中島 キ44 二式戦闘機 鍾馗 図面
2024.4.30初出
鍾馗については、図面を描くための資料が極めて限られている。実機は現存していない(中国に主翼の残骸があったが、今はどうなってるのだろう?)。写真も限られている。幸い、マニュアルは残っており、記載された寸法や図は貴重である。
ただし、距離が近く、スピナは真横だが尾翼は斜め。また約10°の俯角がある。GIMPにより、遠近法のパースを除去したものが2枚目。比べると、機首がやや小さくなり、尾翼は大きくなる。また各要素が全体的に前寄りになる。 |
1枚目。補正なしの生の写真がこれ。垂直尾翼がやや後傾しているのはレンズの歪みか、紙の歪みか。実機がこうなのか。 |
2枚目。遠近法を補正したもの。その詳細は後述。垂直尾翼がやや後傾しているところも補正(ここはちょい補正しすぎかも)。 |
この空撮は俯角があるため、主翼の陰で胴体下面ラインが分からない。そこで、下の3枚目で補完する。この写真はさらにカメラが近く、パースがきつい。画像は、主翼近くの寸法に合わせて縦横の縮尺を変更。GIMPの遠近法補正はしていない。4枚目は同じく側面形を補完するもの。こちらはやや斜め前方からだが、距離が遠い。俯角も1枚目より小さいので、胴体下面ラインが分かる。この画像は縮尺、遠近法の補正なし。 |
3枚目。撮影位置は主翼前縁付近、推力線にほぼ同じ高さ(翼端の見え方で分かる)。鍾馗は結構腹が垂れ下がっている。キャノピは見上げるため、高さが低く見える。 |
4枚目。距離による歪みが少ないのが、この写真の価値。キャノピの高さ、カウルの開口部の高さも分かる。尾翼下側が見えないのが残念。 |
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側面図出来上がり。寸法の赤字はマニュアル記載値、青字は出来た図面を測った値。青細線は、フレーム、ストリンガーの位置を示す。この近傍にリベットラインがあるわけ。 |
2枚目と重ねたところ。写真のキャノピは、切り取って移動して「閉めて」ある。 |
ちなみに世界の〇作機や大〇本絵画本の図面は、リベットラインが間違い。左舷点検パネルとその下のパネルラインの間にストリンガーが一本多いぞ。全体形状も全然違うし(キャノピが低く、機首が細く、尾翼が横長)。
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16マスの格子を斜めに見たところ。左側は大きく右側は小さく、パースがついて赤線は中央より右側に見える。 |
GIMPを使って遠近法の補正をしたもの。赤線は中央になる。つまり、補正により、赤線は左に移動する。 |
そこでまず、写真の撮影距離を計算する。これは、主翼、尾翼の見え方と機体平面形状から、図学的に割り出すことができ、結果は約40m(カメラとスピナ先端の距離)となる。スピナが真横で、ラダーは斜め前から見ることになる。その角度は約13°。cos(13°)=0.974なので、機首より尾翼は2.6%遠くにあり、すなわち尾翼高さは2.6%小さく見える。だから、その高さが2.6%大きくなるように、GINPで補正してやる。 この作業で、縦横比も変化する。ここで、カギになるのが尾翼高さの絶対値。縦横比を調整し、全長と尾翼高さを合わせる。こうして出来たのが2枚目画像なわけ。実際にはレンズの歪みなどもあって、こうは単純ではないだろうが、それ以上は追及しない(できない)。
胴体ステーション 疾風のマニュアルには、誤ったフレーム間隔が記載されていた。これに惑わされた既存図面も存在したね。鍾馗も疑ってかかったが、数値を図化して写真のリベットラインと比較すると、問題ないようだ。全長 次に全長。疾風も隼I型も、実際の全長とは異なる数値であった(←私の分析では)。したがって鍾馗も正しい保証はない。が、結果的には正しいものと思われる。傍証として、米軍測定値(と私には思われる)である29'2-1/2"をミリ換算すると8,903mmであり、マニュアルの8,900mmに限りなく近い。隼II型はマニュアルの数値が正しい。尾翼高さ 尾翼高さは、マニュアルの図には胴体基準線(=推力線)から1,200mmと記載されている。しかし、この図の他の寸法の比率からすると、1,300mmが正解で、単純な記載ミスと考えられる。疾風で思ったのだが、中島の設計は、割とキリのよい寸法が使われている。だから、1,290mmなんてのはないだろうと。胴体高さ、幅、長さ その他、胴体高さ1,800mm、胴体幅1,050mm、胴体長さ8,107mmというのがある。これ、出来た図面の胴体最高点(風防後端での風防高さ)と胴体最低点(主翼中央付近)の差をとると、1,800mmにならないのだよね。差は2cm程度だけど、無理に合わせようとすると、他が破綻する。一方、風防後端の断面で切ったときの高さを測ると1,800mmとなる。ということで、こじつけっぽい感じもあるが、こうしておく。一方、胴体長さ8.107mmは、何を表すかよく分からん。カウル先端からだとラダーの中ほどまでの長さに該当する。垂直安定板後端から測るとスピナ中ほど。エンジンのプロペラ取り付け軸先端から垂直安定板後端までか?? 胴体幅1,050mmについては、次回で考察。
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マニュアルの図。赤矢印が垂直安定板後端に見える。この線は安定板上端では、ほとんどヒンジラインの位置になる。 |
初回ここまで。次回は断面図と上面図。ハセとの比較は次回のお楽しみ。
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鍾馗の平面形が分かるほぼ唯一の写真。トリミングしているが、主尾翼の平面形もこの写真がベース。真上でなく俯角65°である。また距離も近く、ラダーヒンジが斜めに写っている。それでも、胴体にくびれがほとんどないことは明瞭。 |
主翼との比較で、防火壁の幅が分かる。ただしパースが強い写真なので、その影響をどう計算するかが重要。キャノピ、胴体後端、主翼フィレット、フラップそれぞれの幅も分かる。 |
風洞実験用の木型。たぶん胴体の形状は実機どおりだろう。風防の木型もあるが、この写真では外されている。 |
では、胴体平面形を決めていく。カウル前半の下半分は完全な回転体、だと私は考える。これが出発点。これに従えば、カウル前半の平面形は、側面形におけるカウル下側と同じとなり、カウルの最大幅は1,430mmとなる。カウル後端から尾部までは、一直線なのか、途中でくびれが入るのか、悩ましいところ。上の3枚の写真は、#3フレームのところで微かにくびれるように見える。 胴体最大幅1,050mmは、裏ページでは#3フレームとしたが、胴体最大高さ1,800mmが風防後端断面ならば、最大幅も同じ断面と考えた方がスッキリする。風防後端断面で1,050mmとなるには、#3フレームは1,085mmとなる。カウル後半はスムーズなラインで絞り、カウル後端から#3フレームまでは直線とする。こうすると、防火壁の幅は1,250mmとなる。裏ページでは1,300mmとしたが、やや過大であったな。 #3フレーム以降は、垂直安定板後端まで一直線とする。木型写真だと、尾翼付近からカーブが入っているように見えなくもないが・・ 一方、空撮は直線のようにも見え・・・ ともかく、こうして描いた胴体平面形は、#3フレームのところで微かにくびれが出来る。
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生写真(左右反転)。パースにより右側が小さい。また垂直より25°傾いているので、上反角の影響も強い。 |
GIMPにより距離のパースを除去し、全幅をマニュアルのスパンに合わせたもの。上反角の影響は除去できない(←あたりまえ)。 |
上反角の影響による歪みは、左の翼だけ切り取ってスパン方向に広げて除去する。その際に目安となるのがエルロン内端の位置だ。上右写真で、全体スパンに対する左右の内端間の距離は、上反角の影響を受けない。正しく広げられれば、前述のフィレット幅とも合ってくる。
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胴体と尾翼の骨組みが分かる貴重な写真だ。水平安定板の桁と胴体フレームの接合方法も分かる。 |
鍾馗のややトリッキーなパネルラインはこの写真が根拠。四角い小穴は何だろう? |
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長くなったので、断面図は次回。
さて、側面形と平面形が決まった。次は断面形だ。モケイの外形の良し悪しを決定づけるのが断面形。チューカ製キットは、側面図と平面図だけで設計して断面形がダメダメなのが多いよね。モノやエアの「らしさ」は断面形が「らしい」から。では、写真を見ていこう。裏ページの再掲だけど。 |
リベットラインや白帯で断面形がよく分かる。フィレットのくびれ具合(わりと弱め)、防火壁の形(なで肩)に注目。 |
後部胴体頂部が分かる。後部胴体は、単純な楕円ではなく、菱形の角を丸めたようなイメージだ。 |
尾翼手前あたりは菱形が強く出る。垂直尾翼と胴体のつながり具合も分かる。ハセ1/32はここが残念。 |
中島系は、フィレット後方が緩い峰でせり上がっていく。零戦とはちょっと雰囲気が違う。キャノピの底の高さも分かるね。 |
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後方からの写真は何枚かある。これは少々荒いが俯角が小さいので歪みが少ない。 |
疾風(ピンク)と比較。胴体頂部の高さを揃えて重ねる。鍾馗は幅広に見えるが、底幅はほぼ同じ。偶然にも側面傾斜角は同じ。 |
側面図を重ねる。疾風のキャノピは底が深い。 |
隼二型と重ねる。隼は細く、低い。 |
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図面シリーズとしては、次は下面図となる。また、側面、上面、断面も、もう少し精度を上げたい。ただ、新規模型プロジェクトの図面を優先するので、それが一段落してからとなる。気長にお待ちくだされ。
それと、キットが100%完璧かというと、そうではない。詳しくは裏ページをご覧いただくが、@垂直尾翼と胴体のつなぎの断面形、Aスピナの形状・サイズ、Bキャノピ側面形、C主翼厚さと取り付け位置、が要改善点。 このうち@とAは手作業での修正もそれほど大変ではないから、これから作る人はぜひ改善されたし。Bは木型作ってヒートプレスだから大変、Cもフィレットに影響するから、切った貼ったの大仕事。新規キットは、私の図面をベースにして、さらに完璧なものになってほしいな。そういう意味では、図面を描く意義はあったわけだ。←牽強付会ってか
造形村フォッケウルフ 胴体形状、鼻筋の細さは良さそう。ただし、主翼が全然ダメ。前縁が厚く丸い。一方で、それ以降は平板で厚みも足りないか。NACA23000って言葉を知ってるのかな? また、翼取付高さが低い可能性。そのせいか、フィレット付近の胴体下面の丸みが足りない。私の図面は翼型と翼高さをちゃんと示しているのに、多分無視されているのだろう。残念。(当方からオファーはしたのだ。断られたが。) ミニアートP-47 外形は、タミヤを「参考」にしているのかな。したがって、タミヤの欠点(胴体が太く、翼後半が厚い)をそのまま引きずっている印象。小物はタミヤと比べて別に優れている訳でもない。ということで、アドバンテージはリベットくらい。形は気にしない、リベット欲しいが自分で打ちたくない、という人にはオススメ。私ならタミヤを選ぶな。 ボーダーモデル1/35キット群 それぞれのコピー元?の出来がそのまま反映されているみたい。スピットはパーツ状態で胴体断面形がダメとの話(私は見てない)。メッサーは機首の形が変でカッチョワルー。97艦攻はハセ48がベースと思われ、まずまずの印象。分かったことは、このメーカーは飛行機のことを知らない。ま、オーセンティックな飛行機モデラーはスケールの時点で対象外。逆に出来が良くなくて一安心だ。
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