零戦五二型 製作記その3

2008.7.14初出

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 組み立て(続き) 




■ 主脚カバー 10/31追加

 リベットが概ね終了したところで、小物の製作に入る。

 零戦の脚カバーって、薄くて頼りなげで、機体自体の軽さ、繊細さを象徴していると思う。この薄板細工のようなイメージを、是非表現したい。キットパーツはフチが厚く、またエッジがダルいので、ここをシャープに削る。削りだけではエッジが立たない箇所には瞬間+プラ粉を盛る。この一手間が大事。消えた水滴形点検パネルのモールドはテンプレートでスジボリ。キットは大きさと位置が少々違い、作業後に気付きやり直し。




キットオリジナルパーツ。なんとなく「ぽってり感」があるのだよね。この改善がポイント。

凸の水滴形モールドはテンプレートでスジボリ。これはやり直し前。


 主脚カバー下部のリベットラインは、これまでの図面などでは車軸中心から放射状に延びるパターンだが、米軍捕獲無塗装52型の画像では横に平行なラインに見える。これは、今までの「ジョーシキ」を打ち破る新説としてぜひ再現してみたいトコロ。

 ところが、当時の記録写真をチェックすると、横平行線に見えるものは発見できず、一方放射状パターンの52型を発見。悩んだけど、作品は放射状パターンに決定する。平行パターンの機体が存在した確度は高いと思ってるのだけど・・・。

 ともかく作業。リベットは、カウルの反省から#0で打つ。キットパーツの厚さは、実はリベット派モデラーには大歓迎。薄いとリベット打ちが困難。打ってから薄く削るのは、面倒臭いが困難ではない。きっとタミヤはそこまで考えてくれたんだろうな。

 次に、裏から縁を薄く削る。トライツールのノミの刃を立てるとよい。我が社の製造工程管理基準では、端部の厚みは通常0.3mmだが、今回は特別に0.2mm。これ以上薄くてもダメ(薄いと欠ける)。



リベット終了。写真から読み取り、リベットラインはこんなもんか。

裏側からフチを削る。右オリジナル。脚に付く部分は内側をくり抜くように削る。一様に削ってから「T」字形の縁をつけた方が楽だと、後で気付く。

脚とカバーをつなぐ、三味線のバチのような形の部材は、今回の工作のキモ。0.3mmプラバンと0.14mmプラバン細切りで、こんな風に。

上下のカバーが重なって見えるように、エッジ断面にもスジボリ(ちょっと曲がっちゃったけど)。

できあがり。右はキットオリジナル。なお、脚柱、タイヤは未処理なのであしからず。

上部の小カバー。エッチングノコ(厚、薄)、彫刻刀、ノミなど駆使して掘る。右オリジナル。


 ところで、恥ずかしながら脚カバーのフチが折れ曲がっているのって、タミヤに教えてもらった。1/32キットが出るまで知らなかったよ。で、記録写真をみると、確かに折れ曲がっている機体があり、これは21型でも52型でも確認。一方で折れ曲がっているようには見えない写真もあるけど、これは単に写真のせいか、バリエーションなのか。う〜む、新たな謎。



■ カウル周辺

 零戦のカウルは胴体との間に隙間が結構あり、カウル内側に追加工作。完成すると殆ど見えないと思うけど。また、キットはオイルクーラーとカウルフラップが一体パーツ。これ、接着位置も決まらないし、切り離した方がスッキリ工作できる。塗装もその方が楽だから、素組み派モデラーにもオススメ。



まず、リベットから。センターの1列を打ち忘れ。

カウル裏側は後方から覗いて見える範囲で再現。最下部のカウルフラップは切り取ってカウリングに接着。

カウルフラップの隙間から見えるエンジン後ろ側をデッチアップ。放射状の白いプラ丸棒は吸気管に見立てたもの。

できあがり。チラ見えの愉しみ。排気管は、そのままだと胴体から浮き気味。ちょいと曲げてやって隙間を小さく。



■ カウル、三菱製耐熱板(追記) 11/10追加

 前回更新でのカウル後端にある鉛直の板状パーツ(左右機銃溝の間にあるやつね)、これ、カウルに取り付けたが、実機は胴体側に付くのが正とのご指摘をいただいた。作品は胴体との隙間も目立たないので、そのままでいっちゃう。

 また、世傑No.56にある戦後グアムで発見された三菱製52甲型の右舷側の画像を頂いた。その耐熱板は、上2枚は左舷側と同様に小さい(長さ半分)サイズになっている。最下部については画像では不明。以上、情報感謝。


■ 主脚、タイヤ

 脚カバーが出来たところで、今度は主脚。ハセガワもそれなりに良かったけど、比べると基本形状、ディティールともタミヤの勝ち。ただ、タミヤとて抜きの関係で完全にはディティールが再現されず、特に気になるのは脚柱と一体化したトルクリンク。また、零戦のオレオは目立つので、メッキパイプへの交換が効果的。

 上記2点の改善ポイントとキットが2組あることを考慮し、工作プランAは、1組の脚柱からトルクリンクを削り落とし、オレオをメッキに交換。もう1組からはトルクリンクのみ切り出し、穴開け等の加工をして組み込むというもの。しかし、どうもトルクリンクと脚柱との接合部の工作がスッキリしない予感。

 そこで次なる工作プランBは、トルクリンクの中央で上下に切断するというもの。これなら上下各トルクリンクの追加工作は可能だし、オレオの金属化も簡単。なおかつトルクリンクと脚柱の接合部はキットのモールドをそのまま活かせる。ということで、プランBに決定。



脚柱はこの位置で上下に切断。オレオを金属化。

上側トルクリンクの細工は、脚カバーでほとんど見えず。


 オレオは1.5mmメッキパイプに交換。内側に真鍮パイプ2本と0.8mm真鍮線を通し、強度を確保。脚柱の切断面を1.5mmバイスで軽くざぐると接合部がきれいに仕上がる。また、下側トルクリンクと脚柱との隙間がアピールポイント。丁寧に加工し、さらにトルクリンクの厚みを減らす。

 上側トルクリンクも断面を凹ませ穴を開け、それなりの手間をかけるが、組み上がると脚カバーの陰で全然見えないなあ。その他、脚柱フォーク部の溶接跡を伸ばしランナーで再現、車軸部のトーイング用リングはプラバンで継ぎ足してから穴開け。脚柱下端の部材(これ何のためにあるの?)の断面凹加工など、ちまちまと。




タイヤはいつものように本に挟んだエッチングノコでトレッドを彫刻。溝は6本。


 キットのタイヤは、縦の溝がモールドされているが、パーティングラインを消すとモールドまで中途半端に消えてしまう。消すか残すか、どっちかにしたい。実機写真をチェックすると、溝のあるもの、つるつるに見えるものの両方があり、模型的にはキットのままでも、モールドを削り落としてもどちらでもOKだ。

 とすれば、トレッド彫りは私の得意(?)とするところ。一手間かけて得点を稼ぐ。消えた溝だけ再生ではバランスが悪いから、全部を一様に彫り直す。世傑No.56の29ページから79ページまで、10ページ刻みにトライツールのノコ(厚)を挟む(表紙カバーは取る)。4個彫って、出来のいい2個を選択。



できあがり。右のキットそのまま。トルクリンクの「抜け」がポイント。

オレオ部のアップ。ヒンジ部のピンはバイスで穴を開け、伸ばしランナーを突っ込み、接着後に余分を切る。



■ その他ちまちま

 前から気になっていた主翼下面、メインタンク部のリベットライン。実機はダブル×11本なのに12本だし、おまけに端部が不揃い。気合い一発、黒瞬間で埋めて彫り直す。ピッチを揃えるため、テンプレートにピッチをケガいておくが、それでも揃わないのは何故(←ヘタレなだけ)。埋める作業で、凸モールドが消えるので、別キットから切り取って移植。その他胴体下面の2箇所の凸も同様に移植。



ちょっと分かりづらいかも。黒いのは埋めたリベットで、白っぽいのが新たに打ったもの。一部は重なっている。

切り飛ばしていたエルロンタブを再生。まず、下面側に凹みをつける。凹み部分の後端は、カミソリの刃の如く薄く仕上げる。

真鍮エッチングの切れ端を瞬間で接着。

できあがり。これは上面側。



■ お買い物

 近所のホームセンターで、ハイテク・マスキングテープと全く同じものを発見。2個で\630と、お得。モデラーズ倒産で、在庫の有無が気になる方には朗報?



ニチバン、クリアーラインテープ。




■ キャノピ 11/20追加

 その前に、前回更新の書き忘れを1つ。主脚と脚カバーの間隔は、実機ではタイヤの薄皮1枚外側が脚カバー表面という感じ。キットはカバーが厚くその雰囲気に欠ける。脚カバー内側を少し削り、カバーとタイヤを密着させる。脚の上側は、逆にカバーとの間隔を広げた方が実機に近い。

 では、本題のキャノピ。本項冒頭にも書いたけど、キットのキャノピは素晴らしい出来。ハセガワ零戦に対するアドバンテージ(あるいは、あえて出す意義)の筆頭。形状(特に断面形)や大きさの正確さは、これ以上のものは望めないほど。 とはいえ、よりよいモデルとするため、さらに手を加えよう。

 キットで気になるのはパーツの厚み。縁だけ薄く削るにも、削りが窓枠内に留まらない。そこで全体的に内側を薄く削ることにする。切削面の凸凹を抑え、作業中に割ったりしないように、鞍形のものにペーパーを被せて削る。このとき並行製作中のP-36の木型がぴったり。これに#600ペーパーを被せて削っていく。

 厚さが半分くらいになったら、順次#2000まで番手を上げていき、磨きキズが消えたら綿棒をモーターツールに取り付け、ハセガワセラミックコンパウンドで磨く。このとき回転方向に注意。端部に引っかかるような回転はNG。可動部と後部固定部は全体的に薄く削るが、前部風防は両サイドと上面のみ薄くする。表側も軽く#2000で表面のうねりや微少な凸凹を均してコンパウンド磨き。



キャノピ内側を薄く削ったところ。右はオリジナル。分かりやすいように断面を油性ペンで着色

前部風防、後部固定部も同様。


 また、風防と胴体との合わせに微調整が必要。これは私の組み方が悪いせいかも知れないが、胴体側面と機首上面のパーツの合わせ優先で組んだ結果、風防が若干前上がりとなる。ここは胴体側の凹部を慎重に削り合わせる。


■ プロペラ

 キットのプロペラは、雰囲気は悪くないものの、実機写真からブレード幅の寸法を割り出すと、わずかに狭い。本当に気持ち程度なのでそのままでも問題ないが、「気付いた以上直してやろうじゃないか」と、一回り大きいブレードから削り出す。使ったのはタミヤ1/48モスキートのデハビランドペラ。出来上がってからよく考えれば、キットパーツの後端に伸ばしランナーでも接着して削った方が簡単。



モスキートのプロペラから削り出す。上の1本だけ削ったところ。左はオリジナル。

上、キットオリジナル。下は削りだしたもの。後で微修正できるように、わずかに大きめのサイズに削る。中は文献-19より引用。同じ縮尺で並べてある。



■ 動翼リブ

 タミヤ零戦の羽布モールドは控えめで、きわめて適切な表現だと思うのだが、後縁を薄く削ったためにリブ表現が消えてしまう。ここは、いつものようにサフェーサで表現する。P-36での反省を踏まえ、普通のマスキングテープを使用。

 リブの位置は文献-27に布の剥がれた状態の写真がある。エルロン、エレベータとも、基本的にリブ位置は主翼、水平安定板のリブ位置と一致し、それにならって等間隔である。ヒンジ金具位置にあるリブだけがイレギュラーな配置となる。



まず、エルロンのリブ。線の太さは0.2mmを目指す。太さが不均一だったり、斜めになるとかっこわるいから、慎重に作業。

エレベータとラダーもマスキング。さらに、下面も。P-36から連続で疲れるぜ。

濃いめのサフェーサを置くように2〜3回塗布。

翌日、十分に乾燥してから、マスキングテープの厚さまで削る。各リブの厚みを揃え、余分なサフを落としてマスキング境での欠けを防ぐため。

リブのできあがり。これで十分かとも思ったのだが・・・

前半の金属部分と後端の枠もサフで表現しようと、さらにマスキングを重ねる。

エレベータとラダー。画像はないが下面もエルロンともども。

均一な厚みに塗布するため、今度はエアブラシを使ってサフを吹く。ついでに風防内部をダークグレイで塗装しておく。

できあがり。待ちきれずマスキングをはがして、軽くエッジのめくれを#800で落としたところ。まずまずの仕上がりで一安心。

こちらはエレベータ。十分に乾燥してから、もう少し丁寧に仕上げる予定。


 前後の金属部分の表現は、実機ではほとんど分からない程度なので、ちょっとやり過ぎかな?という気がしなくもない。しかし実はこれ、静岡HSでの素晴らしいソリッドの零戦の美しい羽布表現にくらくらしてしまい、是非自分でもやってみたかったのだ。なお、一発でマスキングするより、2回に分けた方が、結果的に実作業時間が少なく、かつキレイに仕上がると思うよ。


■ リベット補足(スポット溶接)

 以前の更新で、カウリングのリベットラインで、あるはずのものが見えないと書いたが、ひょっとしてスポット溶接の可能性があるのではないか?? そこで、大戦日本機レストアのオーソリティであるN氏に尋ねたところコメントをいただいたので、以下に紹介する。毎度感謝。

『スポット溶接ですが、戦前の早い時期に日本でも実用化されていたようです。 さて、飛行機はというと。
確認できた早いものでは研3、昭和15年に設計をはじめてますが、スポット溶接が使われているとの記述があります。潤滑油表面冷却をかねたエンジンカバー、内側にステンレス板がスポット溶接されているそうです。

『遅いものでは震電、軽合金用スポット溶接機が量産を見越して60台ほど用意されたとの記述もあります。
念のため日本航空学術史を見たところ、ありました。軽合金点溶接器の研究と題し、三菱重工名古屋航空機の技師が、昭和15.3-19.12の期間、各溶接機メーカーが進歩的に協力され、全く予想以上の成果を収め、大局的には悔いる処がない位目的を達したと考える。としています。

『ゼロのカウルに使われていたとしても、何の疑問もなさそうです。』





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