F6F-5ヘルキャット製作記 その2

2011.5.20初出

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 主翼組み立て 7/9追加




■ ギミック 

 話は2ヶ月前、静岡HSに遡る。F-86の次のアイテムが決まらず、F6Fは最有力候補なのだが、いかんせん「地味」で、製作意欲を掻き立てない。悶々としていたところ、帰りの新幹線の中で、「!」と閃き、「翼が可動したら絶対ウケるよな」と、ヒンジの構造や工作法などつらつら考え、「結構いけるかも」となり、「やったろうじゃん」と、これまで構想を温めてきたわけ。

 これに至る伏線はいくつかあって、まず昨年(だったか)のSHSで拝見したTSMCのM氏のヘルキャット。何もなくても圧倒的存在感なのだが、目前で翼がぐわーんと可動して、これには心底シビれた。めちゃめちゃカッコイイ。それとスケビ等でおなじみN氏のヤングマン・フラップ@バラクーダ。金属を多用し、1/48でここまで可動するか、という驚愕のモデルだ。

 ということで、アルミ貼りの次は可動ギミック行ってみよう。課題は2つ。スケール感と可動の両立、それと強度の確保だ。展開時には十分に普通のスケールモデルとして通用するレベルにしたいところ。ただし、格納時に見える主翼内部や脚収容部は、1/48ではどう考えてもスケール通りにはならない(プラの厚みを極度に薄くしない限り無理←リベットが打てない)ので、ここはある程度妥協せざるを得ない。強度は金属使用で何とかなるかな。



えいやっ、と翼を真っ二つ。分割ラインは特に検証していない。ここはキットと心中するつもり。


 結局、またしても「普通」のプラモデルから遠ざかる自分・・・。ま、失敗したら普通のプラモで作り直せばいいし。←そんな弱気でどうする?


■ 折り畳み回転軸の計算 

 最初に、折り畳み回転軸の角度を知る必要がある。手元の図面(Model Airplane News)には、横への傾き(正面図における鉛直軸からの傾き)が28度30分、後への傾き(側面図における鉛直軸からの傾き)が26度20分と書かれている。人の描いた図面、数字は信用しない主義なので、写真等を元に自分で角度を計算し検証する。

 まず、下図をご覧いただこう。左は左翼を斜め前から見た模式図である。3軸はどうとってもいいのだが、ここでは、x軸は翼スパン方向、y軸は機軸方向、z軸は鉛直方向とし、原点は回転軸上に置く。

翼の折りたたみにより、点Pが点Qへ、点Rが点Sへ移動する。
このとき、点P、Qは回転軸に垂直な平面 I の上にあり、点R、Sは同じく軸に垂直な平面 II の上にある。
翼の折りたたみによるPのQに至る軌跡は、この軸を中心とする円弧となり、
当然、平面 I と平面 II は平行である。

ここで高校(だったっけ)の数学を思い出せば、平面の式は

a x + b y + c z + d = 0 ・・・@

と表すことができ、このときa、b、cは平面の傾きを表し、
ベクトル(a,b,c)は平面に垂直となるので、
a、b、cの値を求めれば、軸の傾きが分かる訳だ。

さて、このとき平面の性質を思いだそう。
平行な平面であれば、a、b、cの値が同じでdの値だけ異なる。
したがって、点P、Q、R、Sのそれぞれの座標を式@に代入すれば、

a x1 + b y1 + c z1 + d = 0 ・・・A
a x2 + b y2 + c z2 + d = 0 ・・・B
a x3 + b y3 + c z3 + d' = 0 ・・・C
a x4 + b y4 + c z4 + d' = 0 ・・・D

という5元連立方程式となる。
変数がa、b、c、d、d'の5個で式が4本だから答えが出ない、
と慌ててはいけない。a、b、cの比率が求める答えなので、まずa=1とする。
あとは、d、d'を消去し、bとcを力業で解いてやると、

b = {(x1-x2)(z3-z4)-(x3-x4)(z1-z2)}/{(y3-y4)(z1-z2)-(y1-y2)(z3-z4)}
c = {(x1-x2)(y3-y4)-(x3-x4)(y1-y2)}/{(y1-y2)(z3-z4)-(y3-y4)(z1-z2)}

となって、軸の傾きベクトルが分かる。
x1、x2、・・・z4の値は、座標軸を決めて、模型上で実測すればいいだろう(注)
電卓で計算するのは大変だが、エクセルに式を作っておけば比較的簡単だ。

これを、z軸からの傾き角度として求めるならば、
x軸方向への傾きをθx、y軸方向へはθyとすれば、

θx=tan-1(a/c)
θy=tan-1(b/c)

となる。



(注)
回転軸上に座標軸原点があれば、原点から点Pと点Qへの距離は同じだから、ピタゴラスの定理で
x1^2 + y1^2 + z1^2 = x2^2 + y2^2 + z2^2 という関係式が成り立ち、これより

y2 = (x1^2 + y1^2 + z1^2 - x2^2 - z2^2 ) ^0.5

とすることで、座標読み取り誤差による計算結果の歪みを少なくすることができる。
(y4も同様に計算できる)

また、同様に点QとSの関係も翼端の弦長や格納時の翼面の傾き角などから計算するとベター。
(計算式は自分で考えてね)





■ 回転軸の計算 その2 7/27(一部修正)

 計算式ができたので、実際に座標を当てはめてみよう。格納時の翼端後側の幅は122inというデータがあり、写真から大きな間違いはなさそう。この点の高さを写真から計算すると、主翼上面から、1/48で30mm強。格納時の翼面の傾きは、後方からの写真で概ね55度。外翼上反角は7.5度。これらをえいやっとエクセルに放り込み、途中あれこれあって(苦笑)、最終的に、θx≒28.5度、θy≒26.3度という結果で、手元図面の数字と同じとなる。

 さて、θxとθyが分かったが、模型製作上は、主桁ウェブ平面上における軸の角度を求めておくと便利。すなわち下図で灰色台形が主桁ウェブ、赤線が回転軸としたときのθwである。こうして軸を取り付けたウェブを後傾角θyで固定すれば、正しい回転軸となるというわけ。tanθw = cosθy・tanθx = a/(b^2+c^2)^0.5 という関係式からθw=25.9度となる。

 この計算方式、ヘルキャットだけでなく、ワイルドキャット、アヴェンジャー、さらにはファイアフライなどにも使えるぞ。誰かアキュレイト・アヴェンジャーの可動ウイングやらない? なお、ベアキャットなどは、ここでいうY軸を中心として折り畳むため、上記計算方式だと0(または0に非常に近い値)で割ることになって、答えがうまく出ない恐れあり。もっとも、こういう構造なら軸角度を計算する必要もないよね。

エクセルはこちら


■ ヒンジ金具

 ヒンジのキモとなる金具を作る。近くのハンズ等では適当なサイズの真鍮材が手に入らず、手元にある1×2mm断面の真鍮帯金に0.8mmピンバイスで穴を開ける。ドリルとチャックが滑って手こずり、穴1つに10分もかかる。手作業ゆえ、穴の位置や垂直の精度は甘いが、それは想定内。甘いパーツを使い、組み立て方の工夫によりどこまで最終的な精度を上げるかが考えどころだ。



穴を開けたら正しい角度に折り曲げる。この角度が大切。



■ 続、ヒンジ金具 7/16追加

 前回、組み立て方の工夫で精度を上げる、と書いた。まあアタリマエで大した工夫でもないが解説しよう。実機のヒンジは翼上面、下面それぞれ主桁に取り付けられる。これを上下別個に取り付けては精度が出ない。上下ペアで一つのヒンジと考え、主桁と一体構造にするのが工夫その1。

 精度確保のため、上下ヒンジ金具を一本の0.8mm真鍮線にまず通す。それに内/外翼それぞれの桁パーツをプラバンから切り出し接着すれば、回転スムーズ、ガタつきなし、軸の角度もばっちりだ。 ヒンジ金具と桁のプラバンの接着は、そのままでは強度が心配。完成後遊んでいるうち剥がれてきても直せない。そこで0.3mm真鍮板を幅3mmに切り出し、ヒンジ金具とL字形にハンダ付けする。

 そして、内/外翼に切断した主翼上面パーツは、上反角(上面で約6°)に注意してテープ等でぴったりと隙間なく仮止めしておき、そこにヒンジ・内/外桁一体のパーツを接着する。このときは、軸の位置、桁の後傾角度だけ注意すればよい。これが工夫その2だ。翼下面パーツは最後に接着する。


■ 新兵器登場

 ハンダ付けに秘密兵器の投入だ。静岡で1/20セイバーの彩雲会K名人に、ハンダ付けのコツをお尋ねしたところ、「ハンダごて使わんでー」とのお答え。「えっ、どうやって??」 で、教えていただいたもの。ウン千円の高級品もあるが、下画像「ポケトーチ」は東急ハンズで1,500円程度。ガスが切れても100円で交換可(高級品は交換ボンベがまた高い)。

 使い方は、あらかじめ小さく切ったハンダを乗せておき、こいつで数秒炙る。フラックスは塗った方がいいかな。コテよりも加熱時間が短く、非接触なので、加熱中にパーツ同士がズレたりというのが防げる。また、先にハンダ付け済みの箇所への影響も少ないとのこと。



ポケトーチ。取説によると、線香への着火、料理の焦げ目つけなど用途は多様。コンビニ寿司が炙りまぐろに変身。いいかも。

こんな具合にセット。台はホームセンターで買った外壁用石板の端材\60。

パーツとは非接触だが、炎の圧力、ハンダの表面張力でパーツが動くので、何かで固定する方がよい。

トンボのオブジェ完成。右翼用で右側が内翼となる。外翼側の上下を内側に挟むのがミソ。


 実際に使ってみると、上々の使用感。自信を持って推奨する。ハンダ付けが苦手な人には朗報かも。コテだとハンダの使用量のコントロールが難しく、ついボテボテに盛ってしまいがちだが、ポケトーチだと隙間にシュッと流れてくれ、仕上がりもキレイ。ただし、炎を使うので火事には十分注意のこと。ポケトーチ、流行るか?


■ ヒンジその2

 ヒンジ金具を計算結果のとおり折り曲げる。内翼は25.9°外翼は上反角と桁の後傾角を考慮する必要がある。桁ウェブ面の上反角を計算すると翼基準面で8.4°なので25.9+8.4=34.3°だ。そして真鍮線に通したヒンジ金具と桁を接着。金具の穴位置、穴角度、折り曲げ角度、L字に付けた板の角度などの誤差は、金具とプラ桁との接着面の隙間に逃がす。



トンボに1.2mmプラバンの桁をエポキシで接着。接着後、桁と主翼パーツとを摺り合わせる。

内翼に組み付けた状態。まだ接着しない。

接着前に、動作の確認。以下連続写真で。


よいしょ。

よっこらしょ。


もう一息。

ふーっ。

下から見ると、こんな具合。実機は、主桁に直接主脚が取り付けられる。模型でもそのようにする予定。


 実機クローズアップ画像と較べるとすぐバレるが、ヒンジの形や位置は実機とやや異なる。上下位置は翼パーツのプラの厚み分だけ内側寄りだし、各ヒンジは作品のような2分割でなく3分割。このあたり、精度と強度優先でやむなし。まあ、実機どおり再現しても濃紺で塗るとよく分からないから、それでいいのだ。←F4U-5Nで経験済み。


■ お詫びと訂正 7/27追加

 前回更新でθx、θyを算出し、そのとおり製作したところ、どうも折り畳んだ状態の位置関係がおかしい。チェックしたところ、その計算結果に誤りがあることが判明。がーん。改めて計算し直すとθx≒28.5度、θy≒26.3度となり、Model Airplane Newsの図面が正解。お詫びして訂正する。(以前の記述は訂正済み)

 計算式、エクセル表に誤りはなく、原因は、入力した座標数値が違ってたため。現物を実測すれば防げたのだが、図面上でちゃらっと計算したときに初歩的チョンボ(具体的内容は恥ずかしくて言えない)。これがミスその1。出てきた答えが偶然にもx-y逆さまだったので、作図者の勘違いと安直に決めつけたのがミスその2。何ともお恥ずかしい限りで、すでに間違った数値で製作された方には申し訳ない。


■ ヒンジその3 

 ということで、ヒンジをやり直す。もっとも、一から作り直すのではなく、ばらして正しい角度に再セットするので、作業的には大きな手戻りではない。むしろ、原因究明と計算式&エクセルのチェックに時間を要する。エポキシで接着したヒンジ金具をバラすのが意外と簡単で、いいんだか悪いんだか。さて、気を取り直して、折り畳み機構の続きだ。

 いくらヒンジ部の精度が高くても、上下2点のピンによる結合であり、そのままではぶらぶら。しっかり固定するためには3点での結合が必要。ここは実機どおり、後桁位置で内外翼をピン結合し、位置を固定し荷重を伝達する。精度と強度の確保のため、それぞれの結合部材は真鍮板をプラバンにエポキシで接着して製作する。バイスで穴を開け、真鍮線を通した状態で、翼パーツに固定する・・・ところが、これが予想以上に難しい。




0.3mm真鍮板を切り出す。右上はアイリスのレジンパーツで、薄く削って貼り付ける。

0.8mmプラバンをサンドイッチ。

内/外の翼上面パーツをセロテープで仮固定し、そこに結合部材を接着する。内/外翼の結合部材は0.7mm真鍮線を通す。

下から見上げた状態。



 なぜかというと、実機のこの部分、格納〜展開の作動時に内外翼とのクリアランスがギリギリ。逆にいうと、設計上はギリギリクリアできるように翼の分割ラインが決められているワケ。ところが模型だと、強度確保のためピン結合部分がオーバースケールになり、このためマージンがより少なくなり、ちょっとのズレで作動時に翼パーツに干渉するのだ。結合部分の位置決めは非常にデリケートで、何度も試行錯誤する。結局、下翼の切り欠きをキットのスジボリより少々拡げ、それでもプラの弾力で翼がたわむと若干こすり気味。




分かりづらいが、手前が右内翼上面。奥が外翼上面パーツで光っているのがその結合部材。


内翼側の結合部材は、外翼下面の切り欠きによりクリアするようになっているのだが、ご覧のとおりギリギリだ。


 いや〜、こんなにギリとは。実はヒンジの工作上は、もう一つ大きな課題があって、それは展開位置から折り畳み始める際、分割線のところで内外翼が浅く斜めにスライスするように切れ上がっていくのだが(下画像参照)、そのために、分割線でパーツのエッジを薄く尖らせる必要があり、さもないと断面が引っかかって折り畳めない。これは手を動かす前からある程度予想してたが、実際のところ相当薄くしないとスムーズな作動ができない。ところがそれだと欠けやすく、隙間が目立ち、リベットの工作も難しい。



再掲。


このように主桁に沿った分割ラインにおけるパーツの取り合いがデリケート。


 引き続き、左翼も作業。これで折り畳み機構が一応出来上がる。下面パーツは仮止めで、脚収容部のディテール工作が進んでから接着する。



両翼折り畳み状態。これがやりたかったのだ。畳んだ位置もばっちり。


後ろから。軸角度には気を使ったので、左右も揃っている。



■ 主翼スペック 

 ここでスペックを整理しておく。(2013.6修正:赤字


主翼全幅 42ft10in (1/48 : 272mm)
折り畳み時主翼全幅(翼端前縁) 16ft2in (1/48 : 103mm)
翼型 NACA23000シリーズ
翼厚比(胴体境 ※注1)(胴体中心) 15.6% 14.65%
翼厚比(翼端) 9%
主翼弦長(胴体境 ※注2)(胴体中心) 10ft3in (1/48 : 65mm) 10ft7in (1/48 : 67.2mm)
主翼弦長(翼端) 5ft5in(1/48 : 34mm) 5ft3in (1/48 : 33.3mm)
主翼迎え角
ねじり下げ
上反角 内翼:0°外翼:7.5°
水平尾翼全幅 16ft6in (1/48 : 118mm)
水平安定板迎え角 1.5°
垂直安定板オフセット
垂直・水平尾翼翼厚比 11% ※注3


※注1
ルートの翼厚比の15.6%は、胴体境での値であるとする資料があり、ここでは一応その説に従っている。ちなみにF4FやF7Fのルートでの翼厚比は15.0%(これも厳密にどこで測ったか不明)。なお、内翼の厚さは、胴体境の翼厚比が15.6%だとして1/48で10.3mmとなる(訂正データで計算すると9.8mm)。このあたりは実機写真での検証も難しい。

※注2
胴体境10ft3inとして胴体中心線での弦長を計算すると概ね10ft10inとなる。

※注3
NACA論文の図より読み取り。真偽のほどは各自ご判断を。


※注
外翼のstナンバーは、水平面への投影でなく、翼基準面に沿って定義される。


 補足すると、厚さの絶対値は内/外翼分割部まで一定である。キットは内/外翼分割部において厚さ不足。翼端部では厚さ3.1mmで、キットは1mm過大だ。翼型に関しては、キットは概ね正確である。ねじり下げを明示した資料は未見だが、「明示されない=なし」と考えられるし、写真を見ても「なし」と断定してよいと思う。

 迎え角ゼロは-3°のスラストラインと相殺と考えれば、基準線の取り方次第かという気がするが、ねじり下げゼロはどうだろう。翼面荷重減少を狙った大きな主翼、舵の効きを考慮した大きな水平尾翼、高迎え角時の推力線偏心による直進性悪化を改善するダウンスラスト、高い操縦席位置など、速度を犠牲にしてまで着艦性能にはトコトンこだわったと思われるグラマン社だが、不思議と翼端失速防止目的のねじり下げは採用していない。失速特性が良好で翼端失速が問題なかったのか、内外翼の折れ曲がりが関係するのか(コルセアは、まずここから気流が剥がれて失速したらしい)、設計者の真意を聞いてみたいところだ。




 胴体その2 8/5追加




■ 尾翼翼型 

 不明であった垂直/水平尾翼の翼型について、情報を頂く。NACAの論文中に断面図があり、これらはノンスケールでどこまで正確に実際の形状を反映しているか不明であるが、ヒンジ位置が明示されているなど、印象としては概ね正確と思える。翼厚比を実測するといずれも約11%。垂直尾翼の翼型は最大厚位置がコード中央付近にあり、高速、亜音速用に開発されたものだとか。水平尾翼はそれよりはやや前方寄り。これら翼型図はトレースして、以前作成の図面に追加し、あわせて前回掲載のスペック表も更新する。情報提供感謝。


■ カウル テイク2

 苦労して修正したカウリング、イメージはばっちりだが、プラ粉+瞬間を盛って削ってるので、カウル側面がビミョーに歪んでたり左右非対称だったりするのだ。そこでキットをもう1つ買ってやり直す。前回の反省を踏まえ、新キットパーツは上下左右に4分割し、それぞれにシムを挟む。各シムの寸法は、上側が前2mm後1.5mm、左右が前0.5mm後1mm、下側が前2mm後ろ2.5mmで、要するにカウル胴回りが5〜6mm延長される。

 カウル正面はテイク1から切り取って持ってくる。この前後長は6mm。新規購入キットのカウル後半は、前端から約5mmのパネルラインで切断し、この差分だけ、カウル前後長が延長される。



上下左右4分割の新規購入パーツとテイク1の正面部分。結局ハセだけで3キット購入だ。

シムを挟んで接着し、全体を荒削り。今回のシムはキットのプラ端材で同色なので、画像ではよく分からない。



■ キャノピ三面図&胴体平面図 

 私の図面を使って、どこかのメーカーが新金型キットを開発してくれないかと真剣に考え、新たに-5のキャノピの図面を描き起こす。なんといっても、プラキットにおいてキャノピパーツの正確度は極めて重要なので。側面形は写真トレースでばっちり。断面形、すなわちキャノピ幅、側面窓の傾斜角度、上方湾曲部の幅なども写真トレースから自信あり。

 正面風防(防弾ガラス)は、若干小さい画像からのトレースであるが、その幅や、形状にそう大きなズレはないと思う。キャノピ平面図は、これら側面図と正面図とが辻褄が合うように作図する。なお、キャノピのスライドレールは完全なる左右平行ではなく、やや後ろすぼまりで、また上から見て緩やかにカーブしており、キャノピ中央部付近が最も幅広となる。

 ついでに-3の風防も作図するが、図面製作に耐えるいい写真がなく、フレームの形状/位置などやや怪しのいで、参考程度に見ていただきたい。作図にあたっては、正面ガラス両サイドのフレームが-5と基本的に同じ位置にあると仮定している。



キャノピ&カウル



 胴体平面図がようやく出来上がる。下面は、ほぼ真下から撮影した現存-3型写真(遠近法の誤差あり)と、私のモデルの実測をミックスして寸法を出しているので、完全に厳密ではないが、まあそれなりに近いところに収まっていると思う。(2013/2胴体平面図を後日作成の上面図、下面図に差し替え)

 さらに胴体断面図もキャノピを加えて描き直す。これは、実機斜め後方からの写真をトレースし、側面写真と重ね合わせることで遠近法による誤差を修正したもの。#0は防火壁、#3が風防後端部分のフレームで、#5がコクピット後方バルクヘッド、#7はキャノピレール後端部のフレーム#20はラダーヒンジだ。(2013/2/27修正、2021/5/13 上面図、断面図をver.4に修正)







下面図(2013/2/27修正)





 これで、外形修正、翼ギミックが終了。図面描きに時間取られて、ここまで2ヶ月余り。ようやく普通のプラモデルの製作工程に入る。


■ コクピット 8/12追加

 普通のプラモデルは、コクピットから製作かな? ということで、普通に戻ってまずはコクピットの製作。例によりアイリスのレジンパーツで手抜きディテール・アップする。同社コクピットセットには-3と-5があるが、左右側壁の機器類は全く同じで、-3には後方の小窓から見える部分が追加されているのと、ヘッドレスト付近に相違があるのみ。したがって、小窓付きの-5初期生産型を作るなら-3用を使う方がよい。なぜ知ってるか? 両方持ってるから・・←ただのアホ。

 で、今回は後方小窓付きの-5初期型にする。某有名エース機を作りたいのでネ。小窓は、当初0.4mm透明プラバンで作るが、表面を面イチにする過程で薄くなりすぎ却下。代りに1mm厚のCDケースを使う。後方胴体には見える範囲でリブをつける。あとは、レジンパーツの使える部分を切りとっては貼っていく。細かく見れば実機と比べて疑問な部分もあるが、雰囲気のみの再現とする。



アイリスのF6F-3コクピットセット。これにエッチングの計器板などがつく。ディテール、考証とも非常に高いレベルだ。

胴体パーツには補強の0.5mmプラバンを貼っており、アイリスの側壁パーツはそのまま使えない。個々のディテールを切り取って貼っていく。

計器板はキットパーツを使う予定だが、その両脇の小計器板が側壁のパーツと干渉するので切り取って壁側に接着する。

床板は、アイリスを参考にプラバン工作。サイドコンソール前方にあるのは、胴体燃料タンク注入口の裏側だが、計器板をつけると全く見えない。



■ コクピット考証 8/19追加

 調べた範囲で分かった点など、メモっておく。-3と-5のコクピット内部は、後方小窓の有無に関係する部分を除けば、基本的に大きな差はない。計器板は中央が飛行関係、右下の小パネルはエンジンと燃料関係、左下はフラップと脚関係がまとめられている。-5では、メインパネル中央上段のコンパス周囲が一段盛り上がるのと、注意書きなどの細部が違うが、基本的レイアウトは同じ。なおN型ではコンパス位置にレーダースコープ、上段左端に電波高度計が設置される。左右の小計器パネルは目立った変更なし。

 左コンソールには、スロットルと各種トリムハンドル、フラップ、脚の操作レバー、燃料切り替えコックなどがある。これらの配置は他の米軍機と同様で、操作のしやすさに配慮されている。-5の変更点はスロットルカラム前方にインタークーラー・フラップ・レバーの基部パネルが追加された程度。右コンソールはスイッチパネル、電気、無線、油圧関係などがまとめられる。-5ではコンソールパネル自体の変化はないが、スイッチパネル後方の無線、IFF関係の小機器類が異なる。

 センターコンソールは主に武装関係で、-5ではロケット弾のスイッチが追加される(ロケット弾を装備しない-5は-3と同じか?)。その他、-5ではコクピット開口部縁に置かれた蛍光ライトが撤去された。

 頭部防弾板は、後方小窓の有無によって異なり、-5前期までの小窓ありタイプでは、両脇が円弧状に切り取られた形状だが、-5後期は切り欠きがなくなり、さらに板自体が前傾して取り付けられる。小窓付きタイプのヘッドパッドにはバリエーションがあり、革がヘッドレスト下部に斜めに伸びているものと、そうでないものとがある。ヘッドパッドの色は全ての型式で黒。


■ コクピットと胴体内部の塗色

 理由はよく分からないが、小窓付きヘルキャットの後部胴体内部はかなり明るいライトグレイで塗られている。コクピット後方のバルクヘッドの後ろ側も同色。どっかの文献に正しい色調が書いてないかと探したけど不明。とりあえず作品ではカラー写真の印象から#338ライトグレイFS36495で塗る。あまり知られてないのか、雑誌の作例でも無視されているのがほとんど。

 一方、コクピット内部はいわゆるインテリア・グリーンだが、型式により微妙な差異があるようだ。-3では窓枠内側や防弾ガラスのフレームも同色で塗られているが、-5になると窓枠内側が黒と思われる暗色の機体が見られる。また、サイドコンソールと側壁も-3は基本グリーンだが、-5では黒くなっている機体あり。このあたり、全面黒へと移行する過渡期なのか。F4Uコルセアでも同様の傾向がある。

 カウリング裏側は、パネルをとめるフレームも含めジンクロ・イエローで塗られている-5のオリジナル・カラー写真もある。ただしその場合も、下側のインテイク内側はシーブルーだ。


■ 塗装と細部工作

 後方窓はテンプレート作って、スジボリして、コンパウンドで磨く。その内側をマスキングして、まず黒を吹く。これは表から窓周囲にライトグレイが見えないようにするため。続いてライトグレイ、インテリアグリーンと吹いていく。以下、画像で。



ベースのエアブラシ塗装終了。胴体後部はライトグレイだよん。見せたくない胴体後部はダークグレイでぼかす。

計器板はキット。エッチングの平板感が好きでない。ポンチで抜いたデカールを貼り、フューチャーを垂らす。

センターコンソール、ラダーペダル、操縦桿基部はアイリスそのまま。非常によく再現されている。

仮組みしたところ。塗装するだけでこれだけの精密感が得られるのは嬉しい。緑のボトルは酸素。

左側にはレバーを何本か植える。レバーの頭は、延ばしランナーの先端に瞬間をつけてプラ粉に突っ込んで工作。

このとおり、コクピット後方は、あまりよく見えない。


 アイリスは基本的に-3を再現しているので、正しい-5のコクピットにするなら、若干の修正が必要だが、目くじら立てる程ではないかな。作品もできる範囲での追加工作に留める。


■ 胴体接着

 ようやく一の字。胴体パーツは、前後で継ぎ、コクピット前方の断面形を曲げているので、左右パーツは完全なる相似形ではなく、微少なズレがある。このため、接着の手順を間違えると胴体が歪む。誤差をどこに逃がすと歪みがなく狙った外形になるか、慎重に考え確認しながら進めることが、この手の改造作業では肝要。使用する接着剤は、微調整のきく溶剤系にすると失敗が少ない。後部胴体を溶剤系で接着し、歪みを確認してから、機首と尾翼を瞬間で接着する。

 接着後、外形をブラッシュアップ。側面図や平面図で示すとおり、カウルと胴体の面は基本的には滑らかにつながらず、わずかに折れまがる(カウルフラップ直後の胴体は絞り込まれているが、もしこれがなくても折れまがる)。従来の図面やキットでは表現されていない部分だ。



尾翼直前の胴体頂部を尖らせる。ヘルキャットの鋭さを表現する重要な点だ。

カウルと胴体のラインのつながりを慎重に削り合わせて調整する。エンピツでハッチングした部分は二次曲面(断面が直線)となる(多分)。



■ 透明プラバン絞り

 松風会の白井会長による透明プラバン絞りの実演ビデオがyoutubeに掲載されているので、勝手に紹介させていだたく。私の場合、加熱時は木枠に挟まず、厚手の手袋をした手で直に持つのと、成形後の切り出しにモーターツール(丸ノコ)を使うところが異なるが、プラバンの大きさ、加熱法(火加減、距離、回し方)、絞るタイミングの見極め(端が縮んでくる)、型への押しつけ具合などはほとんど同じ。←「ふー」はしてないけど。

実演その1  実演その2



■ エンジン 8/21追加

 前回より二日後の更新。

 さて、ダブルワスプは、米軍の主力エンジンとして長年多くの機種に搭載され、その間の改良により型式も豊富で、外形的にもバリエーションが見られるが、そのあたりきちんと整理された資料がなく、ヘルキャット-5に搭載されたR-2800-10Wというのがどんな形をしているのか、いまいち確証がない。資料本は信用できないし、現存機のはどこからパチってきたか分からない。記録写真では暗くてよくわからないが、ギヤケース上の補器は頂部が八角形でプラグコード基部は平板タイプのようだ。

 使用するのは手元に余っているタミヤP-47。ディテールはいいんだけど、細身の同社キットの機首に合わせて直径が小さいのが玉にキズ。ハセも直径は変わらないが。



プラグコード基部をプラバンで作り変える。ちと幅が広いか。先にプラグコードを付けたら、塗りづらいこと。

ギヤケースはEDSGで塗る。プラグコードは金を混ぜた銀で塗るが、真偽の程は?だ。ギヤケース上にはもう1つ補器が付く。後でつけよう。



■ カウル内部

 エンジンに合わせて内部も工作。



カウル内部はジンクロイエローにする。小ぶりなエンジンとの隙間が目立つので、内部にディテールを追加してごまかす。

エンジンとインテイクの間の仕切り。実物はこんな形ではなく、それぞれのダクトが独立している。



■ エデュアルド1/72レビュー

 いよいよ店頭に並んだようである。未入手だが、ハイパースケールの記事画像などを参考にレビューする。1/48とは異なる設計という噂があって期待したのだが、胴体基本形状はNG。後部胴体の平面部分が狭いという欠点はそのまま引き継がれている。また、主翼位置が低く、鼻筋の峰が高いので、キャノピ付近の胴体側面が間延びして見える。おそらく胴体幅の狭さもそのままだろう。キャットグリンは若干改善されているようで、上顎の厚みが増した。

 ということで、基本的に1/48のスケールダウン。残念ながら、決定版にはなりえず。本邦メーカによる決定版の開発を、是非とも期待したい!!


■ 参考サイト追加

 サイバーのコクピット画像は、当時のマニュアルからの転記と思われ、オリジナルのコクピットを知る上で有用。前回更新の記事もこれをベースにしている。







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