零戦五二型(タミヤ1/48)製作記

2008.7.14初出

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 はじめに 




■ ついに出た!

 どうも当ページ、枢軸国濃度が低いのが気になっているし、以前から零戦は一度はやらにゃならんアイテムなのである。とはいうものの、ハセはキャノピ断面形が気に入らず、さりとてヒートプレスも窓枠が多くて上手くやる自信がない。タミヤ1/32がいいのは分かっているけど、大きさがネック。と、ぐずぐず二の足を踏んでいたところ。

 そんな中、タミヤより待望久しい1/48キットがリリース。早速、発売当日に2個買いする。P-36はまだ士の字にもなってないが、気分はすっかりゼロ戦。まあ、蜜柑山に放置せず、合間にちょこちょこイジるつもりなので、ホークファンの方、ご安心を。

 さて、日本機は彩雲以来久しぶり。知識、資料の蓄積にも乏しく、そこは皆様の力をお借りしながら進めたいと思っている。遠慮のないツッコミを切に期待する次第。


■ ファースト・インプレッション

 恒例のキットレビュー。詳細はそのうちじっくりやることとして、ざっと新、旧ハセガワ52型と比べよう。画像は上:タミヤ、下:新ハセガワ。捕獲機の有名な側面写真と同じアングルにしてみたつもりなので、手元の資料と見比べて頂ければ幸い。

 意外なことに、胴体の太さは3者ともほとんど同じ。新ハセは他2者に比べ、胴体が少々短い。決定的に違うのは風防・キャノピで、新ハセの欠点であった断面形(上部の幅が広すぎ=側面窓の傾斜が立っている)、高さ(新旧ハセはタミヤより約1mm高い)が改善された。幅と高さの積で、ボリューム感にも大きな違いが出る。ちなみに旧ハセの断面形イメージはタミヤに近く、旧ハセを新ハセより評価する人がいるのも理解できる(ただし主翼は新ハセの方がよい)。

 カウリングは3者それぞれ印象が微妙に異なる。実機写真でも、タミヤの方が似て見えるのと、ハセガワの方が似て見えるのとあり、このへんは好みの問題かも。印象としてタミヤはスマート、新ハセはずんぐり丸っこいというか、先端で急に絞られる感じだが、カウル最大幅や開口部直径の実寸では意外にもタミヤの方が太い。

 主翼は、新ハセも十分良いが、タミヤは独特のネジリ下げまでが完璧に表現されていて、驚き。実機で後端のラインがフラップとエルロンの境で折れ曲がるところが、ちゃんと表現されているのだ(ここはこの写真が参考になる)。前端が翼端に向かって垂れ下がるカーブも完璧。キットを組み立てる際は事後変形と誤解して直線に修正しないこと。ライターでこれをやったら、赤っ恥もんだぞ。

 主翼断面形は両者で異なる。タミヤは後半がわりと平らな感じ、新ハセはふくらんでいるが、これは後ほどじっくり分析する。そういうわけで残念ながらタミヤ胴体にハセガワ丙型主翼を「がっちゃんこ」でお手軽に丙型に改造、というのは簡単でない。



上:タミヤ、下:ハセガワ(新版)。とくに矢印付近のカーブが両者で異なる。ハセはキャノピが大きく、後部胴体が短いので、何となく漫画ちっく(言い換えるとデフォルメ過多、チョロQ的)なんだよね。


 いずれにせよ、細かい部分での好みはあるが、タミヤがベストキットであることに間違いなし。ハセガワキットには、長い奉公ご苦労様と言っていいかな。とはいえ、タミヤ新キットと比較で悪く言われて損だけど、某大陸や某半島メーカーとは、比較しようのない高品質。この点だけは、改めて強調したい。


■ 製作コンセプト 7/22追加

 サブタイプは中島製五二型とする。所属部隊、機番は、候補はあるがまだ決めていない。キットの出来は完璧なので、いつもの切った貼ったの出番なし。手を入れるとすれば「球ぐり」リベットくらい。あとは個々の作業を丁寧にすることを心がける。

 今回、製作にあたって、戦記や手記などを読んでいる。零戦は、日本人にとって何か象徴的な特別な機体だと感じる。数多くの日本の若者が零戦で戦った、という歴史を考えながら、気持ちを込めて製作していきたい。




 組み立て 




■ コクピット

 いよいよ作業開始。まずはコクピットから。基本的にキットパーツを使うが、1グラムでも軽くと作られた零戦らしさが出るように、厚みの目立つ部分を薄く削る。そのほかレバーやハンドルなどの一体モールド部分を立体的にしたり。

 キットの側壁上端部は、ぬるっとして締まりがないので、エバーグリーンのプラ材(0.4×0.5mm)を接着、ストリンガーがあるように見せる。上端ぴったりに貼ると縁が厚く見えるので、本当はウソなのだが段差状にずらす。側壁下端は、床板との隙間をふさぐためにプラペーパーを貼る。

 座席まわりのパーツがごつい。座席支持アームを薄く削る。ヒモは0.3mm糸はんだ。座席も縁と裏面を薄く削る。操縦席上下レバーの半円形基部の断面に軽め穴やスリットを彫ったものの、胴体に組み込むと全く見えない。残念。ラダーペダルは伸ばしランナーでアーチ状の部材を追加。これも完成後はよく見えないだろな。



キットは、胴体パーツにリブがモールドされ、そこに機器類パーツを接着していく。縁にエバーグリーンのプラ棒(白)を接着。

座席まわりは、とにかく軽く見えるように。ラダーペダルをディティールアップ。



■ コクピット内部色 

 零戦に限らず旧日本軍機の塗色、その色調は、モデラーにとって悩ましい問題。なにしろ、戦敗国がゆえ実機の現物やオリジナルカラー写真などの「物的証拠」に乏しく、あっても保存状態が悪かったりで、諸説出回るのも仕方ない。

 幸運なことに、中島製52型のコクピットについては、オリジナルが現存している。インペリアル・ウォー・ミュージアム(IWM)にある胴体中央部だけの機体だ(参考文献-18など)。この機体内部にある銘板から中島製ということが分っている。同文献によれば、コクピット塗装をはじめ、機体表面もダークアースの上塗りの下はオリジナルの塗料が残っているそうである。(エアライナーズ・ネットの画像はこちら。moreをクリックすれば、画像多数。)

 それなら、これと同じ色を塗れば間違いない、と思いたいのだけど、この塗料は元は灰緑色で経年変化で褐色系に変色するという説があり、悩ましいところ。もう1つ参考にしたのが、スミソニアンにある同じ中島製海軍機である彩雲。このコクピットのカラー写真は、新版世傑にある。

 これらの色調は灰緑色で、明度は明るくも暗くもなく、といったところ。IWMの零戦のほうが、茶色味が強い。まあ、汚れ、経年変化、印刷や写真やモニタによる誤差、あるいは製造工場違いでそもそも使うペンキが違ったり、等々の可能性があるから、この程度の資料ではこれ以上厳密な考証は無理。

 ということで、よく分らず、エイヤで調色。#303のFS34102(ベト迷グリーンの明るい方)と#127中島系コクピット色を3:1程度に混ぜ、小量の#22ダークアースを加える。結局、IWMの零戦とスミソニアンの彩雲の中間の色といったところ。


■ 続、コクピット

 あらかた組んだところで、エアブラシで一気に塗装。細部を塗り分け、細かいパーツを取り付ける。スロットルレバーは機銃発射レバーが一体になっているので、エッチングノコでスリットを入れてそれらしく見せる。スロットル・カラムも縁が厚く、薄く削る。一部のレバーは東急ハンズの極小鉛玉+伸ばしランナー(またはプラバン)で自作したものに置き換え。資料不足で0.3mm糸ハンダのパイピングはかなり適当。



計器板はいつものとおり、ポンチでくり抜いたデカールを貼る。色味のあるハセガワを使用。仕上げにフューチャー。

左側。座席は色を変え、#340フィールド・グリーンのビン生。

配電盤は黒でなく暗緑色。これは現存機から間違いなし。トリム調整ハンドルからのケーブルがまだだな。

右側。無線機、クルシー操作盤も暗緑色で塗る。モノクロ写真しかなく確証ないが、黒いノブより本体は明るく写っている。



■ 不覚! 7/31追加

 日頃の運動不足のせいで、ギックリ腰になる。早めの夏休みを取って、模型三昧のはずなのに・・・。おかげで、零戦はサッパリ進まず。今回更新は、中身が薄いがご容赦を。皆様も腰にご用心。


■ キャノピ内胴体外部色 

 まず、52型の操縦席前後のキャノピ内部胴体の塗色について。前回更新時に記述したが、その後の指摘などあり、一部記述を変更して再掲載する。

 当時の記録写真を見ると、サイパンで捕獲された中島製52型(文献-4など)では、キャノピ内部胴体は、座席の色(=機体内部色)より暗いが、カウルの黒よりは明るく、胴体の暗緑色と同じ明度である。他にも文献-10など の複数の写真で、胴体の暗緑色に近い明度となっている。

 色調については、IWMの52型は、埃で分りづらいが暗灰色といってよいだろう。現存パーツでも暗灰色。知人に見せていただいたカラー画像でも暗灰色に見えるものがある。

 結論として、暗灰色の機体が存在したことは確度が高い。窓枠内側は、IWM機での黒が確認できる。タミヤのインストでは機体内部色で塗るように指示されているが、これはないだろう。なお、21型や32型も、当時の実機写真(文献-26に32型のカラーあり)により暗灰色であることが分かる。


■ 胴体機銃

 タミヤとハセガワ(新)を見比べると、結構違いのある部分。実機がどうなっているかは、分かりにくいところではあるが、手持ち材料から判断して、溝が胴体中心に向かって掘れているところはタミヤが○。溝の底が表現されているのはハセガワが○といったところか。

 ということで、タミヤの溝に底をつける。ただし、機銃を取り付けるとほとんど分からず、手間対効果の低い作業である。その他、胴体後部に補強とゴミ等進入防止を兼ねたバルクヘッドを取り付けたり。



左タミヤ、右ハセガワ。こうやって並べると違っているが、出来上がると気にならない部分かもしれない。

タミヤで表現されてない溝の「底」を工作。ランナーの中心に1.0mmバイスで穴を開けた後、キットパーツに合うようにカットして接着。

表から見ると、こうなる。このあと隙間をパテ埋めして整形。

瞬間パテを接着剤がわりにするので、1.2mmプラバンはぴったりサイズに切らなくともよいのだ。



■ 翼端削ぎ上がり

 タミヤの数少ない要改修ポイント。キットの主翼端は、若干「削ぎ下がり」気味となっており、このため翼端部がぽってりした感じ。是非、ニュートラルに戻す程度に「削ぎ上がり」を加えてやりたい。これで、スッキリ端正な翼となる。もちろん、米軍機のような削ぎ上がりではない。修正方法は、手でしごき翼端で1mmほど上に曲げる。これで大まかな形を出し、上下パーツ接着後にヤスリで形を整える。


■ 計器板 8/5追加

 計器板について、コメント頂いた。感謝。52甲型では、航空時計(上段左から2つ目)と航路計(下段左端)は計器が欠落しており、その穴にヒモを通して駐機中に操縦桿をくくりつける。そのため現存する計器板では、ヒモでこすれて塗料が剥げているものもあるとのこと。

 改めて資料を見返すと、IWMの中島製52型では航空時計と航路計の2つが欠落し、ヒモでこすれたような塗料の剥げがある。サイパンで捕獲された中島製52型は航空時計のみ欠落で、操縦桿をヒモでしばっている(資料-16など)。関連して、左側コンソール(というのかな?)の計器もチェックすると、IWM、サイパンとも、前方2つは欠落で穴が開いている。オリジナル状態に近いとされている2つの例でこうなら、他も同じと考えた方が合理的かな。資料を見ているつもりでも、頭で見ていない、ということだね。自戒。

 作品では、深く考えずに全部の計器が埋まった状態を再現してたのだが、せっかくコメント頂いたし、これを再現した模型も少ないだろうから、ネタ的に面白いかな、と作り直す。こんな時のために、2個買いしてあるのだよ。サイパン捕獲機にならって、航路計「あり」とし、上段左から2つ目、航空時計のところにピンバイスで穴をあける。

 あとは、前と同じ作業を繰り返すだけだが、ハセガワのデカールは残ってないので、タミヤを使用。全ての計器が揃ってないので、2キット分使う。穴を明示するためにヒモ(に見立てた0.2mm鉛線)を通す。エルロンとエレベータを動かすのは大変だから、操縦桿はくくりつけず。



航空時計なしの状態に作り直す。左側コンソール部もやり直しで穴を開ける。タミヤのデカールは色味がないのが淋しいところ。

他にも、トリム調整ハンドルからのケーブル、その上方にある機銃切り替えレバー、スロットルケーブルのディティールを追加。



■ エンジン

 キットのパーツは大変良い出来。贅沢を言えば、点火プラグコード基部を別パーツにして欲しかったけど。ディティールアップは、定番のプラグコードのみ。正面からは14本に見えるが、前後に2本並んでいるので、実際には28本である。実機写真を見ると、後期にはエンジンは無塗装のように見えるので、#8銀+黒をぺぺっと筆塗りしておしまい。



0.3mm糸はんだを2つ折りにして植えていく。

できあがり。エンジン本体は明度を変えた銀2色でドライブラシ。



■ 主脚カバー内側、主脚収容部の塗装 8/10追加

 先日来、零戦の主脚カバー内側、主脚収容部の塗色について記述が迷走しているが、現時点で分っていることを整理しておく。まず、三菱製については型式の別なく脚カバー内側、主脚収容部とも下面色で塗られていると考えられる。これは当時の記録写真を注意深く観察すれば分るし、現存するパーツでも裏付けられている。

 中島製については、悩ましいところ。まず、当時の記録写真を検証した結果として、脚カバー(脚に付いている部分)が青竹でない中島製零戦は多数存在したと考えられる。例として、世界の傑作機No.9零式艦上戦闘機22-63型51ページ、航空ファンイラストレイテッドNo.53零式艦上戦闘機108ページ、航空ファンイラストレイテッドNo.96写真史三〇二空31ページ、などを見ていただきたい。

 また、最後期には、資材、工程の省略で無塗装という説があり(文献-16)、52丙型で脚収容部が無塗装にも見える写真がある。まあ、写真では暗色なのか陰なのか、明色なのか光の反射なのか、判然としないところもあり、とくに無塗装とライトグレイの判別はカラー写真でさえも困難なので、思い込みは禁物かも。

 一方、A6M232氏より、青竹で塗られた中島製零戦の車輪カバー(三日月形のやつ)が現存(?型)していることを教えていただいた 。さらにインペリアル・ウォー・ミュージアムの52型の脚収容部は青竹であり、当該機の脚カバー内側は青竹で塗られていないが、これは三菱製部品の可能性があるとのこと(詳しくはこちらA6M232氏のサイト内の掲示板参照のこと)。

 ということで、三日月形車輪カバーと脚収容部については、青竹で塗られた中島製機体が存在した。記録写真でも、中島製21型やサイパンの52型で脚カバー内側が暗色に見えるものがある(サイパンのは下半分のみ暗色)。一方で、中島製と思われる灰色塗装の脚収容部のパーツも現存しているとのこと。

 結局、記録写真と現存パーツを総括すると、中島製については、収容部と三日月形車輪カバーが青竹、脚カバーは下面色というのが多数。ただ、例外もあり得るので、モデラー的結論としては、自分の信じる色を塗ればいいかな。

 なお、脚部については、その他にも荷重表示(2色/3色)、脚柱の銘板(有無、位置)、トルクリンクの色(黒/銀)などもバリエーションがあり要注意。また、車輪カバーを引き上げるU字状の部分は、黒で塗装されている。三日月形車輪カバーの中央部にある凸は木製で、現存パーツでは無塗装に見える。


■ 胴体接着、その前に

 製作開始から1ヶ月近く経って、まだ胴体もバラバラ。早く接着したいのだが、いくつかの作業を片づけないといけない。

 まず、胴体7.7mm機銃。一応、Fw190胴体機銃用のファインモールド製真鍮パーツを買ってあるのだが、よく見ると零戦の胴体機銃先端はラッパ型ではない。そこで、1.0mm、0.8mm、0.6mmの真鍮パイプの組み合わせで自作。接着剤のかわりにメタルプライマーを使う。胴体への取り付けをどうしようかと考え、キットパーツを使うのが一番簡単かな、とピンバイスで穴を開けて接着。そのままキットのように取り付けるが、若干機銃が沈み気味なため、微調整。



胴体7.7mm機銃。左キット、中自作パーツ、右ファインモールド。

胴体上面パーツにセットしたところ(写真では未接着のため、軸がずれてる)。左はキットオリジナル。

銃床部は、レバーのモールドを削り落とし、余りエッチングで工作。先端は瞬間パテを盛る。

「これだ!」と思って、瞬間パテでレバーの頭を試作。パテの粘度を調整する。出来、作りやすさなどは、極小鉛玉接着方式と大差なし。


 これで、ようやく胴体左右が接着できる。製作開始から、1ヶ月。ペース遅すぎ。


■ 胴体接着

 ここしばらく胴体、主翼等のメインパーツの接着には瞬間(アロンアルファ一般用)を使っている。溶剤系を使っていた時期もあったが、何週間も経ってからヒケてくるのが嫌。瞬間は割れやすいというが、割れないように補強すればいいのだ。今回は(も?)リベットを打つので、その力に負けないように過剰気味に補強する。備えあれば憂いなし。

 胴体上面パーツの接着の前に、風防パーツと胴体との合わせをチェックする。若干風防の幅の方が広く、胴体パーツと胴体上面パーツとの間に0.14mプラペーパーを挟み胴体を広げる。このあたりは、キットの個体差、組み立て誤差等が入るので、誰が組んでも同じとはならない。



リベット打ちの圧力に耐えるため、接着部を過剰なくらいに補強しておく。

ようやく「一」の字。写真は接着後に軽くペーパーを当てたところ。



■ 終戦の日 8/15追加



 戦没者の霊に黙祷。



■ 主翼データ 

 文献-14の47ページに、21型主翼の翼断面形とその数値データがある。おそらくオリジナルの設計図をトレースしたものではないかと推測してるのだが、これを元に翼諸元を算出してみたのが下表である。なお、数値はすべて1/48換算値。そのままノギスを当てていただきたい。機体中心からの距離は、桁中心に沿った距離である。

リブ番号弦長翼厚翼厚比迎え角先端曲率機体中心からの距離
01番53.9mm7.7mm14.3%2.0°φ2.2mm2.6mm
12番42.4mm6.0mm14.2%2.0°φ1.7mm51.6mm
21番33.4mm3.7mm11.1%1.0°φ0.9mm90.1mm
26番26.5mm2.4mm9.0%-0.5°読み取れず112.0mm


 また、当該図面をトレースしたものが下図。




 参考までに補足すると、01番リブは胴体内部なので、いわば仮想翼。12番リブは52型においてフラップとエルロンの境。26番リブは21型の翼折りたたみ線である。付け根から翼中央部までは翼厚比がほぼ一定(弦長が減少するから厚さは減少)、迎え角一定。そこから翼端に向かってぐんと薄くなると同時にねじり下げられるという、独特の翼デザインがわかる。

 先端曲率は、不鮮明な数字の読み取りなので、多少の誤差があるかもしれないが、図面の実寸でチェックしてるので大きくは外れてないハズ。表では直径で表している。つまり、翼付け根付近においては、直径2.2mmの丸棒を先端に埋め込むと先端のカーブが正しく表現できるということ。意外に先端が尖っていることが分かる。多くのモデラーはこの点に無頓着で、ペーパーかけ過ぎて丸くなり(=直径大)タイフーンかハリケーンの翼のようになっている作品を見かけるね。(いや、実際のタイフーン、ハリケーンは皆が思うより尖っているのだけど)

 また、この図をよく見ると、面白い。翼断面形は、水平の胴体基準線を基準に翼上面、下面の座標値を記しており、弦線(翼先端と後端を結んだ線)を基準にしているのではない。各断面とも30%弦長(コード)のところが最大厚さで、この位置で基準線から上面、下面への距離が等しい。この30%弦長は主桁の位置でもあり、その上下中心が基準線となっていることから、主桁の基準線は桁の中心であることが裏付けられる。零戦は、この主桁基準線で上反角(5.71°)が定められているので、このことは重要。


■ 零戦のねじり下げ

 零戦の優美な翼の核心ともいうべき、他機に例のない独特のねじり下げ。内翼(付け根から中央部までを便宜上そう呼ぶ)は、ねじりなし。外翼のみ2.5°ねじられる。翼の前縁ラインは、翼付け根から中央部まで一直線でそこから翼端に向かってS字状(サインカーブといわれる)に垂れ下がる。後縁ラインは、エルロンとフラップの境で逆ガル状に折れ曲がる。フラップの後縁は当然直線。エルロン後縁も概ね直線だが、よーく見ると僅かにサインカーブ状になっているように見える写真もある。

 これ、言葉で書くと簡単だが、実際に設計して製作することを考えると、非常に凝った造りである。翼後端ラインを見ればわかるように、外翼(中央部から翼端まで)は翼の迎え角も少しずつ変化しているが(この変化率が一定ならエルロン後縁は直線となり、変化率が一定でなければ後縁もカーブする)、それだけでなく、さらに前縁がサインカーブを描くよう、各リブの翼形を少しずつ変化させ、翼端にいくにしたがって翼前縁が垂れ下がるように設計されている。

 これは、前述の翼断面形図でも確認でき、01番リブ〜12番リブまでの翼形は、相似形(ただし縦横比は翼厚比に応じて僅かに変わる)だが、そこから26番リブまでの翼形は相似形でない(上図の「参考」のように縦横比を変えただけでは形状が一致しない)。そして、このため翼端付近では、翼下面がほぼペッタンコとなる。また、こうして断面形に細工をしているので、後縁に比べて前縁のカーブが目立って大きくなるのである。



文献-25のプレーンズ・オブ・フェイム所有機の写真を横に縮小したもの。左翼前縁のハイライトを見ていただきたい。翼端削ぎ上がりにも注目。

文献-6から、同じく横に縮小。定規を当てれば後縁の屈曲がはっきり分かる。


 さて、この外翼だけねじった翼だが、直線テーパー翼の翼端失速を防止するという観点からは合理的なのかな?
 他の機体では、フォッケFW190、スピットファイア、P-47は翼全体を一様にねじっており(←写真の印象による私の推測)、従って前後端は直線(平面形が直線ならば)。一方、紫電一族、Ta152は内翼だけねじって外翼はねじりなしだが、現代のハイテク・エアライナーの翼がこれに近いねじり方だから、これはこれで何らかの利点があるのかな?


■ 主翼の接着

 主翼の組み立て方は、上面パーツをまず胴体に接着してから、それに下面を接着する方法と、主翼上下パーツをまず接着してから、胴体に接着する方法の2通りがあり、その時々の都合によって使い分けている。簡単にいうと、前者は合わせのよいキットをサラリと組む場合、胴体と主翼の接合部分の整形手間が最小になり、簡単に美しい仕上がりになるメリットがある。後者はそれ以外の場合。今回は主翼ねじり下げに細心の注意を払うためと、リベット作業のため、後者の上下先接着方式を採用。

 まず、下ごしらえ。機銃パネル付近は別パーツ。これは流し込み系接着剤で慎重に接着。フラップは当然「上げ」で組むので(翼の美しさを見せたいところだし、駐機中は普通下げないし、内部ディティールは開いて見せる程でもなし、内部の塗色は不明だし、下げる理由ないよね)これも先に翼下面パーツに接着。パーツ肉厚が薄く、後のリベット打ちが心配。裏側に瞬間パテを盛っておく。

 後の整形作業でスジボリが消えないよう、あらかじめエッチングノコ、ケガキ針でさらっておく。キットは残念なことに、エルロン下面を翼上面パーツと一体にしたため、エルロンの翼付け根側付近にヒケが生じ、この付近の翼断面形が凹曲線となっている。修正は困難なので、仕方なく放置。以前の更新で記述した翼端「削ぎ下がり」を修正するため、パーツをしごいて曲げておく。仮組みして翼厚をノギスでチェック、上表通りを確認。さすがタミヤ。

 脚収容部上部のパーツ肉薄部分に、脚収容部パーツとの隙間を塞ぐように瞬間パテを塗布。翼端部も整形作業で肉薄となりがちで、瞬間パテをみっちり充填。これもリベット打ちへの備え。翼パーツ主桁部の凸梁(この設計は素晴らしい。ヒケないよう厚みも考慮されている)に溶剤系接着剤をたっぷり塗り、瞬間パテが固まらないうちに上下パーツを合わせる。ここで前後左右から見て、反り、ねじりをチェック。しかる後、前後縁の合わせ目をカッターの刃でこじ開けつつ、瞬間を流し、これで接着終了。もたもたしてると瞬間パテが固まるので作業は素早く。



上反角を保持するため、いつものカーボンファイバー材で補強。その下端は、正しい角度になるように慎重に削り、翼下面パーツにがっちり接着。

定規に貼ったペーパーで表面を均したところ。エルロンヒンジ部がヒケて削り残しが生じている。

脚収容部は、前から見える縁を薄く削り、収容部側壁に軽め穴を開ける。穴の位置、配置は手持ち資料で不明確で、雰囲気だけ再現。

接着終了。途中写真は忙しくて省略。カーボン桁のおかげで、ものすごい強度。



■ タミヤの主翼

 出来上がった主翼、前上方から眺めると、翼端に向かって、垂れ下がっていく前縁が、非常によく再現されている。前縁の尖り具合も適切。翼断面も前述の翼型図を縮小して重ね合わせるとピッタリ。素晴らしい。あとは前述の削ぎ下がりを修正し、前縁のサインカーブをはっきりさせるように慎重に削るだけでよい。


■ 追加情報いろいろ 8/23追加

 まず、コクピット内について、前述A6M232氏の掲示板にて情報を頂いた。感謝。それによると、配電盤、クルシー、無線機は暗緑色、計器板下の機銃の管制箱も同色。さらに右側の4番隔壁についている着艦フックの鉤のロック解除レバーはなし。左側後方の自動消火装置管制箱と思われるものは位置が違う、とのこと。私の場合は、既に胴体接着済みなので、今後の課題ということで・・・。

 また、翼型図はじめ零戦の公式図面は、<零式艦上戦闘機図面集>海軍航空技術廠編・復刻版として原書房より刊行されており、2000年新装版(12000円)は、丸善オアゾー、八重洲ブックセンターで在庫確認(2008.8現在)との情報を頂いた。感謝。


■ 続、零戦のねじり下げ

 零戦の主翼、その凝った設計は製作も大変で、前後桁のフランジ材は職人技が必要だったとか。以下、おおいし氏の文章を引用する。


『先日都内で講演会があり、そこで鹿児島県加世田市に展示してある零式戦闘機の復元作業について聞いてきました。海底から引き上げた機体を元にして、当時の工作資料により機体構造を再生するというものです。作業に当たったのが海上自衛隊の鹿屋航空工作所であり、現代の技術的観点での材質の解析や強度試験も含めて、当時の航空技術の再現を試みたものだそうです。

『解説に当たられた平山さんという方に伺ったのですが、ゼロ戦の主翼構造、とりわけ主桁フランジ材(主翼表面に見える横方向の細長い部材)はいわゆる超超ジュラルミンという硬い材料を削り出し加工で作るわけですが、独特の「捻り」を与えられた関係上、左右主翼合計8本のフランジがみな異なっている。

『すなわち、フランジ材というのは断面がT字型のものですが、Tの字の上辺が主翼表面の一部をなす関係上、微妙ながら単なる平面では済まない。さらに超超ジュラ材は加工後に捻って成型など出来ない。ということで、左右分桁2本の上下辺、合計8本のT字断面部材の3D形状が総て異なっているそうです。私の知る限りこういう例は当時どの国でも他に見られないものですが、その3D切削整形を職人ワザで行っていたというのでさらに驚きます。

『世傑の#5でしたか堀越氏の自筆記事が転載されていて「資源小国たる我国の機材として製造にかける手間だけは惜しまぬ」とありまして、当時の情況を考えるに主力戦闘機すなわち国の命運を担う機材製造に並々ならぬ決意をもって臨まれていたのでしょう。(後略)』


■ 外板べこつき

 製作は第2ステージ、リベット職人の時間である。いつものように水平尾翼裏面から小手調べなのだが、べこつき表現をどうするか思案。「あり」と「なし」を試作して比較してみたり。結局、名人の手によるべこつき作品に感化され、「一丁やったるか」と。

 技法は、リュータを使ったり、ペーパーを使ったり、丸刃のナイフを自作したりと、人により様々。私は、先が湾曲した平刀の彫刻刀を使う。刃先を立て、リベットラインに沿ってプラ表面を薄く削っていく。オーバーな表現は好きでないので、軽く1〜2回程度。その後#600ペーパーで周囲と馴染ませる。鉛筆の下書きは必須。正しい位置を削っているかの確認にもなる。

 こうして出来たモデル表面は、リベットライン部分のみが凹んでいるが、実機をよく観察すると、実際はこんな単純なものではない。とはいえ、実機どおりの凸凹をつけられるセンス&技術もなく、そこは諦める。ただし、全て一様、均一に削るのでなく、多少浅深のメリハリや乱れをつけることにする。



べこつきに使う彫刻刀。



■ リベット(主翼下面)

 まず、主翼下面から。リベットラインはエアロディティールのリベット図(以下、エ図)を基本に、文献-22、14の骨組み図や実機写真で確認するが、その前にパネルラインのチェック。キットとエ図で異なる部分もあるが、頂き物の鮮明な捕獲52型画像(これは塗装がはがされリベット&パネルラインがよく分かる)のパネルラインと比較すればタミヤがよく一致する。また、タミヤは翼リブのパネルラインが翼桁基準線に直角となっており、高く評価できる(当たり前といえば当たり前だけど)。ただし、タミヤも1箇所ミスがあり、機銃後方にある点検ハッチの位置が違う。これは世傑などの米軍捕獲機の下面写真で確認できる。



点検ハッチのラインを黒瞬間で埋め、彫り直す。主翼タンク部分の長方形は52型で確認できず、埋める。


 リベットラインについては、エ図は概ね正確。同じ作図者によるP-47図は間違いが多くて、疑ってかかってたんだけどね。機銃外側の燃料タンク下面は、エ図のとおり縦に4本のリベットライン。これは上面側とは異なるが、頂き物画像から確認。

 メイン燃料タンク下面は、エ図と実機写真で異なり、縦に12〜3本のリベットライン−しかもそれぞれがダブル−のように見え(注:後に11本であることが判明してやりなおす:後述)、これは世傑などの米軍捕獲機、プレーンズ・オブ・フェイム(POF)所有のレストア機とも同じ。エルロンヒンジ前方はV字型にダブルとなっている様子。フラップ中ほどの横ラインは、裏側のフレームが外板に直接リベット止めされてないようで、従ってこのリベットラインは「なし」が正解だと思う。



右舷主翼下面ほぼ終了の図。反省点も少々あり。主にたまぐり#1を使い、ファスナは#4、主燃料タンクは#0。フラップの溶きパテ跡は、一旦打ったリベットを埋めたところ。


 資料として、POF機を空撮したワック社のDVD「零戦52新撮ハイビジョン・マスター版」¥3,900をamazon.comにて購入。POF機はやたらと外板が凸凹しているので、リベットラインがよく分る。また、機体外形を把握する資料としても一級品。もちろん、美しい飛行姿勢は、製作モチベーション向上にも効果絶大。

 これを購入後、書店で(えい)出版社「現存零戦図鑑U」\1,890を発見、購入。これもPOF機などの空撮写真多数で、リベットラインの把握に重宝する。DVDも付属しており、内容は一部ワックと重複。どちらか一方だけ買うなら、こっちがお得。


■ リベット(主翼上面) 8/31追加

 ようやく涼しくなってきたし、腰も大体治ったので、ペースを上げたいところだネ。下面のリベットを終え、次は上面。POF空撮写真などで、ラインをチェック。キットのパネルラインを微修正。銃身根元のパネルの幅を1mmほど広げ、その内側後方の長方形のパネルは前後幅を1mm狭める。また、エルロンヒンジ前方の切り欠きの幅を狭める。

 リベットラインについては、他に資料がないのでPOF機を参考にする。主翼は新造だが、きっとオリジナルを忠実に再現したのだと信じて・・。POF機のラインはエ図とほぼ同じだが、主翼前縁内側に1本追加。また、機銃外側にある燃料タンク上部は、主燃料タンクと同様にダブルとする。フラップ上面とさらにその前方側には、細かい補助リブがあるのだが、詳細がよくわからず、見えるとおりに再現すると本数が多すぎ、そこだけリベット密度が高くなって違和感があるので、適宜省略。



右舷主翼上面終了。タンク上部のダブルラインは、間隔を揃えるためにプラバンでスリット状のガイドを作る。べこつき表現は、リベットのまくれをペーパーで落としているうちに、ほとんど分らない状態となって悲し。


参考までにキットオリジナル。パネルラインを比べてちょ。

翼端灯は色つきアクリル。まだ磨いていないけど。


 ここで、下面の訂正。下画像参照。また、主燃料タンクの細いダブルのラインは11本が正。文献-25にそれと分る写真があったのだが、作業時に気付かず。残念。また、翼前縁付近、脚収容部前方の様子も上面に準ずる。



赤丸部分に間違い。上面と同じようになる。ちなみに、エ図も同じ間違い。



■ 主翼上面考証あれこれ

 パネルライン、リベットラインは、機体によって多少の差異がある。文献-27のPOF機は下図水色のパネルラインがなく、かわりに黄色がある。ただし、文献-18のNASM(アメリカ航空宇宙博物館)所有中島製52型はタミヤのとおり(水色あり、黄色なし)。リベットについては、同資料の52丙型の写真は緑のライン、文献-27のPOF機は紫のラインが読み取れる。












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