのでは?。

 また、可動部後半の斜めになっている部分(下画像赤丸)は、実機ではガラスが2次曲面(かそれに近いか)になっているところ、木型は3次曲面というか凸曲面というか丸みがあるように思われる。これは70戦隊本の表紙にもなっている機番12の有名な空撮写真で、ハイライトの入り方などでイメージが把握できる。ただし、そうした場合に胴体との取り合いがどうなるかまで、3Dで検証したわけではないので悪しからず。






気になるところその2:主翼(翼型、取り付け位置)

 主翼は、翼後縁と胴体の位置関係が1/48キットと同じ、つまり翼取り付け位置が1mm程度低い(前回更新参照)。翼厚の変化やねじり下げまでは分からなかった。


気になるところその3:細部

 表に書いた主翼バルジ上部の斜めのパネルライン(下左画像)は、やっぱ「なし」が正解だと思う。理由は、パネルラインに該当する骨組みがないから。新世傑p36にラインありに見える実機写真があるが、よく見ると写真のキズのようだ。

 追記。パネルラインは、格納時の脚柱と平行で、脚庫のリブと重なる位置にあると思われる。



キットはこのパネルラインありとしている。


 また、外翼部のパネルラインは、検証できる写真に乏しく確証はないのだが、私は下画像赤線のパネルライン「あり」とする。根拠は下画像。ただし、それが翼端まで続くのか、途中で終わるのか(例えばどこかのリブからリブ沿いに前方に折れ曲がるとか)については確証ない。まあしかし、この辺は彫るも埋めるも簡単だから、キットの問題点とは考えていない。モデラーが好きなように作ればよいのだ。



キットにはこの赤線ラインはない。ないとパネルが大きくなりすぎて不自然。あった方が製造上都合がよさそうな気もするし。

パネルの色違いで、ラインありに見える。日の丸付近の汚れを見ると、翼端近くの前後に走るパネルラインまで続いているようにも見えるが、確証はない。




■ 1/32新キットレビュー 8/11追加

 まずキットの美点から。胴体形状が今までの間違った図面から離れて実機に近づいた。これは大いに評価できる。胴体中央部付近の断面形もいい感じだ。コクピット前方の断面形の解釈は両肩が削ぎ落とされたラインで、これが実機どおりなのか検証できる写真に乏しく断定はできないが、私としては合理的で納得できるものである。




1/32新キット。胴体のイメージはいい感じ。

エンジン後方の胴体絞込みも穏やか。


 新キットで気になるのが、垂直尾翼付近の胴体断面形である。キットは胴体から延びている部分の肩が張っていて、垂直安定板にくびれがついているようになっているが、実機ではもっとなだらか。実機では水平尾翼付近の胴体上部断面形は、肩が削ぎ落とされオニギリ形断面となっていて、それがそのまま垂直安定板につながっている。70戦隊や47戦隊の部隊マークがこの部分にかかるので、意外と目立つと思うぞ。ここは裏打ちしてから肩の張り出しを削ってやるとよいだろう。



テープを貼ったあたりの断面形が気になる。

後方から。下画像と比較されたい。

再掲。キットはこのあたりの断面形がイマイチ。

再掲。光っていて分かりづらいけど、水平尾翼付近の断面形がなんとなく分かるかな。


 このあたりの解釈を概念図にしたのが下図。左が実機、右がキット。グレイが胴体からつながっている部分、青は垂直安定板で、そのくびれを埋めるのが黄色だ。グレイから黄色にはなだらかにつながるが、赤矢印のところではクッキリ折れ曲がり、ここにパネルラインがある(上画像参照)。

 キットは、黄色部分がなく、グレイの肩がはっているため、緑矢印のクビレが生じている。また実機赤矢印の折れ曲がりも不明瞭。なお、あくまで概念図なので、正確な形ではない。実際はもっと胴体断面はひし形を丸くしたようになっていて峰が尖っている。

 次に、1/48キットでこだわった胴体幅と翼厚について、ノギス、電卓片手に検証してみよう。

 胴体幅については、新1/32キットは1/48キットよりも幅広となった。第3フレームの幅を取説にある1,050mmとしていると考えられ、そこを基準に胴体ラインを決めた結果ではないかな。

 主翼は、私の計算値より薄い。実機写真から翼厚比を計算して、付け根(機体中心)が約17%、フィレット境で16%強(いずれも翼弦長から脚収容部バルジは除く)、内外翼境で15%と推定したが、キットではフィレット境で14.6%(1/32実寸で1.0mmの差)、内外翼境で14.3%(実寸で0.4mm)である。翼型は、前縁が尖ったところなど、改善されているが、後縁ライン(の延長線)が胴体下面より上に位置するべきところが、そうなっていない(1/48と同じミス)。

 私なら、主翼は付け根で1mm厚さを増し、胴体取り付け位置を1mm上げる。まあしかし、これはあくまで私の解釈であり、写真からの読み取りは誤差を含むから、絶対的にこれが正しいと主張する程のものではない。

 細部では、主脚カバーがまっ平らなのが気になる。パーツをそのまま主翼下面パーツにあてがってみればすぐ分かる。キットパーツを曲げてやりたいところだが、うまく曲がるかな? プロペラは1/48と比べれば良くなったが、あと少しだけ幅が広いとなおよい。スピナはちょっと残念。文献-3 56ページと比べれば一目瞭然。ここだけは改修してほしいな。実機に比べ、長いのか細いのか両方なのかは検証してないので悪しからず。



主翼は少々薄いと思う。修正はフィレットに影響するけど、私の1/48のようなやり方だと結構簡単にできるよ。

スピナの形状が不満。全体に痩せ過ぎで、先端だけつぶれてる。1/48はイイ形をしているのに何故?


 2024/5追記。現在手元に1/32キットはない。そのため、当時のチェックが正しいのか、思い込みで目が曇ってないのか、検証できない。悪しからず。


■ 参考文献

 零戦と較べ、人気や現存機の有無の差で資料の充実度もこれほどの差がある。モノグラフは合本含め文献-1〜4のみ。-5、6は-3と同じく菊池氏撮影の写真集。-3と重複する写真も多いが明野の写真など-3に含まれないものもある。-7には鍾馗を含む陸軍機のカラー写真がある。-10は陸軍機の塗装に関する新考証があり、鍾馗についても参考度大なので、あえて参考文献リストに含める。

 他に洋書のモノグラフ「Nakajima Ki-44 Shoki in Japanese Army Air Force Service / Schiffer Publications」があるが未所有。コクピットについては、ミケシュ氏著の「Japanese Cockpit Interiors / Monogram Aviation Publications」に写真等あり。未所有だが、関連ページの写しを頂いた。松葉氏著の精密図面を読む[10]もお借りした。以上資料提供感謝。

1 新版世界の傑作機 No.16 陸軍2式単座戦闘機「鍾馗」 文林堂
2 旧版世界の傑作機第14集 鍾馗 文林堂
3 鍾馗戦闘機隊帝都防衛の切り札、陸軍飛行第70戦隊写真史 大日本絵画
4 ハンディ判図解・軍用機シリーズ 12 隼/鍾馗/九七戦 光人社
5 航空ファンイラストレイテッド No.79 陸軍航空隊の記録 第1集 文林堂
6 航空ファンイラストレイテッド No.80 陸軍航空隊の記録 第2集 文林堂
7 航空ファン95年3月号 文林堂
8 モデルアート別冊 No.329 日本陸軍機の塗装とマーキング戦闘機編 モデルアート
9 モデルアート別冊 No.416 陸軍航空英雄列伝 モデルアート
10 一式戦闘機「隼」 [歴史群像]太平洋戦史シリーズ52 学研










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