ヴォート シコルスキー F4U-1 コルセア 1/72 タミヤ 製作記
2022.12.1初出
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タミヤのキットは、1/48より数年遅れてリリースされた。タミヤらしい好キットである。ただし、外形で一つ気になるところがある。それはカウリングの形状で、横から見たときに実機は前より後ろが太いバケツ形なのに対し、キットは前後の太さが同じ円筒形。そのため、鼻筋ラインがカウル後端で折れ曲がる。 これ1/48も同じで、まあ、実機よりカッコイイっちゃあ、カッコイイんだが、実機形状至上主義の私としては、見過ごせないポイント。あとは翼前縁が少しダルいかな。ここはNACA23000シリーズの翼型になるように、少し尖らせてやろう。ちなみに、タミヤ1/32は、完成品を画像で見る限り完璧に正確。 製作コンセプトは、気になるところだけ直して、後は基本ストレート。折角だから3Dで「コレクト・カウリング」を作ろうかな。脚まわりも3Dに置き換えようか。キャノピはオープンで、その際、後方固定窓周囲がキレイに仕上がらないなら、ちょいと手を入れるかも。 タイトルの「ヴォート シコルスキー」は、別にチャンス ヴォートでもいいんだけど、-1が出来た当時の社名がコレなので。ちょっと「お?」と思わせるでしょ(←それだけが狙い)。ちなみに、ヴォート シコルスキー エアクラフト社は1939年から1943年まで。それ以降はシコルスキー社が分離して、チャンス ヴォート エアクラフト社となる。いやこれ、手持ち製造図の-1の図面にはこの社名が書いてあるのだよ。-4になるとチャンス ヴォートと記載される。 |
製造図記載の社名がこれだ。間にはハイフンが入る。ちなみにチャンス ヴォートはハイフンなし。 |
で、とりあえず、ざっくり出来たのが下図だ。まだアウトラインだけだが、手持ちのヴォート社の製造図(の一部)の情報を反映させている。防火壁以降の胴体は、泉水閑氏のサイト「飛行機夜話」の図をそっくり頂く。氏も同じ製造図を基に図面を描いているので、私がやっても同じものが出来るだけなのだ。 |
実機のアウトライン。鼻筋は、カウル後端でわずかに折れ曲がるが、ほとんど一直線のように見える。 |
タミヤの機首。防火壁以降は上図のコピー(胴体の検証は次回)。カウル後端の折れ曲がりがハッキリ。まあこっちの方がカッコいいんだが・・・ なお、カウルのラインは、キットの実測値。 |
初回ここまで。キットにはまだ触ってない。決意表明ってことで。
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見慣れた-1Aで検証した方が、説得力があるかな。ということで-1Aも描く。各部は、前回の-1図よりさらに精度アップ。キャノピは製造図と写真トレースの合わせ技。 |
こちらはタミヤ。キャノピは位置のみキットに合わせ、その他は実機図面をコピー。単体で見ると、機首以外は実機と同じに見えるが・・・ 取り込んで上画像とスライドショーで見ると面白いかも。 |
補助線を引くと、実機との違いが分かる。主翼の翼型も、前縁だけでなく、全体的に少々違っている。後半が平板で、同社ドーラとよく似ているぞ(これも癖か?)。 |
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まだ模型は触らず。後部胴体長さ、修正しようかどうしようか。
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胴体切断の儀。前後は別キットで、切断面を変えている。 |
右舷は修正前の胴体。機首左右を合わせ、後半の切断面を調整する。 |
右舷は単純に切って1mmプラバンのプラグを挟む。切断位置も変える。 |
裏打ちの0.5mmプラバンをプラグに接着して、凸断面にしてから胴体に接着すると、表面の段差解消に有効。 |
延長工事がざっと終了。上:修正後、中:修正後、下:修正前。中と下は前端を揃えているので、胴体長さを比較されたし。 |
裏側。左舷上側延長部は-1Dのパーツを使う。結局、シンプルな右舷方式が正解。 |
補足。単純に延長しただけなので、接合部で面が不連続になっている。ここは、胴体左右、キャノピ後方胴体部を接着した後、全体の形状を見ながら削り合わせる。
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キットの計器盤。この画像をfusionに取り込んで3D設計する。 |
できあがり。計器盤だけ交換する算段。 |
コレクトカウルも準備中。
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キットパーツ。上げ底の底が浅くて、実感に欠ける。3本がくっついちゃってるし。ちなみに、1/48も同様。 |
3Dでちょいちょいと設計。出力は、底板を下でOK。 |
穴の部分を切り取って、3Dパーツをはめる。本パーツも上げ底だけど、これだけ立体感があれば十分かと。 |
裏側はこんな具合。この平らな面にぴたっと接着するようになっている。画像は、お試しパーツなので、最終形とは若干異なる。 |
設計パーツは、クリアランスに余裕を取っているので、10%程度大きめに出力するといいかも。大きさを変えて出力して、丁度いいのを採用するのが吉。1.5倍すれば、1/48にも使えるはず。
カウルフラップは、開閉2パターンを作成。作品は開にする予定。その開いたフラップの設計は、円錐(※)にスジボリを入れるのではなく、閉じた状態で分割して、それぞれ軸を設定して回転させる。それにより、面や後縁の不連続感が再現される。ビミョー過ぎて分からんけどな。 ※正確には断面が楕円の円錐 |
カウルフラップを開いたバージョン。角度は私の好みで20°に設定。スピニング内側の補強材はややデフォルメ。 |
閉じたバージョン。フラップ以外は共通。サイドパネルのファスナは〇モールド。 |
後ろ側はこんな具合。一応、フラップ操作部材もナンチャッテ再現。フラップ後縁の不連続感が分かるかな? |
吸排気管がモールドされたキットのエンジン裏パーツは、フチの薄い部分を切り取ると3Dカウルにピッタリはまる。 |
-1と-1Aは、主翼に違いがあり、-1では、エルロンの内端にあるタブが無い。ただ、これがいつから-1Aスタイルになったのかが不明。さらに、上面図でピンク色で示した小判形パネルも、-1では「なし」のようだ。情報求む。 主翼基準面について訂正がある。翼前後を結んだ線(コードライン)が基準面になっていると思っていたのだが(普通の飛行機はそう)、コルセアの場合、コードラインよりさらに1°16'傾いた面が主翼基準面となり、主桁ウェブはこの面に垂直になる。 何故こんなややこしいことをしたのかは記述がないが、翼断面形との関係から、こうするとフランジがウェブと直角になり、製造上都合が良かったのではなかろうか。 |
さて、模型。コクピットを塗装して胴体に組み込む。色が問題。F4U-1のコクピットは、インテリアグリーンではない。これは、オリジナル状態の現存実機カラー写真(下画像)や公式マニュアルの写真から明らかで、その色調は黒あるいは黒に近い暗色。文献-33には、ダルダークグリーンという記述がある。IPMSストックホルムでは、黒またはダルダークグリーンとしている。 正確なところはよく分からないので、ダークグレイで塗っておく(※後日追記 ダルダークグリーンが正解のようだ。その色調はサンダーボルトのダルダークグリーンより暗く、ほとんど黒に近い緑といったところ)。ラダーペダルの下にある足置き(とでもいうのか)のみ明るく、おそらく無塗装のアルミ。#8銀で塗る。 |
当機のコクピット内部は、計器盤、コンソールを含め、全体が暗色で塗装されている。画像はネットより拝借。 |
別角度で。退色した黒なのか、別の暗色なのか。 |
この現存機のコクピット以外の機体内部はサーモンピンク。この話はまた別の機会に。 |
3Dの計器盤を接着。それ以外はキットパーツをストレートで。 |
自作タイヤブラックで全体を塗装、ライトグレイでドライブラシ。計器にはフューチャーを垂らす。赤はフィクション。 |
胴体パーツに接着したところ。足置きの銀が分かるかな? シートは後付けする。その基部は切り取っておく。 |
ちなみに、-1Aのコクピット側壁も、-1同様に黒か黒に近い暗色が確認できる。シートも暗色。44年末頃からジンクロに変更された模様(←引き続き調査中。情報求む)。出典は、文献-33やマニュアル、IPMSストックホルムなど。タミヤ1/32のインストでは側壁はジンクロの指示だが・・。 ともかく、タミヤのインストの機体内部の塗装指示は間違っているものが多い。例えば、三菱製零戦なのに、脚収容部と脚カバーの内側が青竹だったり(正解は迷彩色の灰色)、コクピット後方のキャノピ内部がコクピット色だったり(正解は黒)、P-47レイザーバックのコクピット後方キャノピ内部がインテリアグリーンだったり(正解は迷彩色のオリーブドラブ、無塗装機は無塗装またはグレイ、バブルトップの場合、キャノピ内部はOD、コクピット内はダルダークグリーン)。
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コクピット後方パーツを接着。キットは、青丸部分で0.5mm太い。赤丸部分だと0.3mmくらいかな。胴体最大幅としては正しい。 |
バルクヘッドの接着部分を削る(赤丸、青丸)。胴体上端部分は削らない。 |
キットと図面を胴体上端ラインで合わせると、キットの垂直尾翼はやや小さく、前傾している。画像は左右反転。 |
図面にするとこんな具合。赤:タミヤ、青・黒:実機。 |
左舷パーツのラダー後縁にプラバンを接着して増積する。前縁はもう少し後退角がつくように削る。 |
カウル直後の胴体幅が広い。ここも接着面を0.5mmほど削る。コクピット部分は削らない。 |
ということで、左右胴体を接着して、表面をざっと整形する。ラダーのリブ表現は、スジボリもろとも瞬間で埋める。 |
カウルからコクピットへのラインも実機どおりじゃ。カウリングは、ラインを見るため閉状態のを仮組み。 |
キットの垂直尾翼は、短い後部胴体にバランスするように面積が小さいんだね。また、後部胴体が短い分だけ上端ラインの傾斜角度が大きく、このため、上端ラインで合わせると尾翼が前傾するわけ。だから、キットをそのまま見ると違和感がない。しかし、胴体を延長して上端ラインが寝てくると、違いが顕著になるのだ。 また、尾翼の断面形もイマイチ。実機は垂直安定板の中心線に対して左右対称で、機軸に2°オフセットだが、キットはクラークYみたいな翼型になっていて、左舷がペタッと平ら。右舷の前縁に瞬間+プラ粉を盛って、左右対称に削る。
ようやく回復。翼型をナンチャッテ修正する。完璧に修正しようとすると、下面も含め全体的に削り合わせる必要があるが、大変なので主桁より前側が「らしく」見えるように削ってお茶を濁す。羽布モールドは、私の好みからするとオーバースケール。埋めてインレタ再現することにする(とりあえず、下面はそのまま)。 |
いじりついでにフラップダウンにしようかと、エッチングソーとカッターでフラップを切り離す。 |
前縁を尖らせるため、プラバンや瞬間+プラ粉で裏打ち。脚収容部は素組み。 |
羽布のモールドを瞬間で埋めてツライチに削る。翼端がピンと削ぎ上がるように、瞬間+プラ粉を盛る。 |
キットの胴体との境界ラインは、後半が直線的なので、ゆるやかなカーブになるように削る。 |
排気管は3Dに置き換え。 |
主翼と一体の胴体下面は、幅を狭めた胴体パーツに合わないので、翼との境に切れ目を入れて少々曲げ、幅を狭める。画像は修正前。 |
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カウリングBとしてファイルリストにあげる。 |
仮定として、1)垂直尾翼と水平尾翼からなる尾部ブロックは、量産型と基本的に同じ、2)カウルの基本形状は量産型と同じ、3)胴体の下半分の形状は、量産型と基本的に同じ、4)全長は、クロウッド本などにある31'11"(=383")、とする。この条件の下で、手持ち資料の中で一番条件の良い側面写真と重ね合わせる。それが下図だ。 機首は-1より8.25"短いと解釈する。これは、量産型の二段に折れた防火壁の間隔に等しい(前側がsta.91.75、後ろ側がsta.100で、その差が8.25")。別の言い方をすると、量産型の前側防火壁から機首までの長さと。試作型の防火壁から機首までの長さが同じ。結果的に、主翼と尾部との関係は、量産型より概ね5"短くなる。 |
とりあえず出来上がった側面図。とりあえず、の意味は後述。 |
実機写真(反転)と重ね合わせたところ。この写真はかなり撮影距離が近いが、遠近法の補正はしていない。主翼とキャノピの関係に注目。 |
とりあえず出来たところで、さらに資料を漁ると、おなじみテイルフックトピックスの記事を発見。これによると、a)主翼と尾部の関係は量産型と同じ(それを示す製造図があるとのこと。私の手持ち製造図の中にはない)、b)1940年7月の墜落事故後に機首が約4.5"延長、とある。なぬ! もしかすると全長383"は最初のもので、事故後は全長が387.5"なのかも。ちなみに上の写真は事故後。 ということで、改めて、主翼、尾翼の配置(距離)を量産型と同じとし、全長が387.5"になるよう前述写真を横に拡大して、重ね合わせてみる。ところが、今度は写真と上手く重ならない。横に拡大した写真をトレースして描いたコクピットと主翼の位置関係が整合しないのだ。この写真は撮影距離が近いため、実際より後部胴体が短く見えるはず、であれば、主翼とコクピットの関係を写真に合わせ、主翼と尾翼の距離を量産型と同じにして、全長を387.5"に合わせてやればどうなるか。それが下図だ。 |
結論として、全長383"の前半をそのまま固定して、尾部だけ後方に延ばし、全長を合わせたもの。これを第2の説と呼ぶことにする。 |
-1のシルエットと重ねるとこうなる。主翼、尾翼の配置は同じ。機首は8.25"短いものとする(テイルフックでは8.5"としている)。 |
ついでに-1側面図。スライドショーで見ると面白いかも。 |
結局、真相は分からない。上記2つの説のどちらも違うかもしれない。第2の説(387.5")は、これまで多くの機体で製造図と実機写真をニラメッコしてきた経験からして、写真との馴染みがイマイチなんだよね。一方、第1の説(383")は、逆にパースのついた写真に馴染み過ぎてる感あり。私の感覚的には両者の中間が正解なのだが、その場合は数値的な根拠が薄い。 よくあるように、公式記録の全長の数値が違う可能性はある。延長後の防火壁とエンジンの距離が量産型と同じというのも、必ずしもそうする必然性はない(メリットは、エンジン架の一部が改設計なしで使えるというくらい)。 第3の説として、防火壁と主翼基準線の関係が量産型とは異なる、というのはどうだろうか? 量産型では両者は1.75"離れており(防火壁sta.100、主翼基準線sta.98.25)、上記2説では試作型も同じだけ離れているとしている。もし、量産型と試作型の「防火壁」から尾部までの距離が不変だとして、防火壁と主翼との位置関係が異なる(試作型の方が離れている)のであれば、写真との馴染みは良くなる。
と、図面を掲載したところ、その後新たに資料を頂き、図面を訂正。新たな図面と解説文は、1/30追記箇所に掲載する。よって、訂正前の図面は削除。第2の説の作図根拠だけここに残しておく。なお、これら根拠は、結局違っているので注意。(1/30追記)
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左舷後部胴体下半分パネル。右が前。写真の下隅にsta.142からsta.276-1/2と書かれている。 |
左舷後部胴体。左画像のパネルに胴体上部、尾部が追加されている。拙図のパネルラインは本写真を参考とする。 |
コクピット部分の胴体。上が防火壁(sta.83ということになる)、下がsta.142。足掛けや下面窓の位置も分かる。 |
尾部。下端がsta.276-1/2となるわけだ。この部分には量産型のようなロンジロンがない。したがってパネルラインもないはず。 |
ダブル・スロッテド・フラップ。これらは内翼のもの。 |
外側フラップの骨組み。外皮は金属か?羽布張りか?はたまた木製か? |
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主翼に開いた大穴。翼断面の型紙に合わせて削ったから、つまりキットはプラの厚み以上に翼型が違っているわけだ。 |
主翼を胴体から切り離し、穴の周囲を切り取る。 |
裏側から0.5mmプラバンをあてがい、がっちり接着する。排気管周囲のプラが薄くなっているので、瞬間パテで裏打ちする。 |
前縁の内側を、瞬間パテで裏打ち。翼型をキープするため、上面パーツの間にプラ小片を挟む。 |
穴を埋めるのは、キットと同じプラ材(ランナーのタグ)。翼型の型紙に合わせて徹底的に削り込む。 |
脚庫の天井も瞬間パテで裏打ち。 |
胴体側も、翼断面に合わせる。前1/3にプラバンを接着し(画像では分かりづらいけど)、緩やかなカーブに削る。 |
キットオリジナルの状態。前縁から5mm付近のRが小さく、後半が平板。 |
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改修前。固定窓部分がちょい反時計回りに歪んでいる。エッチングソーで当該部分を切り離す。 |
ベースの胴体部の幅をさらに0.5mm狭める。穴を開けてプラ棒(キットのロケット弾)で強引に引っ張る。 |
接合面にプラバンを貼って調整し、固定窓部分を再接着。プラ棒は同じ材質なので、ほとんど分からない。 |
歪みが矯正され、気分もスッキリ。 |
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キットはセミスパンが1mm不足で、かつ先細。付け根と後縁にプラバンを貼って増積する。 |
胴体に接着。実は、キットの水平尾翼取付位置はやや低いが、そこはスルー。 |
これ、以前も書いたけど、間違いAを修正すると、Aの陰に隠れていたBが発覚し、Bを修正すると、その陰のCが発覚・・・という芋づる式負のスパイラル現象だね。うーん、このキット、現代の目で見ると問題点多いかも。
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