チャンス ヴォート F4U-5N コルセア 1/32 タミヤ 製作記 その1
2023.5.17初出
![]() |
で、長期構想あるいは妄想のはずだったコルセア-5Nに白羽の矢が立ったわけ。ちょうど今頭の中はコルセアに染まっているし、静岡でソリッドのK名人が製作中の1/24 F4U-4のエンジンを拝見したり(もの凄い出来)、3D設計のスキルもだいぶ上がってきたりで、作るなら今しかないだろう。てなわけで、帰った翌日にキットを購入。 仮組みしながら構想を練る。ベースはタミヤ1/32の-1Dを使い、コクピット、エンジンギアケース、プロペラハブ、レドーム、その他小物は3DP。カウルとアクセサリカウルは3DP、または3DPの木型でプラバンヒートプレス。キャノピも3DPの木型で透明プラバンのヒートプレスだ。主翼羽布張りはキットが凸モールドなので、削るだけで済む。尾翼のは、オーバースケールだから、細切りデカールかインレタでやりかえる。 翼折り畳み可動は、熟慮の末に却下。ヒンジそのものはシンプルなのだが、ヒンジ部の小ドアの工作と、展開時のロックの上手い方法が思いつかない。それ以前に、機首新造に翼可動はカロリー高すぎ。ちなみにソリッドの-4は、モーターで可動とか。すごく楽しみ。塗マは一択でボーデロン。え?前にハセ1/48で作ってるって? いや、好きなマーキングは何度作ってもいいのだ。それに旧作は断捨離で手元に無いしね。
図面作成の手始めは、ワスプメジャーR-4360の直径調べ。ウィキとか見ると55インチとある。しかし、このとおりにカウルを描くと写真に合わない。結局正しい数値は分からず、写真に合わせると、ダブルワスプR-2800の直径(52.8")とほとんど同じ。全長は資料本に406インチとある。これは写真にも整合するので、この数値を採用する。 |
![]() 側面図のベースとなるのはこの写真。その他、現存レーサー機なども参考にするが、こいつらはインテイクがカウル先端まで延びていて、オリジナルの形状はこの写真だけが頼り。やや後方からの撮影で、遠近法の補正をしてある。 |
![]() 次に、-1Aと重ねてみよう。カウルの直径や先端のカーブはほとんど同じ。四重星型R-4360エンジンは縦に長いが、胴体に食い込むように搭載されるので、機首は思ったほど延びてない。 |
F2Gの製造図などなく、図面作成にあたっては、全長の他いくつかの仮定をおく。これらは-1Aとの比較図を見ると分かりやすい。
上記仮定に基づき、数少ない写真とニラメッコ、足りないところは想像で補って出来たのが下の図面だ。翼の上下面はそれほど情報量が多くないので、XF4Uと同じ体裁。むしろ断面図の方が情報量は多い。資料はSAM本が有用。 |
さらに、代表的な断面(風防後端、sta.232)を-4と比較してみよう。-4は細い黒線だ。
初回はここまで。まだ模型は触らず。決意表明、ってことで。
|
![]() 初手は内翼下面。無改造で組める主桁や脚庫を取り付けていく。機首下面部分は、新造パーツを接着する土台となるので残しておく。 |
![]() 防火壁で胴体パーツを切断。内翼上下と仮組み。切り離した前方部分のパーツは加工して使えるかも。 |
![]() 主主翼は、不要なスジボリや穴を埋め、リブの凸モールドを削る。 |
![]() ざっと下ごしらえが出来上がったところ。 |
主翼の組み立てはちょっと悩ましい。折り畳み部分をきれいに組もうとすれば、先に内外翼の上面どうし、下面どうしを接着してから上下を接着するのがベスト。一方、内翼下面は機首と一体なので、早めに胴体と一体化したい。そのとき外翼がない方が、機首の工作には便利(取り回しが楽)。さてどうするか。そうそう、ラジエータ回りはベーンなど-1と異なるので、そこも3D設計が必要だ。
|
![]() 計器盤と左コンソールがほぼ出来上がり。計器盤下部は、張り出しありとする。 |
![]() 断面図をロフトして、コンソールの外寸はこれに合わせる(Fusion作業はプラの厚みをオフセットしてボディを交差させる)。 |
![]() 下部張り出しありのイラスト。なお、比べれば右画像とは細部が異なる。 |
![]() -5Nの計器盤の写真(部分)。下部に張り出しがあるのが分かる。各計器のフチに注目(後述)。 |
各計器のフチをよく見ると、穴がすり鉢状に凹んでいるのか、あるいはバイザー状の出っ張りがあるかのように見える。ノーマル-5あるいは-5Pの計器盤写真にはこのようなものは見られないので、N型特別仕様なのだろう。左上のイラストにも描かれてなく、詳細不明なので、3D設計としては「なし」として進める。
カウルの断面形は、都合よくチェッカーを描いた機体の写真があり、これをトレース。さらに、真横かつ斜め上からの写真により、寸法を補完する。これらは主翼の見え方などで俯角が分かり、全長との比較でその角度から見た機首の太さの絶対値が分かるわけ。 |
![]() 側面形は例えばこれ。ちょい視点が低いが、真横付近の写真は多数あるので、何枚も並べれば正しいラインは見えてくる。 |
![]() 真上は例えばこれ。主翼スパン、あるいは機銃スパン(マニュアルにより寸法は既知)との比率でカウルの絶対幅が分かる。 |
![]() 真横ちょい上斜めから。俯角は30°くらい。主翼直前あたりがかなり下に膨らんで太く、一方で機首は細い。 |
![]() 左よりもう10°くらい上から。この角度だと、機首と主翼直前の太さの差が少ない。ちょっとした角度の差だけどこんなに違う。 |
![]() カウルの断面形やインテイクの形状はこれ。チェッカーに塗ったオーナーに感謝。 |
![]() 下側はこのあたりが参考になる。カウル下面は割と平たい。 |
|
![]() 断面は6つに切る。ガイドレールは、各断面図を適当な角度の平面で切った点をスプライン曲線でつないだもの。 |
![]() できあがり。形状をイメージしやすいようにパネルラインを入れる。 |
![]() まず1/72で出力し、新たにタミ1/72を買ってきて機首を交換する。うむ、ナカナカいいんでないかい? |
![]() 気を良くして1/32で出力。で、でかい。(下にあるのは塗料皿) |
出力したら、色んな角度から眺めて、実機写真と比較する。こうすると、図面だけでは見えてなかったラインが見えてきたりして、再度図面を微修正。
とりあえずこの疑問は脇に置いて、カウルのステーションに話を進める。これは複数の図があるが、下左画像のものが一番信頼できそう。 |
![]() -5のEMIマニュアルの153ページにある図。これが貴重。他の図はこの数字を丸めたもの。 |
![]() 参考までAU-1のマニュアルから。ダウンスラストは2°45'=2.75°。これと同じ図は-5のマニュアルにはない。何故? |
P.P.はパワープラント。この図だと、スラストラインと胴体基準線はFUS.STA38.125で交差し、その交点はP.P.STA.では82.091となっているように読める(その差は43.966")。ダウンスラストは3°。ここまで細かい数字の出ている図だから、3°というのは丸めた数字ではないのだろう(←後日、別図により丸めた数字でないことが確認)。P.P.STA.は、普通に考えればスラストライン沿い。
|
例によりコンター図を-4と並べる。コクピットより後方は省略。その方が見やすいでしょ。
|
![]() 胴体に仕込む分の3D設計が完了。左側の内張りも設計してあるが非表示。 |
-5のコクピット側壁は、内張りがされている。色は黒。もう少し装置類(ライト?)があるが、写真では詳細不明で形にできない。ラダーペダルは、実機では前方のバルクヘッドに取り付けられるが、3Dパーツは計器盤の裏側に取り付ける。見えない所には拘らない主義なのだ。各種レバー類は、強度確保のため、相当太めに設計している。スリットよりレバーが太い。それでも完成までには何本か折れてしまうのだろうな。 コクピットの塗色について。計器盤、コンソール、その上方の側壁、頭部後方防弾板、ヘッドパッド、風防窓枠内側は黒。床、前方バルクヘッド、ペダル、操縦桿、シートはインテリアグリーン。後方バルクヘッドはおそらくインテリアグリーン。スライドキャノピ窓枠内側は不明。私の予想は黒。
|
![]() 長時間のフライトを快適に過ごすシステムが充実してるな。右コンソール後方にはフタ付き小物入れもある(3D画像参照)。 |
|
![]() 三角プリズム。これは翼端上面のもの。 |
![]() 同じく尾端のもの。 |
リアル模型は亀進行。 三角プリズムについて追記(2024/10)。これは訓練用とのこと。ライト付きガンカメラの光に反射するのだとか。だから、ボーデロン機などの実戦機には付いてないのだね。
エアインテイクの内部の整流ベーンは-4以降は3枚となる。キットは上下2パーツでそれぞれ互い違いに3枚ずつなので、下側を残し上側を切り取る。しかし後述する理由で上を残した方がよかったようだ。オイルクーラーはエッチングが用意されている。多分-5とはメッシュのパターンが違うと思うが、よく見えない所だし、わざわざ3DPで置き換えるほどでもないかと、そのまま。 ベーンの奥には補強トラスとインタークーラーがある。当該部分の塗色は不明。シーブルーの可能性大だが、模型的見せ場としてジンクロに塗る。インタークーラー本体は銀。 |
![]() 脚ドア開閉アクチュエータは本体を切り取って先に脚庫に接着し、0.5mm鉛線でパイピング。 |
![]() 0.3mm銅線に3DPジョイントを通して接着。実際はもっと本数が多いが、気休め程度で。 |
![]() 整流ベーンは、このようなパーツ分割。 |
![]() 塗装して組み込む。奥のインタークーラーがチラ見え。ここも-1と-5では細部が異なるが、スルー。 |
インテイク内部を組み込んで、いざ内翼上下を接着しようとして、ふと気付く。胴体が太くなっているのに、インテイク内端の位置がそのままでいいのか? 試しに3DPの機首を仮り組みしてみると、やっぱダメじゃん。内端を1.5mmほど外側に移動させる。じつはこれに気付かずにベーンを工作したため、内端が移動すると位置関係が整合しなくなるのだ。しかし、組んでしまった後なのでスルーする。シーブルーに塗ると分からなくなるだろうて。 |
![]() 仮り組みしてインテイク開口部内端の位置を確認する。3DPの機首が役に立つ。 |
![]() 内端位置を修正。上、修正前。下、修正後。 |
![]() 内翼上下を接着。前縁は瞬間。他は流し込みで。インテイク内側の隙間をプラバンで塞ぐ。 |
![]() 下面。オイルクーラー後方のフラップは、幅が狭くなる。内側3mmほど切り取って翼に接着。鉛筆描きはフィレットを示す。 |
![]() ついでに、外翼下面に20mm機銃の薬莢とリンクの排出口を開口。 |
![]() 下面の航法灯は、内側からクリアーブルーで塗り、凹ませたアルミ板を仕込む。 |
ということで、後方バルクヘッドと側壁の3DPを接着するのみで胴体左右を接着。リベット後にコンソール、床、計器盤、前方バルクヘッドを接着することにする。それ以外にも左右接着前に済ませるべき作業を片付ける。コクピット横の乗降ステップは、単調な全面シーブルー塗装の中で、いいアイキャッチとなってくれるだろう。ここは先に処理しておく方が何倍も楽。 ステップの穴を開けるため、位置を再確認する。ボーデロン機は、インシグニアの袖とステップの位置関係がタイトで、間違えると塗装の時に「あちゃー」となる。実機写真を図面に取り込んで高さを決定。従前掲載の図面は違っており、修正して差し替える。横方向はsta.165.5とsta.177.5のフレームの間に納まるので問題なし。 ちなみに、パイロットが乗り込むのは右舷から。左舷のステップは、その際にエンジン暖気していた整備兵が降りるためのものとか。 |
![]() ステップの穴を開口。内側はプラバンの箱組み。左舷は開けない。下方のスリットも引き出し式のステップ。 |
![]() 上端には、0.5mmプラバンをL字に組んだレールを接着。3DPの側壁も接着。 |
![]() バルクヘッドはディテール不明。とりあえずただの板とする。キットパーツを前後逆にして0.3mmプラバンを貼る。防弾板は後で。 |
![]() 尾脚収容部を組み立てて塗装。開口部後端の形状のみ修正(矢印)。あとはキットストレート。 |
-5の尾脚収容部が本当にジンクロイエローかどうか確証がない。一応、-1Aや-1Dと同じと想定する。 ところで、タミヤ-1Dのインスト(-1Aも同じ)では、インテリアグリーンとジンクロイエローが区別されていない。全て例の黄緑の混色指定。これは間違いだから-1Dや-1Aを作る人は気を付けよう。実機はコクピット関係のみインテリアグリーン(ただしバードケージと初期の-1Aはダルダークグリーン)で、それ以外の機体内部は基本的にジンクロイエローだ(←主脚庫、カウル内側などは異なる)。
さらに、別途外板の凸凹もお試しする。先がカーブした平刀、あるいは半丸ヤスリでリベットラインに沿って削り、ペーパーで周囲を均す。シーブルーは、C326にGX4微量で赤味を補正し、黒を3割程度混ぜたもの。色調的には過去作のグラマン猫三姉妹などと同じ。 |
![]() 右側がたまぐり。左側がカルコ。穴の周囲はキットのまま。どちらもキットより存在感がある。 |
![]() 右側がケガキ針。左側がキットそのまま。よく似ている。ほとんど違いがない。 |
![]() 平刀を使い、べこつき表現。リベットはキットのまま。深いので少々の削りでは消えない。 |
![]() こちらは半丸ヤスリを使う。リベットは前方(右下)から、キットのまま、ケガキ針、カルコ、たまぐり。 |
結果発表。キットの表現に一番近いのはケガキ針。キットの消えた箇所の再生にはこれが良さそう。カルコとたまぐりは、場所によって使い分けるといいかも。全てをこれで打ち直す、というのはナシかな。べこつきは、1/32というスケールかつグロスの暗色なので効果的。これもやってみようかな。どこにどれを使うかは、もう少し考えよう。ああ、今年の夏はリベットと凹みの季節か。飽きて浮気に走りそう・・
|
![]() |
図面は訂正して差し替える。図面の解説も当該箇所に追記する。
|
![]() コンソール、床を塗装。スイッチやレバーの色はフィクション。見栄え重視で実物より色味が多い。悪しからず。 |
![]() ペダルは二次硬化で変形している。取り付けはまだ先だから、気が向いたら出力し直そう。 |
計器盤は、色だけ塗った状態。各計器はキットのデカールを切り取って貼り付ける予定。
|
![]() 上面だけ先に接着したところ。まず流し込みで段差最小に接着。次に要所に瞬間を流す。 |
![]() 下面側からみたところ。キットのパーツは全部使う。 |
![]() 合わせを確認して下面を接着。内部の桁には溶剤系(白フタ)。前縁は瞬間、内翼と後縁は流し込み。 |
![]() 胴体も左右を接着する。 |
段差、隙間をゼロにしたつもりだが、やはり微小な段差が残る。内翼接合部にも無視できない凹溝が残ったりで、結局、瞬間を盛ってゴリゴリ削る。リベットが消えるが仕方ない。胴体燃料タンクのキャップのような凸ディテールも、整形の邪魔なので、この際全部削り落とす。
当初はBlenderでやってみるが、インテイクの再現のため細かいメッシュとなり、その交点を1つずつ手コキで移動させるのが大変。しかも、表面が微妙に凸凹して、工業製品のカッチリ感が出ない(←単に下手なだけ)。ダメ元でFusionのロフトでやってみたら、意外とすんなり出来る。形状も、自分のイメージに近いものになる。カウルのリップは半径1インチなんだけど、こういうのも寸法どおり完全再現だ。インテイクの上下対称性も、スケッチを対称に描くことで担保される。 |
![]() Fusionのスピニングの出来上がり。インテイクのルーバーも再現。これは手作りでは無理だな。 |
![]() こちらはBlender。ここまでは頑張ったんだけど。このあとインテイクの穴を掘るのも大変だなあ・・と思ったところで挫ける。 |
形状は、一発では決まらないが、その都度遡ってスケッチを調整すると、徐々に自分のイメージに近づいていく。スケッチを修正すれば、あとは履歴管理機能でFusion君が勝手に直してくれる(ときどきバグの修正は必要だが)。これがFusionのいいところ。 ちなみに、以前設計した図面確認用のカウルとは、インテイクの前進角が付いたところや、インテイク内部の再現が異なる他、全体形状をさらにブラッシュアップ。さらに、スピニングの頬インテイクのリップと、脇の「ほうれい線」のくびれにフィレットを入れたかったんだけど、どちらもFusion君に拒否される。複雑な面構成だからだな。ま、出力品をちょいと削る、あるいは少量のパテを盛れば済むので、実用上は問題なし。 カウル側面、アクセサリカウルは木型を3Dで作って、プラバンをヒートプレスする。理由は、ファスナやリベットの加工はプラの方がやりやすいから。本機の場合、ロフトによる複雑な曲面なので、ファスナを並べるのが大変かなと。バードケージのカウルのファスナは3Dで設計したが、これは単純な回転体に近い形状だから簡単なのだ。 |
![]() 木型は0.8mmインセットしてロフト。カウルは左右割り、Aカウルは上下割り。スジボリはプラバンを切り出すときの目安。 |
お持ち帰りファイルは、いつものところに。需要はないだろうが、見て楽しむだけでも。
|