中島 キ84 四式戦闘機 疾風 図面
2017.1.1初出
|
いつものとおり、基にするのは実機写真および取説、マニュアル、製造図などの一次資料とする・・・と言いたいところだが、疾風の場合は資料が極めて限られており、プラスアルファで既存文献にある記述も参考にする。P-40で書いたように文字データって信頼性が低いんだけど、まあそのあたりも斟酌しつつ。以下、ちょっと回りクドい説明が続くけど、結論に至る論拠を明確にしたいがため。暫しお付合い頂きたい。 |
|
104戦隊の迷彩乙型。遠方・真横という条件ではこの写真が一番。全体形の把握、前後のバランスはこの写真以外にない。風防真横やや上方からの撮影。遠いといっても十分でなく、カウルや尾翼のあたりはややパースがついている。それでもこの撮影位置なので胴体前後の比率(アンテナ柱を基準とする)にはパースの影響はほとんどない。基本はコレ。画像は左右反転。 |
捕獲302号。真横かつ鮮明。ただし撮影距離が近い(約20m)のが難点。胴体前半部の細かい位置決めはこの写真が頼りで、これも重要な写真だ。カメラ位置は防火壁やや後方あたり、高さも胴体中央付近だが、上の方は見上げる感じになるから作図には補正が必要。とにかくこの写真を使うには、パースの影響を考慮することが不可欠。 |
73戦隊の量産初期型。撮影位置は尾翼の真横でやや近め。ラダーを切っているため、コードが短く見えることに注意。尾部の検討には有用である。 |
捕獲S17号。本機が現存する唯一の疾風となる。近くてパースで歪んでいるが機首真横からの撮影は相応の価値がある。 |
104戦隊無塗装乙型。この写真で側面形をイメージする人も多いと思うが、この写真、なんか変なのである。 |
さて、上の5枚を見て、何か違うと思った人はかなり目がいい。実は1枚目を除き、画像ソフトで遠近法の補正をしてあるのだ(GIMP2というフリーソフトを使用。ツール→変形ツール→遠近法で)。変形の度合は、スピナ先端、ラダーヒンジ、アンテナ柱の位置が1枚目と揃うようにする。揃えるポイントが適切なら側面シルエットは一致するはず。で、結果はというと、まあそれなりに揃ってはきてるけど、微妙にズレるのは何でだろう? そして、5枚目は遠近法補正しても不可解なズレ方で、機首は長いがスピナは短く、後部胴体は短いが尾翼は幅広。また機首が妙に先細だ。これ、もしかして元の写真に歪みがあるのでは。印画紙が何らかの要因で不均一に伸縮したか、焼き付けの際の不手際か。
こういうときは、ステーションダイヤグラムと写真との照合が当社通常手続き。そこで、エアロ・ディテール記載(モデルアート増刊も同じ)のステーションを図化するが、さっぱり写真と合わない。これとは別に、丸メカには米軍測定では32.3フィート(≒9,850mm)との記述。その他に、主翼前縁(上述ステーションでは#0)からラダーヒンジまで9,070mmと取説に記載とのこと(渡部氏の「大空への挑戦」:1975年航空ジャーナル社刊)。また、実機実測寸法も2氏によるものがある。ところが、既存図面ではこれらデータがうまく整合しないのだ。 かくなる上は、知覧まで行って実機の全長を測るしかないか、って米軍がやってるんだよな。タイムリーに米軍公式レポートを入手(感謝)。しっかり32.3ftと書かれてるし、スパンは37.1ft≒11,300mmと合ってる(これまでの経験で、マニュアル類の全長はデタラメでも全幅はほとんど間違いない)から精度も信頼できるだろう。 で、ものは試しに、これらの数値データを全て満足する図面を描いてみたらどうなるか・・・
|
それがこれだ!! 結構、機首の存在感があって、目鼻立ちクッキリ、ハッキリした美人、って感じがするんだけど、どう? 下は既存のポピュラーな図面(「世〇」を「参考」にしたもの、といっておこう)。 |
既存某図は紫線。拙図は薄青ベタ。某図は、キャノピ後端位置(アンテナ柱で分かる)が後ろ寄りで、後部胴体が太い(見づらいけど)。機首は、高さの寸法は変わらず、やや長く、イメージ的には細く見える。また、キャノピ高さ、尾翼高さも寸法は変わらないから、相対的に小さい印象となる。それやこれやで拙図のクッキリ美人と比べると、ボンヤリで間延びした印象になるのだろう。 |
全長9860o説の傍証として、既存文献にある9,740mmと9,920mmについて考えてみる。 |
上図は、ヒンジより前方はそのままに、ラダーをエアロディテールにあるラダー骨組み図(量産型とは明らかに異なる)のトレースに置き換えてみたもの。縮尺を合わせて重ねると、全長がほぼ9,740mmに一致。もしかして、原型機がこれなのではないか。だから取説にこの全長が記載されたのではないか。 |
こちらは、ラダーだけをびよ〜んと延ばして9,920oにしてみたもの。増加試作機の幅広ラダーによく似てるのでは? どこかに記載されたこの数値が、一人歩きして通説の全長になったのではないかな。 |
最後に、実機写真(パース補正なしの生)に重ねてみる。かなり合ってると思うが如何? 微妙なズレは、遠近法の誤差かな。 なお、某既存図は全く合わないよ。 |
|
初回はここまで。次回さらに補足。通常スタイルの側面図も次回。
既存各図と拙図の違い、キモは#8〜9フレーム(#9が胴体分割部)の解釈と思う。エアデテ記載値350o(拙図は290oと推測)をそのまま採用すると、防火壁〜胴体分割部間が60mm過大になる。これを基準に写真(捕獲302号)を合わせるとカウルもその比率で長くなり、胴体高さも同比率で高くなる。で、全長を9,920oに合わせた結果、後部胴体がやや短めになったのではないかな。それでもアウトラインの印象はわりと似ており、並べて見比べたくらいでは差は分からない。思うに、既存図も上述写真をベースに最大公約数的な線を引いてるから、イメージは似てくるのだろう。 もうひとつ、写真の歪みについて。撮影位置が近いものは、遠近法の歪みを補正する必要がある。例えば、下画像では機首を斜め後から見ることになるから、パネルラインやカウル先端の外形線がズレる。これをきちんと補正しないと正しい図面にならない。写真を見るときは、常に頭の中で断面形を描くとよろし。胴体の上下端におけるパネルライン、スピナ先端など、胴体中心線上に位置するものは、このズレがないから、そこで位置を押さえるという手もある。 |
赤ラインは断面図を横方向に縮小したもの。カウル側面でのパネルラインのずれ方がわかる。 |
ベースの写真は同じ。 |
同社1/48、1/32は手元にないが、1/48の全長は9,860mmに近い、また1/32の胴体側面形は拙図に近い、との情報を頂く(感謝)。いずれにせよ、全体のイメージは悪くなく、作るが吉である。タミヤ、オオタキはいまいち似てない。まあ、古いから仕方ない。
<2024/7/10追記> 主翼翼型を修正して、ver.3として差し替える。詳細は鍾馗図面のページに記載。本ページのコメントも必要に応じて訂正する。なお、側面、上下面、断面、正面図以外の本文中の図面、カラープロファイルは訂正していない。
側面図と断面図を修正しver.1.1とする。フィレットの断面形状を修正、他は細部。残るは下面と正面。
とはいえ、現行キット、重箱の隅をつつくと気になるところもあるわけで、どこか拙図ベースに新規開発してくれると嬉しいなあ。なお、限られた資料ゆえ1、2センチの誤差はあると思う。また見落としや未だ見ぬ新資料もあろうから、お気づきの点など是非お知らせいただければ幸い。疾風の他にも既存図面が気になる日本機がいくつかあるんだが・・・それは将来やることにして、製作記&図面ver.2に続く。
|
1 | 新版 世界の傑作機 No.19 陸軍4式戦闘機「疾風」 | - | 文林堂 |
2 | 旧版 世界の傑作機 No.20 四式戦闘機「疾風」 1971年10月号 | - | 文林堂 |
3 | 「歴史群像」太平洋戦史シリーズ46 四式戦闘機疾風 | 4-05-603574-1 | 学研 |
4 | エアロ・ディテール24 中島 四式戦闘機「疾風」 | 4-499-22684-8 | 大日本絵画 |
5 | 軍用機メカ・シリーズ7 疾風/九七重爆/二式大艇 | 4-7698-0637-X | 光人社 |
6 | モデルアート臨時増刊 No.283 日本陸軍四式戦闘機 疾風 | - | モデルアート |
7 | モデルアート臨時増刊 No.493 中島 陸軍四式戦闘機 疾風 | - | モデルアート |
8 | T-2 Report on Frank-1(Ki-84),T-2 Serial No.302 Interim Report No.3 | - | Headquarters Air Materiel Command |
9 | 丸2023/6豪華別冊付録 | - | 潮書房光人新社 |