F6F-5ヘルキャット(ハセガワ1/48)製作記
2011.5.20初出
|
この猫、凶暴にして狡猾
|
はじめに |
さてヘルキャット、モデラーの人気度ではイマイチかな。その上に、駄作機だの凡作機だのと散々な言われよう。しかし、本機の設計って、極めてアメリカ的合理性に溢れており、それでいて細部は実に巧妙。洋上で敵機を叩く、というシンプルな目的で作られ、それに成功した紛れもない傑作機だ。これが駄作機なら叩かれた日本機は何なの?でしょ。ま、確かに実用一点張りで色気にゃ欠けるけど。←だから人気がないのね。 1/48キットは、ハセガワとエデュアルドの2つがメジャーどころ。ハセは、ソツなくまとまっているが、「大柄で間延びした設計の凡作」というイメージをどことなく引きずっていて、私としては不満。一方、エデュの新作は、戦闘機らしい鋭さはあるものの、逆に線の細い印象。ということで、今回は本機の持つ「鋭利さ」と「獰猛さ」を徹底再現する。模型的には-3のトライカラー・スキームに、退色&汚しバリバリというのが見栄えがするが、形状的には-5の風防が好き。ということで-5に決定。汚れと実物感のシーブルーを追求してみたい。
エデュの新作は、キャノピが細くなり、戦闘機らしい鋭さが備わった。カウル形状は一長一短だが、キャット・グリンはこちらを評価する人も多いだろう。胴体長さも正しい。これらが長所。ただし、後部胴体の断面形が不正確。ファストバックの背中側面は、実機は胴体高さの半分くらいまでは真っ平らなのだが、エデュは上1/4くらいから湾曲が始まっている。この断面形状はハセの方が正解に近い。また、胴体基準線の取り方がおかしいのか、垂直尾翼が若干後傾気味。後部胴体の高さはエデュの方が1mmほど高いが、正解は両社の中間。 主翼については、両社とも翼型はよく再現されているようだ(まだ厳密チェックかましてないけど)。ただし、両社とも中央翼は本来翼厚一定のところが中央部が厚くなっている。エデュは主翼取り付け高さが1mm低い。鼻筋が1mmほど高いこともあって、このあたりの胴体側面が間延びして見える。ハセの主翼高さは正確。その他、小物、細部はいい勝負といったところか。 結論として、キャノピやカウル正面など第一印象につながる部分ではエデュに後発の利がある。ただし、基本形状はハセの方が正確。少し手を入れるなら、ハセをベースにキャノピをエデュのニコイチ作戦がいいかも。ただし、どちらにしても、胴体平面形というか胴体幅の太さが違っており(これは後ほど詳述する)、正しい形にしようとするとそれなりに大仕事となる。 |
こちらハセガワ-3。いろいろあるが、現時点ではベストのキットと評価する。 |
エデュ。同じ角度でなく見づらくて申し訳ない。比較のため-3の風防を付けている。 |
猫族の鼻筋 最初の戦闘機FFからF-14トムキャットに至るまで、グラマン社は艦載機の老舗であって、その血筋が色濃く現れているのがF4FからF6F、F8Fまでの鼻筋ラインである。つまり、着艦時の大迎え角での視界を確保するため、@操縦席を少し高い位置に置き、Aエンジンから風防までを一直線で結び、B前下方視界を広げるため鼻筋の両脇を削ぎ落としている。残念ながら、ハセ1/48はBが表現不足(1/72もね)。タミヤの山猫もいまいちか。ハセ1/72のF4Fとか、モノグラム1/72のF8Fは、この鼻筋がよく再現されていて、並べてみると一貫した設計思想が見えてくる。 |
手元にいい画像がなく、これが手持ちで一番明示的に分かるので掲載しちゃう。出典は某歩き回り文献。 |
角度を変えて。ハイライトの入り方に注目。 |
風防ガラスとの取り合いの曲線で、峰の曲率が推測できる。 |
コクピット前方部。左が機首方向。断面の1時11時方向は結構平らに削ぎ落とされている。 |
猫の生い立ち ヘルキャットの胴体形状を考察する上で外せないのがエンジンの経緯だ。F6Fの原型は、直径1,397mmのライト・サイクロンR-2600装備であった。この理由が「保険」機だからなのか、グ社の作戦なのか、世傑の記事も興味深いが、それはさておき、これが量産型F6F-3では直径1,341mmのP&WダブルワスプR-2800に換装される。要するに、ヘルキャットの胴体幅は直径の大きなサイクロンに合わせて設計されているのだ。そう思ってXF6F-1のカウルを見てほしい。このため-3以降のカウリングは先が絞られ、ブリキのバケツのような形状になっている。逆に、ワスプありきで考えれば、胴体には無駄なお肉が付いているわけで、そこは最初からそれで設計されたコルセアとは生い立ちが異なるのだ。 実はF4Fワイルドキャットも同じで、その胴体はFM-2などが装備したライト・サイクロンR-1820がジャストサイズ。F4F-3〜5のツインワスプR-1830は直径が小さいため、カウリングは同じように先細りである。このあたり、タミヤ1/48のカウルはいまいち表現不足で、サイクロンとワスプの形がまぜこぜになったイメージだ。 |
エンジンとカウルとの隙間に注目。でも、これだけあるとライトサイクロンでも隙間がありそう? |
猫の背中 ファストバック部分の断面形は、峰から胴体中央部まで一直線。峰のラインは横から見て直線。ということは、上から見た胴体側面ラインも一直線にならないとおかしい。証拠写真もある。ところが巷の図面ではなぜか曲線なんだよね。世傑の牧氏の図面だけが唯一この直線を表現している。ハセ、エデュも曲線だ。 |
この猫は猫背でない。背中の斜面は真っ平ら。エデュの胴体と比べてみよう。 |
複数文献にあるので目にした方も多いと思う。カウル後端、胴体中央の2箇所ではっきりと折れ曲がる。画像は上下に圧縮。 |
猫の下顎 これも見過ごされがちだが、今回の改修作業ではキモとなる部分かも。猫の下顎は思いの外エラが張っていて、このため凶暴な顔つきに見えるのだね。このエラは、内側にインタークーラーへのダクトがあるためだが、ここまで張り出さなくても、という気がしなくもない。空力的には無駄の最たるものに思えるが、設計者の真意を聞いてみたいところだ。F4Fではそういう意味で無駄のないカウルをしているが、冷却か何かの問題があったのか? |
エラが張ってて、矢印部で折れ曲がったようになっているでしょ。 |
カウル後端位置での胴体幅が異様に広い。カウル下側のパネルラインは平行でなくハの字だ。 |
そう思って、この角度の写真を見ると確かにエラが張っている。 |
キットは不足。エデュはもっと不足。 |
さて、前回更新で述べたとおり、世の多くの平面図は全くでたらめで不正確。私の結論はこうだ。胴体最大幅はカウル直後で、高さとしては排気管下側の部分。ここからコクピット付近までは軽く後すぼまり、上から見れば側面は直線だ。さらにコクピット後方付近で折れ曲がり(峰は立ってない)その後方は一直線に尾部まで絞られる。 文章では解りづらいので、下図を見ていただきたい。赤は世の中の多くの図面で見られる平面形。全体が流れる曲線でつながっており、そのラインは日本機的。青は私の推測による実機平面形。下段における縦ラインは、それぞれカウル後端とコクピット後端を表している。カウル後端付近での胴体幅を比較いただきたい。
新世傑など複数の資料に胴体幅60インチというデータがある。1/48だと31.8mmで、面白いことに世の中の多くの図面(とキット)の胴体最大幅が概ねこれと一致する。しかし、手元の複数の写真から主翼前縁での胴体幅を算出すると 次に断面形を見ていこう。注目すべきは、コクピット後方のフレームで、キャノピレールのところで凹に折れ曲がる。巷の図面では凸に折れ曲がるものもあったりして、噴飯ものだ。キャノピレール後端付近になると一直線になり、尾翼前までこれが続く。この間、斜面の角度は一定(すなわち側面は完全なる平面)だが、断面形は相互に相似ではない。 このトレース図面とキットを較べたのが下図。キャノピレール後端部のフレームで比較している。キットは赤、実機が青、重ね合わせたのが右。ハセガワはエデュに較べれば、よく断面形を再現しているといえるが、まだ不十分。上半分の平面部分が足りず、下半の曲面の開始位置が高い。なお、キット断面図は、あくまで実機トレース図との比較をイメージで表したもので、厳密にキット断面を再現してないので、悪しからず。
でもって、こんなもの作ってみたりして。 |
|
|
胴体組み立て 6/10追加 |
次に、断面形を修正するため、裏側にカッターで切れ目を入れて曲げる。下画像でプラが白くなっている部分だ。一番上の線は「谷折り」、二番目以下は「山折り」となる。同時に側面を上から見て一直線にする。プラが硬いので、ちょっと曲げるとすぐ割れてしまう。曲げやすくするため部分的にエッチングソーで切り込みを入れる。曲げたところが元に戻らないよう、裏から0.5mmプラバンを接着し、がっちり固める。当然曲げた表面は凸凹。そこから本来の形状を彫り出すつもりで表面を削る。 |
上修正後、赤線が接合線。曲げるため青の切り込みを入れる。下はキット。緑でカットした前部 と黄でカットした後部を合わせる。 |
後部胴体の平面部分を比較されたい。 |
オータキの泣き所はキャノピで、高さが低く、前面傾斜角が寝ており、さらに前後長が長いので、結果として猫背に見えてしまう。エンジンのダウンスラストも不足気味。主翼の翼型は良さそう。ただ、中央翼の翼厚は、ハセ、エデュ同様テーパーしている。 |
左オータキ、右ハセガワ。キャットグリンはオータキの方が似ている印象。ただし満点ではない。 |
側面形。キャノピ高さが決定的に足りない。なんか雷電みたい。 |
この角度から見た胴体形状は悪くない。ハセより精悍な印象だ。 |
胴体断面形も、側面の平面感などまずまず。 |
結論として、ハセ、エデュ、オタは三者三様、それぞれ一長一短があり、いずれも決定版ではない。オータキのカウルをそのまま活かし、その流れで胴体、主翼を使うというのは大いにあり得る。素材としての素性はよい。ただし、キャノピだけは流用か自作か、何とかしたいところだ。素組みでどれを選ぶかは、それこそ好みの問題かな。以上、情報提供感謝。
別の言い方をしよう。各社キットの発想は、下図上段のように小判形をした開口部がまずあって、その中にエンジンとインテイクとの仕切りがある、というもの。例えればP-47サンダーボルトの変化形だ。ところが、実機は、下図下段。つまり、エンジンを囲む真円の開口部がまずあって、その下側にインテイクの下顎が追加されたと捉えるべきなのだ。例えれば、F4U-4コルセアの顎インテイクがぐーっと横に広がったもの。キットの発想はAが後付けなので、@と同じ形という事実が見えないわけだ。 ではB下顎の形状は@Aと同じかどうか? @とAが同一形状というのは、F6Fの取説のカウル構造図からも明らかで、前から知ってたのだが、実は長いことBも同じ形、つまり@=A=Bだと思い込んでいた。ところが、これが大間違い。これ、写真から寸法取って図面起こして、正面図と側面図の辻褄が合わなくて気づく。まず@Aよりもほんの僅かに幅が広い。リップ正面形は完全なる半円ではなく、ごく僅かに鍋底気味。そして、横から見ると@のオデコのカーブとBの顎のカーブが同一ではなく、Bは上下につぶれている。言い換えると、次のパネルラインの位置でのカウル高さとリップ先端の高さの差を較べたとき、Bは@より高低差が小さいのだ。 このカーブの違い、というか高低差の違いは今まで気がつかなかったなあ。キットもこの違いを認識してなく、ハセ、エデュとも@=Bである(エデュは正面幅の微妙な広がりは再現、オタは未所有につき未確認)。ヘルのカウルって、どことなく下面が平べったい印象があるが、これはエラが張っているだけでなく、下顎が削がれているからなのだ。上図下段Bはデフォルメ気味に描いているけど、上段よりヘルキャットらしい感じがするでしょ。 レジンパーツで「F6Fコレクト・カウリング」とか銘打ってるものがあるけど、このあたりどうかな? もっともカウル後端はキット胴体形状に合わせているため、どっちにしたって「コレクト」にはなりっこないのだけど。
|
内側は補強のため、ほとんど真っ白。 |
機首鼻筋は、エンピツ線で谷折りに曲げている。形状把握のため、リベットラインを記入。 |
次にエンジン前端のパネルライン部における寸法。高さは側面写真から34.0mm、幅はいい写真が無く、精度よく求まらないが、エンジン直径(27.9mm)を考慮すると28.5〜29.0mmといったところか。カウル後端では高さ39.5mmで、ハセ、エデュとも1〜2mm程不足(前後長も1mm不足)だ。幅は33.5mm、最大幅位置は排気管部分で、ここの側面はほとんど垂直となる。 で、これら数値と、写真トレースを基に図面を起こしたものが下図となる。一般的三面図と異なり、エンジンスラストラインを基準面としているのに注意。側面図は写真トレースなので、上下のカーブやプロペラ軸の位置など、ばっちりだ。正面図においては、開口部形状は写真トレースで精度高いが、エンジン前PLやカウル後端のカーブになると、写真が読み取りづらく、図面の精度が低いので、そのあたり割り引いて見ていただきたい。 この図を見ても、オデコと下顎のカーブ、高低差が違うのが分かるよね。
次に、上顎をもう1つのキットのオデコから切り出して移植。裏側のギャップを瞬間+プラ粉で埋める。下顎も切り離し、さらに左右に分割。プラバンを挟んで幅を広げる。上顎との切断部には1mm弱のスペーサ(オデコ部分から切り出す)を接着し、これでインテイク開口部の上下高さを増す。 |
まずはオデコと上顎を切り出す。 |
開口部の真円に注意して接着。 |
裏側も整形。ただ、プロペラを付けるとどうせよく見えないから、程々に。 |
接着前の状態。詳しくは以下本文で。 |
後方部分は、カウル後端での高さと幅を拡大し、カウルのボリュームを大幅に増やす。すなわち、外周の長さが増すということで、エンジン前方PL部で1mm、カウル後端で5mm程外周が長くなるように、カウル下側に1.2mmプラバンのスペーサを挟む。ただ、これだと断面のオムスビ形が強くなりすぎで、上側にも挟む方がよかったかな。スペーサ挿入で前後端面が折れ曲がる。また、キットのカウル前後長さは1mm不足。これらを修正するため、前端面に1.2mmプラバンを接着。後端は不要部をカット。 内側に例により補強の0.5mmプラバンを接着したら、いよいよ、カウル正面と後方部分を接着。下顎は、内部の仕切り板などの工作があるので、とりあえず接着しないで合わせるだけ。あとは、#180ペーパーでゴリゴリ削る。ハセのカウルはエンジン付近の丸みが強すぎ。これがほぼ直線になるよう意識する(厳密には直線ではない)。下顎下側も後方部分とツライチになるまで削る。 荒削りが済んだところで、胴体、主翼と合わせてアウトライン・チェック。いやもう、急にカッコよくなって少々興奮気味。ヘルキャットのカッコよさのツボっていくつかあって、胴体下半分のボリューム感と、それに対比する上半分のスマートさ、カウルの角張り感、スッキリ鼻筋、風防の立ち上がり、随所にある直線ライン、等々。既存キットは、これらがどれかしら欠けているので、似てないし、カッコ悪い。で、これらが一通り揃ってみると、俄然ヘルキャットらしくなるのだ。 |
形状把握のため、エンピツでパネルラインを記入してみる。風防はエデュ、主翼一体の下側胴体は未着手のためギャップがある。 |
これぞヘルキャット!! 「鋭さ」と「凶暴さ」が出てきた。インテイクの拡大と顎下側カーブの削ぎ落とし、カウル後端幅の大幅拡大が効果的。 |
再掲、ハセオリジナル-3。素性は悪くないけど、ビミョーにツボを外してるので、野暮でどんくさい。駄作機っぽいね。 |
右エデュと比較。ぬるっとした胴体断面とか、左右平行なカウルとか、作った人には申し訳ないけど、気持ち悪くてもう見てらんないって感じ。 |
後部胴体の下部は、広げた機首から尾部までの平面形の流れを考慮し、主翼後端で2mm程広げる。このあたり、正しい実機幅かどうか自信なし。あくまで、模型として立体で見たときの感覚優先である。 |
胴体中央下部は、2つのキットからこのように切り出す。 |
擦り合わせ、接着、補強して出来上がり。排気管出口の凹みの左右間隔にも十分注意。 |
広げた胴体前部に無理なくつながるように、後部胴体下部を少々広げる。 |
垂直尾翼は2mmほど嵩上げする。これも2つのキットから切り出して接着、補強。 |
キットは機首のボリューム不足。キットの垂直尾翼はそれにバランスするサイズだから、機首を修正すると、尾翼の高さ不足が見えてくるのだね。
|
実機のインテイク仕切りは、後ろ側が厚い。1.2mmプラバンから削り出す。これより後方は、カウルのパネルと一体となったダクトにつながる。 |
次に下顎を接着。内側には変形防止のつっかい棒。両サイドの排気管部の垂直と、4時8時の折れ曲がりに気をつけて削る。 |
カウル側面を平らに削りすぎ、パテがわりに瞬間+プラ粉を盛ってラインを膨らませる。 |
正面上方から。 |
カウル側面、本当はカッコよくプラ地で決めたかったんだけど、結局盛ったり削ったりのコテコテ作業。ヘタレやのう。盛ったところにスジボリ、リベットがきれいに出来るか不安。もう1つキット買ってテイク2いくか? ハセカウル考。いまいち似てないなど陰口言われているけど、ちょっとした改修で雰囲気が良くなる。まず口の両端を切れ上がるように削り込む。下顎の下側にはプラバンでも貼ってやり、開口部を下に(横にも少し)広げる。これでオデコと下顎のカーブの違いも同時に再現できる。次に、横から見てエンジン上部付近の湾曲が強いので、写真など見ながらもう少し直線感の出るように削る。これで、オータキにも勝てるぞ。素組みの方もぜひ。
|
正真正銘の純正オータキキットだ。 |
定価400円だぜ!!いつの値段? 熟成期間30余年ってところか。 |
エデュの風防&キャノピを乗せてみる。ほとんど微修正でフィットする。 |
キャットグリンの比較。上顎の薄さと下顎正面形が気になるところ。オデコと下顎の側面ラインの違いはしっかり再現されている。 |